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狼王のつがい  作者: 吉野
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聞いてない〜アリシア〜


「使者殿、申し訳ございませんがこの者は体調を崩しており、これ以上話ができる状態ではございません」


このままでは埒があかないと思ったのか、それとも私の顔色の酷さが目に余ったのか。

グリスさんが強引に割って入ってくれたおかげで、若長との面会は打ち切られる事になった。



というか、シルヴァン様の事は軽んじているように見えたのにグリスさんの事は…何処か怖がっている?

何でだろう…グリスさんの強烈な一睨みが効いているのかしら?




——顔は怖いもんね、良い人だけど。



とりあえず#国王の使者__狐族の若長__#との対面は唐突に終了し、私はレプスさんと一緒に退室した。




「アリシア、このあと時間をちょうだい。

シルヴァン様の執務室で対応を詰めなければ」


「はい」



私も聞きたい事は色々あった。


立場とか種の違いとかに遠慮して今まで聞かなかったけれど、本当は知っておいた方が良い事も沢山あるのだろう。



密かに意気込みレプスさんの後をついていくと、疲れきった顔をしたシルヴァン様が私達を出迎えてくれた。



「すまなかったな、アリシア。

まだ体調も戻りきっていないというのに。

途中かなり顔色が悪いように見えたが、身体は大丈夫か?」




——それなのに、まず気遣うのは私の事だなんて。



「ふふ、シルヴァン様が謝る事ではないですよね?

というか、そんなに何回も謝って良いんですか?私なんかに」



この人の負担を減らしたくて、そんな軽口を叩いたというのに。



「私なんかなどと言うな」


「全くだ、何故シルヴァン様がお前如きに謝らねばならぬのだ」


シルヴァン様と、そして久しぶりに見たリサさんから同時に叱られてしまった。



2人で同時に違う事を言い、互いの顔を無言で見つめるシルヴァン様とリサさん。



「アリシアの事を侮辱するのは許さんと前にも言った筈だが?」


スッと目を細め冷たく言い放つシルヴァン様に、リサさんが食ってかかる。


「何故ですか?

何故この者を特別扱いするのです?」



睨み合う2人の殺伐とした雰囲気に、思わず首を竦めたその時


「アリシアがシルヴァン様のつがいだからだ」


グリスさんの声が割って入った。



「ちょっ…グリス!」


慌てて制止するレプスさんの声に


「は?何を仰っているのかわかりません」


心底呆れたようなリサさんの声が被さる。





——え?


その言葉が耳に届き、正しく理解したその瞬間から私の世界から音が消えてしまった。




——つがい、って…。



確かに、あの時もゾットにシルヴァン様のつがいだと言われた。

けれども本人からは何も言われていない以上、彼の思い込みか勘違いなのだと思っていた。

の、だけど…。




——まさか、本当に?



頭の中が真っ白になり半信半疑で視線を向けた先には、意味もなくウロウロと視線を彷徨わせ、耳がヘニャリとしてしまったシルヴァン様が。


その落ち着かなさげな様子に、先程の話は本当の事なのだと悟る。




——というか、出会った直後から威圧されたし、めちゃくちゃ怖かったんですけど?


え?あれがつがいに取る態度?



ジトーっと見つめてしまったからなのか、若干気まずそうに鼻の頭を掻くシルヴァン様の背を、グリスさんが豪快に叩いた。



「お前!何を勝手に…!」


「貴方のその中途半端な態度が事態をややこしくしているのですよ」


訳のわからないやりとりに首を傾げつつ、引き続きジトッと見つめる事で説明を求める。



そんな私の視線にシルヴァン様はハァーっとため息をつき、頭をガリガリと掻いた。



「…つがいについての知識は?」


「真名を交わす事によって契約する、運命の相手?という事くらいしか」



問いかけに答えると、シルヴァン様は眉間に深くシワを刻みさらに吐息を漏らした。


「端的に言えばそうだな。


我々獣人には神の定めたつがいが存在する。

つがいとは運命の伴侶、唯一の存在だ。

獣人にはつがいを求める本能があり、互いにのみ通じる感覚によって惹かれ合う。

そして互いの意思において真名を交わし、契約を交わすのだ」


そこでシルヴァン様は言葉を切り、私をひたりと見つめた。


「しかしそなたは獣人ではない。

つがいという概念を持たぬヒトであり、また帰るべき場所を持つ者だ。

だから私は…そなたの足枷とならぬよう、つがいの件は伏せるつもりでおった」



シルヴァン様の瞳の奥に、チロチロと燃える炎のような揺らぎが見える。

今までは感じなかったその炎が、私の胸をじりっと焦がす。




——何だろう。

この不思議な感覚。


胸の奥がざわつくというか、頭の中が真っ白になるというか。


そもそもシルヴァン様の話の半分くらいは意味がわからなかった。

わからないのに、彼に「選ばれた」という事に優越感?…ううん、高揚感のようなものを感じている私がいる。



「アリシア、もし記憶が戻ってもそなたの真名を誰にも教えてはならぬぞ。

たとえ契約を交わさずとも、そなたの真名は私だけのものだからな」



何故だろう、独占欲のにじむ眼差しが嬉しいと感じてしまうだなんて…。




——…っ!

ちょっと待て、私、今何考えた?



頭の中がグルングルンして、何が何だか…。

そもそもつがいの件なんて聞いてないよ。

いや、今聞いたけど…だからと言って、はいそうですかって簡単に言えるもんじゃない気がする。


……そうよね?




——って、あれ?ちょっと待って。



戸惑いと混乱で、周りが見えなくなっていたけれど、そういえば誰からも驚きや異論の声が出ていない事に気付いた。



グリスさん、レプスさん、ゴルさんと順番に見渡していくと、それぞれニッコリ微笑み、頑張れというように力強く頷き、綺麗にウインクを返してくれる。


リサさんは…もの凄い顔でこちらを睨んでいるけど、それはいつもの事だから知っていたかどうかはわからないとして。



なんとなく気恥ずかしくてシルヴァン様の様子を上目遣いで窺うと、困ったような、それでいて嬉しそうな顔をしてこちらを見つめている。


その視線の優しさにまた驚きつつも…胸を占めるのはやはり困惑で。




『国王のつがい候補』

『シルヴァン様のつがい』

そして『迷いびと』


私のここでの肩書はいくつまで増えるんだろう…と思わず遠い目をしてしまった。


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