11.明かされる真実
次回で完結させます。ネタが尽きたので、打ち切りエンドってやつです。
今度は、身内ネタのない、くだけた内容のものを予定しております。
読者のみなさま、特にブックマークしてくださった方、ポイントを入れてくださった方にお礼を申し上げます。
なるべく早く次回作を上げますので、今後ともよろしくお願いします。
それからというもの、俺の旅はグダグダだったんよ。
「ご主人様、見てください」
「なによ?」
「あんなところに伝説の剣が!」
見れば道端の岩に直剣が突き刺さっており、「この剣を抜ける勇者求む」との看板が立てられている。
見えている部分だけでも刃から束までダークブラウンの金属で出来ており、なんちゅーか、いわくありげな雰囲気を漂わせていた。
「ご主人様、抜いてみませんか? なんだかご主人様なら抜けるような気がするんです!」
「坊主、男は度胸。何事も試してみるものだぞ」
「やめーや! 背中押すな!」
モーリンと筋肉オッサンズが、けしかけてくる。
けど、その手には乗らんけんね! きっとこれはイベント装備や。うっかり手を出すと、ボスキャラか何かとの戦闘フラグが立って、肉体労働させられるんや。
そうこうするうちに宿場町に着いた。ファンタジーな世界観にふさわしく、いわゆる鬼みたいな顔をした人や、馬の頭をした人間、牛の頭をした人間なんかが歩いておる。
そういえばガチャ回しまくったときにも、こんな連中がいたような気がするな。木に吊るされてたから、うろ覚えだけど。
ふいに腕に柔らかいものが押し当てられた。
「あっ、ご主人様! あそこに武器屋があります。行ってみましょう!」
「えっ、ちょっ、モーリンさん? あんまり押し付けられると、その、困るっていうか……」
初めて感じる、おっぱいの感触……悪くない。むしろ、どこまでも沈み込んでいく感覚が気持ちええんよ。なっ、なんや、この……平均的な乳のくせに!
真っ赤になってアタフタしていると、いつの間にか武器屋の中に連れ込まれとった。ほこりっぽい店内に、むせかえるような革と鉄の匂いが充満しとる。
不愛想な店主が、こっちを見ると
「いらっしゃい」
とだけ告げた。
はぁ……まあね、武器ね。肉体労働をしない俺には必要ないと思うけど、みんなが見ろっていうなら見てみようか。
「ご主人様、これなんてどうです?」
「ん、どれ……?」
振り向いた先には、満面の笑みでダークブラウンの直剣を差し出す、モーリンの姿があった。
「カーット! カット、カット、カット、カット! モーリン、なに持ってるん?」
「なにって、剣ですけど?」
心底不思議そうに首をかしげるモーリン。俺は全力で叫ぶ。
「それ、さっき岩に刺さってたやつやろ! あれか、女神の差し金か? 持たせたいなら素直に『持て』って言えや!」
「じゃあ持ってください」
「やだ」
「は?」
場を静寂が支配する。あたりの気温が2~3度下がった気がした。
「ご主人様。この際はっきり質問しますが、戦闘になったとき、どう対処するんですか?」
「チヅルちゃんに守ってもらうから平気やて! な、チヅルちゃん。俺のために襲い来る敵をちぎっては投げしてくれるよな?」
「……」
和装のロリっ娘は、俺をじっと見て溜息をついた。チヅルちゃんだけやない、モーリンもオッサンズも、俺のことをじーっと見とる。
「な、なによ、その目は」
「こんな小さな女の子を戦わせるんですか」
「坊主。お前が戦えというなら、喜んで戦おう。だが、お前の蛮行を見逃すことは、男として出来かねるぞ」
そ、そんな……まるで俺が外道のような口ぶりだ。これには、さすがの俺も傷ついた。
「えーん、チヅルちゃん、俺を助けてよぅ……ママぁ……」
「……キモっ」
え? いまなんて、と言いかけたところで、激しい揺れが一帯を襲った。
カウンターの奥でパイプをくゆらせていた店主が、立ち上がって外を見に行った。また、この連中の仕込みかと思ったが、様子がおかしい。
「おい、あれを見ろ!」
「おいおい、マジかよ……!」
そこには、異様な光景が広がっていた。上空から無数の光の柱が降り注ぎ、何百……いや千の目を持った化け物が、ゆっくりと地面に下りてくるのだ。
……ぶっちゃけると、ちびった。
「錐よ、聞こえますか」
「女神さま……!」
いつの間にか、俺らの背後に女神さまが立っとった。まあ、テレポートとか出来るっぽいしな。あんまり驚かへん。
「これは最後の試練です。あの強敵と戦って、万が一にも勝つことが出来たならば、童貞の呪いを解いて上げましょう」
「マジでっ!?」
「ただし」
女神さまは笑って、ダークブラウンの直剣を差し出した。
「この伝説の剣を使ってください」
「もうええわ! そんなに使わせたいの、お前ら!?」
俺は頭を抱えて、のたうち回った。周囲には、どんどん人や亜人種が集まってきとる。
それが真っ二つに分かれて、目玉の化け物が地上すれすれを浮遊してくる。目標は――俺たち一行だ。
さあ、と剣を差し出す女神に、俺は土下座で願いを伝える。
「待って! 最後に1回だけ、1回だけガチャ回させて!」
「えっ? この状態でガチャですか? もう待機してる人たちは帰らせてしまったんですが……」
「いいから! アイテムでも何でもいいから1個だけちょうだい! そうしたら戦ったるわ」
女神さまは、不安そうな表情でモーリンを見やった。
「困りました、モーリンさま。どうしたらよいでしょう?」
「もういいです、ニノ。錐の好きにさせましょう」
「ん? 女神さま、なんでモーリンに敬語使ってんの?」
「坊主。お前こそ上司であるモーリン殿に、なぜ敬語を使わん。まだ記憶が戻らんのか?」
なんや、筋肉オッサンが、おかしなこと言いよる。
女神さまは、溜息をつきながら、どこからかガチャの機械を取り出した。
「私は最初から、モーリン様に報告・連絡・相談を通していたでしょう。まあいいです、早くガチャってください」
なんやろ。まーた俺が悪いみたいな空気になりよった。
気にしていても仕方ないので、俺はガチャを回した。ファンファーレが鳴り響き、カプセルが出て来る。
「なにこれ? 銀色のチケット?」
「経験値チケットです。ステータスが上がるというか、勇気の騎士プラックと呼ばれていた頃の能力が戻ってきます」
「……おい、ごくつぶし」
ごく……? ぐいぐい裾を引っ張られて下を見ると、チヅルちゃんが伝説の剣を差し出していた。
「もういいだろ、ネタバレ全開でやってるんだから。過去の記憶を取り戻して、早くお姉ちゃんに土下座してよ」
言われるままにチケットを破る。その瞬間、脳裏をよぎるものがあった。
『プラック、本当に現世へ行くのですか? 転生するには魂のデータが破損する危険もあるのですよ。あなたには煉獄の秩序を守って、ずっとここにいて欲しい……』
『モーリン様、いや、モーリン。お前の頼みでも、それは聞けない』
俺はしがみついてくるモーリンを、優しく抱きしめる。その目に涙が浮かんでいるのは、気づかないふりをした。
『2000年問題。現世との世界間ネットワークが不安定でいる以上、歪んだ魂の流入は増え続け、煉獄の秩序はさらに乱れるだろう。それを修理するには、誰かが実験体となってネットワークを通過してみせなければならない』
『そんなことは分かって――!』
なにか言いつのろうとするモーリンの唇を、俺の唇がふさいだ。彼女の目が、驚きに見開かれるのが、肌を通して分かった。
『ネットワークの解析にかかる時間は?』
『30年、ううん、20年で終わらせる。そうしたら、私たちも現世へ行くから』
『来るのは構わないが、世界間ネットワークは使うなよ。直接、現世へ来て、バチカンあたりの支援者に戸籍を用意してもらえ』
『いいけど、どうして?』
『キヨマサたち後輩が育ち始めている。煉獄の秩序は、彼らに任せて、現世で挙式してみるというのもいいだろう。そのためには――』
『私が結婚できる年齢でなくちゃいけないのね。わかったわ、迎えにいく』
ここへきて、ようやくモーリンは俺を離した。
『万が一、俺が30年経っても戻らなかったら、迎えに来てくれ』
『言われなくても。私が待ちきれないもの』
『それじゃ、行ってくる!』
そうして俺は――勇気の騎士プラックは、現世へと転生する通路をくぐったのだ。
「そうだ……俺は……」
俺は、カスレフティスの剣を強く、強く握りしめた。