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3.自○しろ、槍使い

「よくぞ運命の相手を引き当てましたね、(すい)


 ガチャの女神はうれしそうに笑うと、俺の手をつかんで大きく上下に振った。コンビニ店員は下を向いて、照れくさそうに笑っている。


 俺だけが、真顔のままでいる。

 なんでこんなに歓迎されてるの? だって(すい)覚えとるよ、電子マネーを買うたびに店員の笑顔が曇っていったの。


 最初の諭吉のときは「ありがとうございました」って深々と頭を下げてくれたのが、次の諭吉のときは「忙しいんですね」って困ったような笑顔になって、その次に3諭吉まとめて差し出したときには半笑いになって、さらに3諭吉出したときには完全に真顔だったこと。

 男のロマンに理解がない、これ減点対象ね。

 しかも乳も普通サイズで特徴がない。この女の、どこにシコを見出せばいいねん。


「ほら、自己紹介しなくっちゃ」

「あっ、はい!」


 俺が固まっていると、何を勘違いしたのか、女神は店員に会話をしろと促してきた。


「職業ナースマスターのモーリンです。よろしくお願いします」

「何がモーリンや! お前の名前、森田やろ! 名札に書いてあったぞ!」


 すると彼女らは顔を見合わせて、不思議そうに首をひねった。


「名札? なんのことですか?」

「私、モリタなんて人、知りませんが」


 おかしい。この世界は絶対おかしい。

従妹(いとこ)のニノちゃんそっくりな女神。コンビニ店員そっくりなモーリン。

 まるで俺をよく知る誰かがキャスティングした、チープな自主制作映画だ。そして直感だが、この場に長くとどまると、あまり良いことはない。


「帰る! 俺もう帰る! 帰り方教えて!」

「帰るって、どこへですか……?」

「少し落ち着きましょう、ご主人様。ここがご主人様のおうちですよ?」

「おうちぃ!?」


 こんなジャスコもないような田舎が、おうち? 通販は!? 宅配業者は来とるんか!?


 しかし逃げ場を求めて辺りを見渡すも、さっき言った通り、地平線まで木が植わっとるだけで行く宛がない。

 不思議な――魔法とか出てきても驚かんような――世界ではあるけれど、俺自身が空を飛んだりできる気配はない。俺は力なく座り込んだ。


(すい)、落ち着きましたか?」

「ご主人様、疲れてるんですか?」

「分からん。何もかも分からん。俺はどうしたらええの?」


 うめき声を上げる俺の目に、一筋の光が飛び込んできた。たとえではない、文字通りの光だ。

 そう、ガチャ! 何はなくてもガチャはある!


「回そう……」

「えっ?」

「ガチャを回すんや! この調子で知り合いがぽこじゃか出てくれば、1人ぐらい状況説明してくれるヤツがおるかも知らん!」


 俺は輝くガチャマシーンに飛びつくと、勢いよく、つまみをひねった。


「何をするんです、ご主人様!」


 店員が悲鳴を上げるが、もう遅い。ギリッ、ギリッと歯車の回転する音がして、中から虹色のカプセルが出てきた。

 もしかして……さっき金色のカプセルで大喜びしてしまったけど、それ以上のレアリティが出てきたってことか!?

 やったぜ。やはり俺は“持っとる”男だわ。


 そして中から出てきたのは、


「なんだよ、俺に何か用か?」

「誰やお前―っ!?」


いかにもリア充してそうな、槍を持ったイケメンだった。当然だが、こんな知り合いはいない。


「マジで、なんの用だよ。仕事に関する用がないなら、俺は帰るぞ」

「俺を知り合いに合わせてくれ! 俺を家に帰らせてくれ!」

「はあ!? 家なら、すぐそこがお前のうちだろうが」


 アカン、こいつも話が噛み合わん! もっとガチャを回さなアカンのに!

 そこで、脳裏を何かがよぎった。


「槍使い、お前、仕事に関する頼みなら聞いてくれるのか?」

「ああ。そういうルールだからな」

「じゃあ最初の仕事だ。仲間がもっと欲しい。俺の代わりにガチャを回せ」


『はあ!?』


 みんなの声がハモった。


「どうした。ヤリチンには回せないガチャなのか?」

「女子の前でヤリチンとか言うな! 俺は童貞だ!」

「じゃあ景気よく、100回くらい回してくれるか」

「イヤだよ! そしたら100週間、えと、その、童貞のままじゃねえか!」

「なぁに、心配することはない」


 俺は満面の笑みで、槍使いの方に手を置いた。


「自慰しろ、槍使い」


 この世界も、案外悪くないかも知れん。イケメンの悲鳴と、ガチャの回る音を、いっぺんに聞けるんやからな。

 ちなみに女どもは、口を大きく開けたまま、固まっとった。


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