初恋
恥ずかしくて目を閉じた。
スウッと唇の熱は引いていく。自分の唇を今にでも触って確かめたいが、すぐ側に彼女がいる状態でそんなことしたらかっこ悪い。ただ、黙って冷めていく感覚を味わった。せめてもの楽しみ方だ。
「初めて」
「初めて」
短い会話であるがお互いの気持ちがよく分かった。
「私、今······ううん、なんでもない」
何が言いたいのかも大体予想がついた。僕も同じだと伝えた方がいいのか、やめた方がいいのか。
知らない世界を知ってしまった気がした。少し大人になったような気がした。背伸びでは届かない場所に出てしまった。
ほんの一瞬触れただけでそれが分かるくらいに彼女の唇は柔らかく、そして温かかった。
向き合った状態でありながらお互い俯いて目を合わせようとしない。静寂が焦れったい。けれど大切な工程にも思えた。
もうすぐ大学生、初めてのキスにしては遅いのかも分からない。だからこそ一つ一つを大事にしたいという気持ちがあった。
両の手を絡ませて2人は繋がっていた。目さえも合わせぬままに。今はそれだけだった。それだけで十分だった。
「さよなら」
掠れた声で静寂を破ったのは彼女だった。
言いたくない言葉を。迎えたくない時を。
言わなきゃならない言葉を。迎えなくてはならない時を。
男のくせにうじうじして彼女に言わせるとは。
「……だけど、私もう少し、一緒にいたいよ」
じわりと目が潤んだ。下を向いているから気付かれないが、いずれ零れ落ちるだろう。
歯を噛み締めた。
間は空いたが、頑張って声を出す。
「うん、同じだよ。まだ時間はあるんだよ、きっと。っもう少しだけど」
その時は明日に迫る。
「離れても一緒だから。信じてるから。私も」
そう、僕も。僕も信じてる、言わなくても分かっているのが嬉しい。そんな君に、
「ありがとう」
少し上擦った声で返す。
「ううん、こっちこそありがとう。ねえ······もう一度」
僕は顔を上げて、ゆっくりと重ねた。
今度は一瞬でなく、2秒、3秒。長い瞬きと同じくらい。
「ありがとう」
「ありがとう」
まるで合図かのように絡まった手を同時に解き、彼女の頬に当てた。親指で目元を拭う。そしてこれで、最後。
「さよなら」
時間なんて無くて。今日が終われば明日の早朝にはもうここにはいない。僕は行くのだから。必ず。
「じゃあね」
――今日ばかりは、かっこつけても良いのかな?
「また会えるなら連絡頂戴ね。待ってるから」
「うん。……愛してる」
「わ……私も!」
今までで一番の彼女の笑顔だった。『美しい』といえる笑顔だった。
さよなら、さよなら。遠く離れても繋がっていること忘れないで、君も。
スロースピードの恋はその分いつまでも回る。熱く燃え尽きる恋よりも、温かく柔らかく。
うわーーー、初めてです、こんなの書いたのは。自分でも緊張してましたよ~。というわけで私にとってもファーストな作品です(笑)
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!