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ハマポリ BAD COMPANY  作者: 上倉鉄人重丸
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ハマポリ BAD COMPANY 第二話

※この小説は、上倉鉄人重丸氏の小説に私(マンモス東)の挿絵を追加したものです。上倉鉄人重丸氏の代理投稿になります。


挿絵(By みてみん)


[第二話]


 横浜九龍はかつて横浜中華街と呼ばれていた。日本政府が難民受け入れ政策をとって以降、神奈川は難民特区にされていた。以来神奈川は様々な変革を遂げ、特に変わったのが中華街だ。中華系難民の大量流入により中華街は縦に成長。違法建築で肥大化した構造物は九龍城と呼ぶにふさわしかった。そんな九龍の上空を、一機のヘリが飛んでいる。曇天の中ローターの凄まじい音を響かせているのはCH-47チヌークだ。日本国防陸軍の払い下げを一企業の基要軒が買い取り運用しているのである。全体が赤く塗装され、基要軒のロゴの描かれた機体が二つのローターを回しながら城塞化したスラム街の上で滞空する。後部のカーゴベイが開き、パラシュートをつけたコンテナが落とされた。複数のコンテナにはいずれも基要軒のマークが打たれている。難民向けの食料を基要軒が供給しているのだ。昼前ということもあって、コンテナの落着予定地点には早くも人だかりが出来ていた。稼ぎの少ない難民達の胃袋をそれなりに満たしているのだから当然と言えば当然といえる。そんなコンテナに群がる人々を離れたところから見ている男達がいた。フードをかぶった男達は中華系の住民とは違うスラブ系の顔立ちで、険しい目でもってあたりを睨み付けている。男の一人がチヌークを指さすと、別の男が奥に引っ込む。持って来たのは、AK同様今や世界のどこにでもあるRPG-7だ。いまや装甲車程度にか通じない旧式の対戦車ロケットだが、アナログ故に使い勝手がいいこともある。そんなRPGを男が空に向けて構え、ヘリに狙いをつける。そして、弾頭が放物線を描くことを考慮し、角度をつけて発射した。曇り空にロケット弾が一直線に飛び、チヌークに命中した。被弾箇所がカーゴベイであってもダメージは甚大で、バランスを崩した機体が回転しながら高度を落としていく。飢えた難民達もこれにはさすがに危機感を覚えたようで、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。リアのローターに不調を来したチヌークは体勢を立て直そうと努力していたが叶わず、横浜九龍のバラックに突っ込み、激しい爆発を起こした。



「入れないってどう言うことだッ!?」

 莉桜達三人がタンドラで現場に駆けつけると、横浜九龍の前で警官と消防、そして黒服の柄の悪い男達が睨み合っていた。

「なんですかね?」

「あー……難民マフィアでしょ、あれ」

「それは知ってます。なんで私たちを入れないのかってことです」

 莉桜の言葉はもっともで、ヘリ墜落から三〇分経った今も横浜九龍は炎上している。火の収まる気配なく、廃材で組まれた難民の城は今も黒煙を上げ続けていた。普通なら放水車の出番だ。しかし、その放水車は薄汚れた黒スーツの男達に阻まれ、本来の仕事を果たせないでいる。

「いい加減ここを通してくれ!」

「問題ナイ。消火活動ハコッチデシテイル。アナタ達ハ、帰ッテイイ」

「消火なんしてないだろうが! さっきより広がってるぞ!」

「気ノセイ。アナタ達ノ気ノセイ」

「お前達の住むところがなくなるんだぞ、わかってるのか!?」

「ワカッテルワカッテルー」

 必死な消防士の言葉にもかかわらず難民マフィア達の態度は他人事だ。ニヤニヤとしているのは消防士達が無理できないのを知っているからか、それとも自分たちが武器を持っているからか。いずれにせよ、どく気はないらしい。男達の背後にさらに数人仲間が控えていることも、向こうの自信につながっているのだろう。

「邪魔ナラ、ボク達ヲドカシテ下サイネー」

「こいつらの態度からするに、中で違法行為してるだろな……面倒くさい……。かといって、ここまで騒ぎになってると、コッチから銃を出すわけにもいかないし」

 面倒くさげに辺りを見回す雨木の目が、逃げ惑う難民と他にマスコミの姿を見つけた。ヘタ打てばまた警官を叩くメディアに材料を与えてしまうのだ。

「撃たなければいいのデスネ? でしたら、ワタシにまかせて下サイ」

 痺れをきらした莉桜が懐の銃に手を伸ばそうとしたとき、タスニムが歩き出す。今にも撃ちかねない雰囲気を漂わせる警官達の横を抜け、マフィアの前に立つ。

「……何デスカアナタハ?」

「ワタシはわがままな人嫌いデス」

「?」

「なので、眠ってもらいますネ?」

 笑顔を崩さないままのタスニムの拳が空を切る。アゴを掠る様に放った拳に脳を揺さぶられ、難民マフィアの男が笑顔のまま崩れた。それを見ていたマフィア達から笑顔が消え、懐から銃を取り出した。

「抵抗を確認!」

 奥にいたマフィア達が銃を抜いたのを確認した堀越が攻撃許可を出す。瞬間、警官達が待ってましたとばかりに発砲を開始。消防士達が伏せる中、銃撃戦が始まる。難民マフィアはサブマシンガンで弾をまき散らすものの、射撃訓練を行っている警官達の相手ではなく次々と倒れていった。

「よし、消火活動を手伝え! 各自消防士を援護しろ。連中は必ず邪魔に来るぞッ」

「あいあい、了解。またいろいろ警官批判されるだろうし、せいぜい消火活動してマイナス点を減らそうかねぇ」

 声を張り上げる堀越に対し雨木はあまりにも投げやりだ。やる気のなさに不満ではあったが何も言わず、莉桜も横浜九龍に足を踏み入れた。


 横浜九龍の黒煙が収まったのは、消火活動が始まってから五時間後のことだった。炎に巻かれた九龍内は廃墟同然で、火事特有の匂いが漂っている。生活感漂わせる物は全て燃え、放水で濡れた室内は黒焦げになっていた。

「ひどい匂い……」

「ああ、放っといても消えないらしいねぇ、この匂い。でも腹減ったなぁ」

 あたりにはやけどを負った難民も多いので、この発言は不謹慎に思われても仕方がない。とはいえ、雨木の言葉も理解できた。火事の匂いに混じってバイオ焼売の焼ける匂いが漂っていたからだ。火事が収まったこともあって、仕事を終えた消防士達の緊張は緩んでいる。ただ、警官達の仕事は終わらない。

「巡査部長、コレ、どうしますカ?」

「うーん……手錠足らないね。どうしようか」

 タスニムの足下には、ボロ雑巾のようになった黒服達が何人も転がっていた。いずれも、現場保全の邪魔をしてきた者達だ。数で攻めてきたがタスニムの体術でことごとく蹴散らされ、意識を失って山積みになっていた。公務執行妨害なので逮捕からの連行が必要だが、とにかく数が多い。

「堀越巡査部長、どうにかなりませんかね? コイツら目を覚ますと逃げますよ?」

『そんなこと言ったって、ブタ箱の数も手錠も急に増やせるわけねぇだろ?』

「そこをなんとか」

『気軽に言っても増えねぇよ。ただ、増援はそっちにいったぜ。鑑識が到着する前に、R1からR9の各班は邪魔する馬鹿どもを掃討すること。面倒くさいからってやり過ぎるなよ』

「了解。……宇佐見、弾あるか?」

「あと10発。これがなくなると実弾になりますね」

 手持ちのP226からマガジンを抜き、莉桜は残弾を調べた。背負っているMP5とは違い、ハンドガンには執行弾と呼ばれる強化樹脂弾が入っている。これが神奈川県警の警官に渡されている標準装備の弾だった。FMJ弾に比べて飛距離は八割ほどで人体への貫通力なし。プレキャリを着た相手にはほぼ効かないが、生身に撃ち込むとかなりの衝撃を与える事が出来るので、相手に骨折や打撲を追わせて無力化することは出来る。もちろん目に撃てばショック死することもあるが、全国で犯罪率が随一の地域において、少しでも警察が重装備化すると殺人だと人権団体が騒いだ結果、折衷案として開発されたのがこの弾だった。もちろん、未だに納得していない県外の人権団体はうるさいが、これにより犯人を殺すことなく無力化出来、また犯罪抑止のために警官が撃ちやすくなったのも事実だった。

「ま、あれだな。弾を使うなとは言わない。あくまで自分たちの命を大事にだ。実弾を使う場合は。極力バイタルゾーンを狙わないこと」

「了解シマシタ」

「井下巡査はもっと銃に頼るんだ。撃たれたりナイフでズブリっていかれても困るのよ、俺達が」

「留意シマス」

「……行こうか」

 敬礼するタスニムに何を言っても無理だろうと判断した雨木が重い腰を上げる。続いて歩く莉桜の耳に顔を寄せ、タスニムはマガジンを渡してくる。

(使ってクダサイ)

「え、でも」

(ワタシは、射撃苦手デス。なので、得意の体術でイキます)

 使わないのであれば借りておくに越したことはない。フルロードされている226のマガジンを受け取ると、莉桜は礼を述べた。


 公務の執行を妨害する人員の排斥はきわめて順調だった。何せ邪魔がいない。迷路状に入り組んでいる九龍内部を警戒しつつ進んでいるが、いるのは薄汚れた服装をした難民ばかりで敵意をむき出しにした黒服を見かけることはなかった。

「もう全部倒したんですかね?」

 ハンドガンにつけたライトで暗がりを照らしながら莉桜が訊く。部屋の奥には大穴が空いていて、覗くと吹き抜け上になっている空間の底にヘリの残骸があった。部屋の穴はヘリのローターが作ったのだろう。火事こそ免れていたが、もはや住むのに適さない部屋になっていた。

「さあ? 難民マフィアのことだし、どっかに紛れたのかもね。それよりも、二人とも気づいてる?」

「え?」

「何がデスカ?」

「……ガスマスク着用」

 ため息をついた雨木の言葉に首をかしげながらも、莉桜達は雨木に倣ってプレキャリの背面ポーチから取り出し顔につけた。

「変な匂いしてるの気づか……ないか」

「火事の匂いじゃないんですか?」

「違う。バイオ焼売とかバイオ月餅の焼けた匂いとも違う。匂いだけだと何ともいえないけど、途中で見てきた難民達の様子は覚えてる?」

 莉桜は思い出す。廊下や部屋にいた難民達は力なく座っていた。火事で自分の住処を失ったことによる茫然自失と考えていたが、今思えば、どこか夢見心地な表情をしていたように思えた。

「……言われると尋常じゃないかもしれません」

「何かの薬物の反応かもしれない。だっておかしいと思わない? 火事でこんなコトになってるのに、屋内にいる難民達はヘリの近くばかりにいるんだよ。まだ危険なのにさ。そう考えると……?」

「ヘリから何か出てる?」

「憶測で物言っちゃいけないけどね。ひょっとしたら、腹の減りすぎで焼売の匂いで満足してるだけかもしれない。……まあ、そういうのは鑑識に任せよう。俺達は難民の避難誘導だ。宇佐見、井下。難民をできうる限りこの場から離すんだ」

『了解』

 雨木の命を受けて、二人が動き出す。潜んでいるかもしれない難民マフィアに注意しつつ、動かないでいる難民を見つけては避難誘導する。ガスマスクをつけていることで余計な不安を煽るのではと莉桜は思ったが、幸いにも難民達は何ら反応を示さず黙ってくれた。警察には逆らうなと言われているのだろうか? いずれにせよ人手の足りないこの状況ではありがたいことだ。

「タスニムどう? こっちはだいぶ避難できたと思うけど」

「隣の部屋にはイマセン。後は奥の部屋だけデス」

「了解。行こうか」

 汚れきった床板を踏み抜かないように注意しながら、部屋を出る。この奥にあるのは残り三つの部屋だ。ヘリからも離れているので、雨木の薬物説が正しいと仮定するならば誰もいないだろう。しかし、だからといって見落とした場合、面倒くさいことになりかねないので確認する必要があった。

「……鍵か」

 何の気なしに触れたドアには鍵がかかっていた。住人の個室なのでどこも鍵がついているのは当たり前だが、火事のおかげで皆部屋を出ていて鍵などかかっていなかっただけに、珍しく感じた。

「……」

 隣に立つタスニムと顔を合わせ、莉桜は背中のMP5に切り替えた。中に敵がいたらまずいからではなく、単にハンドガンの中の弾ではドアノブが壊せないからだ。

「タスニム、銃用意」

「ハイ」

「――GO」

 点射にてドアノブを飛ばし、フリーになった扉を開く。

 電気のついていない部屋は他の粗末な板張りの部屋とは違いタイル張りだった。風呂だろうか?

(にしては部屋全体が風呂ってことはないだろうし、脱衣所もない。どういうこと?)

 窓がないのか外の光も入らず、暗い部屋には人のいる気配もない。

「電気」

「ハイ」

 MP5を構えた莉桜の後ろでタスニムがスイッチをつける。瞬間、二人は言葉を失った。

「ッ…………」

「……なに、これ……」

 白いタイル張りの部屋は、一言で言えば手術室だった。部屋に中央に置かれた手術台。その横にあるステンレスのストレージカート。赤黒く汚れたノコギリや錐など、おおよそ手術に使わないであろう工具が入ったキックバケツ。部屋中央の排水溝に吸い込まれている赤い筋をたどると、部屋の端に積まれた全裸の死体の山。死体だとわかったのは、無造作に積まれた死体の色が白すぎることと、死体の頭が切開されていて、脳がなかったからだ。死体の山は視覚的インパクトが強く、それだけで吐き気を催す。ガスマスクをしていなければ、腐敗臭で二人とも吐いていただろう。

「コレ……もしかして連続猟奇事件の……」

「こちらR9。横浜九龍内部で頭部を損壊した複数の死体を発見」

『わかった。邪魔も粗方いなくなっただろうし、そっちに人を回す。それと、俺の方に来てくれないか? 複数の怪我人がいる。俺一人じゃ運び出せないんだ』

「了解」

 通信を切り、莉桜は部屋を出る。状況としてはこの部屋の状況保全が第一のはずだが、その場から遠ざかるよう雨木なりに気を遣ってくれたのだろう。その申し出に素直に従うことにする。

「タスニム、行こう」

「……そう、デスネ」

「大丈夫。そこに子供はいないから。ラーフィアはいない」 

 死体の山を見ていたタスニムに声をかけると、安堵したようにタスニムが振り返った。もしかしたら失踪した孤児院の男の子がここにいるのではという不安があったのだ。

「巡査部長が呼んでる」

 死体を見たインパクトから落ち着いたタスニムを促し、莉桜は現場をあとにする。同僚達とすれ違ったことで保全を気にかける必要もなくなり、二人は雨木の元へと急いだ。



「はぁ~」

「あら、寝不足? 若いからって無理してると、すぐにお肌が荒れるわよ」

「そんなこと言ったって、仕事が終わらなかったんだから仕方ないじゃん……」

 机に突っ伏した莉桜の前に、湯気を立てたコーヒーカップが置かれた。香りに鼻腔をくすぐられゆっくりと顔を上げた莉桜がカップを手にし、口に流し込む。

「……うえぇ……苦い」

「そりゃあ、眠気覚ましですもの。飲みやすくしちゃったら目が覚めないでしょう?」

「そうだけどさ……」

 ジョンの入れたコーヒーは目覚ましには最適を超えて、ただただ苦い。それを笑顔で口にしているのがタスニムだ。

「ダイジョーブ、ジョンさんのコーヒー、ガムシロップと相性ばっちりデス」

 元気よく答えるタスニムは莉桜と違って元気そのもので、莉桜や雨木と同じように徹夜をしたはずなのに疲れを微塵も感じさせない。そんなタスニムの前には、蓋の開いたガムシロップが複数転がっていた。

「ちょっとニムちゃん、ガムシロ何個入れたのそれ?」

「六個デス」

「……入れすぎじゃない? 甘々よそれ? まあ、ニムちゃんがいいならいいけど」

「でも、熱すぎて一気に飲めないデス……」

「そういえば、ニムちゃん猫舌だったわね」

 さらにガムシロップを追加して甘々にしているコーヒーをすするタスニムを横目に、トレーの上の食事を莉桜と同じように船をこいでいる雨木の前に置いた。朝食にしては多いが、徹夜明けの疲れた体を動かすには多めの栄養の補給した方がいいと考えたジョンの気遣いだった。

「はい、莉桜ちゃんとニムちゃんも」

「……ありがとう」

「徹夜したみたいだけど、昨日の火事の件?」

「ええ、ジョンさん……事後処理が忙しすぎて」

「あれだけニュースになれば、知らない人なんていないわよ」

 ネット上に動画でアップされたこともあり、横浜九龍の火事は瞬く間に広まった。難民マフィアを銃で取り締まった映像も流され、警察はマスコミの対応に追われたのだ。本来の作業は保護した難民の移送に、公務執行妨害をした難民マフィアの取り調べだけだが、普通なら夜までに終わる作業も数が桁違いなだけに明け方まで終わらなかったのである。残務処理が一区切りしたのは通勤ラッシュが始まる少し前で、莉桜達はパトロールと称してジョンとクリフの孤児院に逃げ込んでいた。少しくらい休んだところでバチはあたらないと思うのは仕方がないだろう。

「あのヘリは……週一で横浜九龍に来てたらしい。基要軒の所有するチヌークで、主に自社で製造するバイオ焼売・バイオ月餅・バイオチャーシュー……難民用の食料をコンテナに詰めて投下してたみたいだ」

「なるほど。まあ、あそこは中国からの難民ですし、食事自体は口に合いそうな気がしますね」

「ちょっとちょっと! それ捜査情報なんじゃないの? そんな物聞かされてもアタシ困るんだけど?」

「ああ、大丈夫。別に大した情報じゃないですから」

「それを決めるのはアナタじゃなくて、その上の人でしょ? 迂闊に情報を知ったってことで消されるとか、アタシやあよ?」

「デモ、今の情報は」

「アーアーッ!! 聞こえな~いッ」

 わざとらしく耳を塞いだジョンが台所から去って行く。今の時間はクリフを先生とした勉強の時間なので、広めの食堂には莉桜達しかいなかった。本来なら人気のないところで話すべき内容だ。そのことをわかっているジョンが気を利かせてくれたのである。車に戻って話すべき内容だが、生憎と食事をする以外の気力がなかった。

「そういえば雨木さん、あの中東の難民は?」

「ああ……あれね」

 目の前に置かれたフレンチトーストを食しながら雨木が口を開く。

「重傷がいたけど、四人とも生きてるよ。多分だけど、チヌークを落としたのはあいつらだろう。あの部屋にはRPG-7のランチャーがあった。ヘリは後部のカーゴに大穴が開いてて、四人のいた部屋は燃えていなかったのに、火傷負ってるヤツがいた」

「…………バックブラストでしょうカ?」

「おそらくは。麻薬の線はどうだった?」

「まだ調べてる段階で結論は出ないそうです。らしい物は見つけたようですが」

 墜落したヘリ周辺で採取した物を鑑識が持ち帰ったのを莉桜は目撃していたが、署を出る時にはまだ解析が終わっていなかった。どのくらいかかるかわからないが、ヘリが墜落して炎上したことを除けば、最近の横浜でよくあるような麻薬事件扱いになるので、重大事件が起きれば後回しになる。

「なるほどね……この件、憶測で言えば、難民感の対立に見えるんだよね……そういう情報ない? 井下巡査」

「いくらハーフでも、別に難民事情に詳しいわけではありませんヨ?」

 とはいうものの、タスニムがその容姿を利用して警察では聞きにくい事情を難民達から聞いているのも事実だった。東欧生まれの母を持つハーフのタスニムは日本人離れした容姿をしている。くわえて、母親の強烈な母国愛により母国語を強制されたので、いくつかの国の難民となら意思の疎通が出来るのだ。反面、日本語のイントネーションが変になったままだ。

「とはいえ、シリアからの難民と中国からの難民とでは、先人の有無などで保護の手厚さが違うので、そこに不満があるのは事実デス」

「横浜は九龍が出来る前に中華街あったし、中華系の人々がコミュニティを作る土壌があった。シリア系の難民はそういうのがないからな。同じ難民でも生活に差が出るだろうし……」

 なぜ日本に中華系の難民がいるがいるかというと、米中を中心とした第三次世界大戦があったからだ。核戦争で崩壊と誰しもが想像した状況にならず、戦争自体はわずか一年で終結した。経済崩壊を端に発した中国の内部崩壊が原因だった。これにより中華人民共和国は五つに分裂し今も内乱中である。難民受け入れに消極的だった日本も、隣国から押し寄せる難民のために難民政策の転換を迫られたのだ。その結果が今の横浜だった。

「そういう不平が今回の件に絡んでるとすると、やっかいだな……今後どうなるやらだ」

「いずれにせよ、これ以上は聞き込みでもしないとわかりません」

「だな。ひょっとしたら、ヘリに積んであったものがなんなのか、わかるかもしれない。病院の方は後回しにして、まずは九龍からだな」

 莉桜の言葉に頷き、雨木は朝食を平らげていく。それに倣い莉桜とタスニムも食事を急いで口に運んだ。

「それじゃ、俺達も動こう。少しでも警部様の点数を稼ごうじゃないの」

 最後に苦みの効いた濃いコーヒーを胃に流し込み、雨木は立ち上がった。



「……まさか、収穫0とは……はぁ」

「ダメ、でしたカ?」

「うん、見事なまでに何もなかったよ」

 シャワー室から出てきた莉桜が忌々しそうに汚れた衣服をゴミ箱に投げ捨てる。情報収集のためにわざわざ用意した物だが、全く役には立たず、署に戻って来たのだ。

 日中は横浜九龍の周辺で聞き込みを行った莉桜達だったが収穫は0。現場検証のために封鎖された九龍周辺に住む難民に聞いて回ったものの、なにもを得られなかったのである。もちろん疑いをかけられないために変装はした。中華系難民に程近い雨木と莉桜がプレキャリやバッジを外し、汚れた格好をして同胞を装い近づく――つたない中国語でも、地域が違えば大分言葉が違うので、日本人である事を誤魔化すことは出来たのである。しかし、それでも肝心の情報は引き出せなかった。

「こうも口が硬いとはなぁ」

「雨木さんでもだめですか」

 莉桜と同じようにシャワールームから出てきた雨木が、染みついた煙の匂いが取れたかを確認するように匂いを嗅いでいる。服も着替えて体も洗った手前匂いはないはずだが、未だに煙が染みついてるような気がしてならない。

「割とフレンドリーに接してくれたのに、チヌークの話になるとだんまり。麻薬の話を振るなんてとてもとても……」

「ヤッパリ、マフィアが怖いんでしょうカ?」

「そりゃあ、怖いでしょ。彼らはみんな普通の人だ。戦うすべなんて持ってない。黙っていれば、食事が運ばれてくるんだ。生活基盤がない一般人は黙るさ」

「そこをどうにかしなくちゃいけないんじゃないですか?」

「宇佐見の言う事は正しい。けど、無理に聞き出すことは出来ないよ」

 ただでさえマスコミの目が厳しいのだ。無理なことをすれば叩く材料を人権団体に与えるだけになる。

「ま、やっていいなら俺だって尋問してるさ。難民に回りくどい質問なんかしなくていいしね」

「もしかして、マフィアさん達に訊くのデスカ?」

「そゆこと。こう見えても、俺そういうのうまいのよ」

 得意げに語る雨木を、莉桜は鼻で笑った。

「そういう付け焼き刃的なものはいいです。ボーダーポリスあたりに頼めば、町田式の尋問が出来るわけですし」

「あ~……まあ、そうね。鶴見川の連中はおっかないからなぁ」

「お前ら、いたのか!」

 そろそろ病院へ顔を出すべきかと雨木が考えていると、地下の階段から上がってきた職人がたきの老人が、莉桜と雨木を見て声を上げた。

「ああ、富崎さん。上がりですか?」

「上がりなもんか! タグ付きをお前らが持ってこないから帰れないんだよ!」

「……ぁ」

 怒り心頭の老人の言葉に、莉桜が背中に回していたMP5の存在を思い出す。昨日借りっぱなしで返すのをすっかり忘れていた。

「でも富崎さん、俺達まだ使いますよ」

「んなことはわかっとる! ……一度保管庫に来い」

 若干声を潜め、騒がしいデスクから離れるように素早く階段を下っていく。ここで富崎を無視できなくもないが、それをすると今後銃が使えなくなる。選択肢などなかった。

「……毎回言っとるだろ? 貸し出しは1日ごと。それが守られなかったら貸せないんだぞ」

「わかってます」

 押収品保管室の椅子に腰を下ろした小柄な老人に、莉桜と雨木はスリングで下げていたMP5を差し出す。型番と帳簿を調べ、富崎は二人に返した。富崎は押収品保管室の管理者という扱いだが、実際は署内の銃の管理者だった。強化樹脂弾によって銃の使い勝手が遙かに良くなった神奈川県警ではあるが当然予算はない。したがって、拳銃は国防軍やSSTの更新した武器の払い下げを実費で購入することになる。樹脂弾で対処できない相手にはどうするか? 警察は、犯人から押収した武器を使う事にしたのである。もちろん、押収品を使う事など胸を張っていえることではない。故に「管理人」が「目を離した隙」に「使って戻している」体をとっている。一日一度保管個に戻す制約も、長物がタグ付きと呼ばれているのも全ては世間体のためだった。

「で、今日も使うんだな?」

「はい、もちろん。ないと危険なので」

 雨木は苦笑すると、懐から三箱の煙草を取り出す。嗜好品を賄賂として、しかも二個多く出されてしまっては怒るに怒れない。

「最近奥さんうるさくて家で吸えないんだとか?」

「……ふん。あいつにはコレの良さがわからんのだ」

 煙草を奪い取り懐に入れる。不機嫌そうだが口は緩んでいた。

「それで? 弾は使ったのか?」

「俺は2マグ分です。宇佐見は?」

「執行弾は3マグ分。実弾は2発」

「……実弾使ったの?」

 莉桜の申告に雨木がぎょっとする。

「相手はどうなったの?」

「人は撃ってません。鍵のかかった部屋に突入するときに使いました」

「……そっか。それならよかった」

 胸をなで下ろす雨木達の前に、豊崎が二つの拳銃弾のケースを置く。

「使う分だけ持って行け。どっちも俺がリロードしたヤツだから、精度は期待するなよ」

「ありがとうございます」

「で、そっちの嬢ちゃんはいいのか?」

「ワタシは使いませんノデ、大丈夫デス」

 莉桜達が手持ちのマガジンに樹脂弾をつめていると、不意に携帯のコール音が響く。タスニムの携帯だった。

「ハイ! ……はい、わかりました。ありがとうゴザイマス」

「誰?」

「病院からデス。中東の難民の参考人が目を覚ましマシタ」

「いいね。実にグッドだ」

 タスニムの言葉を聞いた雨木がフルロードしたマガジンをポーチに入れ、疲れた顔に笑みを浮かべた。

「それじゃ行こうか。なぜヘリを落としたのか、教えてもらわないとね」


「……本当に会われるんですか? もう夜ですよ?」

 夜の病院に到着すると、困惑した担当医が出迎えてくれた。

「事情聴取に昼とか夜とか関係ないんで……」

「しかし、目を覚ましたばかりですよ?」

「早急に訊きたいことがあるんですよ、彼には。それに、そこまでひどい怪我ではないのでしょう?」

 有無を言わせない笑顔。疲れを滲ませる医師に柔和に対応しながらも雨木の足取りは微塵も遅くならず、強い歩調でリノリウムの廊下を進んでいた。

「怪我人に無茶をさせるのはお勧めできません」

「先生、何も俺達は自白剤を使ったり怪我を増やそうとしてるわけじゃないんだ。訊きたいことがある。それだけなんだ」

 雨木が急いでいるのはただでさえ低い警部からの評価を上げたいからではない。病院へ移動中カーラジオから聞こえてきたニュースで、ヘリ墜落の原因に難民間の対立があったのではと報道されているのだ。事実にせよ誤報にせよ、事実関係を調べ適切なカバーストーリーを作り上げなければまずいことになる。難民特区の神奈川県に全ての難民が集まっているのだ。民族間の諍いの場にされては警察で対処できなくなる。それだけは絶対に避けなくてはならない。

「とはいえ、なぜあそこにいたかを訊いたとして、どうしますかね?」

「そこから先は上の人に任せるけど、なんにせよ――おわッ」

 角を曲がったとき、ストレッチャーを押す複数の救急隊員が目の前を通過していく。よほど急いでいるのだろう。ぶつかりそうになった雨木達に頭を下げることなく、エレベーターホールに向かっていった。

「急患か、大変ですね」

「……」

「どうしました、先生?」

「……いえ、気のせいでしょう」

 ストレッチャーの去って行った薄暗い廊下に目を向けていた医師が踵を返し、再び歩き出す。

「ともかく、無理はしないでください」

「俺達にいうセリフじゃないですよそれ」

「……そうなんですよね」

 そう言われると彼も苦笑するしかない。横浜市警と幾度となくやりとりしている医師は、彼らが人命を軽視しているわけではないことを知っている。ただ、ひどく雑なのだ。銃を使うおかげで必要以上に怪我をした容疑者の面倒ばかりを見させられている。容疑者のほとんどが死んでいないのはいいことだが、面倒を見させられる側はたまったものではなかった。あからさまなため息をつき、立ち止まったところにある病室の扉に向き合った。

「いいですか? くれぐれも無理はしないでください」

 時間帯故の控えめなノックをしたが、反応はない。

「……寝てしまったのかな」

「でしたら起こすまでですよ」

 医師の代わりに雨木が引き戸を開ける。個室には鍵がかかっておらず、人もいなかった。あるのは、さっきまで人がいたと思われる布団の抜け殻のみ。医師の表情がみるみる青ざめていく。

「そんな、馬鹿な……しかし、体調を崩したのなら私に連絡が……」

 もぬけの殻になった病室と、うわごとのようにつぶやく医師を見て動き出したのはタスニムだった。踵を返し、廊下に足音を響かせる。

「タスニム!?」

「さっきの人達、怪しいデス!」

 ついて来る莉桜に、タスニムは走りながら振り返ることなく答えた。さっきのとは、目の前を通り過ぎた救急隊員のことだ。身軽なタスニムの足は速く、振っている両腕が重い莉桜の足では追いつけない。このままでは見失うと思ったとき、前をゆくタスニムが窓の前で立ち止まった。鍵を開け、下の階の様子を一瞥すると躊躇うことなく窓から飛び降りた。

「――タスニムッ!?」

 莉桜の叫びを背後に受け、タスニムの細身が空に躍り出る。三階から飛び出した肢体が回転し、ひねりをくわえて駐車場に膝のバネだけで見事に着地した。

「警察デス! 申し訳ありませんが、今救急車に乗せている方を見せてもらえマスか?」

 突如として上から現れた人間に、ストレッチャーを救急車に収容していた救急隊員達が驚く。

「少しでも顔を見せてもらえれば終わります。ですので――」

 警察手帳を掲げて歩み寄るタスニムに対し、救急隊員が銃を向けた。複数の銃声に身を翻し、タスニムはロータリーにあった柱に身を隠す。銃を使わないことがアダになった。銃を抜こうとしたときにはすでに救急隊員が車輌に乗り込み、発進してしまう。

「待ちナサイ!!」

「タスニム!」

 やっとの事で銃を抜いたタスニムの横に、同じく窓から飛び降りた莉桜が五点着地する。敷地から急いで出て行く救急車のハッチに目を向けると、駐車場に止めているパトカーに走り出した。

「タスニム、運転お願い!!」

「了解デスッ!」

 莉桜から鍵を受け取ったタスニムが素早く運転席に乗り込む。ボンネットの上を滑った莉桜がナビシートに入ったときにはエンジンが掛かり、パンダカラーのタンドラが行動に飛び出した。

「患者を調べようとしたら撃たれマシタ!」

「上から見てた。とりあえずあれを抑えよう。理由はどうあれ、あの救急隊員の行動は怪しすぎるッ」

 パドルホルスターから抜いた拳銃に初弾を装填し、続いて赤い回転灯を回す。けたたましいサイレンの音が夜の横浜に響いた。

「こちらR9。一三号線にて不審車輌を追跡中。サイレンをつけていない救急車が逆走している」

『R9了解』

「――そこの逆走救急車、停まりなさい!!」

 署への連絡を終えた莉桜が追跡する救急に向けて怒鳴り散らす。救急車はサイレンや回転灯をつけることなく反対車線を逆走していた。サイレンをつける気がないのか、それともつけ方を知らないのか。いずれにせよ、このままでは重大な事故を起こしかねない状況だ。

『宇佐見巡査なにやってんの!? 今不審者がどうこうって』

 横浜署に報告していたのを訊いていた雨木からの通信に、莉桜はマイクスピーカーを握り直した。

「現在不審な救急車を追ってます。忙しいのでまた後で」

『ちょっと!? 不審な救急車って、おい』

 状況が飲めていない雨木の言葉が遠ざかる。スピーカーマイクをポケットに入れ、莉桜はドアウインドウを下ろした。その間にタスニム操るパトカーが対向車線に飛び出し、救急車の右側面に寄せた。

「救急車停まりなさい! 停まらないと――」

 救急車の運転席の窓が開き、ドライバーが銃を出してくる。瞬間、莉桜は発砲していた。救急車のドアウインドウが割れ、うめき声が聞こえた。途端に救急車の走りが不安定になる。

「あ、マズいです」

「く――タスニム寄せて!」

 自衛のためとはいえ、ドライバーを撃たざるを得なかった。死んではいないが、気絶されて暴走して車輌がどこかに突っ込んでも困る。自ら止めるしかないとよせてもらったとき、救急車の側面の窓が銃弾によって砕かれた。銃声を耳に、莉桜が救急車のドアに飛びつく。割れた窓から車内を覗くと、被弾した肩を押さえたドライバーが恨みがましい目で莉桜を睨んでいた。銃を突きつけられる前に再び肩を撃ち、窓から上半身を滑り込ませてドライバーの襟首を掴んだ。

「全員無駄な抵抗をやめなさい。でないと、強引に車を止める!」

 車内で銃を突きつけてくる救急隊員の格好をした男達に宣言する。拳銃を握りしめた左腕でドライバーを楯に、右手でハンドルを握りしめていた。撃たれたら強引にハンドルを切って救急車を倒す算段だ。

「くそ、ハマポリか……!」

「顔的には中華系……ね。なぜ逃げた? 何で病院にいたのか……カツ丼でも食べながら訊かせてもらうから。イスラム教信者じゃないんだからいけるよね? カツ丼」

 銃を向けてくる三人の白衣の男達は皆、ドライバー含めて中華系だ。誰を乗せて走っているかはまだ不明だが、警察を見て逃げるなどまともではない。まして発砲しているので、銃刀法違反で引っ張れるのは確実だ。

「撃ってもいいけど、楯にしてるこの人死ぬよ?」

「くそ、日本のくせに――人質がどうなってもいいのか!?」

「人質? なんの? ……警察舐めてる? うちはよその県警と違って人道的じゃないから。人の国で暴れてる以上、相応の報いを受けることくらい理解してるよね?」

 人質に何ら配慮しない莉桜のセリフに、男達が焦り滲ませた。脅しがきかない状況では戦うしかないのだが、男達は射撃の腕に自信がない。撃てば必ず仲間に被弾することを思うと思い切った行動がうてなかった。そんな現状を打破したのは低音を聞かせたクラクションとタスニムの悲鳴がスピーカーで響いた。

『莉桜ちゃん前! 前! よけてクダサイッ!!』

「え?」

 パトカーからのスピーカー音声に顔を前に向ける。埠頭に向かうであろう大きなトレーラーがクラクションを鳴らしていた。眩いばかりヘッドライトが徐々に視界を覆っていく。

(まずい)

 このまま対向車線を走っていれば五秒しない内に撃ちにぶつかる――ハンドルを切って救急車を走行車線に戻そうとしたとき、助手席にいた男がハンドルを掴んだ。

「な――」

 反射的にハンドルを切ってしまったのは、後部にいた男の手に手榴弾が握られていたからだろうか。かなりの速度で走っていた救急車が急ハンドルに耐えきれず、横転する。そこにトラックが突っ込んだ。圧倒的な質量に突っ込んだ救急車が耐えきれずルーフからつぶれ、破片をまき散らして引きずられていく。そしてトラックに押しつぶされていた車体が小さな爆発を起こした。

「莉桜ちゃん!」

「わたしは……大丈夫」

 パトカーから降りたタスニムに答え、アスファルトに転がっていた莉桜が体を起こす。怪我らしい怪我は頭部からの出血のみで、ほかは無事といえる。というのも、凄まじい勢いで車体からはじき飛ばされた莉桜は、両腕を地面に接地させることでほかの部位を守ったのだ。おかげで地面で削られた義手がひどいことになっていたが、痛みはないので問題はなかった。

「容疑者達は?」

「……燃えてマス。救急車は呼びましたが、これは……」

「……」

 燃えるひしゃげた車体を見て、莉桜はため息をつく。ある意味で莉桜の失態ともいえるが、救急車が転倒する前に手榴弾を握っていたのを彼女は覚えている。あの状況で使うのに適切ではない武器だ。

(アレは自爆? それとも証拠隠滅?)

 連中の精神がまっとうであったならそうなるだろう。いずれにせよ、真相は闇の中だった。


[ 三話に続く ]



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