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7.ハジメマシテ その2

 今日は臨時の全校集会が行われる、とホームルームで聞いたのもつかの間、俺は担任という悪魔に現在使用されていない空き教室に問答無用で連れ込まれた。悪魔多いな。

「な、なんですかぁ、奏さん。こんなところに連れて来て……。あとなんで透がそこで気絶してるんですか?」

「ふむ、後者の質問の答えは私の部活に入れと伝えたら『夕方アニメが見れないから嫌だ』とぬかしたので腹パン決めて運んで来た」

 だからコイツはホームルームにいなかったのか。

「前者の質問はもうすぐ始まる全校集会で、新しく設立された部活を紹介する為だ」

「--っ?!」

 全身から冷や汗が出てきた。

「それはもしかして俺が入る部活のことですか……?」

「もしかしなくてもそうだ。そして君には女装して壇上に立ってもらう」

 その言葉を聞いた瞬間俺は教室の出口にダッシュした。そんなことできるかっ!

 しかし扉に手をかけようとしたところで身体が動かなくなった。

「君が朝気絶してる時、ある程度行動が制限できるよう気を送り込んでおいた。悪いが逃がさん」

 逃げようと必死に身体を動かそうとするけど、考えとは裏腹に俺は奏さんの前まで戻ってしまった。

「ていうか朝メールで来てた『部活は基本女装だから』ってなんなんですかぁ!別に男の恰好で良いじゃないですかぁっ」

「まあ聞け。いきなり男子が部活を作りました。これからは男女仲良い学園生活を送りましょう。何か困っていることがあれば相談を。これでは女子が70%を占めるこの学園では相談に来る生徒は少ないだろう。男子がいる部活ができたとアピールする必要もあるが最初に目立つのは女子の方が良い」

「なら有栖姉さんや華凜がいるじゃないですかっ」

「最後まで聞け。女子に好印象を与えつつ、男子の考えを汲んでやれる。そういう存在が必要だ。それは君が一番適任だろう」

「う……」

 確かに男子の気持ちを理解してくれる異性というのは今の学園には必要かもしれない。

「実際動く時はそこで寝ている鳴神や男の香澄、姉里姉妹や来栖でいいだろう。しかし相談役は女装した君が理想的だ」

「うう……」

「これは君にしかできない、力になってくれ」

「ううう~」

 女装は嫌、嫌だけど!……しょうがない、かなぁ。

「わかり、ました。やります……」

 俺はとうとう了承してしまった。

「ありがとう。では時間が無い準備を急ぐぞ!」

 奏さんがそう言うと天井の一角が開き有栖姉さんと華凜が降ってきた。

 これ、断ったら無理矢理了承させる為に待機させてたな。

「ではまずカラーコンタクトをしますよ。兄さんこっち向いてください」

「続けてメイクだ。香澄、こっちを向け」

「次は制服です」

 二人とも容赦が無い!


「朱莉降臨っ!!」


 不意に窓が開き、最近は忙しくて中々会えない我らが育ての姉(母)姉里朱莉さんが入ってきた。てかここ4階……。

「きゃーーー!香澄とっっっっってもカワイーーーー!!」

 朱莉さんは女性ですら見惚れてしまう整った顔をこちらに向け、満面の笑みで俺に抱き着いてきた。

 背中まで伸ばした甘栗色の艶のある髪からクチナシのような香りがする。

「わぷ、朱莉さん落ち着いて」

 日本人にしては明るめの、ヘーゼル色の大きな瞳をこちらに向けて、本当に嬉しそうに笑っている。

「写真でみたメイド服もいいけど制服もいいわね!」

 話題が女装でなければ俺も嬉しかったんだけどなぁ。

「いつまで抱き着いてるんですかこの年増!兄さんから離れてください!」

「そうだ離れろババア!」

「私はまだ20代だコラァ!!!」

 朱莉さんは一瞬で姉さん達の所に行くと「いだっ」「あだっ」拳骨を食らわせていた。

「香澄、これ着けなさい」

 二人に「ごめんなさい」と土下座させた後、朱莉さんは紙袋を差し出した。

「何これってえぇーーーー?!」

 その中には、パンツのようなモノと、女性の、む、胸のようなものが入っていた。

「にゃにコレ」

 噛んだ。

「やん、香澄の猫言葉可愛いん。サポーターと偽乳よ。学園内は女子ばっかだからね。男だとバレないように着けておきなさい。金と権力に物言わせて最高級の乳を用意したわ!」

 ぷるぷると揺れる偽乳を揉みながら渡された。うわ、柔らかい!

「すごいですね、毛細血管も見えますよこれ」

「ふむ、触った感じも本物に遜色無いな」

「これいくら掛かったんですか先輩」

「聞くと後悔するわよ」

 俺が両手で持ったそれを女性陣が揉みしだいている。なんていうか、その、先の方まで細かく再現されている為、見るのがすごい恥ずかしいよ……。

 ひとしきり揉んだ後(俺は断じてしてない)胸に接着剤のようなものを塗って、ソレを付けた。意外に重い。

 つけ方の分からないブラジャーを姉さんに着けてもらい、ガン見してくる四人の視線を避け用意してあった仕切りの向こうでサポーターを穿き、その上からショーツを穿いた。何やってんだろ、俺……。

「「「「……ほぅ」」」」

 仕切りから出てきた下着姿の俺を見て、四人が溜息とついた。

「な、なに?」

「もはや芸術ですね。何と言いますか、感動的な絵画を観た気分です」

「うむ、沁み一つない肢体には、いやらしさ欠片もなく無垢な天使のようだ」

「女性としての自信を無くしそうな位完璧なバランスだな。私の教え子マジ天使」

「こんな日来るなんて……。生きてて良かった……」

 送られる賛辞に顔が赤くなっていくのが分かる。うう……。

「は、早く制服頂戴っ」

 着方が分からないので女性陣に手伝ってもらい、やっと女装が完了した。

 用意してあった鏡の前に立って自分の姿を確認する。

 ……なんて言うか、自分の姿なのに少し見惚れてしまった。

 鏡の中に映る俺は、ナチュラルメイク?をしてもらい、グレーのカラーコンタクトをしていて、本来の年齢より大人っぽく見えた。

「クール系のメイクで年上に見えるようにしてます」

「髪はもともと手入れが行き届いているからな。どうする?」

「髪が傷むようなことはしたくないかな……」

「まかせなさい。絶対に傷まない一日染めを用意してるわ。私と同じ色にしましょう」

「よし、では肝心の女装香澄の設定だ良く聞け」


   ◆

 

 君は病気がちだった香澄の姉で、本来なら最上級生の年齢だが、病気のせいで今年君たちと同じく学園の一年生として入学した。

 しかし、やはり一般の生徒と同じように授業を受けるのは難しく、理事長兼学園長である朱莉先輩の庇護のもと、個人授業を受けている。

 最近若干身体の調子が良くなり、せめて部活動だけでも学友と過ごしたいと部活に所属しようとするが、男女間に壁があることに心を痛め、その壁をなくせるような部活を作ることを決意する。

 そこで、弟である香澄や姉里姉妹、そこに転がっている鳴神や今日は休みの来栖に協力を求め部を設立。そして今日の発表に至る。

 部の名称は「星部」。これは学園の名前から一文字もらっているのと、生徒が星のように輝く学園生活を送れるように、と願いを込めている。

 そして君の名前は「姉里あねさと澄香すみか」だ!

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