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第14話 希望の家

第14話です。

 誘われた冒険者たちから置いてけぼりを食らったリシェだが、下宿はきちんと決まっていた。

 彼女と同じ孤児院の出身で、薬師として地道に実績を重ねた結果、小さいながらも首都に店舗兼住宅と子供を得ることに成功した夫婦である。



(院長の紹介だそうだけど……やっぱ、こういうささやかな幸せを目の当たりにさせて博打させないようにしようって狙いがあるんだろうな)



 結局、タカウジはリシェの下宿まで送ることにした。ここまで関わってしまった手前、途中で投げ出すのは逆に勇気が必要だ。

 リシェが世話になる「涼林薬局」は、もちろん表通りではないし、居抜き物件のようで古めかしい雰囲気の建物である。


「あの上に飾ってある看板のの文字は、院長先生が書いたんだそうですよ」


 リシェの説明に、タカウジは「なるほど」と納得してしまう。

 何度も説明しているが、この異世界に転移・転生者はさほど珍しい存在ではなく、ここオウエドは日本文化が歴史的に濃い。

 なので、読める読めないは別問題として、漢字(日本語)を使用している看板などもちらほら見かけるレベルだ。


(本当、来た当初は戸惑ったもんなぁ)


 タカウジが浮かべた苦笑いは、その当時を思い出してのものなのか、微妙にヘタで間違えている看板の文字に対してなのか曖昧だった。

 そうこうしている間に、店の前に立っている人影に気付いた店員――いや、この店の主らしき男性が顔を出して二人に声をかける。


「こんにちは。キミがリシェかな?」


 三十台半ばほどだろうか。白髪がちょっと目立っているが、声は若々しい。

 リシェが頭を下げつつ自己紹介すると、彼も自らをボニートと名乗った。涼林薬局の主人で間違いないらしい。


「院長先生から伺っているよ。キミには、休みの日に妻の手伝い――要するに家事や子供の遊び相手なんかをやってもらいたい。大丈夫かな?」

「もちろんですっ! 孤児院でもずっとやってきましたから、全然大丈夫です!」


 ……どうやら心配は無用だったようだ。

 タカウジとソウハはさり気なくリシェの死角に移ると、ボニートに会釈をする。

 このままそっと立ち去るつもりだったが、ボニートが軽く頭を下げたことにリシェは鋭く反応した。


「あ、タカウジさん! 本当に今日はお世話になりました。このお礼は……」

「いいよ、出世払いで」

「それじゃあ、次は私があのお店で奢りますからね!」


 期待してるよ、とタカウジが答える。新人冒険者へのお約束の挨拶だ。

 そして彼の背中に向かってリシェが手を大きく振って別れを告げる。

 ……詳しい事情を知らないボニートの目には、非常に爽やかな青春の一幕と見えたことだろう。




(一応、彼女に目をかけてくれるように、ギルドの職員さんに頼んでおくか)


 部外者のタカウジの口添えがどれほどの効果をもたらすか――ほとんど無いと考えるのが正解だろう。


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