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6.あゝ無常

「……う」


 目を覚ますと真っ暗な空間の中、俺が居るところだけライトが当てられていた。

 どこここ?

「ようやくお目覚めか」

 声と同時に一斉に明かりがつく。……学園の講堂か。

「奏さん……?」

 講堂の檀上には、放課後別れたはずの、奏さんがいる。

 奏さんのところへ行こうと立ち上がろうとして、自分が手足を縛られていることに気付いた。ていうかメイド服着たままだっ!

「あの、これは――」

「部活の話をしたのを覚えているか?」

 こっちがこんな恰好をしている言い訳をしようとしたら、奏さんが言葉を被せてくる。

「は、はい」

「少しは考えてくれたか?」

「いえ、それはまだ……」

「そうか、まあ良い。一つ作りたい部を思いついてな。香澄、それに入れ」

「ど、どんな部活ですか?」

「一言では説明できないな。まあ、要約すると学園内の男女の垣根を無くして、より良い学園作りの手助けをする。といった内容だな」

 おおざっぱ過ぎてわかんないよ!そんなことより!

「とりあえず縄を解いてください。そして着替えさせて!」

 こんな姿誰にも見せられない、見せたくない!

「ふむ、そんな態度でいいのかな、香澄。いや、カスミちゃんと呼ぶべきか?」

「!!?」

 ま、さか。

「な、なんのことでしょう?」

 見られてたの?

「大活躍だったな。挨拶の時噛んでいたのは中々に可愛かったぞ」

「イヤーーー!違うんです違うんです!」

 なんで奏さんあそこにいたの?!やばいやばいやばい!!こんな事姉さん達に知られたら明日から着せ替え人形にされる!!!

「おおおおお願いです、奏さん!姉さんや華凜には黙っていてくださいっ」

 とにかくここはそれだけをお願いするしかないっ。

「それは私の部活に入る、という返事と受け取って良いのかな?」

「入りますっ、入りますから!」

 部活に入るだけで秘密にしてくれるなら安いもんだ。後は瑠々に何とか頼みこんで――

「ありがとう香澄。では同じ部活の仲間を紹介しよう」

 ――え。仲間?

「後ろを見てみると良い」

 ぎ、ぎ、ぎ、と手足を縛られて動けない為、首だけを壊れた人形のように動かして後ろを見た。


 にっっっこり。


 そこには悪魔達が獲物を見つけた顔で微笑んでいた。


「ひっ、姉さん、華凜、瑠々も……っ」

 姉さんと華凜はただただ俺を見て微笑んでいる。だけど眼だけはは獲物おれが逃げないようにこっちをロックしている。

 瑠々は虚ろな瞳で俯いて『ごめんなさい、もうしません、許してください、お願いです』とぶつぶつ言っている。最初は俺に謝ってるのかと思ったけど違うみたいだ。


「奏さん、もう良いでしょうか?」

「ああ、言質は取った。良いぞ」

「「ひゃっはーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」」

「何その女の子が言っちゃいけない叫び?!って何?!ちょ、まっ、イヤーーーー!どこ触ってるの何弄ってるの?!ひいぃいいいいいいっ、やめて止めてヤメテーーーー?!?!??!?」

「あああ、香澄の女装姿!可愛い可愛い可愛い!!おっとパンツまで女モノではないか、良いぞ、分かってるな!!!」

「ちょっと姉さん!下は最後って約束したじゃないですかっ。ほら、まずはブラの確認です!」

「いやぁあああああっ!脱がしちゃらめぇっ!!」

 上半身はともかく、スカートの中はダメだ!女モノ穿いてるなんて今知ったよ!!

「る、瑠々!お願い助けて!」

 今唯一まともそうななのは瑠々だけだ。頼む!

「ごめんなさい、もうしません、許してください、お願いです、二度とこのような事は致しませんからっ」

 一体お前に何があったんだ?!

「来栖なら今は無理だぞ。朱莉先輩から電話でお説教くらったらしいからな」

 どんなお説教でこんな状態になるの?!

「て言うか奏さん!約束が違うじゃないですかっ。なに姉さん達に速攻でバラしてるんですか!」

「心外だな。私は君の女装についてはずっと黙っていたじゃないか。ただ二人が最初から居ただけで」

 大人って汚い!

「って二人ともスカートの中に顔突っ込もうとしないでぇ!」

 男子が穿いてるスカートに顔を突っ込む女子ってどんな状況だよ!

「大丈夫です。対外的には仲の良い女子同士が戯れているようにしか見えません!」

「手足を縛った相手を二人掛かりで半裸に剥くのを戯れとは言わないよ!」

「よし、次は写真だ!数年ぶりの香澄の女装をしっかり記録に残そう」

「もう嫌だーーーーーーーーー!」

「もう、暴れないでください。動画しか撮れないじゃないですか」

 撮らないっていう選択肢が無い?!

「ちなみに部活創設の件だが、朱莉先輩にはお前が寝てる間に撮った『カスミちゃん』の写真を100枚程添付してメールで報告しといた」

「朱莉さんは何て?!」

「『最っ高!』と」

 希望は潰えた。

「お、いいですねそのレ○プ目いただきます」(パシャ)

「では、明日から頼むぞ。二人ほど程々にな」

「待って奏さん!この状況で置いてかないでっ。せめて縄を解いてーーー!」

 俺の懇願に振り向くこともなく、奏さんは講堂から出ていってしまった。

「はっはー!今からが本番だ!」

「いやっふー!いきますよぉ!」

「誰か助けてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ」

 

 いつになくテンションが上がった二人に散々玩具にされる中、今日は何をしても無駄だと気付き、俺は途中から考えるのを止めた。

 瑠々はずっと謝っていた。

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