2.俺は勝つぞ
「それじゃルールの再確認です。1回ガチャを回すたびに1週間、童貞でいる運命が長引きます」
ガチャの女神は笑顔でそう告げる。俺はブーイングの声をあげた。
「そんな! さっき『1日単位』ってゆったやん!」
「単位と言っただけで、1日だけとは言っていません」
「ゆったって! 女神さまともあろうお方が嘘はアカン……よ……!?」
さらにブーイングをしようとしたが、途端に女神の五指が顔面深く食い込み、痛みで声が出なくなった。ギリギリと頭蓋骨がきしむ音がして、俺の体が持ち上がる。
「今は私がルールです。分かりましたね?」
「痛い痛い痛い! はい、分かりました、ごめんなさい!」
「よろしい」
女神は俺をおろすと、立ち上がって巨乳を揺らしながら歩き始めた。
おっとアカン、おっぱいに気を取られて忘れていたけど、ここは一面の花畑だ。そばには泉があって、澄んだ水をたたえている。
ずっと向こうにはギリシャに行くと見られそうな神殿や、お寺や、礼拝所みたいな建物が並んでいて、さらに奥には森が広がり、それ以上遠くを見ることが出来ない。なんというか、地平線まで木が植わっとる。
女神は泉に近づくと、ひょいと右手を突っ込んだ。そして、かわいらしく「よいしょ」と呟くと、俺の身長の2倍はありそうなガチャポンの機械を取り出して、ズシンと地面に置いた。
ガチャは、中央のケース部分だけ透明になっているものの、他のパーツは金色に輝いており、高級感というか神々しい印象を受けた。
「……ん!?」
ガチャに近寄った俺は、あることに気付いた。
なんだ……この美少年は? ガチャの側面に、むっちゃイイ男が映っとる。女神が、けげんそうに声をかけた。
「どうかしましたか?」
「あの、俺、これ、めっちゃ美少年になってるんですけど。こんな顔でしたっけ?」
「ああ、ここは世界と世界の境界上にありますからね。魂の美しさで、外見も変わります」
「うっそやろ!?」
このときの俺の気持ちを説明すると……え? いらん?
いやいや、聞いて! 今までオタクだのキモイだの言われてきた俺がですよ、こんなイケメンに生まれ変わったんですよ。次に出会う女子の反応が楽しみですよ!
これはもう、確定。俺の勝利が確定しましたわ。
どんな女子でもイチコロで俺になびくけんね、もうガチャ対策が思いつきましたわ。
「さあ、明月錐。あなたは何回このガチャを回しますか?」
「確認したいんやけど、このガチャかわいい女の子が出てくるんよね?」
「女の子『も』出てきます」
「なんでも言うこと聞いてくれるんよね?」
「冒険に関するお手伝いなら、なんでも」
「よし!」
俺はガッツポーズを取って叫ぶ。
「とりあえず30回、回そうか」
「えっ」
これを聞くと、なぜか女神は信じられないといった表情で硬直した。
「あの、最初に回数の宣言ですか? まず1回やってみて、出たもの次第で決めるとかじゃなくて?」
「それは俺が生まれ変わる前の話や。見てみぃ、生まれ変わったこの姿を。明日……いや、今日中に童貞卒業してしまうかも知れん。いや、もう卒業できる。絶対にできる。だから30週間――半年ちょい――待つぐらい、ちょうどいいハンデよ。スパイスよ。楽しみを後に取っておくと、おいしさが倍増するんよ」
「えっと……それこそ未来は分からないと思うんですけど」
女神は震え声で、ガチャのつまみに手をかけた。
「ほ、本当にいいんですね?」
「くどい。はよして」
「行きます! 1回目!」
女神は、ジーコ、ジーコとつまみを回す。そして出てきたのは……金色に輝くカプセルだ。
パンパカパーン、とファンファーレが鳴り、流れ星が舞う。お、当たりか? 当たりなんか?
カプセルが、カパッと音を立てて開く。出てきたのは……
「ジャンジャジャーン! ご主人様、よろしくお願いします!」
「へ?」
出てきたのは……コンビニで電子マネーを売っていた、店員の女の子でした。
なんでや!?