4-1.学園―それぞれの昼―香澄編
私立五星学園――俺たちの通う学園は、去年まで100年以上続く由緒正しいお嬢様学校で、今年からいきなり共学へと変わった。
理由としては、少子化による生徒の減少、なにより女子校としての悪い部分が近年問題に感じていた、ということが理由らしい。
「悪い部分」というのは、純粋培養のお嬢様というのは確かに魅力的な面が多いが、世間とあまり関わらない生活を送るため、一般常識というものが備わりにくい。また、お嬢様自身も学園卒業後、学園の常識と世間一般の常識とのギャップに悩む。というケースが続出しているそうだ。
他にも、男子と関わらず生活を送っていた為、男性というものに興味が持てずにいたり、知らない故の嫌悪感を持ってしまい、嫁ぐことを嫌がりひきこもり――いわゆるニートになるお嬢様が増えているらしい。
そんな状況を打開すべく打ち出されたのが、今年からの「共学化」だ。
在学中から男性に慣れることにより社会に出てからも円滑なコミュニケーションをとり、女性の活躍する場所を広げれる、よりレベルの高いお嬢様に育成するというのが目的で、社会勉強として学園が認めた職場に限定されるが、アルバイトも認められるようになった。
共学化により女生徒の負担が多くなるように感じるかもしれないが、男子は男子で、名言化はされてはいないが同学年の女子はもちろん、二年、三年の「お嬢様」に対しても円滑なコミュニケーションを取り、男子というものが嫌悪感を持つような人種ではないこと教える「義務」のようなものが課せられてる。
しかし何故これ程急に共学化に踏み切った一番の理由は、
「だってそうしないと香澄が私の学園に通えないじゃない」
という、嬉しくないかと聞かれれば嬉しいけど、学園の理事長――朱莉さんの、頭の痛くなる理由だった。何故若くして朱莉さんが理事長なのかはまたの機会にでも話そう。
もともと共学化の予定はあったみたいだけど、早く踏み切った理由が自分だと分かると、学園の積み重ねてきた歴史に申し訳なくなる。
「こうして一ヵ月少し通うと、段々と女子から向けられる奇異の目にも慣れてくるよね」
昼休み、俺と同じで今年からこの学園に通う事になった男の幼馴染みの透と学園について話していた。
「そーだなぁ。さすがにクラスの女子は話してくれるようにはなったけど、二年、三年のお嬢様達からすれば、俺達はまだ珍獣だもんな」
透は弁当をもぐもぐしながらそんなことを嘆いた。
この学園には、そこらのファミレスよりも凄い豪華な食堂があるんだけど、俺達も含め男子はもっぱら弁当組だった。
何故食堂を利用しないのかと言うと、注目を浴びまくるんだ。
通学中や廊下を歩いている時はまだ良い、一時のことだから。でも食事となるとそうはいかない。男子が食堂の席につこうものなら、そこにクレーターできる。そして食べている間ずーっと観察されてるんだ。あれは辛かった……。
それからというもの、男子は弁当、もしくは購買で何か買って教室で食べる。
もっと自由に学園施設を利用するには時間が必要なんだろうな。
「でも透は毎日のように学年問わず告白されてるよね?」
ちょっと羨ましいこともあり、ジトッとした目で問いかける。
透は実は見た目は超のつく爽やかイケメンで、男子に免疫がないお嬢様にもしょっちゅう呼び出されている。そして全部の告白を断っている。何故なら――
「はっ、三次元になんか興味ないね。二次元こそ至高だ」
とのこと。
こいつはこんなにイケメンの癖に現実の女性に興味がなく、アニメやゲームに出てくる女の子が好きなオタクなのだ。幼少の頃にイケメンが故女性に襲われそうになったことがあるそうで、それ以来女性に触れられるとじんましんが出るらしい。
クラスでの自己紹介でも『三次元には興味ありません。二次元になれる方、二次元への世界の行き方を知ってる人間は俺のところに来なさい。来てください!』という、とんでもない挨拶をしていた。(挨拶の途中で担任(女性)に腹パンされて気絶させられていた)
「ちょっとあんたら、男同士でキモく喋ってないであたしも話に入れなさいよ」
と、一緒に弁当を食べていた瑠々が話しかけてきた。お昼は大体俺達三人で食べる。華凜や有栖姉さんが一緒の時もあるけど今日は来なかった。
「なんだよ瑠々、寂しいならそう言えよ」
「黙れキモオタ。こうやってあたしが一緒にご飯を食べてあげることで、周りに男子は怖くないよ?って示してあげてるんでしょ。感謝して咽び泣きなさいよ」
「は、どうだか。とか言って誰かさんと一緒にいたいだけだ――ふんがぁっ!?!」
「ほえ?」
透が何か言おうとしたみたいだけど、瑠々が話しの途中で透の鼻に割りばしをつっこんだ。
すごいな、イケメンって鼻に割りばし刺してもイケメンなんだ。
「黙りなさいよ。じゃないと今鼻に刺してる割りばしをグリグリして粘膜を再起不能してやるわよ……?」
「い、いえすまむ……」
瑠々が透の耳元で何か囁いてる。
「ねえ、瑠々。透はなんて言おうとしたの?」
「あ、あんたは気にしなくていいのよっ!」(グリグリグリっ)
「ぎゃあああああっ!何も言ってないのにーーーーーっ」
鼻をぐりぐりされて透が鼻血を噴き出していた。鼻血を出してもイケメンだな、こいつは。
「あ、瑠々、ほっぺにおべんと付いてる。両手塞がってるから取ってあげる」
ひょいぱく。ん、いいふりかけ使ってるな。
「なっ……なん……っ」
あ、いつもの幼馴染みの調子でやってしまった。さすがに恥ずかしいのか、瑠々の顔が真っ赤だ。
「あーごめんな瑠々、いつもの調子でやっちゃった」
「う……うん、だ、いじょぶ。あ、ありが……と」(グリグリグリグリグリグリっ)
「そ、その手を離せば、フリーに……なる……じゃんか……」
そう言って、透は大量出血により気絶していった。
その後、透を保健室に運んでいたら昼休みが終わっていた。イケメンは気絶してもイケメンだった。