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?.思ひで-姉里朱莉-その3

 カスミちゃんに怒られた。というか今現在も怒られている。

 マコト?と呼ばれていた男性と二人並んで正座をさせられた。

「きいていますかあかりさんっ」

「はひ!すみませんっ」

「ふたりともすぐけんかしてはいけませんっ。けがをしたらどうするんですか!」

 カスミちゃんは瞳に涙をいっぱい溜めて、私達をキッと見た。

 うう、本気で心配してくれてるのがもの凄く伝わってきてとても申し訳なくなる……。

 それはマコトさんも同じなのか、苦虫を噛み潰したような顔をして黙って聞いてる。

「あの、すみませんでした。肩、大丈夫ですか?」

「はん、あの位の蹴りじゃどうにもなんねぇよ。こっちこそいきなり襲って悪かったな」

 あれ?眼つき悪いし言葉使いも悪いけどいい人?

「ええと、カスミちゃんの保護者の方ですか?」

 家族と言わなかったのはなんとなくそういう関係には見えなかったから。

「まあ、暫定のな」

 どゆこと?

「このガキの面倒をみてた女が死んだ。他に身よりが無えから一時的に預かってる」

 私の怪訝そうな顔を見て、マコトさんが説明してくれた。

「そう、なんですか」

 じゃあ、カスミちゃんはその女性のお葬式に来てたんだ。

「あんたは何でこんな所に?」

「……両親が亡くなった、ので」

「……そうか」

 まだ両親の死を完全に受け入れられていない私は、そのことを他人に話し慣れていなくて、それきり言葉を発せなかった。

 心配そうに私の顔を覗いているカスミちゃんに気付いて、大丈夫だよ、と笑ってみせた。笑えてたかはわからないけど。

「まあ、他人事だから言うが、がんばれよ。俺たちはもう行くぜ」

「あ……」

 ……もう、お別れか。さらに気持ちが沈みそうになったけど、マコトさんから発せられた次の言葉でそんな事は全て吹き飛んだ。


「この後はこのガキが入る施設の下見に行かなきゃなんねえしな」


 え?

「ちょ、ちょっと待ってよ。施設?施設ってどういう――」

 マコトさんはちょっと面倒くさそうに振り返って言った。

「今言った通りだ。コイツは施設に入るんだよ。テレビで見たことあんだろ。身よりが無いガキたちが入る施設を」

「そういうっ、ことじゃ、なくて!だってそんなに幼くて、大切なひと、亡くしたばっかりで」

 動揺して、言葉がうまく出てこない。

「あなた、だって、いるのにっ」

 マコトさんは動揺を隠せない私を見て、怒っているような、憐れんでいるような、少し眼つきを険しくした。

「おい、あまり他人の事情に口出すもんじゃねえぞ。お前に俺らの何が分かる」

「知らないけど!知らないけど……でも、聞いちゃったら、知らないままでいられないよ。私は今この子に助けられたばかりなのよ!」

「――チッ。ちと来い」

「わっ、ちょっと何処へ行くの!カスミちゃん置いてくの?!」

 マコトさんは面倒臭そうに頭をガリガリ掻くと、私の腕を取って歩き出した。

「ガキ、絶対そこを動くなよ。誰か来ても付いて行くな」

「は、はい。けんかはしちゃだめですよっ」

 そんなカスミちゃんの言葉を無視してマコトさんはズンズン進んで行く。カスミちゃんを無視するなんて殺すぞ顔面ヤクザ。

 カスミちゃんに私達の声が届かなくなったであろう距離でマコトさんは私の手を離した。

「……俺が堅気の人間に見えるか?」

 顔面だけじゃなくてリアルヤクザでしたか。

 カスミちゃんの前で話してたより三倍位顔を険しくさせてそう言うマコトさんの顔には余裕が無いように見えた。

「もちろん見えないけど、それが今関係あるの?」

「大有りだ。あのガキを育てていたのは姐さん……俺らの組の元組長だ」

 ……oh。

「組長の子供ってこと?」

「いや、姐さんが残した日記には拾った、と書いてた」

「? どゆこと?」

「俺だって知らねえよ。何年か前にいきなり組を抜ける、って言ったきり本当に俺らの前から消えて、最近になって病気で死んだって連絡が入った。姐さんの遺品を整理しに行ったらあのガキがいたんだよ」

「えええ、何それ。てゆーかヤクザの組長が日記て『アン!?』なんでもないですハイ」

「一番の問題は、あのガキが自分を育ててた女がヤクザだと知らないことだ」

「……複雑なのは分かった。けどそれとあの子を施設に預けるのとどういう関係があるの?かなり特殊な家庭環境だけどアンタたち関係者が引き取ってあげればいいじゃない」

「馬鹿かお前は」

 ムカ。

「良く聞け。あのガキの存在を知ってるのは俺を含め一握りの人間だ。もし周りに血の繋がり無いにしろ『組長の忘れ形見がいた』なんて知れたら野心のある身内には次期組長なんて担ぎ上げられて、事実上の操り人形にされるかも知れねえ。ウチの組に恨みもってる奴だって大勢いる。そんな奴らからしたらあのガキは恰好の的だ。そんな世界にまだ年端もいかねえガキを放り込めるのか、お前は……っ」

 ……っ。この人は、突き放しているようで、あの子のことを一番考えていた。

「じゃあ、葬儀に参加できないっていうのも?」

「……あんなどんな野郎が紛れてるかわかんねえ所にあのガキを連れてく訳にはいかねえだろ」

「もしかしてアンタってカスミちゃん大好き?」

「っ!……姐さんの遺言にあのガキを巻き込むなって書いてあったから仕方なく動いてるだけだ。あの女いなくなったと思ったら勝手にくたばってやがって。病気なら、そう言ってくれりゃあいいものを……!あんなガキだけ残しやがって」

 本当に、本当に悔しそうに顔を歪めて、マコトさんは泪した。

 大切な人に何もしてあげられない悔しさは今の私には痛いほど分かる。

「とってもいい提案をしてあげましょうか?」

「あン?」


「私があの子と生きるわ!!!!!」

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