第12話 選択と後悔
第12話です。
今回は短めです。
「え? どういうことですか?」
リシェのちょっと絶望が滲む声に、冒険者ギルドから立ち去ろうとしていたタカウジは思わず足を止めた。
冒険者ギルドまで案内し、適当な職員を捕まえて後を任せて帰るつもりだったのだけど、こんな声を耳にして無視するのは憚れる。
困った顔をしている男の職員に、タカウジは「どうしたんですか?」と尋ねる。
……職員の説明をまとめると、次のような感じとなる。
リシェを誘っていた冒険者パーティは、彼女と連絡を取り合っていて、ここオウエドのギルドで合流する約束を交わしていた。
実際、昨日は昼頃にギルドに顔を出し、リシェの到着を待っていたそうなのだが、事態は予想外の展開を迎えてしまう。
緊急依頼が舞い込んできたのだ。
その内容は、とある辺境の村に魔物が出現し、多大な被害を及ぼしているので退治して欲しい、というものである。
依頼内容はありふれたものだけれど、冒険者たちが進んで受けようとしなかった理由はいくつか挙げられる。
まず一つが、問題の魔物が複数のオーガと推測され、中堅以上でなければ厳しい点。
もう一つが、依頼主が辺境の村であるので、危険に相応する報酬が期待できない点。
見殺しにする形になるので心苦しいのは事実だが、冒険者は慈善事業ではない。命あっての稼業であり、名誉だけでは食っていけないのだ。
しかし、ここで依頼を受けると名乗り出た冒険者がいた。リシェを誘ったパーティの一人である。
というのも、彼は依頼主の隣村の出身であり、オウガどもが次の標的と定める蓋然性が高いと判断したからだ。
そして爽やかなひと悶着(「俺が報酬を払うから」「水臭いこと言うなよ」的な)の後に、彼らはリシェに詫びの手紙を残して出発した……という次第である。
リシェとしては「あの青騎士騒動がなかったら!」と後悔しきりなのだが、更に悪いことに、依頼元が「辺境の村」となっているだけあって、相当な時間を要すると予想される。
「その村――オゥロというところだそうですけど、普通に歩いて行ったら一週間くらいはかかるらしいんです。もちろん緊急依頼ですので、悠長に歩いていくことはないですが……」
オウガはゴブリンよりも知能が高いので、冒険者の存在を察知したらその実力を計るために隠れてしまうと予想される。いざ戦闘となっても、力任せに正面から向かってくるような馬鹿はしない。
そのねぐらを炙り出し、きちんと始末するには想像以上の手間がかかるだろう。
「彼らは一週間で戻ってくると笑ってましたが、もしかしたらひと月ふた月、ヘタをすると半年以上かかってしまう可能性も……」
職員が申し訳なさそうに告げる。でも、楽観的な話ばかりもしていられない。
明らかに消沈し落胆してしまったリシェに、タカウジが用意できる助け舟は……残念ながら一つしか思い浮かばなかった。