1.運命の対価
――錐よ。起きなさい。
俺の意識は、どこか暖かい場所を漂っていた。たとえるなら一寸法師になって、ママのおっぱいの谷間に挟まっているような感覚。
――錐よ。明月錐よ。まだ目が覚めないのですか?
え、どういうたとえだって? ……ハァ。君ら、まだその領域に留まってるの。
いい? 天国の概念なんて時代と共に変わっていくの。技術立国・クールジャパンにおいて、お花畑や三途の川が天国だなんて主張するのは、シコの足しにもならへんの。
俺らが求める天国は、中学生ぐらいでウブだけど面倒見のいい生娘の、不覚にもマザコン心を刺激してくれる膨らみかけのおっぱいを、クッションに使って寝転がったときに発生するの。わかる?
――錐よ。3つ数える間に起きないと、命に関わるパンチを打ち込みますよ。
んー、しかし変だな。想像していたのより、沈み方が大きいというか。これでは、まるでハタチ過ぎたオバサンのデカ乳に埋もれているような気分だ。
――3、
どうよ、当たりやろ。ママソムリエの俺はうるさいんやで。
――飛ばして0。
ドゴォ!
「マ゛マ゛ッ!?」
俺が横方向に転がって避けるのと、地面に深さ30cmの溝が掘られるのとは、ほぼ同時だった。すさまじい殺気が、本能的な回避行動を取らせたのだ。
ガタガタ奥歯が鳴るのが分かる。必殺のパンチを打った人物は、地面から右腕を引き抜くと、俺に向けて微笑みかけた。
「錐よ。起きましたか」
「へ? ニノちゃん?」
俺は自分の口がポカンと開くのを感じた。その人物は、従妹のニノちゃんそっくりだったからだ。
牛島ニノ。教員志望の大学生。牛島の名の通り、巨乳の持ち主である。それはもう、つい自分が年上だということを忘れてしまうくらい見事な巨乳だ。
「なるほど、さっき感じたママの波動は、ニノちゃんが出していたものやったんか」
「訳が分かりませんが、その発言は止めてください。気持ち悪くて、できれば、もう口をききたくないです」
「ごめんて。俺が悪かったから、素の口調で拒絶しないで」
「ああもう、気持ち悪いから用件だけ話しますね。私はガチャの女神です。あなたには異世界で冒険をしてもらうので、ガチャで仲間を集めてもらわなくてはなりません」
――あなたには馴染み深いストーリーでしょう?
そこで彼女は言葉を区切ると、不意に俺の目を深くのぞきこんできた。
「ただし、支払う対価はお金ではありません。あなたが童貞を捨てるという運命を、1日単位で先送りにします」
「は? なにそれ――」
「さあ。あなたは何回、ガチャを回しますか?」
覆いかぶさるように詰め寄る彼女。俺は突然すぎる質問に、言葉を失った。
……やがて、出てきた言葉は。
「なあ」
「なんです?」
「ガチャの女神って役職に就いたとき、自分の人生これでいいのかなーって疑問に思わなかった?」
「命に関わるパンチ!」