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第10話 反省はできるうちに

第10話です。

 マヅの街とは違う方向へ適当に走ってきた昆虫男は、バイクを停車させると周囲に人影が無いかを何度も確認する。

 納得したように頷くと、首に巻いている七色のマフラーを緩めた。


 ―-と、まるで毛糸玉が解けていくかのように、昆虫男の全身から黒い糸のようなものがするすると伸びていく。


 解けていった糸は、そのまま三輪バイクへ巻き付いていき…………犬のような姿を象っていく。

 同時に、昆虫男は元の姿――タカウジに戻っていた。


「ぎりぎり間に合った……と思っていいのかな?」


 いや、既に二人か三人は殺されていたから、余裕でアウトだろう。リシェの生命と貞操は守れたようだが、何のエクスキューズにもならない。自己満足だ。


 青騎士を殺してしまったことに関して、罪悪感の類がないと言えば嘘になる。


 ただし、同郷人(?)に手をかけてしまった悔悟というよりも、この国の法に委ねて罰を受けさせるべきだったのでは、という後悔だ。

 この異世界へ転移なり転生した人間は、タカウジのように順応していく者もいれば、元の世界へ戻る方法を探求する者もいる。

 けれど、帰還に成功したという伝承は(少なくとも現時点では)ない。

 日本への道が断たれているというのであれば、この世界の常識や道徳でしっかりと裁かれるべきだった。

 ……とはいえ、あの青騎士の最後の本音であろう独白を聞く限り、何があっても会心や更生はもちろん、反省すら難しかったと考えるのはタカウジの独善ではないだろう。


(つか、あの最後の言葉は聴くのもイヤになったし、日本人があんなのだらけなんて思われたくなかったんだよなぁ)


 あんなヘイトを平気でばら撒くような人間と同類と括られたくないーーこれがタカウジに決着を急がせた最大の理由だったりする。

 けれど、問答無用で星にしてしまったことで、逆に証拠隠滅と見られたのではないかとか、最後に一言フォローを入れとくべきだったのでは等々、今さらになって様々な反省点が列を成して彼の頭を容赦なく踏んでいく。


「バルバルバル」


 ネガティブな方向へ思考を引っ張られていたタカウジを、変態を終えたソウハが鼻先でつついて侵攻を止めてくれた。

 悪かったことばかりじゃない――と言ってもらえたような気がした彼は、大きく深呼吸をする。


「……うし。とりあえず、こっそりマヅへ戻るとするか。リシェの護送の件があるし」


 背中にタカウジを載せたソウハが、滑るように走り始めた。

 まあ、余程のアクチデントが発生しない限りは、マラッタたちより早く街へ潜り込めるのは確実だろう。

 それにつけても――と、タカウジは高速で流れる景色を横目に、首をコキコキと鳴らす。


(結果から考えれば、リシェにとっては良い機会だったのかもしれないな。服を剥ぎ取られたりアレなこと言われてたけど、肉体的なダメージは無かったことだし)


 もちろん、精神的なダメージが相当だったのは考えるまでもないし、それを癒すには多大な努力と周囲の手厚い助力が必要だ。

 しかし、誰も知らない場所で野垂れ死にするよりは遥かにマシじゃないか、というのがタカウジの本音だ。それは元冒険者である孤児院院長も賛同するだろう。

 わざわざ首都に出て冒険者にならずとも、生まれ育った土地で地道な生活をするのも一つの道である。派手な成功だけが人生じゃない。


(どうあれ、最後は本人が決める話なんだけど)


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