4.初めての仲間
「すみません、調子こきました」
「すっごい人数になってますけど、どうします? 交通整理が必要ですよ」
「何しろ100人呼んだからな。先に呼ばれた人ほど外側にいるだろうから、順番に帰ってもらおう」
「あの、みなさん? 聞いてます?」
俺は、そこらの木に逆さ吊りにされたまま、懸命に呼びかけた。体はロープでスマキにされていて、頭に血が昇って苦しいっちゅーのに、指一本動かせん。
――はーい、ガチャシステムはメンテナンスに入りますからねー。押さないで、端の方から順番に帰ってくださーい。
「お願い……俺が悪かったから、降ろして」
「ただいま戻りました」
不意に泉の水が二つに裂け、まばゆい光が辺りを照らし、中からガチャの女神が現れた。さっきガチャの運営者に報告に行く、と言って泉の中に入って行ったのだ。
コンビニ店員が小走りに駆け寄る。
「お帰りなさい、女神さま。ガチャシステムの停止は上手く行きましたか?」
「はい。幸いにも召喚された者は70人にとどまり、キヨマサの運命変更も解除できそうです」
「助かったぁ。こんなド畜生のために100週間も童貞のままになるところだったぜ」
「あの……ほんと辛いんで、降ろして」
俺は弱々しい声で必死に呼びかけるが、この薄情者どもは、こちらを見ようとさえしない。
女神がおおげさな溜息をついた。
「ガチャってのは、難しいものですね。地球人たちが必死に運営する気持ちが分かります。……プレイする楽しみは分かりかねますが」
「まあまあ。それで、罰則のほうは、どうなりましたか?」
――ギロッ。
「あひぃっ!?」
人間、ビビると変な声が出るのね。3人に睨まれて俺は顔面から血の気が引いて――あれ、頭が下だから引いてくれない? と、とにかく背筋が凍るのを感じた。
「それも結論が出ました。他者の運命を使ってガチャを操作した場合、命令をくだした者の運命に影響を与えるように、さかのぼって処置を行います」
「げぇーっ!?」
俺は悲鳴を上げた。ちょっと待て100週間やぞ!? ジャ○プが1年に52冊出るってことは、約2年、童貞でいなきゃならないってことなのか!?
「いやだーっ! 助けてくれーっ! せっかくイケメンになれたのに、童貞で居たくなーいっ!」
「ジタバタするな、見苦しい! 俺のときは笑ってたじゃねえか」
「モーリン殿、これはいかなる騒ぎか?」
召喚された者は、バラバラに解散しつつある。その人ごみをかきわけて、2人のオッサンが現れた。どちらも筋骨隆々、日に焼けた体をしていて、グラファンの猟師サムライを彷彿とさせる。
槍使いが進み出て報告をした。
「アネモス殿、ネロ殿、こいつですよ。明月錐。こいつのせいで、みなさんにご迷惑をおかけしたんです」
「ほう。では我らはこの若者に召喚され、仕えるはずだったということですな?」
オッサンの1人――姉モスとか呼ばれたの――がやってきて、手をかざす。するとアッと声にする間もなく、俺を縛っていたロープが切れた。
すかさずネロと呼ばれたオッサンが俺の体を受け止める。
「な、なにをなさる、御二方!?」
うろたえる槍使いを尻目に、オッサンどもは俺のロープをほどいてくれた。
「話は上司から聞いておる。ルールも分からない世界に招かれて、なおシステムの隙を見つける判断力の速さ。面白い若者ではないか」
「アネモス殿、まさか」
「その『まさか』よ」
ネロとかいうオッサンが、不敵な笑みを浮かべる。
「我らジェオマンシー・ブラザーズ、この者に忠義を誓おう」
「なんやて!? ちょっと待つんよ、錐はチヅルちゃんみたいな、ママの波動を持った女の子が好みなんよ! 助けて欲しいんよ!」
「良かったですね、ご主人様。自業自得で2年も童貞期間を作った挙句、誰ひとり仲間が残らないという最悪の事態は避けられましたよ」
「モ、モーリンちゃん……」
俺が送った、すがるような視線の先には、養豚場の豚を見るような目つきのモーリンちゃんがいた。それはあの夜、電子マネーを買いに行ったときと、全く同じ目つきだった。