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狼王のつがい  作者: 吉野
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家族の象徴


今日一日で色々な事があった。 



国王の思惑。

シルヴァンの想い。

兄弟の過去。

そして前回の迷いびとの件。


アリシアの頭の中は飽和状態だった。



「もう無理、何も考えられない…」


寝台の上で転がりながらそれでも思い出すのは、やはり片方しかない銀の瞳。




「…お兄さんに斬られたんだ」



元々仲の良い兄弟とは言えなかったにせよ、肉親である事に変わりはないのに。

それともそんな考えや感覚は、彼らにはないのだろうか。


けれどシルヴァンの辛そうでやり切れない顔は、どうしてもそんな風には見えなかった。




——弟として臣下として、兄であり王の命に背いた罪を償う為、そして大切な乳兄弟を守る為、シルヴァン様はあえて罰を受けたんじゃないか。


何故かそんな気がした。




そしてもう1つ。


シルヴァンの話を聞いていた時からずっと、アリシアには引っかかっている事があった。



サラ、という名の女性。

そしてつがいという右腕のない男性。


その人達は帰還を果たしたとシルヴァンは言ったけれど。



「何」が「どう」、そして「何故」引っかかっているのかわからないけど、なんかモヤモヤして彼らの事が気になる。



「あぁ、もう…わかんない」




——これから先どうなるのか。

何をどう決めればいいのか。



自分の運命は自分で掴み取るものとレプスは言ったけれど…。

自分の決断1つで大勢の人が振り回され、些細なミスが取り返しのつかない事になってしまうのではないか。

ほんの少しの油断や思い違いで誰かの首が飛んだり、大切な人が傷ついたりしてしまうのではなかろうか。



責任の重大さにアリシアは頭を抱えた。


頭の中には泥が詰まっているのかと思うほど何も考えられないし、どうせこのまま唸っていても何も解決しない。



「…だめだ、寝よ」


寝不足な顔をしていれば、また余計な心配をかけてしまうし…何より、今ここでうだうだ悩んでいてもどうにもならない。


無理やりにでも寝てしまおう、と腹を括りアリシアは目を閉じた。


 *


国王の使者はそれからもアリシアとの面会を求め、やいのやいのとせっついた。


シルヴァンがのらりくらりと躱し数日は時間稼ぎができたが、問題は山積みで先送りにできないものばかり。



正直、体調面よりも精神的にゾットに似た狐族の、しかも男性との面会は辛いものがあった。

しかしいつまでも拒み続ける事もできず、アリシアが承諾したその日のうちに、#若長__使者__#との面会が再度行われた。



そこで若長が取り出したもの。


それは掌に乗る大きさの、四角く薄い板状の物だった。



「何だ、それは」


差し出されたそれを直接受け取るのは…アリシアにとってかなり勇気のいる事だった。


今でもシルヴァンとグリス、ゴールディ以外の男性には恐怖を感じるし、不意に近寄られたりすると体が竦んで震えが止まらなくなる。


僅かに震える手で躊躇いながらそれを受け取ったが、若長はそんなアリシアの態度を緊張のせいだと勘違いしたようだった。



木とも鋼とも、この世界にあるどの材質とも異なる物でできたそれを手渡され、アリシアは戸惑った。

隣に座るシルヴァンが手元を覗き込んでくるが、アリシアにも答えられず曖昧に首を傾げる。


「下の方にある丸い部分を押してみたまえ」


親指の爪ほどの丸い凹みに指を添わせ、押し込んでみると真っ黒だったその物体が明るく光る。




そこに写っていたのはアリシアと歳の変わらないであろう若い女性と、片方の腕をなくした男性、そして女性の腕に抱かれた赤ん坊の姿だった。



「…っ!」



その絵姿を見た瞬間、アリシアの頭の中でシャボン玉がパチンと弾けた気がした。



世界がぐらぐらと揺れて、足元から崩れてゆく。

そんな感覚に襲われ、アリシアはキツく目を閉じた。



「どうした、大丈夫か?」


手にしていた物体が滑り落ちたが、それすら気が付かないほどの酷い目眩に、座っていられなくなったアリシアの身体をシルヴァンが咄嗟に支える。



アリシアの異変に皆が狼狽える中、


()()()()()()()()()()?」


確信に満ちた若長の言葉に、アリシアの取り落とした物体に視線が集中する。



一瞬、何かに反応して明るく光ったかに見えた物体は、落ちた衝撃かそれとも他に理由があるのか再び暗くなってしまっている。



誰も動かない中、レプスが素早く歩み寄りそれを拾い上げた。


固く冷たいその物体が何なのか、見当もつかず困惑するレプスの傍らで


「おい、しっかりしろ!」


アリシアを抱きしめ、シルヴァンは焦ったように声を上げる。

見るとアリシアはぐったりとして、半分以上意識を失っているようだ。




——とりあえず、これでもう少し時間が稼げるかも。


そう判断したレプスは


「使者殿、こちらはお預かりしても?」


と、手にしていたソレを掲げた。



「…うむ、良かろう。

その代わりその者が目を覚ましたら、ソレについて尋ねる場に同席させてもらう」


代わりに出された条件に、可とも否とも答えずにレプスは恭しく頭を下げ


「シルヴァン様、お使いして申し訳ございませんが彼女を運んでいただけませんか」


とアリシアとシルヴァンと共に退室した。


後に残るグリスとゴールディ、リサにちらりと目を向けてから。




レプスの視線の意味を正しく理解したグリスとゴールディは、若長から情報を引き出しにかかり…。



リサは少し考え込んだ後、唐突に退室した。

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