9.詫びガチャはよ
俺は自分の置かれた状況が飲みこめず、立ちつくしていた。なんだか知らんがモーリンが両手を握ってブンブン上下に振っとる。
「ほら、あんな敵、大したことなかったでしょう? ご主人さまの勝ちですよ!」
「そんなこと言われても、あの、俺どうなったん?」
はしゃぎよるモーリンをなだめすかして聞いてみると、サラリーマンの投げた石を盾で受け止めた途端、その軌跡が細い光線となって俺たちを結び、直後にまばゆい光球が相手へと打ち返されたらしい。
サラリーマンは素手で受け止めたが、抵抗むなしく紙のように吹き飛ばされ、塵となって消えたのだと彼女は言った。
「坊主、やるじゃないか。真実の盾の持つ魔力を瞬時に引き出すとは、そう出来ることではない」
「我らが魔法を使う間もないとは、ますます見所があるぞ」
「分かったから俺を胴上げしようとするの、やめーや」
筋肉オッサン二人組も、無駄に嬉しそうだ……そんな目で俺を見るな。
それより俺は、大問題を解決したい気持ちでいっぱいだった。さっきの会話で、すっごい問題発言があったの、聞き逃さなかったもんね。
「ちょっと女神! 話があるんやけど」
「な、なんですか?」
女神はひとり、ちょっと離れたところから俺を見つめている。俺は自分を取り囲む、三人組を押しのけると、女神の前に立ちはだかった。
「さっき、なんて言うた?」
「えっと、なにがですか?」
「初期装備を渡し忘れてた言うたやろ! しっかり聞こえとったぞ!」
「そうだったでしょうか~」
女神は、わざとらしく人差し指をほっぺたに添えて、笑ってみせた。
「くっそ、かわいいのが腹立つな。けど、相手がシコい女の子でも、1ミスは1ミスや。俺はしっかり取り立てるけんね」
「取り立てるって、なにを……」
「詫びガチャだよ、詫びガチャ!」
俺は、ぬっと右手を差し出して告げる。女神が不思議そうな顔になった。
「え? 詫び……なんですか?」
「とぼけても無駄やで。運営がミスしたら、お詫びにガチャを回させるのが常識ってもんやろ。ほれ、ガチャの機械を出してみい」
「あ、あの、ご主人さま!?」
モーリンが俺と女神の間に、体ごと割って入った。
「お詫びしろって気持ちは分かりますけど、なんでガチャなんでしょう? あの、ど、童貞でいる期間を短くしろ、とかでもいいんじゃないかなぁって……」
童貞という言葉が恥ずかしかったのか、モーリンは最後の方、顔を赤くして言葉をにごした。
うん、55点。最初に会ったときの『平凡な子だなー』って印象より少し良くなったけん、もうちょっとで及第点よ。がんばってね。
「短くって、どのくらいよ? いまさら1週間かそこら減ったところで大差ないわ。それより俺の代わりに前衛はってくれる仲間が欲しい」
「前衛って、それじゃあご主人さまは戦闘中なにをするんですか!? 私たちバランスの取れたパーティですよ!?」
「俺みたいな頭脳派はな、戦闘なんて汗くさいことはしないで、全体の指揮をとるのがベストなんよ。分かる?」
「さっき、めちゃくちゃ強かったじゃないですか!」
「くちごたえするのか」
「うっ……」
俺はモーリンを押しのけると、ずいっと女神に詰め寄った。ひっ、と息を飲んで、人見知りする子猫のように後ずさる女神。
「お・詫・び! お・詫・び!」
「す、錐……こんなことやめましょう、ね?」
「だったら防具もなしに冒険に送り出した責任どうするんよ!?」
「う、ううっ……」
女神は目をつぶり、真っ赤な顔をして手を背後に回すと、輝く空間から黄金色のガチャを取り出した。そして懐からコインを1枚取り出すと、ガチャの中に入れる。
「どうぞ、回してください……」
「よっしゃ、回すで!」
その場に泣き崩れた女神を押しのけて、俺はガチャに飛びついた。視界の端で、モーリンが女神に駆け寄る。
「女神さま、泣かないで!」
「ごめんなさいモーリン、私、ダメな女神で……」
「うおおおお、かわいい女の子! かわいい女の子お願いします!」
俺はガチャのつまみを回す。すると、辺りが虹色の光に包まれた――