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第6話 世代を超えて

第6話です。

 ちょっと遅くなったものの、タカウジとソウハは昼食を摂るべく大通りを歩いていた。

 リシェの護衛に関しては、彼女がゴブリン討伐から帰って来てからの話となるので、少なく見積もっても二時間は余裕があるだろう。

 ……彼女が部屋から出て行ってから、タカウジはふとした疑問が浮かんだ。


「院長。別に俺に頼らなくとも、他の信頼できる――それこそ彼女を誘ったパーティが来るまで待たせておいても良かったんじゃないですか?」

「最初に楽を知ってしまえば、些細な苦労で挫けやすくなるだろう?」


 院長の老獪さに呆れる部分はあるが、その親心を考えると賛成せざるを得ない。

 いくら才能があっても、やはり十五歳の子供に冒険者をやらせるのは抵抗がある。死と隣り合わせである上に、キレイな「伝説」ばかり語り継がれているのが始末に悪い。


「致命的なダメージ受ける前に諦めてくれるのが理想的なんだろうけどな」


 それが希望的観測であるのは分かっている。

 大団円な終わり方を迎えられるなんて、それこそ奇跡のような話だ。大半は、後悔が間に合わないうちに命を落としてしまう。

 変な関わりを持ったなぁ、とタカウジは耳の裏を掻きながら目当ての店へ入る。少し時間がずれたおかげで客がまばらだ。


「お、タカか。いつものか?」

「お願いします」


 マヅでの昼食はほぼこの店にしていたので、すっかり顔を覚えられてしまった。

 もっとも、ソウハと一緒でも文句を言われない店なんて多くはないので、これくらいスイスイ進めてくれるのはありがたい話である。


 ……先にも説明したとおり、このオウエドはスローニン――転生した日本人が興した国らしい。

 その影響なのか、生活様式――特に食文化については、日本の影響がかなり濃い印象がある。というか、スローニンたちが農業やら漁業やらで無双しまくった模様。

 結果、マヅの名物といえば「寿司」が最初に挙げられるし、他にも炉端焼きやらパエリヤやらムニエルやらブイヤベースやらタコ焼き等々、日本でもお馴染みの料理で溢れている。


「ほい、お待たせ。いつもの漬け鮪だ」

「バルバルバルバルバル」


 礼を言う(?)ソウハに、大将は「熱いから気を付けろよ」とその頭を撫でた。

 ここ「食事処 いりこ」は出汁茶漬け専門の店である。まさかファンタジー世界でお茶漬けとは、と物珍しさが最初にあったのだけど、今ではすっかりお気に入りになってしまっている。


(まあ贔屓にしてるのは、美味いのは当然として、大盛りにしても料金据え置きだって部分もあるけど)


 ドンブリにこんもりと盛られたご飯の上に、別皿で用意された漬け鮪や野沢菜を載せ、テーブルに置かれている白ゴマやアラレを適当に振りかけ、最後に熱い出汁を注ぐ。

 立ち昇る白い湯気に心躍らせながら、タカウジは両手を静かに合わせた。


「いただきます」

「バル」


 タカウジが挨拶をするまできちんと待っているソウハは、傍から見れば躾の届いた犬(というか使い魔?)に見られているだろう。

 しかも、床に食器を置いたまま――要するに犬食いをしているにもかかわらず周囲に一切零さないのだから恐れ入る。大将が追い出さな最大の理由がこれだ。


(つかさ、犬が出汁茶漬けを喜んで食べるってどうなのよ)


 この店はメインメニューが出汁茶漬けなので、やっぱりと言うべきか若い衆へのアピールが弱い。「美味しいのは間違いないけど味が薄い」と評されている。

 おっさん中心の客層にあって、二十歳前のスローニンであることに加えて犬(?)を連れているタカウジの存在は相当に目立つ。

 顔を覚えられるのも必然だろう。


 ちなみに大将は金髪碧眼である。いわく初代であるひい爺さんはスローニンだったらしいのだが、四代目ともなると「顔がちょっと日本人っぽい?」くらいに留まっている。

 そんな外見は白人な大将だが、出汁は丁寧に作った和風のそれである。

 昆布にいりこ、カツオ節などを――と書いているが、もちろんそれらは日本のそれとは違う。元々は別の名称で呼ばれていたものを「見た目や味が似てるから日本名で」としてしまった結果だ。


(スローニンが品種改良やら何やらやりたい放題だったって話らしいな。本当、日本人ってやつは……)


 出汁はもちろん、漬け鮪に使われている醤油も、付け合わせのアラレや刻み海苔も、全てスローニンが工夫して捻り出したものなのだろう。

 舌が覚えている日本の味が異世界でも楽しめるのは嬉しい話なのだが、ふと「異世界って何だろう?」なんて気分になってしまうのも致し方ない話である。


箸休め回でした。


次回から話が動く……と思います。

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