12.裁判
新生したばかりの星部部室、華やかな雰囲気は消え去り、今ここは裁判の場となっていた。
「ど・お・い・う・こ・と・で・す・かぁあああぁあああああ兄さん!!!」
「オラオラオラオラァ!てめぇぶりっ子お嬢様にナニしやがったあっ!!!」
「素直に吐け!今なら接吻とフレンチキスとディープキスで許してやる!!!!!」
「さーーて、紐パンの次はやっぱTバックよねぇえええええええええええ!!!!!!」
「いやぁあああああああああ!身体弄りながら怒らないでぇええええええ!!!!」
巨大な十字架に磔にされた女装したままの香澄は、姉里姉妹、瑠々、朱莉の四名にもみくちゃにされながら詰問を受けていた。
◆
少し前――
「香澄……とはおrじゃなくて私の弟のことですか?」
ばくばくなる心臓を悟られないよう平静をなんとか装い澄香(香澄)は訊ねた。
澄香は気付いていないが、両隣では笑顔のまま有栖、華凜が固まっている。さらに奥のデスクに腰掛けている朱莉はハニワみたいな顔になっていた。
「そうなんです。私、香澄君に伝えたいことがありまして……」(ぽっ)
そう頬を朱色に染める烏丸伊織は男の澄香以外の女子(朱莉、奏含む)には恋する乙女、しかも超絶可憐☆大和撫子にしか見えなかった。
「そうなんですか?なら明日にでも香澄を烏丸さんの教室にでも向かわせぐふう!?」
恋する乙女オーラに気付いてない澄香はあっさり承諾しようとして、両サイドから常人には見えない速さで繰り出されたボディブローに沈んだ。
「あらあら、澄香お姉様ったらお疲れのようですね」
「うむ、続きはワタシたちが伺おう。姉様はあちらで横になるといい」
そのまま有栖がソファに澄香を寝かせ「れ、レバーが「ふんっ」ぐふっ」戻って来る。
「あ、あの、お姉様は大丈夫でしょうかっ」
「ええ、初日の緊張で疲れたのでしょう。少し休めば良くなります」
にっこり微笑むその瞳には、有無を言わせない力があった。
「では続きを。なぜ兄さんと友人になりたいのですか?」
「え、ええ、実は……以前困っているところを助けていただきまして……」
「助けた?」
「はい、今年の初め頃に。普段買い物はネットショッピングや家の者に頼むのですが、どうしても自身の手で購入したいものがありまして、街に出掛けたのですが、知らない男性達に囲まれてしまいまして……。その時に助けていただいた方が香澄君です。お礼を告げる間もなく去っていってしまったのですが、入学式の折にこの学園に入学したことを知りまして、お礼を言いたかったのですが中々声を掛けれなくて」
「へへへへへへへへぇ、兄さんがそんなことを~」(聞いてないですよ兄さん。何どこぞのアニメ主人公みたいな事してるんですか!)
「そそそそそそそうか、我が弟は良い事をしたのだな」(名前も告げずに去るとかナニ格好良い事してるのだ香澄は惚れてまうやろぉ!惚れてるけども!)
自分たちが知らないところでそんなドラマがあっていた事に姉妹は大きく動揺した。そして止めにこの一言である。
「あの、香澄君は今意中の女性などいるのでしょうか?」
「「?!」」
「さささささぁ~どどどうなんでしょうかぁ?たしか以前に『妹大好きー!』って言ってたような」
「うううううむ、『お姉ちゃん大好きー!』と言っていたなっ」
「よかった。特にいないんですね」
((なにこいつ強い!))
大抵シスコンアピールをすれば女子は引く(前例有り)のにまったく通じなかった。
「それで、香澄君は今日部活にいらしてないんですか?」
「そ、そうなんですよ~。愛する妹の為に夕飯の準備をしなきゃっていないんです~。部活初日なのにしょうがないシスコンですよねーっ」
「今日はこの姉の大好きな料理にしてくれるって言ってたなー!まったくお姉ちゃん大好きにも程があるなー!」
「まあ、ご家族思いな方なのですね。素敵です」
((なにこいつ超強い!!))
「ま、まあ、今日はもう遅いですし、お姉様があの様子なので詳しい話しは明日にしてもよろしいですか」
「あら、私としたことが気遣いがたりずすみません。ではまた明日伺わせていただきます」
「うむ、すまない。お待ちしている」
烏丸伊織を見送り、学園の係の者に先に来た二名を保健室に運んでもらう。
「「…………」」
「「………………」」
「――はっ!香澄に興味ある女狐がいた気がするんだけど気のせい?!」
「朱莉先輩がハニワみたいになってる間に帰りましたよ」
「なんで殺してないの?!」
「無茶言わないでください……」
「う~ん……なんだかあたしに良くない空気がするんだけど何があったの?」
「……説明しますから裁判の準備を」
「……ふ、ふふふふふ」
◆
「いやああああああああああ?!本当に覚えてないんですぅうううううううううう!!」
「ウソを言え!あの小娘が助けてもらった時の話しをした際『あ、あの時の』って顔してただろう!」
「そうです!なんでそんなイベントこなしてたのに私達に報告しないんですか?!いつも何をして過ごしたか報告しろといったでしょう!?」
「華凜プライバシーって知ってる?!」
「ああ、このどんな場所にでも監視カメラ設置が当然のこの社会に何言ってんだか?ってやつのことですよね、言葉だけは知ってます」
「内容も吟味してっ」
「んな事より香澄ぃ!あんたちょっとそのぶりっ子お嬢様のことどお思ってんのよ?!」
「どうもこうもほとんど今日が初対面なんだから何もないよ。あ、でも髪がすごく綺麗だったね。どんな手入れをしてるのか今度聞き痛い痛い痛い~~~~!」
「どれどれ、すーーーーーーーーはーーーーーーーーーーーー」
「んぁっ、朱莉さんスカート中で深呼吸しないでぇっ」
裁判というより拷問は見かねた奏が止めるまでひたすらに続いた。




