箸休め 我々の生活を支える植物たち③ 日本一酷使されてきた植物
番外編です。
今回は、エジソンがフィラメントに使ったアレを紹介しています。
植物に興味のある方は、ぜひ『亡霊葬稿シュネヴィ』のほうもご覧下さい。
あちらの番外編では、薔薇や薬になる植物、毒草について蘊蓄を垂れています。
二回に渡って、植物の偉大さを語ってきた今回の箸休め。前回は人間の胃袋を守って来た植物を紹介しましたが、今回は日本人の生活を豊かにしてきたそれを挙げていきたいと思います。
建材に使われる檜に松ヤニを産出する松と、日本人の生活に寄り添ってきた植物は枚挙に遑がありません。とは言え、竹ほど衣食住に渡って日本人を助けてきた植物は存在しないでしょう。
成長が早い上に丈夫な竹は、遥か昔から様々な製品に使われてきました。日本最古の物語である竹取物語にも、竹取の翁が登場します。名を讃岐造麿と言う翁は、野山から取ってきた竹を色々なことに使っていたと言います。
今でも夏場になれば、竹製の簾やラグがインテリア売場に並びます。涼感溢れる艶やかさや青々とした香りは、蒸し暑い夏を迎え撃つにあたって心強い味方です。
金属製の製品が登場するまで、物干し竿と言えば竹でした。また竹炭には空気を綺麗にする働きがあり、衣服の消臭剤に利用されています。水道水のカルキ臭さを取る働きもあり、浄水器にも採用されているそうです。
一説には竹酢液にも同様の効果があり、愛用する方も多いと言います。竹酢液は独特の香りを持つ液体で、竹炭を作る時に発生する煙を冷やすことで作られます。消臭効果の他にも、水虫や肌荒れに効果があると噂されています。
食の面に目を向けても、竹の貢献は計り知れません。
古くから竹で作られた籠や竹竿は、魚を捕るのに利用されてきました。まだIH調理器も都市ガスもなかった時代、煮炊きする竈には竹筒を使って酸素を送っていました。真っ二つに割れば、流しそうめんのコースにもなります。
竹には抗菌作用があり、水筒や弁当箱としても有用です。前回紹介した笹や柏のように、竹の皮もまたおにぎりや和菓子を包むのに使われています。
食材として見ても、竹はなかなか優秀です。
竹の若芽である筍は、炊き込みご飯や煮物、天ぷらに中華料理と幅広く使われています。また筍を発酵させて作るメンマは、ラーメンに欠かすことの出来ないトッピングです。
文化的視点に目を向けても、竹の存在感は大きいものがあります。
扇子や団扇と言った日本的な品々には、竹製の骨が使われています。玩具にも竹馬や竹トンボと、古くから親しまれてきたものが存在します。竹ひごを使って工作に勤しんだ経験は、誰にでもあることでしょう。
竹はおめでたい植物として、門松の材料にもなっています。また神社の手水舎――参拝する前に手を洗う場所には、多くの場合、竹製の柄杓が置かれています。食べ物や式のグレードを指す松竹梅の一つとして、口に出すことも多い言葉です。
抹茶を掬うのに使う茶杓に、お茶を掻き回す時に使う茶筅と、茶道にも竹を使った道具が登場します。素朴な花瓶として、竹筒を茶室に飾ることもあるそうです。
風雅な音を発する竹は、楽器の素材としても使用されてきました。尺八や雅楽に使われる笙は、竹を材料にした笛です。楽器ではありませんが、かこーんと小気味よい音を鳴らす「ししおどし」にも竹が用いられています。
エジソンが白熱電球の改良に使ったのも、京都で採れた竹です。竹炭で作られたフィラメントは、白熱電球の寿命を飛躍的に伸ばしたと言います。フィラメントとは電気を通すと発光する部分で、竹で作られる以前のそれには短時間で燃え尽きてしまうと言う問題点がありました。ちなみにエジソンが竹の産地として選んだ八幡市には、立派な記念碑が建てられています。




