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5-2.メイドカフェの事件簿

 ドアを閉めた。

 え?今の幻聴&幻覚かな?

 やたらとファンシーな広い空間に、瑠々と同じ制服きた女子達がすんごい猫撫で声を出していた気がするんだけど……!

「ねえ瑠々」

「あによ?」

「『ただの』カフェだよね?」

「うん」

 あーやっぱり寝ぼけてただけか。いやーあせったー。

 よし、じゃあドアを開けて、

「「「モーエモエじゃーんけ――」」」

 閉めてっと。

 うん。

「ぜんっっっぜん!ただのカフェに見えないんですけど?!」

「だからただの『メイド』カフェだってば」

 …………え?

「めいどかふぇ?」

「うん」

「秋葉原とかで有名な?」

「うん」

「俺もここで働くの?」

「うん」

「女の子しかいないように見えたんだけど」

「うん」

「俺、男だよね?」

 何だか足元がすーすーする。壮絶に嫌な予感がしてきた……まさかまさかまさかっ?!

「鏡あそこにあるから見てみ?」

 ダッシュで鏡に向かう。

「イーーーーーーーーーーーーーーヤーーーーーーーーーーーーーーーーー?!?!?!?!?!」

 何これ、なにこれ、ナニコレ?!

「女になってるーーーーーーーーー?!」

 瑠々と同じ服着て、うっすら化粧されてる!

「なってるわね」

 こいつホクホク顔で何言ってんだ!

「どどどどどどどゆこと?!」

「大丈夫、着替えは運転手の新井(男)がしてくれたわ」

 そういうことじゃねえ!!!

「いやーあんたホント似あってるって言うか女にしか見えないわね」

「うれしくないよ!まさかこれで働けって言うんじゃ……」

「オフコース★」

「やだよ絶対!!着替えるから服!!!」

「服や荷物なら新井が車で持って帰ったわよ?」

「この鬼畜!!!」

 ってことは帰るにしてもこの格好で帰るってこと?無理だ!

「まあ、ちょっと事情を聴きなさい。最近ウチの店さ、盗撮されてるみたいなのよ」

「盗撮?」

「そ。だから犯人捕まえるのに協力してほしいのよ。あんた気配を感じたり、変な動きをする奴見つけるの得意でしょ?一応警察にも相談してるけど進展無いし、防犯カメラにも何も映って無いしで、正直お手上げなの」

「だったら別に女装しなくても客として入ればいいんじゃ?」

「客としてじゃ店内を動き回れないじゃん」

 確かに朱莉さんに格闘術を叩き込まれたおかげで、瑠々が言う事は得意だけど……。

「瑠々はズルい」

「ま、確かにやり過ぎたとはミジンコ程には思ってるわ」

「そうじゃなくて」

「え?」

「盗撮されてるなんて知ったら、心配で放っておけないじゃないか」

「--っ」

 しょうがない、今回だけは協力してあげよう。女装はすっごくイヤだけど。

「って顔赤いけど大丈夫?」

「うっさいわね!あんたが変な事言うからでしょっ」

 何故か怒ってる瑠々とホールに向かった。


   ◆


「きょ、今日ヘルプで入ったカスミですっ。よろしくお願いしましゅっ」

 か、噛んだ。

 ホールに出てメイドスタッフのみんなを集めて挨拶することになったんだけど、め、めちゃくちゃ恥ずかしい……っ。十年以上ぶりに穿くスカートはすーすーして気になるし、男ってバレるんじゃないかと冷や冷やして気が気じゃない。

 どきどきしながら下げていた頭を上げると、みんなポカンとして口を開けていた。もしかしてバレた?!

 ああ、明日の新聞の一面は「女装男子メイドカフェに現る!」かな……。違うんです、私……間違えた。俺は嫌だって言ったんです。


「「「か、可愛い~~~~~~!!!」」」


 みんなが一斉に駆け寄ってきた。え、バレたんじゃなかったの?!

「まつ毛ながーい」

「肌きれーい」

「ちょ~モデルみたーい」

「髪の毛ツヤツヤ~」

「瑠々ちゃんこの子どこで捕まえたのぉ?」

「ちょっとぺろぺろしていい?」

 やめて!

「ほらほらみんな、カスミがビビッてるからはなれなさいっ」

 瑠々がみんなを引き剥がしてくれた。よかった、男ってバレてない。

「カスミも鼻の下伸ばしてないでシャンとしなさい!」

「の、伸ばしてなんかないですっ」

 なんで俺に怒ってるの?

「このコはあたしの幼馴染み。ぺろぺろはしちゃダメ。今日だけのヘルプだけどみんなヨロシクね」

「「「はーい」」」

「初めてだから注文取りとドリンク運びだけしてもらうわ。オプションとかはナシ。OK?」

「「「はーい」」」

 ホントに大丈夫か……?

 ちなみにオプションって言うのは、ドリンクや食べ物に絵を書いたり、じゃんけんをしたりするサービスのことらしい。

 挨拶が終わったあと、簡単なレクチャーを受けて巡回を開始した。あんまり呼ばれませんように。

「すみませーん」

 呼ぶなって言っただろ!

「お、お呼びでしょうか、ご主人さまっ」

 うああ、何言ってんだ俺……。

「か、可愛いっ、きき、君にオプション頼みたいんだけどっ」

「すみません、私は新人なのでオプションは受け付けておりません」

 さっき瑠々にレクチャーしてもらった通りに対応するも、その客はしつこく食い下がってきた。

「えー、いーじゃん。やってよじゃんけん。お金いっぱい払うからさ!」

「こ、困りますっ」

 だー!こいつ手までにぎってきた!気持ち悪いいいい!!!しかたない、教えてもらった最終手段をさっそく使おう。

「離せ豚。セクハラで豚箱につっこんでやろうか……?」(ゴミを見る目で)

「ぶひぃ!すみませんもうしないので勘弁してくださいぶひぃ」

「豚語をやめろ。本物の豚に失礼だろうが、疑似豚が」

「すみませんでしたぁ」

 言っておいて何だけど、客にここまで言っていいの?

 何故か恍惚の表情でおとなしくなった客のテーブルを後にして巡回を再開する。呼ばれたくないから客と目を合わせないようにしよう。

 んー変な気配変な気配。

 あ、あのテーブルにいる二人組……。

 ちょうどカメラの死角になるよう座ってる。自分達でテーブルをずらしてるな。メイドを呼んで一人がオプションのお絵かきを頼んで、もう一人が靴ひものひもを直してる。それを何回も繰り返してるな……。

 これは、たぶん黒だ。となると……。

 俺は瑠々と店長に報告して、ある作戦を伝えた。


「失礼します、ご主人さま。お水のおかわりをお持ちしました」

「おう、さんきゅー」

「気が利くね」

「俺のほうから入れてくれ」

 予想通り、オプションをさっきから頼んでた男がグラスを出してきた。

「かしこまりました」

 あえて水をゆっくり注いでいると、これまた予想通り。

「おっと靴ひもが」

 もう一人の男が、俺の足元に自分の脚を出してきた。よし、ここだ。

「きゃあ、手がすべった!」

 ばしゃあーーー!

「な?!冷てぇっ」

 俺は男の脚に思いっきり水をかけた。

「まあ!とんだ粗相を!今お拭きします」

 そう言って男の脚元に屈んだ俺は靴にカメラが仕込んでないか確認する。……あった。爪先のところに装飾に交じってレンズがある。

 犯人は確定した。あとは証拠を押さえなきゃ。瑠々と店長にアイコンタクトを送る。

「ご主人さま、新人が大変失礼しました!靴はこちらで乾かしますのでお脱ぎになってください!」

 店長が大仰な仕草で靴を脱がそうとする。ここで犯人達はやっと焦りだした。

「い、いや大丈夫だ。大したことはない」

 やんわりと靴を脱ぐことを拒否する犯人。だけど店長はそれを許さなった。

「いけません!ここで引いてはメイドの名折れ!絶対に乾かさせていただきます!」

 ここでもう一人の刺客、瑠々が登場する。

「そうですご主人さま!無駄な抵抗はやめておとなしくしてください!」

 無駄な抵抗って言っちゃったよ。

 瑠々はがっちりと犯人の脚を押さえた。

「そ、それに触るなあ!」

 言った時には既に遅く、店長は犯人の靴を脱がすことに成功した。

「まあっ、ご主人さま。この靴、レンズのような物が付いていますが、一体なんでしょうか?」

 言われた犯人達は顔色を変えて呻き声を上げる。

「もしかして、カメラですか?」

 その質問を皮切りに、犯人達は逃げ出した。

「うわああ!どけえ!!」

「香澄、行け!」

「スカートって走りにくいですわねっ」

 目の前のテーブルを踏み台にして一気に跳躍して犯人達の前に躍り出る。

「ご主人さま、私のご奉仕が終わっていませんよ?」

「う、うるさぁい!それ以上近づいたら承知しないぞ!」

 そう言って犯人達はスタンガンを取り出した。往生際が悪いな。

「まあ怖い。そんな事するご主人さまにはお仕置きが必要です、ねっ!!!」

「「なぁ!?」」

 まず、こちらに突き出されていたスタンガンの一つを蹴り上げる。蹴り上げた足を踵落しの要領でもう一つスタンガンを叩き落とす。

「はっ!」

 そして振り落した足を軸に、犯人二人の顎先かすめるように回し蹴りをかまして、脳震盪を起こさせる。

「「ぱぐ?!」」

 これでしばらく立ち上がれない。

「「あばばばばばばばばばば」」

 倒れこんだ犯人は床に落としたスタンガンと、落ちてきたスタンガンの両方の電撃を浴びて気絶してしまった。ラッキー。

「これで一件落着ですね」

「「「「………………」」」」」

 瑠々達の方を振り返ると、客を含めて全員黙ってこちらを見つめていた。え、なになに!?

「あの……?」

「「「「きゃーーーーーーーーーー!格好イイーーーーーーーーー」」」」(男性客含む)

 ええ!?

 またメイドさん達が一斉に押し寄せてきたよ?!

「カスミちゃんすごいすごーい!」

「何今の!映画のワンシーンみたいっ」

「カッコよすぎて気絶するかと思った!」

「ぺろぺろさせて!」

 やめて!

「み、みなさんそんなことより、早く警察に通報してくださいっ」

 こんなに近くで喋られると、恥ずかしくて頭から湯気がでそうだ。

「そうね、こんなことになっちゃったから今日は店を閉めましょ。みんな、お客様にアナウンスして」

「「「はーい」」」

 店長の指示で、みんなテーブルに散っていった。助かった……。

 10分後通報を受けた警察が来て、犯人達は逮捕された。

 メイドのみんなは、急遽閉店することになったせめてものお詫びに、全員で客を見送っている。俺はと言うと、「恥ずかしいから」と先に事務所に戻って来た。

 あー、今思うと本当に恥ずかしかった!女言葉で喋るのも嫌だし、ジャンプした時スカートの中見えてたらどうしよう、とか今更気づいたし!ていうか男ってバレてたら今頃犯人達とパトカーの中だったし!

「うぁー」

「お疲れ様、香澄」

 恥ずかしさとバレなかった安心感とでソファーの上をごろごろしてたら、瑠々が入って来た。

「ホントに疲れたよ……。瑠々も最後おとなしかったけど大丈夫?」

 瑠々は最後の方、妙に静かだったんだよな。

「へっ?!ダイジョブよ!ちょっと気が抜けただけよ!」

「そうなの?」

「そうなの!それより動き回ってのど乾いたでしょっ?はい、ジュースっ」

「お!ありがとー実はのどカラカラで……ごくっ。ぷはー、おいしい!」

 フルーツジュースだ。

「ありがと、瑠……る……?」

 あれ、なんだかまた眠く……。

 瑠々は本当にすまなそうな顔で、

「ごめんね香澄」

 と、謝った。

 その言葉を最後に俺の意識は闇の中に落ちていった――。



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