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7.ハジメマシテ その4

『た、大変失礼致しました。皆様ごきげんよう』


 暫しの身もだえから何とか(学園長と五十嵐先生が必死に宥めていました)立ち直った「澄香お姉様」はまだお恥ずかしいのか、お顔が少々赤いまま改めてご挨拶なさいました。

 それにしても、同棲のわたくしから見ても、ドキッとするくらい綺麗です……。


『ただ今ご紹介に与りました、姉里澄香と申します。苗字でお気づきかと思いますが、姉里朱莉学園長の家族です。また、在学中の姉里有栖、華凜、そして香澄の姉でもあります』


 やはり、この方はあの方――香澄君のお姉様。澄香お姉様の方が、その涼しげな印象からか大人に見えますが、香澄君と本当にそっくりです。

 でも、わたくしは今まで澄香お姉様の姿を学内でお見かけしたことがありません。こんなに綺麗で、香澄君に似ていれば絶対に気付くと思いますが……。


『今こちらにいる全生徒が私の事を初めて見たと思います。私は幼い頃より身体が弱く、学校というものには縁が無く過ごしてきました。せめて高校生活は、と、この学園に通いたいと試験を受け、合格を頂けたのは良かったのですが、やはり皆様と同じように学園生活を送ることができず、朱莉学園長の元で、個人授業を受けております。身体の事もあり、年齢的には最上級生ですが、学年的にはまだ一年生です』


 まあ、そんな事情がおありだったなんて……。

 わたくしにとって学校・学園に通う事は当たり前の事でしたが、世の中にはそれが当たり前で無い方もいるのですね。情報だけでは存じていましたが、目の当りにするとどう考えるべきなのか分からなくなります。

 テストや苦手な体育がある日は学園に通うのが億劫になってしまいますが、いざもう学園に通わなくても良い、なんてなったらわたくしはどう思うのでしょうか……。

 檀上に立つお姉様にどのような感情を向ければいいのか、わたくしは分からず、俯いてしまいます。同情を籠めるのは何か違う気がして、そのような目を向けるのだけはしないよう、瞳をぎゅっと閉じました。


『そんな顔をしないでください』


「えっ――」

 不意にかけられた声に顔を上げると、檀上に立つお姉様は確かにわたくしの顔を見つめて、少し困ったような顔で、にこりと微笑みかけてくださいました。

 ――っ!?

 それは、『あの時』の香澄君の顔に本当にそっくりで、こちらから檀上まではかなりの距離があるのに、微笑むお顔ははっきりと見えました。

 途端、わたくしは何故かとても恥ずかしくなってまた俯いてしまいます。ど、同性の方にこんなにどきどきするなんて……っ。


『私にとってはそれが当たり前でしたので、皆様が心を痛めることはありません。もし、今の私の話しで心を痛めてしまった方がいらしたら、申し訳ありません。でも、そう思ってくれたのは皆様がお優しい証拠ですね、ありがとうございます』(天使の微笑み)


「「「「きゃーーーーーーーっ」」」」(後から思い出すと男子の声も混ざってました)

「なんて可愛らしい笑い方なのかしら」「まるでお人形みたい」「お持ち帰りしたい!」「やだ、わたしどきどきしてるっ」「お姉様素敵ぃ」「抱いてほしい!」

 講堂内はまたもや騒乱に包まれてしまいました。

『あの、皆様落ち付い――』

「お姉様抱いてーーーー!」「一緒にお風呂入ってーーーー!」「一緒に布団入ってーーーー!」「一緒にお着替えしてーーーー!」

『ひぃっ、こ、こわい……』

 ああ、怯えるお顔も素敵……――っは!ではなく皆を落ち着かせなければいけません!

「み、皆さま一度落ち――」


『ごらぁあああああああ!私の大事な澄香ちゃんを困らせてるのは誰だぁあああああああああ!?』


「「「「!?」」」」

 が、学園長が、お怒りに……!!

『出てこい!私の大事な人を困らせる奴は容赦しないっ、社会から抹殺するぞコラァ!!!!』(先程生徒全員に素敵な学園生活云々を言ってた方と同一人物です)

『あ、朱莉さん落ち着いてくださいっ、私なら大丈夫ですから!』

『だ、だって、澄香あんなに怯えて……っ』

『朱莉さんのおかげで静かになりましたから、もう大丈夫です』

『ぐすっ、ほんとう?』

『ええ、ありがとうございます』

『わたしのことすき?』

『もちろん大好きです』

『……えへ』


 静まり返った生徒全員にお姉様には見えないよう、視線だけで人を殺めることが出来そうな瞳を向け、上機嫌で檀上から降りて行きました。

 同時に講堂内の何か所かから、どす黒い怨念のようなものを感じます。空調が効いてる筈なのに寒いです……!


『重ね重ね失礼致しました。学園には未だ通えない身ですが、最近少しだけ体調が良くなりました。お医者様から放課後活動するくらいなら問題無いと許可を頂きました為、我儘ではありますが部活動だけでも皆様とご一緒に過ごしたいと思い、無理を言って参加の許可を頂きました。その折、男女の間にまだ壁があることを知り、今回の部の設立を決意致しました。私も学園長と同じく皆様全員に素敵な学園生活を送ってほしいと思います。学園生活を知らない私ですが、幸い支えてくれる仲間もいます。より良い学園にする為に皆様ぜひ相談にいらしてください』


 講堂内に鳴り響く拍手が収まった後、お姉様が最後の締めとして礼をして、


『みにゃさまありがとうございまちた』


「「「「・・・・・・」」」」(静まり返る生徒)

『~~~~~~~っ』(しゃがんでぷるぷるしてるお姉様)

 盛大に、噛んでいらっしゃいました。

 やっぱりお姉様可愛いです!

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