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5-1.放課後という罠

 帰りのHRの時間だ。

 クラスの女子は「部室でお菓子を食べましょう」「水泳の練習がきついの」「記録が伸びました」など、部活メインで放課後の予定を話してる。

 俺達男子はと言うと、すごすごと帰宅の準備をしてる。

 もちろん帰りに遊んだりとかはするんだろうけど、『部活』に行く男子はいない。この学園は元女子校だから、男子部が無いんだ。

 文化部なんかは男子でも入れるのかもしれない(今のところいないけど)。でも、運動部はそうはいかない。共学化によって新しい部の設立は認められているけど、ただでさえ少ない男子の中で、最初の一歩を踏み出すのはなかなか難しいみたいだ。


「おーし、五秒以内に席に着け。できない奴は今日欠席だったことにする」


 そんなことを考えていたら、切れ長な眼が印象的な、パンツスーツをかっちり着こなした女性が教室入ってきた。担任の五十嵐いがらし先生だ。(透を腹パンしたヒト)

 ちなみにこの教師、やると言ったら本当にやる。みんな急いで席に着いた。

「えー、入学から少し経って男子も女子も生活に慣れてきたと思う。男子諸君は部活に入れ、作れ。強制ではないが学生時代にしか体験できないことはなるべく体験しておけ。女子は男子が入りやすいよう考慮してやれ。以上、号令」

 やっぱり先生も気にしてるんだな。

 みんな少し思案顔になりながら教室を出ていく。透は「見たいアニメがある」と急いで帰った。俺も校門で待ってる瑠々のところに行かないと……。

「かす……姉里ちょっと待て」

 もう教室を出ようとしてたら五十嵐先生に止められた。

「どうしたんですか、五十嵐先生」

「よし、もう誰もいないな。普段の呼び方でいいぞ、香澄」

「学校なのにいいんですか?かなでさん」

「もう放課後で、今は誰もいないからな」

 まあ、そう言うなら……。

 奏さんは昔からの知り合い、というか昔から俺達の面倒を見てくれている人達の一人だ。朱莉さんの後輩で、大学卒業後この学園の教師になった。


「それで、本題だが……実は朱莉先輩に『男子が部活に入らないのは問題だー!』と愚痴られてしまってな。香澄は部活に興味ないのか?」

「その件か。うーん、確かに男子部はあった方がいいと思うけど、俺の場合家事とかがありますから……」

 姉里家は現在、俺、有栖姉さん、華凜、そして朱莉さんの四人暮らしだ。朱莉さんは理事長っていう立場もあって忙しい為、家事は俺達で分担してこなしてる。勝手に部活に入っちゃうとその分誰かに負担が掛かってしまう。

「そうか。そういえば有栖も華凜も部活には入っていなかったな。ふむ……」

 奏さんは少し考えてから、言った。

「まあ、とりあえず考えておいてくれ。HRでも言ったが、部活などは学生の特権だ。していて損は無い。新しく部を作るなら私が顧問になってやる」

「わかりました」

「ところで昔みたいにさよならのハグはしてくれないのか?」

「ぶーーーーーーーっ!し、しませんよっ」

「なんだつまらん。昔は舌足らずな声で『かなでさん、またね』ってハグしてくれたのに。女の子の恰好で」

「俺の黒歴史をさらっと校内で言わないでください!誰か聞いてたらどうするんですかっ」

 ていうかさよならのハグを教えたのは奏さんだ。帰りのあいさつはこうだよ、って教えられてしばらくしてたけど、成長してから違うと気付いた。今思い出すとめちゃくちゃ恥ずかしい……。

「また女の子になった香澄が見たいなぁ」

「絶対嫌です!」

 恥ずかしさで顔を赤くしながら俺は教室を出た。


 奏さんと話していたせいで瑠々を待たせることになっちゃった。絶対怒られるなー。

「遅くなってごめん瑠々!」

 校門で待っていた瑠々に謝って、罵声を受ける覚悟をする。でも、

「ううん、いいのよ。そんなに待ってないから」(菩薩のような笑顔)

 と信じられない言葉で迎えられた。え、なに?いつもなら絶対怒って『この愚図!どんだけ待たせるワケ?!無駄にした時間の分だけ土下座しなさいよ!』とか平気で言ってくるのに!

「お、怒ってないの?」

「あら、怒る理由が見つからないわ。これから用事に付き合ってもらう人に、怒るワケないじゃない」(菩薩の顔)

 もしかして俺今日死ぬとかなのかな?で、でも怒ってないなら良かった。

「じゃあ、車を待たせてあるから、いきましょう」(菩薩の顔)

「う、うん。瑠々、なんかいいことでもあった?」

「いいことはこれから起こるのよ」

「??」

 校門を出てすぐのところに、白いリムジンが止まっていた。さすがお嬢様……。

「さあ、いきましょ」

 瑠々と一緒に後部座席に乗る。


 ガチャリ


 なんだろう。ただドアの鍵がしまっただけなのに、何故か『もう逃げられない』と感じた。

「どうしたの?」

「う、ううんなんでもないよ」

 気のせいだよね。

「そう?のど乾いたでしょ、飲み物どーぞ」

 瑠々が車内のBOXから飲み物をくれた。さっきちょっと走ったからありがたい。

「ありがと。あれ、瑠々は飲まないの?」

「ええ、あたしはさっき飲んだから」

 そっか。ん、のどを通る炭酸が気持ちいい。

「今日は、結局どこにいくの?」

「ついてからのお楽しみ」(菩薩の顔)

「もう、おしえてくれてもいい……じゃ……な……」

 あれ?

「あら、どうしたの?」

「な、んだか……ねむく……な……て」

「あらら、いいのよ寝てて。起こしてあげるから」

 だめ……だ。もう、へん、じするのも……き……つい…………


「おやすみ、香澄」


   ◆


「……み……すみ」

 ううん、あれ?寝ちゃったんだ。頭がちょっと重い……。

「香澄、起きて」

「んあ、瑠々……?」

「やっと起きたわね。薬の量間違えたかと思ったじゃない」

「ん、なに……?」

「おっと、なんでもないわ。それより早く起きて。仕事の時間よ」

 ん?仕事??

「今日の用事ってバイトの手伝いだったの?」

「そうよ。だから早く立って」

 なんだ、そうなら早く言ってくれれば良かったのに。さすがに瑠々でも仕事の手伝いを頼むのは気が引けたのかな?

 そういえばここどこ?車の中じゃなくて、何か事務所?みたいな部屋だ。運転手さんが運んでくれたのかな。申し訳ないことしたな。

「ここ瑠々の職場の事務所?なんの仕事してるの?」

「ただのカフェのウェイターよ。あんたは注文とって運ぶだけでいいから、早く来なさい」

 カフェか。ウェイターするのは初めてじゃないから大丈夫かな。でも、ウェイターって言うには何だか瑠々の制服がフリフリなような……。まるで瑠々の屋敷の侍女さんの恰好をもっと可愛くしたような。まあ、いいか。

 そんなことを思いながら事務所のドアを開けた。


「「「おかえりなさいませぇ、ご主人さまぁ❤」」」


 え?

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