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狼王のつがい  作者: 吉野
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明かされた真実〜アリシア〜


身体の傷が完治した辺りから、私は不可解な夢に悩まされるようになっていた。



見覚えのない筈なのに、何故か心が締め付けられるような…。

懐かしくて慕わしくて、そして2度と戻らない大切な「何か」。


…あるいは、「誰か」。



夢の中でならその姿を鮮明に思い出せるのに、目が覚めてしまうとたちまち靄がかかったようになり、思い出せなくなってしまう。


とても大切なものを忘れているような、酷く落ち着かない気分にさせる夢。





——『〇〇』



夢の中で呼ばれている名はしっくりきて、とても落ち着く気がする。

その夢の中では…本物の笑顔でいられる気がする。




見覚えのない服を着ている私。


年上の男性と手を繋いで歩いている幼い私。


精巧な似顔絵を抱き、涙を流している私の頭を撫でてくれる温かい手。


私の名を呼ぶ、優しくか細い声。



そして…暗闇の中、とても大きくて温かい「何か」が寄り添ってくれている。



それが何なのか、誰なのか…。



手を伸ばして、必死に手を伸ばしてやっと指先が触れた所で…もう少しで届きそうな所で目が覚めてしまう。



思い出したいのに、思い出せない。


そんなもどかしい日々が続いていた。




でもおかげで、それまで見ていた悪夢には怯えずに眠れるようになった。

少なくとも、泣き叫びながら目を覚ます事は極端に少なくなった気がする。




「そう…。

もしかしたら、記憶を取り戻しかけているのかもね」


レプスさんに相談してみるとそんな答えが返ってきて、その日は1日妙に落ち着かなかった。



ようやく今の「アリシア」としての生活にも慣れてきて、とりあえずこちらでやっていくしかないのだと、覚悟を決めたところだったのに。




そう…思ったのだけど。


よくよく考えてみれば、記憶を取り戻したとしても元の居場所にすぐ帰れる訳ではない。



私がこの世界の者ではないとして。


どこから来たか思い出したとしても、どうやってここに来たかわからない以上、帰る事は難しいのではないか…と気がついてしまい、それはそれで悶々とした。




「私…帰れるのでしょうか?」


誰か、待っていてくれる人が…ううん、もしかしたら突然いなくなった私を探してくれてる人がいるのかもしれない。


今まで漠然としすぎていて、イマイチ実感のできなかった「アリシアではない私」という存在が、急に現実的になった途端…胸を掻き毟りたくなるほどのもどかしさと焦燥感にかられる。





——帰り…たかったんだな、私。



自分が何者かわからないという事よりも、帰れない事の方がよほど辛く切ない事のように感じてしまうのは、そういう事なのだろう。



「この件については無責任な事も、下手な慰めも言えないわ…ごめんなさい」



ふんわりと両腕で包み込まれ、レプスさんの胸に額を押し当てられる。



「でもあなたの願いが叶うよう、私も祈っているわ」


少なくとも下手にごまかすより、変に希望を持たされるよりもよほど真摯に「思って」くれているのが伝わってきて。

レプスさんの優しさと温もりが、じんわりと胸に響いた。





——私の…願い。



私が本当は誰なのか、知りたい。


そして帰れるものなら、帰る場所があるのなら…待っていてくれる人がいるのなら、帰りたい。



けれどもそれはとても果てしなく、叶えるのが難しい願いのように思えた。


 *


彼が何者なのか誰も教えてくれなかったし、むしろ聞いてはいけないような雰囲気すらあったので、敢えて確かめてこなかった。



シルヴァン様はシルヴァン様。


この砦の多分責任者で偉い人。 



その程度の認識しか持っていなかった私は、それから数日後ひっくり返る事となる。



「おい、聞いたか?

王都から辺境伯へ、使いが来ているんだとさ」


「あぁ、珍しいな。

兄である国王とシルヴァン様の確執からもう10数年か」



食堂で皿を拭いていた私の耳に、思いがけない言葉が飛び込んできた。


思わず手を止めそちらを見たのだけど、私の視線など気がつかないようで



「あの1件がなければシルヴァン様も今頃宰相でいられたのに…」


だの


「元々国王の方が一方的にシルヴァン様を嫌っていたらしい」


だの、嘘か本当かわからない情報が飛び交った。




——元々は…王都にて宰相として国王を助けていた。

それが兄弟の仲を割く決定的な出来事があって…。

それで、シルヴァン様は…。




「アリシア、こっちを頼むよ」


すっかり手の止まってしまった私に奥から声をかけられ、それ以上話を聞く事はできなかった。



 

『国王と王弟の仲違い』と『シルヴァン様』の破滅。



けれども、あの時聞く事の出来なかった最後の欠片がピタリとあった気がした。


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