辻
線路伝いにあてもなく歩いていた。遥か先までこの鉄と木材を合わせた電車の檻は続いている。行き先は決めていないわけだが、それでも何かの標が欲しかったから線路に従うことに決めた。人間が作ったものだ、どうせどこかで途切れるに違いない。永遠は恐ろしかった。勝手に辿り着く駅は欲しかった。
敷詰められた黒茶色の小石のうち、気に入った形のものがあればなんとなくポゥケットにしまい込みながらここまできた。そろそろ右のポゥケットが一杯なので次からは左のに入れなければ。そんなくだらない警鐘を自嘲しつつ、少し走ってみることにした。
あてもないわりには、ここでだらだら歩くのが惜しくなったのだ。
走る、という行動選択にもっとも驚いたのは自分の脳の次に左足の踵だったようで(その次は肺だった)、すぐに靴擦れができた。なので走るのはもうやめにした。若干の疼痛を踏みつぶしながら再び歩き始める。
ふと右ポゥケットを右手がかすめた折に、中に入っているはずの小石たちがいなくなっていることに気がついた。走りながら落としたのだ。グレイプジュウスとグレイプフルウツジュウスとを勘違いして注文したときほどの残念さがあった。なので小石を拾うのもやめにした。どうせなくすのだ。
特に何を自分に課すでもなく、また何かの思索に耽るでもなく歩いてくると、線路の四つ辻だった。
はて。線路に辻なんぞあり得るのかしら。
それに、
どの標を選ぼうかしら。
もう一歩も歩けなくなってしまった。