?.思ひで-姉里朱莉-その2
やってしまった••••••。
見知らぬ幼い子を抱いて号泣するとか、カッコ悪いにも程がある。
「どうぞ」
私が泣き止むまで、されるがままになってくれていたその子はそう言って可愛らしい刺繍の入ったハンカチを渡してくれた。本当にいい子だ。
「ありがと••••••」
使うのを勿体無く感じながらも、その子の優しさを無下にしたくなくてありがたく涙を拭わせてもらった。
「髪、綺麗ね」
何か『ありがとう』以外で感謝の気持ちを伝えたくて、そよ風に揺られてキラキラ輝いているその子の髪をできる限り優しく撫でた。
「••••••えへへ、きょうわじぶんでくしをつかっておていれしたんですっ」
何気なく言った言葉に、その子は一瞬ポカンとした後、にっこり100点満点というくらいの笑顔で笑ってくれた。
てかこの子ヤバイ。本当に本当にほんとぉーに可愛い。
何だ?天使なのか?今まで道場でも子供とは触れ合ってきたけどこの子に感じる私の気持ちは、今までに感じた事のないものだった。
「恋か?」
「ふえ?」
「う、ううん。何でもないの」
何言ってんだ、私。こんな幼子に対して恋だとか、両親を亡くしたせいで頭おかしくなったのかも。でも、この胸の苦しいような、切ないような、甘酸っぱい痛みは確かに『恋』以外の何物でも無いような。
「うぁー」
「お、おねえさん、だいじょうぶですかっ」
その子は急に頭を抱えて悶えだした私を見て、オロオロしながらも私の手をその小さな手で握ってきた。
「はぅっ」
「ふえぇっ」
ダメだ。キュン死する!!
大丈夫よ、と伝えてその子の頭を撫でた。
何とか心を落ち着かせ、私は自分の頭に付けていたヘアピンの一つを外して、その子の頭に慎重に付けた。
「あの••••••」
「慰めてもらったお礼。私のお古で悪いけど、良かったら使って」
そう言って頭を撫でると、その子はまたにっこりと笑った。ヤバイ、鼻血出そう。
「私、朱莉っていうの。あなたは?」
「あかりさん••••••、わたしわかしゅっ、あ、かすみっていいます」
まだ名乗ってなかった事に気付いて、私が名乗ると、カスミちゃんは一生懸命私に名前を教えてくれた。
「カスミちゃんはどうしてここに一人で来たの?」
「あかりさん、あかりさん」と、何度も反芻して名前を覚えてくれようとしてくれてるカスミちゃんを見て、ふと思った。
ここにいるということは、ご家族や親族の葬儀に来たのだろうというのは解る。でも、こんな可愛らしい幼い子を一人で放っておくなんて、いくら何でも考えられない。
「わたしはごそうぎにさんかしてはだめなんだそうです」
「え••••••」
ここに来て初めて顔を曇らせたカスミちゃんはポツリと言った。
葬儀には来て、葬儀に出ちゃいけないって、どういうこと?
「ここにいたのか、ガキ」
カスミちゃんの顔を曇らせた後悔と、よく解らない事情にうんうん頭を唸らせていると、近くから男の人の声がした。声がした方に顔を向けると、少し離れた所に黒いスーツを着た、目付きの鋭い男がいる。うん?もしかして私達に向かってきてる?
て言うか来た。
「誰だ、お前さん」
普段から鋭いであろう眼を更に鋭くして、その男は私を睨みつけながら話しかけてきた。
「あなたこそ、何方ですか?」
オールバックにされた髪と、身長が高いこともあってかなりの迫力がある。よく見ると右瞼の端に傷がある。見た目からして普通の人じゃない。
私はカスミちゃんを庇う位置に立ち、臨戦態勢をとった。
「はん、やる気かよ。女だからって今ここでそういうのは冗談じゃすまねぇぞ」
私が構えたのを見て、男も態勢を整えた。言ってる意味は解らないけど、戦る気なのは間違いない。男の構えは基本は空手のようだけど、少し違う。「試合」ではなく「喧嘩」慣れしてる構えだ。
「シッ!」
いきなりかましてきた上段蹴りを最小の動きで躱す。うん、避けれる。
「そのガキを渡せ!」
「誰があんたみたいな奴にっ」
やっぱり喧嘩慣れしてるな。関節や急所を的確に狙って攻撃してきてる。強いけど!
「私より弱いっ!」
「なに⁈」
相手の懐に一気踏み込み、身体を反転、背後に回り込んで背中を踏み台にして跳躍!
「く、見えねぇ!」
太陽を背にして相手の視界を奪い、空中で三回捻りを加え、速さを上乗せした踵落とし‼︎
「喰らえっ必殺、百発百中蹴りっ!!!」
「ぐはっ」
着地、そしてカスミちゃんに向かってウインク。
カスミちゃんは口をあわあわさせてこっちへ駆け寄って来る。怖がらせちゃったかな?でももう大丈夫!おいでカスミちゃん!
私は大きく腕を広げてカスミちゃんを受け止めーーれなかった。
「ま、まことさーんっ」
カスミちゃんが抱き付いたのは、今しがた私がぶちのめした男だった。
あれ?