箸休め 世界の食卓には南米発祥の食べ物が溢れている?
番外編です。
今回はトウモロコシやコカなど、南米原産の植物を紹介しています。
10回以上に渡ってお送りしてきた番外編も、今回で最終回。
作者の知ったかぶりがお気に召した方は、ぜひ『亡霊葬稿シュネヴィ』のほうもご覧下さい。
あちらの『箸休め』では、中国を語源にする言葉や、身近な毒草を紹介しています。
『亡霊葬稿シュネヴィ』アドレス:http://ncode.syosetu.com/n2552dn/
先日の更新分で触れた通り、ジャガイモの起源はアンデス山脈の高地にあります。元来食用に適さなかったそれを改良していったのは、周辺の原住民たちだそうです。彼等の努力がなければポテチもポテトも存在しなかったことを思えば、我々はアンデス山脈に足を向けられないのかも知れません。
スペイン人たちの手で故国に持ち込まれたジャガイモは、ヨーロッパの餓死率を著しく低下させたと言います。
マッシュポテトにフィッシュアンドチップスと西洋には伝統的なジャガイモ料理が数多くありますが、これらもスペイン人がインカ帝国より帰還した1600年頃から発展したものです。ちなみに「インカのめざめ」は日本で作られた品種で、ペルー原産ではありません。
南米原産の食べ物は、ジャガイモだけではありません。小麦、米と並んで世界三大穀物の一つに数えられるトウモロコシも、南米原産の食べ物です。中でもジャイアントコーンは特殊で、ペルーの限られた地域で育てないと実が大きくなりません。他の場所で栽培すると、普通のトウモロコシになってしまいます。
トウモロコシはインカ帝国にとって重要な作物で、ジャガイモと同じく積極的に品種改良が行われました。とは言え、現代のように食べることはほとんどなく、80㌫以上がチチャと呼ばれる発酵酒にされていたそうです。
インカ帝国には貨幣と言う概念がなく、労働に対しては同等の労働、あるいは品物でお礼をするのが習わしでした。チチャは皇帝から与えられる報酬としては、最上級の品物だったと考えられています。また様々な儀礼においても、神々への供物として欠かせない存在だったと言われています。
イタリアンなイメージのあるトマトも、実は南米原産の野菜です。今でもペルーではポピュラーな食材で、肉料理からスープまで幅広く利用されています。
余談ですが、トマトは野菜か果物かを巡って裁判になったことがあります。舞台となったのはアメリカで、1893年に始まった裁判は一年に渡って続きました。
当時、アメリカでは果物には関税が掛けられていませんでした。そこで輸入業者はトマトが果物だと主張し、税金を逃れようとしたのです。
これに真っ向から反論したのが、アメリカの農業を司る農務省でした。税収が減ることを嫌った彼等は、トマトのことを関税の掛かる野菜だと主張したのです。
もつれにもつれたこの争い、アメリカの裁判所が出した結論は以下の通りです。
〝トマトは野菜畑で育てられている。また食事として出されても、デザートとしては使われない。ゆえにトマトは野菜である〟
最近、健康食品として有名になったキヌアも、南米発祥の雑穀です。アンデス山脈周辺では古くから食べられてきた穀物で、インカ帝国も栽培を行っていたと考えられています。
食べ物ではありませんが、コカノキも南米原産の植物と言われています。コカインの原料となるコカの葉は、現地では茶葉として利用されています。伝統的に飲まれているコカ茶には、高山病を和らげる働きがあるそうです。
日本人の我々にはなかなかデンジャラスな話に思えますが、マチュピチュの下流はコカの葉の一大産地になっています。多くのホテルでは高山病に悩む観光客のために、コカ茶を振る舞ってくれるそうです。
インカ帝国もまた儀礼用として、コカの栽培に熱心だったと言います。コカの栽培地でもあったマチュピチュからは、石灰を掬いだすのに使われたと思われるヘラが見付かっています。石灰にはコカの葉の麻薬成分を増強させる働きがあり、現在でも南米にはこの二つを一緒に噛む習慣があります。
さて身近な食べ物のルーツを追ってみた今回の箸休め、お楽しみ頂けたでしょうか? 地球の裏側で誕生した彼等は、今や日本の食卓にとって欠かせない存在になっています。普段、スーパーや八百屋で見慣れた顔ぶれですが、祖先が南米出身だと思うと、なかなか陽気に見えて来るのではないでしょうか。




