11.本番
「あの、二年の西条と言います……」
傍らのソファに積み上げられた、動かない俺意外の部員をちらちら横目で見ながら西条さんは名乗ってくれた。
「ああ、気にしないでください。少しはしゃいでしまいまして」
「え、ええ」
「それで、今回のご相談というのは?」
なるべくリラックスしてもらえるように、紅茶の入ったカップを西条さんに渡して笑顔で聞いてみる。
「は、はぅ。あ、あの」
「大丈夫、ゆっくりとで良いから話してみてください。」
緊張しているようだから、少し図々しいかと思ったけどカップを握る手に自分の手をそっと重ねた。
「――!?ふぅっ……――」
「って熱いいいいいい!えっ、気絶しちゃった!?」
カップを持ったままソファにくったりと倒れた西条さんに紅茶はかからずすんだけど、俺は少し手にかかってしまった。すぐに奏さんが冷たいおしぼりを当ててくれたから火傷はしてないみたい。
「澄香ちゃん、お話しがあります」(にっこり)
「え、なんで怒ってるんですか?」
その後真顔で軽々しくスキンシップを取らないよう説教された。うう、精一杯女の子らしく振舞っただけなのに……。
「えー、では次の方どうぞ」
気絶してしまった西条さんをソファに寝かせて、仕方なく次の相談者を呼ぶ。
「し、失礼しま……はぅっ」
「なんでーーーーー!?」
ちらっと目が合ったと思ったら、気絶しちゃった。
「澄香ちゃん、お話しがあります」
「え、また怒られるんですか?」
その後みだりに女生徒を見つめてはいけませんと説教された。目を合わせないのは相手に失礼だよ。
「うーーん、澄香ちゃんの色気が強すぎねぇ。まさかお話しを聞く前に気絶しちゃうなんて」
「箱入り……純粋な娘が多いですからね、うちの学園」
「まあ、今日はお試しだし、気絶しちゃった子には今度改めて相談を聞きましょ。じゃあ最後の子ー、入って来てー!」
朱莉さんが声を掛けると、扉が静かに開く音が聞こえた。
「失礼致します。二年の烏丸衣織と申します」
澄んだ声がとても耳に心地良い。そんなに大きな声ではないのに、不思議とよく通る声だ。
「どうぞ、お掛けください」
「はい……あの」
「ああ、ソファで寝てる方々は気にしないでください。少し疲れてしまったみたいで」
「いえ、そちらではなく……なぜ澄香お姉様は手錠を嵌められ目隠しをされているのですか?」
それはこちらが聞きたい。
「この子なら大丈夫かしら?五十嵐先生、外してあげて。烏丸さん、あまり澄香ちゃんを見つめると寝ちゃうから気を付けてね」
「? 畏まりました」
ふう、やっと解放された――ってわぁ……。
視界が復活した俺の目の前に座っていたのは、華凜にも負けずとも劣らない綺麗で黒い、背中位まで伸ばした髪が印象的な先輩だった。
少しおっとりしてそうに見えるけど、芯の部分は強そうだと思った。
「あの?」
「あっ、すみません!とても綺麗な方が目の前にいらしゃったので見惚れてしまいました!」
いけない。ずいぶん凝視してたみたい。
「そんな、お姉様の方が何倍も美しいですわ。でも、ありがとうございます」
そう言って頬に手を当てながらはにかむ姿はまさに大和撫子然としていて、俺はまたもや見惚れてしまった。
「それで、依頼はなんでしょうか?」
「ふむ、さっそく聞こう」
「あれ、有栖さんと華凜さんいつのまにおきt痛いーーー~っ」
いつの間にか両隣に座っていた姉さん達が、烏丸さんに見えないよう脇腹をつねってきた。
なんで二人とも怒ってるの?
「お、お姉様大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。どうぞ、話してください」
「はい、実は……その、友人になりたい方がいまして……」
「こちらに相談に来たということはお相手は男性ですか?」
「そ、そうなんです。お恥ずかしい話しですが今まで男性と会話をしたことがなく、なんと声を掛ければいいか分からなくて」
「相手のお名前を伺っても?」
「はい、お姉様たちのご家族にあたりますので、恥ずかしいのですが……」
『姉里香澄君』です。