8.すみません、○○ました。
「うあ~恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいいいいいいい!」
控室に戻った香澄は両手で顔を覆い床をゴロゴロしていた。
「いやー、最高に可愛かったわね、澄香ちゃん」
「ものっそい噛んでましたけどね。計算ではなく天然なところが最高でしたが」
この上なく嬉しそうな表情を浮かべる朱莉と苦笑気味の奏。ちなみに今二人はゴロゴロしている香澄の写真とムービーを撮っている。
「ほら澄香ちゃん、洋服が汚れるからそろそろ起きなさい」
「うぅ、澄香って呼ばないで。あと女装の写真撮らないで」
「わかったから起きなさい(撮らないとは言ってない)」
ようやく起き上がった香澄の髪を整えてやり、朱莉はにっこりと笑った。
「さあ、今日の放課後から忙しくなるわよ!なにせあんなに生徒を魅了したんだもの。依頼や問い合わせがきっと沢山来るはずよっ」
「胃が痛くなってきた……」
保健室どこだっけ、と考えていたら、ドゴン!!!と控室のドアが吹き飛んだ。
「朱莉さん!なに全校生徒の前で兄さんに告白されてるんですか!!噛んだ澄香お姉様は鼻血出すほど可愛かったです!!!」
「そうだ!あんな羨ましいことワタシでもしてないのに!!改めて見ると澄香お姉様可愛ひぃいいいいぃぃ!!!」
「朱莉様!酷いじゃない、私めには昨日あんなに怒ったのに自分はおいしい思いして!!でも悶える香澄は最高だったわ!!!」
「いつの間にか部活に入ったことになってた……。夕方アニメが……。え、そこの素敵な女性は香澄ってマジ?」
姉里姉妹、瑠々、透。星部の面々が勢いよく入ってくる。瑠々は昨日のお説教のトラウマがある為朱莉を様付けしていた。
「ふふん、まあ私と香澄は愛し合ってるからね。てか怒るか褒めるかどっちかにしなさいよ」
「「「まず澄香お姉様を抱いてる手を放してください!」」」
「お姉様って呼ばないで……」
姉妹達にひっぺがされながら香澄はさめざめと泣いた。
放課後はどうなってしまうんだろう……と心配する香澄だが、地獄のスタートは放課後ではなく、控室を出た瞬間から始まることを考えていなかった。
◆
大変だった。本当に大変だった。
控室から自分の教室に戻るまで、話しかけられ続けた。
『香澄お姉様の事を教えてください!』『放課後にはお姉様に逢えるんですよね!?』『お姉様は百合に興味はあるんですか?!』『良く見ると香澄君ってお姉様に似てるわね』『でもお姉様の方が凛々しいわね』←一番傷ついた。
他にもいろいろ聞かれたりしたのだけれど、途中から右から左に聞き流していた。
休み時間になる度、学年やクラス関係無く質問に生徒が来るから、授業終了と同時に透とダッシュでトイレに逃げた。ちなみに、俺だけじゃなくて、姉さんたちや瑠々のところにも生徒が押しかけている。
こんな調子で放課後生き残れるかな……。
「とりあえず、昼休みは購買で何か買って朱莉さんのところにでも逃げようぜ。このままだと本当に身体が持たん」
「そうだね。食堂なんて行ったら押しつぶされそうだもんね」
今朝の件の準備で弁当当番の有栖姉さんが作るのを忘れてたらしい。(姉里家の弁当は当番制で、明日は俺の番)
ふと携帯電話が震えたので見てみると瑠々からメールが来ていた。
『あたしを置いて逃げるとか死ぬの?ホモなの?』
よし、昼休みは瑠々を絶対犠牲にして逃げよう。




