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?.思ひで-姉里朱莉-その1

「はぁ~」


 きっと、こんな事は誰にでも起こり得ることなんだろう。

 私が特別な訳ではなく、今回がたまたま、私の番だったんだ。

 『両親が死ぬ』なんていうのは、何時かは迎える事で、私の場合他の人よりも早くそれを迎えただけだ。


「でも、なんで私かなぁ」


 頭で理解していても、そう嘆かずにはいられない。

 たかだか十年ちょっとしか人生を経験してない私にとって、両親の死というのはそう簡単に受け入れられるモノじゃなかった。

 学校の先生から、両親が海難事故に巻き込まれたと聞いた時、あの二人なら大丈夫だろうと、本気で思ってた。

 私の両親は伝統ある学園の経営を務める長であると同時に、武術の達人でもあった。普段は二人とも温厚な性格なのに、一度ひとたび道場に踏み入れば凛とした雰囲気を纏い別人に見えた。

 よく道場破りと言うか、試合の申し込みが来て父と母に挑んでいたけど、私の知る限り負けた姿は見たことが無かった。

 虎でさえ素手で倒したことがあると言う二人が事故位で死ぬなんて、二人を知る人なら考えられないだろう。

 でも、二人もどこにでもいる人間で、死ぬ時は死ぬんだ。


「はぁ~」


 これからどうしようか。

 幸いにも両親が残してくれた財産は私の人生を何度も繰り返しても使えきれない程ある。遺言によれば、二人の後を継いで、学園の運営に携わって欲しいとあった。

 これは「今」の私ではなく、数年「先」の私に向けられた言葉で、じゃあ「今」の私はどうすればいいのだろうか。

 そんな事を悶々と考えながら、今父と母が灰になっていってる火葬場から少し離れた丘のベンチに座っていた。


「どうするかなぁ、ホント」

「あの」

「わっ」


 誰もいないと思っていた丘に私以外も人が居たみたいだ。

「すみません、一人でぶつぶつ言ってて。誰もいないと思ったので」

「いえ、だいじょうぶです」

 一人言を聞かれていたのが恥ずかしくて、俯きながら謝ると、返ってきた返事は幼い声だった。

 顔を上げて見ると、そこには可愛らしい女の子(?)が立っていた。

「えっと」

「となり、いいですか?」

「あ、い、いいよ」

 ありがとうございます、と言って私の隣にその子は座ろうする。まだ身体が小さいせいで「うんしょ、うんしょ」とよじよじとベンチに座るのに苦労していた。

 まだ、五歳にもなっていなさそうな印象だけど、ずいぶん礼儀正しい子だ。

「うんしょ、えへ」

 やっと思い通りに座れたらしく、その子は小さく笑った。めちゃくちゃ可愛いな。

 その子はしばらく空を眺めてから、ぽつりと言った。

「きれい」

「え?」

「きょうおそらにいくひとたちは、まよわないでてんごくにいけますね」

 今日は私の暗い心境とは反対に、澄み渡った空が広がる快晴だった。

「……私の親も、ちゃんと行けるかな」

「きっと、いけます」

 なんとなく、その子の言葉に説得力がある気がして、「そっか」とだけ答えた。

「ひとは、ひとりだけど、ひとりではないそうです」

 唐突にその子は切り出した。

「わたしのめんどうをみてくれてたひとが、よくいってました。わたしにはむずかしくてよくわからないのですけど、たとえ、めのまえにはいなくても、たいせつなひととはつながっているそうです」

「あ……」

 いつの間にか、その子は私の手をそっと握っていた。

「だから、ひとりになってもひとりじゃないんだよ、といってました」

 その子は私をまっすぐ見て、

「だから、おねえさんもわたしもひとりじゃありません」

 と、言った。

 これからのことなんて、何一つ見通しは立ってないけど、その言葉にひどく安心してしまって。

 気付くと私はその子を抱きしめて、ぼろぼろと涙を流して、わんわん泣いていた。

  

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