10.パンツだから恥ずかしい
いよいよ放課後。奏さんがホームルームの終了を告げると共に、教室の前後のドアが勢いよく開いたと思ったら姉さん(前)と華凜(後)がいて、驚こうとしたら瑠々に頸動脈を押さえられて意識を失い、気が付いたら澄香の恰好をさせられて椅子に座っていた。
「毎度ながらここどこ?!」
「やですねお姉様。部室ですよ部室」
んな当然のように言われても意識失ってたんだよこっちは。
心なしか顔がつやつやしてる華凜をジトっと見た後、部室とやらの内装を確認してみる。
部室って結構狭い部屋を想像してたけどここは凄い広い。十畳以上余裕でありそうだ。部屋の奥には重厚なデスクがいくつかあり、それより手前には見ただけで座り心地よさそうなソファがある。ソファの前に設置されたテーブルにはティーセットが置いてあった。良く見たら壁際にちょっとしたカウンターもそなえ付けられている。うん、ここは部室ではないな!
「言いたいことは分かりますがここは星部に与えられたれっきとした部室ですよ」
「こんな高待遇でいいの?部室棟じゃないよね、ここ」
この学園には校舎とは部室棟がある。そちらも一般の学校よりも部室設備は充実していると聞いたけどここほどじゃないんだろうなと思う。
「ここは教室のある校舎ですよ。もともとはサロンとして使用いていたみたいですね。こちらの校舎のほうが朱莉さんや奏さんの目が届きますし、部室棟ではお姉様の正体がばれる可能性がありますから」
確かに部室と部室が隣同士に並んでいる部室棟だと、ばれる可能性はぐんと上がるね。ここはありがたく元サロンを使わせてもらおう。
「それとお姉様、その恰好をしている時は女性言葉を使わないとボロがでてしまいますよ」
おっと。
「うふふ、望んでこのような姿をしている訳ではないのですけれど」
「うふふ、私達が着替えさせた時に、もともと女性物の下着を着けていた方とは思えない発言ですね」
「まって、ツッコミどころが何個もあるよ!え、三人で着替えさせられたの俺?!あと女性物の下着って……あっ!昼休みに着替え忘れたんだ!」
「透さんは何かに目覚めるのが怖いからと、辞退なさいました」
当たり前だよ!あー俺のバカっ!いくらビーフシチューに夢中だったからって、体育あってたら人生終わってたじゃん!
「お姉様、言葉遣い。まさかあんなに大胆な紐パンを穿いてるなんて……ありがとうございます」(ぽっ)
「私紐パン穿いてるんですか?!」
「え、今知ったんですか?」
今知ったよ!
ああ、朱莉さん。なんでそんなモノ穿かせたんですか。気付かない俺も悪いけど。ていうか気付かない位に俺は女装を受け入れてるってことか……いや、深く考えないでおこう。死にたくなる。
「まあスカートの中見られる訳ではないので大丈夫でしょう」
「穿いてるっていう事実が恥ずかしいよ!」
「なら私が穿いてるパンツと交換しますか?」
「紐パンでいいです……」
というか脱ぐ時にどんなパンツなのか見るのが嫌だ。
「そういえば姉さんたちは?」
「ああ、扉の外で抽選会をしています」
「抽選会?」
「はい。澄香お姉様を着替えさせる前から既に百名以上の生徒が集まっていましたので」
「ひゃく……」
みんなヒマなの?
「先程確認した時にはざっと二百は超えていましたね。あれを全部受け付けてしまえば明日になっても話しを聞き終わりませんのでふるいにかけて、そこから抽選、という形を取っています」
「ふるい?」
「主に学園生活の悩み以外のそぎ落としです。お姉様に下心を持って相談に訪れた生徒には、学園長が社会的に抹殺すると脅しをかけて」
「朱莉さん優しいですね。学園業務で忙しいはずですのに、うれしいですっ」
「なんで兄さん&お姉様はあの年増に全力の信頼を寄せてるんですかあああああああああああああ!!」
「あぶぶぶっ!かりんひゃんほっぺたちゅぶしゃないれえぇ」
朱莉さんを信頼しているのなんて当たり前じゃないか。
「――チッ!!まあいいです。今は二人きり……ナニをしても誰も気付きませんっ」
「ナニって何?!」
華凜は嗜虐的な笑みを浮かべながら俺の腿の上に跨ってきた。
「うふふ、疑似百合展開ですよ、お姉様。誰もいない部室に愛しあう女生徒が二人きり……ああ、お姉様お慕いしております……」
「華凜さん顔近い近い離れてっ!淑女が簡単に男性に跨ったりしてはいけませんっ。パンツ見えてますよ!」
それにむき出しの腿に柔らかいお尻の感触が!言ってる言葉と裏腹に行動が肉食すぎる!
硬直してしまったことをいいことに華凜は制服の下に手を滑らせ、直に俺の身体を触りだした。
「んっ、やぁっ、華凜さんなにを……っ。おへそ撫でないでぇっ」
「ああ、お姉様の肌すべすべ……。やはり映像で観るより興奮します……っ」
「ちょっと聞き捨てならない単語が!映像って何?!ってぎゃー!耳に息かけないでぇ!」
「んふふっ、お姉様可愛い……首筋はどうかしら?れろ」
「んあっ、はっ、だめぇ」
自分で思っていた以上にぞくぞくとした感覚が走り全身の力が抜ける。
「あら見事なトロ顔。では、メインディッシュです。その唇いただきます」
そして艶めかしい舌を覗かせた唇が、ゆっくりと迫ってくる。
もう、駄目―――
「いーーーい度胸だ小娘。その頭潰れたザクロみたいにしてやる」
「いだだだだだだだっ!朱莉さん頭っ、本当に、潰れますっ」
「潰そうとしてんだよぉクソビッチがぁ。私の澄香ちゃんに手を出して無事で済むと思ってんのかああああ!」
いつの間にか部室に戻って来ていた朱莉さんが、羅刹の形相で華凜の頭を掴んで身体ごと持ち上げている。
有栖姉さんと奏さんはいつも通りとばかりにそれを素通りして、抽選で使ったであろう用紙などの道具を片付けていて、瑠々は先日のトラウマが蘇ったのかその場で土下座を決め、ブツブツと何か言っていた。透は泡吹いて気絶している。
やがて動かなくなった華凜をソファに投げ込み、朱莉さんは俺を抱きしめた。
「もう、澄香ちゃんは油断しすぎよ!自分が最高級に綺麗で可愛いことをもっと自覚してっ」
「わぷっ、す、すみません?でも私は男子なので「関係ないわ!」えぇ~」
可愛いと言われる度に自分の中の男の部分が破壊されていくのですが……。
「まあ良いわ。今日の相談者は三人よ」
少なくとも二百人はいたらしい中から三人に絞るってすごいなと他人事みたいに思ってしまった。抽選から漏れた人達ごめんなさい。でも十人とか二十人じゃなくて良かった。
「初日だしね。今日まずやってみて感覚を掴みましょ」
「それと、万が一正体がばれる危険性を踏まえて今日の相談者は女生徒のみになるよう操作させてもらった。異性には分からずとも同性には気が付くことがあるかもしれんからな」
真剣な悩みを持つであろう男子には悪いことをした。奏さんはバツが悪そうに笑った。
「それは後に男子を優先して相談を受けることで償いましょ、今日はあくまで試運転よ」
よ、よし。少しでも学園生活が良くなるようにがんばろうっ。
「あ!そういえば朱莉さんっ、さすがに紐パンはやめてください!」
「てへぺろ♪」
「年増のてへぺろとか誰が喜ぶと思うのか」
「イタイわー」
「よし、戦争だ」
「「いだだだだだだだだ!!!」」
姉さんも瑠々も動かなくなった。
が、がんばるぞー。




