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第9話 激突する魂!!

第9話です。


前回よりもさらに長くなってしまいました。

 凄まじい破壊音がその場にいる全員の耳をつんざいた。

 砦を称するだけあってかなりの厚さを誇っているはずの壁に大穴が開き、爆音とともに何者かが強行突入してきた。

 あまりに派手な登場と音との相乗効果でマラッタたち冒険者たちはもちろん、青騎士すらも硬直してしまう。



 まさか「異世界でバイクが壁を突破してくる」とは夢にも思わなかったからだ。



 バイクは器用にゴブリン二匹を前輪にひっかけると、そのまま壁を経由して隣の部屋へ突っ込んでいく。もちろん、ゴブリンたちが無事である道理が無い。

 バイクは部屋の中央でアクセルターンをする。

 立ち昇る黒煙の中に、暗い紫色の光が二つ浮かび上がる。闖入者の双眸だろうか――明らかに人間ではないそれに、人間たちは薄ら寒さを覚えた。


 再びバイクが発進する。

 しかも今度は前輪を上げ――いわゆるウィリー走行だ。

 先ほどよりもさらに凶暴性が増したようなバイクが、一直線に青騎士へ迫ってくる。

 これだけでも相当な脅威だが、何と搭乗者は両手をハンドルから離して降りてしまったのだ。


「なっ? バカかよ!」


 さすがの青騎士も、これには慌ててしまう。

 大きく右へ飛び退いて躱す――と、腕の中にいたリシェを無理矢理に奪われた。

 青騎士が舌打ちをしつつ視線を動かすと、バイクから離脱した侵入者――茶色の異形がリシェを抱えて着地しようとしているのが見えた。


「……ぁっ」


 痛みから解放された少女は、お礼を言おうと顔を上げるが、礼どころか悲鳴が漏れるのを抑えるのに必死になってしまう。

 彼女の反応も当然だろう。

 助けれくれた人物は、一言で説明するなら「昆虫の擬人化」で誰もが納得する。

 額から大きく長く伸びている触覚。

 暗い紫色の大きな複眼。

 大半を茶色で彩られた身体は、いかにも甲虫らしい殻で覆われているにもかかわらず意外と柔らかい感触がするのも、リシェの生理的嫌悪感を煽る。

 かように虫が嫌いではない人間にもネガティブな感情を抱かせる容姿のくせに、七色に艶めく小奇麗なマフラーを巻いているのが意味不明だ。


 怯えているのを察知したのか、昆虫男は半裸になった彼女をすぐに下ろすと、マラッタたちの方へ押し出す。

 冒険者たちを護るかのように青騎士の正面に立ち塞がる昆虫男。

 対峙する二人のトセーニンに、マラッタをはじめとする冒険者たちはもちろん、リシェですら固唾を飲んで凝視してしまう。

 国王や大貴族が権威を主張し大枚を積んでもお目にかかれないに違いない、世界の理を無視した能力の持ち主たちによる対決が始めるかもしれない――これに勝る誘惑などそうそう存在しない。

 ……ちなみにバイクは、ウイリー走行のままクルリとひとりでに反転し、まるで意志を持っているかのように逃亡しようとしていた最後のゴブリンを轢いていた。


 先に動いた方が負ける――なんてナレーションが入りそうな静寂は、青騎士によってあっさりと砕かれる。


「何ですかぁ、センパイ? こんな異世界に来て、モラルやら正義感なんて気にしてるんですかぁ?」

「…………」

「だいたい何スか、そのカッコ? カミキリムシ? ぶっちゃけキモいんスけど」

「…………」

「なんか言ってくださいよ、センパイ? 一応は敬意を払ってるんスから」


 それは絶対ウソだ――とマラッタたちは胸中でツッコむ。青騎士の「センパイ」には、あからさまな侮蔑が込められている。

 対する昆虫男は、不気味なまでに無言を貫いていた。……まあ、あの人間とは完全に別物な牙や顎を見ると、そもそも人語を喋れるのかが疑問なのだが。


 態度からすると、昆虫男は青騎士とは敵対すると考えられる。

 が、それがマラッタやリシェたちの味方になるのと同義とは限らない。「敵」を倒した後で、その蛮行の続きを始める可能性は捨てられないからだ。

 何でもいいから意志を表示して欲しい――とは、冒険者たちだけではなく、青騎士も同様だった。


「なんだよ、センパイ。喋らないのがカッコいいって思ってる口?」

「…………」

「あーもう、ヤメだヤメ。これだから陰キャは絡みづらいんだよ。せっかく異世界に来たってのに、モラルとか? アホかっての。 真面目くんアピールかよ?」

「…………」

「オタクの融通の利かなさは救えねぇな? そんなんで生きてて楽しいっスかぁ? そんなカッコして恥ずかしくないのォ? みんな分かってくれてるって信じてるのォ?」

「…………」

「だいたい、乗ってきたバイクは何だよ? 前が二輪の三輪車じゃん。ダセえにも程があるだろ。普通のバイクに乗れないなら、四輪のトライクにすればよかったのによ」

「…………」

「はぁー……つまンね。いいや。お前みたいな、異世界に来てちょっと強くなったからってイキッてる陰キャを潰してやるのも、主人公である俺の役目なんだろうからな」


 青騎士は「やれやれ」と言わんばかりに首を左右に振ると、すっと姿勢を正した。

 いよいよスローニン同士の激闘が始まるのか、と冒険者たちはじりじりと後退する。

 じっくり観戦したいのはやまやまだが、彼らの戦いがどれほどの破壊を生み出すのか想像できない。「見たい」と「危ない」のせめぎ合いが、彼らの逃げ足を鈍らせていた。

 傍観者の存在など忘れたかのように、青騎士は外連味たっぷりに両手を大きく広げる

 一方、虫人間は左足を少し退き、小さく腰を落として構える。地味だ。

 青騎士は大きな溜めの後に、「はッ」とベルトのバックルを両手で挟み込むような動作をした。

 次の刹那、バックルが左右に開き、中心から光の粒子が奔流のように空中へ溢れ出る。


「ほあー……」


 つい溜息を漏らしてしまったのは、リシェが若いからだろうか。

 実際、青騎士の腰から光が止め処なく噴き出る様は、一見「美しい」とすら感じてしまう光景だ。

 けれど、光の粒子がカード状に変形し、青騎士の前に数十枚も整列してしまうと、さすがに意味不明過ぎて困惑してしまう。


「さぁて――ど・れ・に・し・よ・う・か・な~っと」


 歌うように呟く青騎士。完全に無防備なのだが、虫人間はノーリアクションである。

 たっぷり十秒ほど迷った挙句、青騎士は一枚を右手の人差し指と中指で摘み取る。



『ぅアルティメーット・ファイナァァァル・コンボぅ!』



 選んだカードから変なイントネーションの声が響いてきた。

 それを聞いた途端、青騎士は大爆笑を始める。


「ふっ――――、ははははははッ! 運が無いなぁ、センパイ!」

「…………」

「あんたのステータスが見れないから様子を見ようかって思ってたけど、まさか最初に超必を引いちまうなんてな! ま、これも俺が最強のチートだから仕方ないんだろうけどね」

「…………」

「フン。ビビって喋れないのかよ。じゃあな」


 ぴっ、と青騎士が掌をひらめかせると、カードが滑るように飛んでいく。

 カードが青い光の尾を引いていくと、まるで周囲の光を吸収していくかのようにみるみる部屋が闇に包まれていく。


「なんだ……これ?」


 誰かの小さな声が影の中へ消えていく。

 ……そう。指摘されるまでもなくおかしい。

 光の軌跡が、明らかに部屋よりも大きな弧を描いていたからである。

 視界は完全に黒に染まり、足元にはなぜか白いもやが広がり始めた。

 その中で、青騎士の全身と虫人間の七色マフラーだけが輝いている。


「ギルティアーマー、解除パージ!」


 青騎士がそう宣告すると、彼の全身が包んでいた箱――装甲が砕け、両の拳へと集束されていく。


「はアっ!」


 青い光が膨らんだかと思った瞬間、七色マフラーへ向かって突進していく。

 打撃音が空気を震わせた。

 それは一度や二度ではない。

 十、二十,三十…………精神を抉るような音が際限なく重なっていく。耳を塞いでも肺腑を揺らすような衝撃も加わっている。

 マラッタやリシェたちは、青騎士が連続攻撃を仕掛けているのは分かっているのだが、具体的にどのような打撃を加えているかは全く視認できていない。

 ただ、あの昆虫男の命は既に絶えた――そうでなくとも、あと一分も保てないだろう。

 一際大きな音が耳をつんざく。

 と、青騎士が大きく後方へジャンプした。



「魂ごと砕けやがれェェェェェッ!」



 絶叫とともに、青い光が稲妻のように一直線にマフラーへと突進していく。

 二つの光が衝突する――五感が失われたかのような一瞬が訪れたかと思いきや、灼熱の爆風が人間たちを突き飛ばした。


「ぅわっ!」

「なんだぁ?」


 星が降ってきたかのような衝撃に呆然とする冒険者たちの眼前に、盛大な紅蓮の炎と黒煙が神話に登場する天を支える大樹のような偉容を示していた。

 はるか上空から哄笑が聞こえてくる。


「はははっ――あっけないな、ははははは……」


 青騎士の言うとおりだ。希望が持てる材料がない。

 曇天の隙間から覗いている星のような青い光は、天国へ誘う天使も同然。リシェの絶望を深みへと導く道標のようだった。

 巨人の腕のようだった煙の量も、見る見るうちにか細くなっていった。燃えるものが無いからだろう。


「……あぁ?」


 笑い声が惑いで止まる。

 変化の理由は、すぐに傍観者たちにも察知できた。

 煙の中心から人影が悠然と歩み出て来たからである。


「そんな、バカな……」


 誰の口から洩れたのかは分からないが、誰もが――青騎士ですら同意見だった。

 爆心地からのんびりと出て来た昆虫男に、怪我どころか火傷している様子すら見えない。

 ぱっぱっと胸や四肢を軽く叩く姿は、ハンカチーフで服に付いた埃を払う紳士のそれだ。

 その余裕綽々なジェスチャーに、もちろん青騎士が冷静を貫けるはずもない。


「ッざけるなぁっ! このモブ雑魚ぉッ!」


 雄叫びをあげながら青騎士は背中から突き出ていた棒を引き抜く。青白く光る剣を抜いたのだ。

 青騎士はそのまま急降下して襲いかかってくる。稲妻さながらの攻撃だ。



 しかし――――


「ぷぅえっ」


 滑稽な悲鳴とともに青騎士が後方へ吹っ飛ばされる。どうにか転倒は防いだものの、腹を押さえて硬直してしまっていた。

 一瞬の出来事だったが、リシェにははっきりと視認できたし、マラッタたちも容易に想像ができた。

 昆虫男が青騎士の突撃を寸毫の動きでかわし、ボディブローでカウンターを決めたのだ。

 内股になり、腰を折って激しくえづいている青騎士は、今が戦いの真っ最中であると完全に忘れているかのように無防備だ。


 冒険者たちならば「いや、これは奥の手を使うための演技かも」と躊躇する場面である。しかし昆虫男に迷いは一切なかった。


 素早く屈むと左の掌で地面を叩き、大きく真上へ跳躍する。

 本来ならば天井のある位置よりも更に高く上昇したところで伸身前方宙返りをすると、凄まじい勢いで――さっきの青騎士の突撃と同等のスピードで敵へ突っ込んでいく。

 昆虫男が前方に伸ばしていた右足がぼんやり赤く発光し始める。摩擦熱なのか、謎の力の発現なのかは分からない。

 赤い光が七色マフラーによる光の尾を描きながら、青い光へ突進していく。

 場違いに幻想的な光景を目の当たりにして、冒険者たちはすっかり目を奪われてしまう。

 無論、現実はエグイものだ。

 赤光を帯びた昆虫男の爪先は、甲冑を切り離した青騎士の、装甲が唯一残されていた胸部を易々と貫通する。


「な……なんだよ……」


 眼前の現実を受け入れられない様子の青騎士が呆然と呻く。


「…………」

「ここの世界の連中なんて、俺に比べたら×××な××だろ? 基本的人権とかも理解できない××なんじゃないかよ。××××な××なんて、人間以下の××に決まってるじゃないかよ」

「…………」

「そんな×××な×××なんて、人間以下の××××じゃないか。そんな××相手に、えらばれしチート持ちの俺が何したって――いや、そんな主人公な俺に構われること自体が名誉になるって話じゃないか?」

「…………」

「つか、センパイさぁ? ××相手にマジになるって、本当に陰キャなんだな。だから俺みたいな選ばれた最強の――」


 これ以上は聞きたくない、と言わんばかりにとんぼ返りしながらのキック――いわゆる「サマーソルトキック」を繰り出す。

 青騎士の身体は、一瞬にして本物の星と見紛うばかりに小さく上空へ消えていき……一際眩しく輝くと、音もなく無数の煌めきとして四散してしまった。

 その青い光の粒子が満天に広がると、見る見るうちに周囲が元の砦の風景へと戻っていく。夢を見ているかのような、脈絡のない場面転換だ。



「終わった――、の?」



 リシェがぽつりとつぶやくと同時に腰が抜けたようにへたり込んだ。自らの言葉に安堵したらしい。慌てて周囲の冒険者たちが彼女へ手拭や外套などを被せる。

 気持ちの整理が追い付かないマラッタだったが、部屋にこだまする爆音で我に返った。見れば、昆虫男が三輪バイクにまたがっているところだった。


「お、おい、あんた……」


 このパーティーの責任者としての自覚から声をかけてみたが、マラッタにはその次の言葉が浮かんでこない。

 礼をしなければならないし、何より彼が何者なのかを尋ねなければならない。

 けれど、マラッタや他の冒険者たちは「こいつに何を聞いても無駄だ」と直感していた。

 実際、昆虫男は無言でバイクを発進させると、自分が開けた壁の大穴から飛び出してしまった。

 けたたましい音がみるみる遠ざかっていく。

 昆虫男がどこへ去っていくかを確認する気なんてなれず、マラッタは溜息とともにこめかみを押さえた。



「……コレ、なんて報告すりゃいいんだよ……」


二つに分けた方が良かったでしょうか?



次回からは通常営業になると思います。

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