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お嬢様、正気でいらっしゃいますか

二人がくっつけば楽しいのに。

美しく空を照らす月が、カーテンの隙間から顔を覗かせる中、仏頂面のジュセが語ったのは、彼の国の危機だった。


「こんなことは同国の奴らには決して明かせないが……実は国王の聖獣が、危篤状態にあるんだ。今はギリギリのところで魔法が抑えているが、長くは保たないと言われている。……聖王が死んでしまえば、国が揺らぎかねない」

「聖王が、聖獣を束ねる存在だから?」


セシリアが、ロノンに教わった知識を頭に浮かべて問うと、彼は少し嫌味っぽく口角を上げた。


「へえ、ロノンが話したこと、忘れてないのか」

「聞いたのは数分前ですから。そんなことより、続きをどうぞ」

「つまらねえ奴。まあ、お前が言ったのは、合っているといえば合っている。正確には、聖王は国王の証そのものだから、ってところだな」


どうやら複雑な話のようだ。

セシリアはロノンを撫でながらも、眼差しをより真剣なものにした。


「聖王が国王の証、ということは、聖王を失えば、国王は人間からも聖獣からも、国王と認められなくなるということ?」

「そういうこと。また厄介なのが、聖王と呼ばれうる聖獣は一体しかいないってことだ。そうだな……不死鳥って言えば分かるか?」

「分かる! 本当にいるのね、不死鳥なんて。でも、不死鳥ならそのままにしておいても、灰から復活するのではなくて?」


不死鳥といえば、灰からひょっこり再誕する存在だ。死ぬはずがない。

ところが、セシリアの疑問にジュセはゆるゆると首を振った。


「たしかに、聖王は本来再誕できる。だがな、今は少し事情が違う。少し前に人間の王が体調を崩して危篤状態になったんだが、その折に聖王が、自分の全聖力を使って国王を回復させた。自分がもう再誕すべき齢だというのに、だ」


そこまで話し、ジュセはじっとセシリアを見据えた。セシリアがどこまで察せたかを伺っているようだ。


「……聖王の再誕と復活には、膨大な魔力、ではなく聖力が必要だけれど、その前に力を使い切ってしまったために、復活に必要な聖力が不足しているってことね。聖力が足りない状態で再誕のタイミングを迎えてしまえば、聖王は復活せずにそのまま死んでしまう、ってところかしら?」

「話が早くて何よりだ。さて、それでは問題。なぜ俺達は、地球まで聖気を集めに来たと思う?」


問題、と言われては間違えるわけにはいかない。なにせセシリアは、あらゆるクイズで近年一度も不正解になっていないのだ。ここで間違えてはクイズマニアの名に傷が付く。

しばらく床を見ながら回答を精査し、セシリアはゆっくり口を開いた。


「あちらの世界では秘密裏に集めることができないから」

「……本当、つまらないなお前」

「問題が簡単すぎたわね」


セシリアがジュセに向けられた表情をそのまま彼に返すと、彼は面白いくらいに渋い顔をしてセシリアを睨んだ。


「生意気」

「あら、同年くらいに見えるけれど、どこが生意気なのかしら?」

「嘘つけ。お前、よくて十四歳だろ」

「失礼ね! もう十六歳よ!」

「はっ、どのみち俺より下じゃねえか」

「なんっ、でも間違いは間違いでしょう!」

「ちょっと二人とも~、仲良しなのはいいけど、話逸れてるよ~」

「「はあ!?」」


ロノンは地雷を踏むのが得意である。宥めようとしても、逆撫でしてしまうことが大半だ。今回も見事、その例にもれなかった。


「誰がこんな男と仲良くするものですか!」

「俺だってこんな女は願い下げだ! 」

「あらそう! そちらもそのつもりなら、もう手伝う必要はないわね!」

「ああ、お前の協力なんかいらねぶっ」


今の妙な声の原因は、当然、ロノンだ。

ああ、首大丈夫かしら、とセシリアもつい心配になるような襲撃を、ロノンがジュセに仕掛けたのだ。


「もーう! 早く話すこと全部話しちゃってよ!」

「ロノン……こっちに来てから妙な癖がつきやがったな……」


額にうっすらと青筋が立ったジュセは顔からロノンを引き剥がし、額に強烈なデコピンを彼に食らわせた。が、いい音がしたものの、石頭のロノンにはあまり痛くなかったようでけろっとしている。反対に、デコピンを繰り出したジュセは手をぶらぶらと力なく振った。

見かねたセシリアがジュセからロノンを引き取り、「こらっ」と彼の代わりに一喝すれば、ロノンはしょんぼりと項垂れて大人しく彼女の膝上に収まった。

セシリアには弱いロノンである。


「ジュセ、本題に戻りましょう?」

「……はあ。本題に戻るが、地球に来た目的はお前の予想通りだ。ここには神を祀る場が多くあるようだからな。神気は聖気とほぼ同質……というか、むしろ少し強力だから、聖気自体に用がない世界で取り放題っていうのは、うまい話でしかないな」


うんうん、と一人頷いてしばし考え込んだジュセは、セシリアに「ほかに話し忘れたことがあるようだったら、その都度話す」とだけ言い、ロノンの首根っこを掴み上げた。


「それじゃ、明日は昼から頼む」

「ええ。我らが英国の誇る教会の全てを紹介してあげるわ」

「助かる。……じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」

「おやすみセシリア~!」


首根っこを掴まれたままのほほんと体を揺らしているロノンは、どう見てもぬいぐるみだった、とは、セシリアが後日執事に語ったことだとか。

お読みいただきありがとうございました!

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