第7話 異変の予兆
第7話です。
気持ちよく昼食を平らげた後は、三十分ほど昼寝をするのがタカウジの日課だ。
住宅街の一角にある公園……とは呼び難い、木立ちの合間に適当なベンチが設置されているスペースへ足を踏み入れたタカウジとソウハは、示し合わせるでもなく同じ木の下を陣取ると、そのままごろりと寝転がる。
いつもならば、午後二時くらいにマヅの冒険者ギルドへ戻って、首都オウエド宛の荷物を預かってから帰路に着くのがパターン。
しかし今回は特別な荷物――リシェを連れて行かねばならない。
「何時ごろに戻ってくるかねぇ。とりあえずは三時くらいに一回様子を見に行くか。頼むぜ、ソウハ」
「バル」
彼の優秀なギフトは、時間を告げておけばきっちり時間どおりに起こしてくれる。スマホ並みに汎用性が高くてありがたい。
うららかに降り注ぐ木漏れ日。頬をそっと撫でで行くそよ風……
(こんなにゆったりできると、逆に不安になってくるな。これが社畜根性ってのかな? だったら俺って、日本にいた頃はおっさんだったんかねぇ)
潮の香りをかすかに感じながら、睡魔の誘惑に素直に乗ってしまおうとしたその刹那、タカウジは頭に氷塊をあてられたような感覚に襲われた。
「っ? ソウハ」
ソウハは人語を喋れない。
けれど、言わんとしているニュアンスは伝わってくる。
「やっぱり、リシェが行った砦だよなぁ」
おそらく……いや間違いなく、砦で予想外のアクチデントが起こっているのだろう。しかも、生死を争うレベルで。
「知らんぷりはできんなぁ。顔も名前も知っちゃったし、こんなハッキリ感じる距離なんだし」
なるべくしがらみを避けるようにしたいのだけれど、今回ばかりは良心の呵責に耐えられそうにない。
「ほんじゃ頼むよ、ソウハ」
「バルバルバル」
タカウジたちは急いで公園から出ると、人気のない路地裏に滑り込む。
念のためにもう一度周囲を一瞥。人はもちろん猫もいないと確認できたところで、タカウジはソウハの背中にまたがった。
バルッ、と一声唸ったソウハが走り始める。
……垂直の壁を。
完全に重力を無視している走り方で建物の屋上に立ったソウハは、さらに勢いを増して屋根から屋根へ次々と飛び移っていく。
ほんの数メートル頭上で、そんな非常識な行動をしている奴がいる――などとは誰も気付かない。街の死角とは、薄暗い路地裏などではないのだ。
スピードはぐんぐん上がっていく。
朝、街道の脇を進んでいた時の二倍は出ているだろう。
まるで地上を走っているような感覚のまま疾走を続けるソウハは、その速度の頂点で大きく跳躍をした。
街を外敵の脅威から護るための壁――およそ6メートルの障害を悠々と眼下に眺めながら、タカウジは小さく呟く。
「絶対後悔すると思うなぁ……変身」
病み上がりなので、というのでもないですが
少々短くて申し訳ないです。
明日も投稿させていただきます。