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9.学生服(男)を脱がさないで

『裏切りもにお』


 昼休み開始と同時に瑠々の背中に『お姉様のことならあたしにおまかせ★』と書いた紙を張り付け、学園長室へ向かって透と共にダッシュしてる途中、携帯を開くと文字を打ち込んでいる途中にもみくちゃにされたであろうメールが届いていた。よし。

「もうすぐ学園長室だ!このまま一気にぷげらっっ」

「透ーーーー?!」

「鳴神くぅん、わたくしとランチしましょぉう❤」

 もう少しで学園長室というところで、筋骨隆々の女生徒が透にラリアットをかましていた。

「さ、先に行け香澄」

「でも!」

「いいから!いくんだ!」

「くっ、お前に犠牲は無駄にはしない!」

 そうして俺は一人ダッシュを再開した。

「ざけんな助けろ!なに一人二役で子芝居してんだ!お願い助けて!あ、いや太いっ、硬い!あああ~~~~~~……」

 あんな筋肉女子に勝てるか。


「あら香澄、お昼まで私のところに来るなんて本当に私が好きなのね♪」

 少しいきを切らせながら学園長室をノックすると朱莉さんが迎えてくれた。

「うん、朱莉さん大好きだよ。昼休みの間ここにいてもいいかな?」

「はうん❤冗談を素直に返されるとヤバいわ!永遠にいていいわよ!」

 永遠はちょっと。

 朱莉さんに逃げてきた理由を説明して、来賓用のソファに座らせてもらう。

「思った以上に盛況ねぇ。まあ澄香ちゃんは超絶可愛いから仕方ないわね☆よし自慢メール送信完了」

「ね☆じゃないよ。おかげで大変だよ。トイレに行くのにも苦労したし」

「それだけ皆が澄香ちゃんが期待されてると思えばいいじゃない」

 胃が痛いよ。

「そうだ!今後の為にも澄香ちゃんになってランチしましょうっ。食事はここに運ばせるから」

「ええっやだよ!せめて放課後までは男でいたいよってベルトを外そうとしないでーー!」

「ええい、いいから脱ぎなさい!」

「パンツだけはやめてーーーーーーっ」


   ◆


「うっ、ううっ。穢されました……」

「ちゃんと女の子言葉を使って偉いわね。仕草をもうちょっと気を付けて。椅子やソファに座る時は、脚、もう少し閉じないとパンツみえちゃうわよ」

「ひゃっ」

 慌ててスカートを押さえる。って俺今『ひゃっ』って……。

「いいわね!不意の出来事にも澄香ちゃんのままなんて流石よ」

「しくしくしく」

「朱莉先輩お昼持ってきましたーって、なんで澄香は泣いてるんだ?」

 部屋の隅っこで泣いていたら奏さんがカートのような物を押しながら入ってきた。

「今澄香ちゃんは内なるオトメの部分を自覚して葛藤中なのよ」

 そんなもの無いよ!

「まあまあ、昼ごはんはビーフシチューだぞ。こっち来い」

「えっ!本当ですか?!」

「あら、ウチの学食にはそんなメニューは無いはずだけど」

「ちょっとシェフに無理を言って作ってきました。ホワイトシチューはメニューにあるので、少しアレンジするだけでしたから」

 ああ、ここまでビーフシチューの香りが……っ。

「わあ、とっても嬉しいです。私、ビーフシチュー大好きなんですっ」

 やったあ!俺は一日三食ビーフシチューでもいい位ビーフシチューが大好きだ。特に牛肉をとろとろに柔らかくなるまでじっくり煮込んだやつ。小麦粉から作ってるとなお良し!

「しかも今日のは肉がブロックのままだぞ!」

「きゃー!!最高です!!!!」

 俺は目の前に置かれた皿から目が離せなかった。ああ、美味しそう……。

「これだけ食べ物に対して喜べる女子高生(?)もなかなかいないわよね。眼がきらっきらしてるわよ。あ、写メ撮って自慢メールしないと。タイトルはビーフシチューの天使」

「昨今は食べ物漫画とか流行ってるみたいですよ。胸の前で手を組んでピョンピョンしてる姿なんて見ちゃうとホントに女の子にしか見えないですね。自分は動画を」

 横で朱莉さんたちが何か言ってるけど俺は目の前のビーフシチューにくぎ付けで、何を言っているのかわからなかった。

「は、はやく食べましょうっ」

「はいはい、あまりはしゃぐと埃が入っちゃうわよ」

「今後部活をがんばってくれるなら月1で食べさせてやろう」

「ここに誓いますいただきます!」

 ん~~~~っ、おいひ~♪


 割と大変なことを約束したことをこの時の俺はまったく気づいていなかった。

 そして昼休みが終わる頃、教室に向かって歩いているとメールの着信を告げる振動が三通分あった。

 内容を確認すると―――

『『『シチューが美味しかった分だけお姉様を辱めます』』』

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