表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

7.初期装備って後半使わずに腐るよね

 俺は声を限りに叫んだ。


「ママーッ!」

「行くぞォーッ!」


 筋肉オッサンは俺を担いだまま走り出す。真っ直ぐ俺らに向かって突っ込んできよるドラゴン。

 アカン。死んだ。死にもうした。イケメンに生まれ変わったけど童貞のまま死にもうした。本当、申し訳ない。

 一度、コンビニで死んでるから、ここで死んでも生き返る説ワンチャンあるけど……さすがに無理やろなぁ。

 走馬燈のごとく昔の記憶がよみがえってくる。中学生の頃、ちっちゃいニノちゃんと遊んだ思い出。毎年、家族で里帰りするたびに大きくなっていった乳。俺が東京での武勇伝(カップルでにぎわう高級フレンチを1人で食べに行った)を話すたび


「うん、そうだね。お兄ちゃんはすごいね」


って、あたたか~い目で笑ってくれたニノちゃん。ニノちゃん、ママ、俺のママ……


「待てよ? おーい、女神さまー!」


 せや! この世界がガチャシステムで回っとるなら、いつでもガチャしたいと希望するだけで、女神さまが出てきてくれるはずや。ガチャってそういうものやろ。

 果たして、ドラゴンと俺らの中間の位置に、まばゆい光が満ちた。

 やった! あの女神さまの攻撃力ならドラゴンとも渡り合えるはず。ゲームの神様って、なんでか中立なことが多いけど、この世界は変なところだけリアルに出来とる。きっと命に関わるパンチ(しんくうは)でなんとかしてくれるやろ。


 そんなことを思っていると、ゴオッ!とすごい風が吹き付けてきた。

 ドラゴンの攻撃か!? いや違う、光に反応して急ブレーキをかけたんや。今のは止まったときに起きた風や。やった、効いとるで!

 そう思った次の瞬間、ドラゴンは前足で自分の目をこすり始めた。


「ンゴッ……おっと危ない、力を抜いて滑空してたら居眠りしてしまった。すまんな」

「は?」


 ドラゴンは力強くはばたいて高度をあげると、一気に俺たちの来た方向へ飛び去って行った。その後、光の中から女神さまが現れた。


「どうしたのです、(すい)よ。まだ出かけたばかりでしょう」

「ご主人さま、敵が来ちゃいますよ。ガチャなら後にしてください」


 いつの間にか、筋肉オッサンとモーリンも、怪訝(けげん)そうな顔で立ち止まっていた。えっ、なにこれは? 俺が悪い系?


「敵って、今のドラゴンがそうじゃないの? 違うん?」

「違います」

「違うぞ」

「違うな」


 一同は、そろって首を横に振った。


「ご主人さま、この世界では魂が姿を決めると説明しましたよね。あんな立派なドラゴンが敵な訳ないじゃないですか」

「じゃあ敵ってのは……」

「あれですよ、あれ」


 モーリンが示す先には、道端に座り込んだ中年サラリーマンの姿があった。


「ね?」

「なにが『ね?』や! 分かるか!」

「分からねばならないのです」


 女神は、おごそかに呟くと、自分が出てきた光の中に片腕を突っ込んだ。

 再び腕を出したときには、俺の身長ほどもある、逆三角形をした銀色の盾を持っていた。盾の表面は鏡面加工をしてあるらしく、辺りの風景を映し出している。


「錐よ、あなたにこれを渡すのを忘れていました。真実の盾――あなたたちの言葉で『初期装備』と呼ばれるものです」

「初期装備ぃ? 初期装備って大抵しょぼいけど、大丈夫なんか?」

「戦えばすぐに分かります。さあ、盾を構えて!」

「気づかれました! 来ます!」


 中年サラリーマンは、のそりと立ち上がると、足元の石を拾い上げた。

 そして振りかぶると、まだ姿の見えているドラゴンめがけて投げつける。ゴウッ!という風切り音。

 石は弾丸のような正確さでドラゴンの下腹部に命中した。そして――威力も弾丸並みだったようだ――巨体がバランスを崩し、地面に落ちてゆくのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ