表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

その8.空飛ぼうぜ!

僕と恩戸くんが同じ講義を受け終えて、二人で中庭に出てくると。


「風に……乗る!!」


芝生の上で腹ばいになって、両手を広げてじたじたしている先輩と、


「ぎゃん!」


尻もちをつく翠さんがいた。ラクロスのユニフォームを着ているけど、ボールもラケットも見当たらない。


「…………えーと、何してんすか?」


「空飛びてーからその練習。うおー、風の声を聞けー!!」


果たしてその厨ニ台詞は必要なのかどうか。


あれ? と僕は浮かんだ疑問を口に出す。


「翠さん、初めて会ったとき4階まで飛んできたじゃん」


先輩もうなずく。


「そーいやそうだ。なんでできなくなってんだ、翠」


「まっじで?!」


恩戸くんが異様に食いついた。なるほど、理系は事実に弱い。


「あれは壁駆け上がっただけだから、こう支えがないとねー」


「なるほ、ど?」


分かるような分からないような。


「よっし、分かった! こうだ、飛べ翠!」


翠さんの両腕を後ろ手にがっしりと掴んだ先輩が、いきなり走り出す。


「わあああい!」


先輩に引っ張られて、浮かびあがった翠さんがふよふよと前に進む。先輩は真っ赤な顔で走り続ける。


おお、と恩戸くんが歓声を上げた。


「飛べてるじゃん。凧揚げの要領だな」


「……え、で? まさかこれで完成形?」


僕は恩戸くんと顔を見合わせてから、


「せんぱーい、それ見た目すっげーダサいよー」


運動会の組み体操のような状態の二人に声をかけた。


恩戸くんがぽんと手を叩く。


「あ、先輩、そっから手ぇ放して、翠んこと飛ばせば? 紙飛行機みてぇに」


「それだ!」と先輩。


「何言ってんの待って無理無理!!」


翠さんが悲鳴をあげて先輩の腕にしがみつく。


「そうですよ着地どうすんすか、って、あ」


「うわ」


先輩がけつまづいて、コケた。


「ぎゃん!」


翠さん、先輩を越えて、顔面から墜落。


「だ、大丈……」


僕が駆け寄る前に、翠さんはがばりと起き上がって、すぐ後ろで身を起こした先輩に掴みかかる。


「ポイ捨て禁止ー!」


「仕方ねぇだろコケたんだから!」


「わたしの下敷きになるとかいう奉仕の心は?!」


「ねぇよ!」


小学生のように取っ組み合いのケンカを始める二人。


思案顔の恩戸くんが、あごに指を当ててうめく。


「なんかこう、ホバークラフト的な要領で衝撃和らげれば良かったんじゃね」


「ホバーってなに! わかるように言いなさい!」


先輩の捕獲に成功した翠さんが、先輩のほっぺをむにむにしつつキレ気味に怒鳴る。先輩は何だかふごふご言ってる。


恩戸くんが視線を宙に投げて。


「だから、あー、そうだな、ペットボトルロケットとか、噴水を逆さまにするとか、なんつうの、蛇口目一杯ひねって床に近づける、とでも言えば分かるか?」


想像したらしい翠さんが眉を寄せる。


「縦に飛ぶスーパーマンなんて見たくないよ気色悪い!」


「ちっげぇよ飛び方じゃなくて今の墜落の話だよ! ……あぁわかった、俺の装備貸してやるから。それでちょっとマシになんだろ。ヘルメットもバイクんとこにあるし」


言いながらしゃがみこんだ恩戸くんが、自分のズボンのすそを捲りあげた。黒い金属製の膝当てを外す。


「……なにそれ」


僕はそれを凝視する。

おおよそ、ただの大学生が大学来るときに着けるものじゃない。


「ほら、いつでも先輩に挑めるように?」


「よーし、ならそれ今すぐ割ってやろ」


にんまり笑って手刀を構えた先輩が、恩戸くんに近寄ってくる。僕の目の前を通り過ぎようとしたその襟首を引っつかんで「どうどう」とあやす僕。


「大人げないですよ先輩」


僕の奇襲につんのめって、おっとっと、と数歩戻ってくる先輩。


「そゆこと言うなら、お前こそ俺のガキ扱いどうにかしろな?」


先輩の頭部を撫でていた手をぱしんと払いのけられる。


「ほどよい長さに切りそろえてる先輩が悪い……」


いつも短めに切ってるから良い感触がするのだ。

つい、わしわしと撫でたくなる感じに。

例えるなら、そう、犬か。犬だ。


「おお本当だ」と恩戸くん。


「わぁほんとだ!」と翠さん。


「押すなバカ縮む(・・)!!!」


ごう、と先輩を中心にして突風が巻き起こる。恩戸くんと翠さんの二人を向こうの芝生まで吹っ飛ばした。


はぁはぁと赤い顔で息を吐く先輩。


「いやいや俺らと樫月との扱い、違いすぎね?!」


恩戸くんがベンチの向こうから叫んでくるのに、


「死活問題だからね」


僕はしたり顔でうなずいた。


僕は出来る限り体重をかけないように撫でているからね。優しいから。


「……過去、なんべん、ブッ飛ばしたことか……」


地を這うような重低音で先輩が答える。うん、懐かしいなぁ。


「いやー、もう丸刈ってしまえよお前さん、それは撫でてくれと言わんばかりだよ、そりゃみんな撫でるよ縮むよ仕方ないよ、天命だよ」


翠さんがひょこひょこ戻ってきて、同情じみた目で言う。もとい、追い詰める。


先輩は頭を守るように両手を置き、翠さんからじりじりと遠ざかりつつ言う。


「俺は、ネオ野球部を、貫く……ッ!」


「意味分からーん」


同じく元野球部の恩戸くんは、面影もなく伸ばしている自身の黒髪をがしがしと掻いた。


「おい恩戸、早くヘルメット持ってこい! 翠はいいから俺にかぶせろ!」


翠さんから一定の距離を保ちながら叫ぶ先輩に、


「大丈夫、二人分あっから」


恩戸くんが答えるなり、その意味に気づいて盛大な舌打ちを鳴らす先輩。


「これだからリア充は……」


「この前、樫月とも乗ったけどね」


「うん」


「……避妊はしろよ」


「怒るよ先輩」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ