前編
カウントダウンを終える瞬間、馬鹿みたいに揃った跳躍を見せた家族を後目に5円玉一枚を握りしめ、外に出た。
季節に合わず貧弱な服装に守られ体が冷え切る前に目的地にたどり着く。
数刻前に新たな年を迎えたにも関わらず、人の来る気配が微塵も感じられない寂れた神社。
賽銭箱を一瞥した後、思いっきり振りかぶってドーナッツ型の塊をぶち込んだ。
大した音も立てずに吸い込まれたそれの行く末を数瞬眺め、踵を返した瞬間。背後で光の爆発が起こった。
反射的に振り返った俺の目に飛び込んできたのは、
神々しい輝きを放つ神様でも
俺の無礼にブチ切れたお坊さんでもなく
手足が若干背景に透過している小太りなスーツ姿のおばさんだった。
「…は?」
「おめでとうございます!貴方は本神社100人目の参拝者です!!そんな貴方の幸運を祝して…って、待ってください!どこに行くのですか!」
「何方か存じ上げませんが明けましておめでとうございます。それではさようなら」
「ちょっと!!もうちょっと話を聞いてくれてもいいじゃない!!」
早くも見た目通りの口調に変わった中年おばさんに仕方なく向き直り、自分が出来る最も面倒臭そうな顔を作る。
「手短にお願いします」
「ん゛ん゛っ!!」
自信作の表情と声音がクリティカルヒットしたおばさんは、汚い咳払いと共に大きく体を後ろに逸らしたが、何とか立て直し、負けじと体に染みきった営業スマイルを作り出した。
「当寺院は右肩下がりの参拝人数への対策として、通常1万名に一名にしか与えられない夢を叶える権利、通称【夢叶権】を、100倍の参拝者に配布しています。そして貴方が記念すべき権利獲得第一号という事です」
「………何一つ理解は出来ないんだけれど、取り敢えずそれって勝手に100倍にしていいものなの?」
「………さあ!何でも言っちゃって下さい!!ちゃちゃっと叶えちゃいますよ!」
向こうが説明を放棄したので、こちらもツッコミを放棄することにした。
そうすれば話が早い、なんせ俺の願い事なんて元々一択しかない。
「分かった。じゃあ俺の願い事は…」
「はい!貴方の願い事は…」
おばさんの目が爛々と輝いている。
「俺を殺してくれ」
「………オレヲコロシテクレ…?」
暫くの沈黙の後、なんとかオウムから自我を奪い返したおばさんがはっきりと声を発する
「それ以外で」
「じゃあ無いや。さようなら」
「ちょっ!待って今回逃したら次のチャンス何十年後に…ってそうじゃなくて!何でもいいから他の願いは無いの?ほら、お金とか…」
「家が金持ちなんで」
「…気になるあの子の気持ちとか…」
「興味ないです」
「なんなら私を一日好きに出来るとかでも…」
「どんな罰ゲームだ」
「はぁ!?」
情緒の安定しないおばさんは、数秒硬直した後、豪快に両手で頭を掻き始めた。
「うーーーん……流石に命は…いやでも……うーーん………」
「そろそろ帰ってもいい?体冷え切ったから」
「待って!分かった!分かったから!!……でも君は本当にいいの?」
「何が?」
「何って、今君が死のうとしていることに対してだよ」
「もし本当に叶うのなら、喜んで」
「………」
今回の沈黙は今までより短かった。
「まあ私は参拝者の望みを叶えることが目的だから、これ以上の深入りはしないわ。じゃあ、早速だけど目を瞑って頂戴」
「分かった」
「絶対に開けたらダメよ」
首を上下に動かし、目を瞑る。
おばさんがその場から離れる足音が聞こえ、数分後、小走りで戻って来た。
「よし、準備できたわ」
金属の摩擦音が聞こえ、直後
ドゥルルルルル…
人工物が静かに唸る音が鳴り始めた。
「なあ、これって…」
「開けたらダメ!!」
警告と同時に復活した俺の視界に白装束に着替えたおばさんと、両手で振りかぶられた余りにも異質な物体が入った数秒後、俺の体にその物体、所謂「チェーンソー」が全力で振り落とされた。
こうして謎の中年おばさんの神的な力とは程遠い物理攻撃によって、俺の願いは叶えられた。
全3編で完結予定です!よろしくお願いいたします!!




