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第5話 落とし穴は見えない

その5です。

少し長めです。……私にしては、ですが。

「オウエドまでの護衛、ですか?」

「ああ。無論、君にとっては専門外だというのは承知している。しかし、私が考え得る限り、君が一番信頼できそうだと思った次第でな」


 院長が自らお茶を淹れながら話した内容は、以下のような感じである。


 オウエドでは、子供は十五歳になったら成人と見做すのが一般的であり、孤児院では十五歳で「卒業」させなければ助成金を受けられない。

 そして、いま院長の隣に緊張の面持ちで座っている少女――リシェも、来月に十五歳となるのだが、冒険者となることを希望している。

 元冒険者である院長は、その危険性や不安定さ、社会的地位の低さ等々を懇々と説明したのだが、彼女の決意は非常に固かった。


「それに、志望の理由を聞いてしまっては、無下に反対できなくなって……」


 院長がそう口にすると、リシェの表情に緊張とは違う何かが滲む。

 何か深い理由があるのは間違いないが――少なくとも、彼女がいる場では話せない内容なのだろう、とタカウジは突っ込まないことにした。


 代わりに別の疑問をぶつける。


「でも、それならオウエドに出る必要はないんじゃないですか? マヅだってこの国じゃ三本の指に入る大きな街だし、しばらく下積みした方が」

「……十歳くらいから、この街の冒険者ギルドに通ってて、今じゃゴブリン討伐なんかもこなすようになっているそうだ」


 ジロッと院長に睨まれて、リシェは横を向いて身を小さくする。傍目には微笑ましい一幕だ。

 場を誤魔化すように、リシェが早口で喋り出した。


「で、ですね。何回かお世話になったパーティに、オウエドに来るならしばらく組まないかって誘ってもらえまして」

「……そいつらは、ギルドで評価されてるし、私も実際に会って話してみて問題はないと思ってる」


 普通に親子の会話みたいになってるな、とタカウジはお茶を一口飲む。

 まあ、院長が心配するのは当然だ。冒険者なんて華だけの仕事ではない。経験者である彼が一番よく知っている。

 孤児という立場では、どうしても職業選択の幅が狭くなってしまうのは否めない。だから一発逆転劇のありそうな冒険者に憧れるのも自然な流れかもしれない。



 でも、成功例が少ないからこそ「物語」として成立するのだ。



 タカウジも、冒険者ギルドで配達の仕事を請け負うようになってから、数え切れないほどの若者たちと出会った。が、その大半はギルドで再会していない。いま生きているかも知る術がない。

 眼前のリシェは五年くらい冒険者ギルドに通っていたそうだが、実際にゴブリン討伐などを手伝ったのは何回だろうか――そう考えると、タカウジも反対したくなってしまう。


(どうしたものかな)


 まだ十五歳の女の子を一人でオウエドまで向かわせるのは論外だ。

 誘ってくれたパーティに頼まないのは、彼らがこの街に現在はいないからだろう。

 他の誰かに頼んだとして、額面どおりに送ってくれる保証などない。「途中で魔物に襲われてはぐれた」とか嘘をついて奴隷商に売り飛ばす――なんて、よくある話である。


(……確かに、各地への配達で信用を積んでる俺が適任だわな)


 院長の苦渋が伝わってくるようだ。

 かといって気が進まないし――とタカウジが悩んでいると、扉をノックする音で場の空気が変わった。


「院長、すみません。マラッタさんがお越しになってます。急いでいるそうですが」

「……分かった。通してくれ」


 タカウジが頷くのを確認してから院長が答える。

 数秒の間の後に入ってきたのは、立派な体格の若い男だった。


「あ、すみません。来客中でしたか」

「急いでいると聞いたが、何かあったのか?」

「ええ。ちょっとリシェをお借りしたいのですが」


 院長とリシェ、そしてタカウジにも緊張が走る。彼の表情や声音から、尋常ではない何かが起こったのは間違いないからである。


「さっき、例の東の砦に、はぐれのゴブリンどもが入り込んでいるのを発見したんで」

「東の砦?」


 思わず口を挟んでしまったタカウジに、マラッタと呼ばれた男は「ああ、あんたはスローニンか」と物珍しげな視線を向けつつ簡単な説明をしてくれた。


 今から二十年ほど前に、ここマヅの街から東へ三十分ほど歩いた先にある森に、大量の魔物が住み着き、マヅへ襲撃を仕掛ける事件が発生した。

 当初は自警団や冒険者などで撃退していたものの、襲撃が短期間で何度も続いたため国も動かざるを得なくなり、王都オウエドはもちろん周辺の各都市からも援軍が派遣される事態となる。

 砦を築いて最前基地とした人間と魔物との戦いは半年以上にわたって続いた。

 底の計れない魔物たちの数に業を煮やした人々は、とうとう無謀な作戦を決行する。

 人外の領域に達したと噂されるスローニンを中心に、選りすぐりの精鋭たちを四つのパーティに分け、他の冒険者たちが一大攻勢をかけた裏で潜入・破壊活動を行ったのだ。

 選抜パーティは、死者を出したものの、期待どおり目的を達成できた。

 森の中心に魔王復活を目論む召喚魔術士を発見し、少なからぬ犠牲を出しつつも屠ることに成功したのである。

 これを機に、無限に湧き出るかと思われていた魔物たちの攻勢は劇的に衰え、半月とかからず終焉を迎えた。


「――で、記念碑的な意味もあって砦を残してあるんだけど、住処を追われたゴブリンとかが、これ幸いと住み着いたりするんだよ。雨風をしのげる上に、すぐ近くに森があるから食い物も不自由しない。となったら繁殖するのが当たり前って話になるワケさ」


 やれやれと肩をすくめるマラッタの言葉を受けて、院長が苦々しく口元を歪める。


「あの砦を根城とされたのは一度や二度じゃない。何度も壊すよう言ってるのに、もったいないとかなんとか渋ってるせいで……」

「ちなみに、その当時の院長先生は中堅くらいで、選抜パーティには残念ながら入れなかったそうです」


 リシェがタカウジへこそっと教えてくれたが、院長の耳には届いていたようで「入れなかったのではない。入らなかったのだ」と睨まれた。

 とにかく、とマラッタは院長に頭を下げる。


「砦に入ったのはまだ十匹もいない様子だから、増えて街に被害が出る前に片付けておきたいんですよ。でも、ゴブリン相手と聞くとベテランは腰が重くて」

「分かった。リシェ、無茶するなよ」


 もちろん、と彼女は大きく頷くと、準備をするからと勢いよく退室していった。


次回更新は(やっぱり)未定です。


なるべく早く仕上げます。

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