24:夕焼けが燃え尽きた日に
グロ回。
夢現の悪魔
『絶望の中で見つけた希望ほど大きな光はありません。
目を奪われてしまうのは、何も運命などではありません。
そうそれは、唯の必然なのです。』
*
「おにいさん、怪我してるの?」
子供特有の耳障りな高い声。放って置いてくれ。俺はもう死ぬんだ。寝かせてくれ。邪魔するな。
そう思って薄目を開ける。何だ俺はもう死んでいたのか。
だってこんな髪の人間見たことがない。あの空のように真っ青な綺麗な空色の髪。
泣きたくなるほど醜い物を見た後だからか、その子供がとても可愛らしく見えた。まるで妖精のようだ。いや、水の精だ。人魚とはきっとこういう者のことを言うのではないか?そんな風に思わせる何とも可憐な少女の姿。
「うーん……あ!」
彼女はキョロキョロと周りを見渡して、俺が帯剣していることに気が付いた。それを手に取り子供は笑う。
そうかこいつが死神か。俺に止めを刺しに来たか。それともこいつが悪魔か。召喚にも応じなかった癖にしっかり対価を取りに来たのだろうか?
まぁどうにでもなれとそれを見守っていると、子供は仰向けの俺の、その腹の上に乗る。そこから首を狩るつもりか。そう思ったのだが……事もあろうにその子供は俺にではなく、自分自身の首に刃を持っていく。ちょっと躊躇う仕草の後。首に剣を押し当てて血を流す。
「な、何を!?」
「僕も痛いよ」
そんなお揃いがどうしたというのか。まさか一緒に死んでくれるとでも言うのか?いや子供がそんなことを考えるか?助けを呼ぶまで無理にでも笑わせて気を紛らわそうとしたのか?だけどこんな物で笑えるか。血がだらだらと出ている。このままでは死ぬ。止血しなくては。しかしもう両手の感覚もない。動いたのは首から上だけ。気休めだ。その傷口を舐めあげた。
瞬間、僅かに身体の痛みが引いた。唇がその細い首筋から離せない。その血を啜ること数分、視界もはっきりしていく。
「お、おい……大丈夫か?」
全身を焼いた火傷の痛みも引いている。刺された腹の傷も塞がって言う。不気味だったが身体は動く。代わりにぐったりとしている子供を抱き起こした。その頃には周りの景色が俺にはちゃんと見えていて、ここが紛れもなく現であることを知る。
「もう、痛くない?」
「あ、ああ……」
「そっか」
そう言って微笑む子供。その言葉に俺は驚いた。安心したようなその声に。
この子は他人だ。身内でさえ蹴落とし合いをしている俺は身内に心配されたことなどない。あったとしてもそれは俺を推す支援者に。それは別に俺への心配ではなく自信の富と権力への見返り、それへの心配だ。身内でさえ俺を省みないのに、この子供は他人の俺のために……?
「お、おい!」
急に力を失って、糸の切れた人形のようだらりと伸びた子供の身体。一瞬死んだのかと思って焦ったが、すぅと寝息が聞こえほっとした。
(まったく……何処の家のお嬢さんだ?)
身なりは良い。上層街の人間で間違いないだろう。送り届けなければ。その前にちゃんと手当もしないと。
*
出会った頃のシエロ様はよく笑った。私に笑いかけてくれた。それは同じ選定侯家の友人と不仲になると言うことが、私に出会う前にあったからだのようだ。私を新しい遊び相手とすることで心の傷から目を逸らしたのだろう。
フルトブラントの家に子供がいるとは知っていたが、表には殆ど顔を出さない。何か理由があるのかと思ったが、別に病弱というわけでもないらしい。髪の色が少々周りと違うことも、選定侯家の人間と知れば納得できた。あの子は先祖の血が表に出ているのだろう。
勢力争いに負け、もう何年も表舞台から姿を消していた私を、フルトブラント家の人々は覚えていなかった。シエロ様から貰った名前を名乗れば気にせず、この子が懐いているからと私を雇ってくれた。
そんなシエロ様が昔のように私に笑みを見せなくなったのは……その呪いを私に知られてしまってからだった。
貴族にしては珍しく風呂も着替えも幼少から使用人に頼らず一人で済ます。彼は不思議な子供だった。だから私も女の彼を見た時は、「やっぱり娘を男装させて跡継ぎ代わりにしていたのか」程度にしか思わなかった。
しかしあの時、彼はこの世の終わりのような顔をした。そして言い訳のように呪いの話をした。その顔は必死に遊び相手である私に嫌われまいと縋り付くそれ。
人魚の話を聞いて、出会ったときの事を思い出す。確かに怪我はあり得ないほど早く治った。致命傷を食らったはずなのに一命を取り留めた挙げ句、ものの二週間で完治した。その理由を知られたら、気味悪がられるのではと彼は酷く脅えていた。あの日のあの行動の真意は、私に人魚の血肉を口にさせることだったのだ。
「人魚の子孫でも、シエロ様は人間でしょう?」
「でもアルバ、僕と違って全然背伸びない」
「私はもう大人ですから」
そう言いながら背筋がすぅっと寒くなるのを知った。子供は人の心の動きに聡い。口では何と言おうとも、彼は私が焦り始めたのに気が付いた。
その日から少しずつ、彼は笑わなくなり……彼の呪いについて調べる内に、月日は流れ……私自身人魚の血の恐ろしさを知ることになる。
拾われて5年くらいからか。いくら何でも老けない。皺一つ増えない。そんな私に周りが疑念を抱き始めた。私が何者なのか周りは怪しく思い始めた。それを知ったシエロ様は私を連れて本家から出た。
その頃にはもうシエロ様はいつも申し訳なさそうに私を見るようになっていた。そんなシエロ様に私は、仕事の面で彼を支える以外の方法を見出せなかった。それ以外何を言っても、駄目だと思った。
寿命を減らす方法を考え事あるごとに悪魔を召喚してみたが、過去の失敗もありあまり上位種には手を出せなかった。屋敷の部屋掃除や窓ふき草毟り。そんな小さな仕事を後何年やらせれば人並みの寿命まで減らして貰えるのか。9年足掻いてやっと1才程度老化できたか、そんなもの。
年々シエロ様との溝は深まっていくばかり。私を助けたこと。それが私の望みではなかったのかも知れないと、あの人は人魚の血を本当に厭い始めた。
シエロ様にはアイデンティティというものが不足している。呪いのために、明確な自己という物を持っていない。こうありたい自分という物を持っていても、それに至れない自分に嫌気が差し、余計に自己嫌悪に陥る。
そんなシエロ様を変えたのは……シャロンという少女だ。彼女との生活で、シエロ様はまた昔のように笑うようになった。唯それが私ではなく、彼女のものになった。別にそれについては何も思わない。またシエロ様が明るくなったのならそれで結構。彼の二倍も生きていて、下らない嫉妬心など抱くはずもない。
恋という概念を得たシエロ様は、初めて自分という物を強く胸に抱くようになった。あやふやな場所を生きていた彼が、初めて男としての自分というものを明確にイメージできるようになったのだ。だからこそ彼は彼女にとても感謝していたし、歌姫シャロンはシエロ様にとって誰よりも大きな存在となった。
しかし、言うなればシエロ様の自己はシャロン様に頼り切りの所があった。故に彼女を失うと言うことは自己の喪失に他ならない。それもそのはず。シャロンが好いてくれたから、自分が好きになれた。彼女に触れたいと思うからこそ、自分が男と思い出す。彼女が人魚を目指すなら、それじゃあ僕は王になろう。何から何までシエロ様はシャロン様を軸に据えた世界を生きてしまうようになった。
そんな彼女を失った日のシエロ様は壊れた目をしていた。何時街の人間片っ端から殺しに行くぞ着いて来いと命令されても応じる位の覚悟は決めていた。それでもシエロ様はあくまで犯人への復讐を望んだ。彼女と同じ目に遭わせてやると、壊れた瞳で笑い泣く。ああ、これはもう駄目だ。もう二度とこの人があんな風に笑う日は来ないのだろう。そう、半ば確信していたのだ。
それなのに下町から戻ったシエロ様は、そばに彼女そっくりの少年を連れ、完璧にとは言わないが持ち直していた。
10年掛けて私には出来なかったこと。たかだか数日で成し遂げたあの少年こそあの人に相応しいのだと私は思う。
シエロ様が復讐の先の未来を見据えるようになった。死ではなく生を見つめるようになった。その目の見据える方向が、どうか明るいものであって欲しいと……私は願わずにはいられないのだ。
*
夢現の悪魔
『cra cra!cruaaac cruaaac!
シエスタからのお目覚めかしら?
それにしては少しばかり、長く眠っていらしたようね。
まぁ、怠け坊さん。さぁ、働きなさい!
約束の時間は、もうすぐそこなのですから。』
*
「はっはっは!私に騙されるとは、全く可愛らしい選定侯様で」
「貴様っ!何故私を起こさなかった!!」
アルバは怒る。契約し従えたはずの悪魔の言葉に。
「おやおや。生憎私はだなご主人様。君にあの色男君が歌ったら自分が眠らないように守れだの、すぐに起こせだの命令されていなかったのでなぁ!命令以外の行動は契約に反するかと思ったまで」
「それで何故向こうと連絡出来ん?」
「それはシエロ様が使い魔を連れてお出かけに」
「音声を繋げ」
「それですと推理小説になりません」
「これまでだってそうだろう」
「いえいえ。先程までは貴方はシエロ様の居場所を知っていた。故に繋げた。しかし今は解らない。ここで私が音声を繋ぐのは推理小説としてよくないことです」
まったく悪びれずに地獄の第六領主エペンヴァが笑う。
事もあろうに意識が途切れる寸前、この悪魔はアルバの声真似で向こうのシエロから謎を聞き出そうとしていた。おそらく聞き出したのだろう。それなのにこの悪魔はまったく話す気がない。自分を睨み付ける人間を面白そうににたにた嘲笑う。窓の外はもうすぐ夕暮れ。秋の日没は早い。一瞬だ。何故かそう思うと気が急いた。
「貴様は今日よりペテンヴァにでも改名しろ」
「だが断るぞマスター。悪魔にとって名前とは真摯なものさ。言うなれば魂の名。私の誇りでもある」
「それでシエロ様はどちらに向かったのだ!?」
「それも答えられないな。この世界はまだピリオドが打たれていない。まだ推理小説という枠組みに囚われている。つまり君ら人間が寝ているところで彼が発した独り言。それを私が伝えてしまうと言うのは推理小説として矛盾するのだよ」
情報収集が矛盾しないのは、人海戦術を用いれば手に入るそれに限るという建前があるから。しかしその分人を招けば犯人になりうる人間が増える。
故に悪魔を使う。悪魔がこの推理小説という枠組みで犯人になることは絶対にない。故に信頼の置ける駒。そのはずだ。
使い魔を使った通信も、いざとなったら此方と彼方までの道程に大勢の人間を配置し即座に伝達する……それを簡略化し時間の短縮をするという名目があって使役可能になる技。カロンが仮契約で得た力も、本人の謎への嗅覚、直感を研ぎ澄ましヒントを見逃さない……そういう注意深さを彼が持ち始めた。そういう言い訳で彼に与えることが出来た力。実際悪魔が居なくとも何とかなる。しかし謎の匂いが薄れる前に事件を追わなければならないがため、悪魔の力は必要だ。
(しかし、こいつらは悪魔だ)
それは痛いくらい知っていたはず。なのに油断した。連日の疲労も相まって、人魚の歌はアルバに深く作用した。
「仮初めの我が主よ。彼を助けたければ謎を解け」
こいつらは何時もそうだ。悪魔という奴はこれだから信用できない。
「まぁ、間に合わなかったらあのお美しいシエロ君が我が領民になるまで」
「貴様、そんなにすぐに魔力が欲しいか!?」
「いやはや彼の魂は素晴らしい!使い捨てにするのは勿体ない程日々良い魔力を生み出すぞ!今から彼が死ぬのが楽しみだ」
「……っ、外道がっ!」
「褒め言葉さ」
「聖人が。善人がっ!」
「はっはっは!よく言われるよ」
駄目だ。この悪魔流石は魔王。最弱とはいえ魔王は魔王。その辺りの悪魔などより何倍も質が悪い。使役がこんなに難しいとは。
「まぁまぁ、そう怒るでないよ。私も君を少しは認めてはいるのだぞ?よくもまぁ、それでもあの能無しアクアリウトの家から私を呼び出せるほどの悪魔使いが誕生した。それは誇って良い」
忌まわしい名だ。もうとうに捨てた名だ。シエロ様に拾われた日に、私は別の人間になったのだ。
メモを見て唸る私の周りを悪魔はくるくる周りながら、思考の邪魔をしてくる。
「しかし過去に第一領主の召喚に失敗したようだね。ははは、流石にそれは身の程を弁えたまえ。如何に燃えたぎる復讐の念と言えど、そんな身内数人程度にしか向かわない小さな怒りでは、彼の怒りを買っただろうに」
思い出したくない古傷を悪魔はちくちく突いてくる。悪魔などと言う物は殆どが変態でサディストだ。あの第四領主は本当に稀で貴重な悪魔。協力が得られたのは有り難い。
「君のその瀕死の傷を癒したのが彼なのだね。まったく素晴らしい逸材だ。その身体まで魔力を帯びているとは。どうせ焼くか埋めるかなのだ。勿体ない。死んだ時には是非とも私に食らわせていただきたいものだ。その前に一度屍姦もいいかもねぇ」
「黙れ!シエロ様はまだ死なせんっ!推理の邪魔だ!消えろ悪魔っ!」
「はっはっは!これはこれは失礼失礼」
「二度も言うな」
「これはこれはこれは悪悪悪悪かったですね」
悪魔は謝罪の誠意など見せず三度に四度繰り返し姿を消した。その去り際に奴は……声だけを残していく。
「知っていますか我がマスター。第七領主は心のままに暴走する人間がお好きです。心を殺し主に忠誠を誓う男などより、醜い物全てをさらけ出して彼を求める男の方が余程興味を持つでしょう」
「何が言いたい」
「狂いなさいませご主人様。これが悪魔エペンヴァ最初で最後の忠告です」
貴方が第七領主の興味を惹けば、多少行方死れずの彼の不幸の度合いも減るでしょう。悪魔はそんな囁きを最後に音を殺した。
「くだらん……」
馬鹿なことを。
この状況で無理矢理あの人を物にしろだと?それこそカオスの渦だ。あの少年が再びシエロ様を笑わせてくれた。ならば私の出る幕はない。
「くそっ……」
もう暗くなっている。そらには月も浮かんでいて……
「月、だと!?」
不意にメモの言葉が目に入る。疲れから一瞬ぶれた。1文字抜かして読んでしまった。だが、それが良かった。
「月夜にあわない……?そうか!」
シエロ様は7とか1とか言っていた。乱暴に当てはめれば文章として浮き上がる物もある。そこに記されていたのは……
「悲しが、仮死か」
他にも痛いが遺体など、物騒な変換を臭わせる。区切る場所を違えれば、歴史が騎士に変わる。この場合の騎士とはシエロ様のことだろう。その騎士が消えると言うことは、これは犯人はシエロ様に悪意と殺意を持っている。
「くそっ!」
申し訳ありませんシエロ様。命令に背きます。持ち場を離れます。貴方を死なせるわけにはいかない。
(私をこんな身体にしたんだ)
10年に1度年を取る。それが悪魔一匹で4年ずつ引かれる。悪魔二匹と契約しても貴方の2倍は生きるぞ。せめて責任を取ってくれ。せめて半分。貴方が寿命で死ぬまで、それを見取らせて欲しい。そして後半分は、貴方の孫や子供の世話をして人生を費やす。そのためには何としても貴方に生きていて貰わないと困るし、呪いをフル活用して貴方にそっくりな子供をあの少年と作ってもらいたい。
何が楽しくてそんなに長生きできるだろうか?その位の縁を私に残して欲しい。仕える喜びをどうか奪わないで欲しい。
暗号を解き終え、飛び出した屋敷。それでも施錠は忘れない。使い魔もしっかり残させたし確立も操らせた。気休めだが他に打つ手はない。
(“0$街1小舟2”!)
価値のない街。それは下層街よりも下。つまりは下町。その1番通りか1丁目か何かのナンバー2と記された小舟。
そこが待ち合わせというのなら、舟を漕がれたら本当に手がかりを無くしてしまう。下街中捜索させるためにも、やはり悪魔の力は必要だ。
(場所は下町っ……間に合うか!?)
待ち合わせがどうか夕暮れでないことをアルバは祈った。
*
夢現の悪魔
『私の私のお兄様。素敵な素敵なお兄様!私の自慢のお兄様。
10年前も今も昔もやっぱり貴方は素敵です。
やはり街を焼く兄様はとても輝いて見えます。
その冷たい態度が、アムニシアには堪りません。嗚呼、お兄様っ!』
*
「それで、何が望みだ?」
「決まっている。この俺から人魚を奪い、子を孕ませ、王になった兄への復讐だ!地獄の第一領主エフィアルティス!この国の王っ、俺の兄アクアリウス帝を久遠に殺せ!」
その悪魔が司るは久遠。つまりは永遠。悪夢の中に人を閉じ込め死して尚終わらない拷問を与えることが出来る。
しかし悪魔は呼びかけに応じたものの姿を現さない。魔法陣の中には誰もいない。現れる気配もない。それに焦りを感じた男は、必死に願いを口にする。
「憎きあの男っ!一度殺す位では生温い。俺から全てを奪った男に報いを与えてくれ!」
「貴様の境遇……哀れまないことはないのだが」
魔法陣の向こう側で、溜息を吐く音がした。
「断る。それを叶えたところで俺には何の特もない。貴様の魂に魅力を感じない」
「魅力が無いだと!?貴様それでも憤怒属性か!?この俺の怒りに触れて、怒り狂う俺の魂を欲する気が起きないと!?」
「……その程度の怒りで俺を呼ぶか」
「な、何だと!?」
「真に怒り狂うという意味が、貴様には解らぬのだろうな」
「……俺に何が足りないと言うのだ?」
「復讐のために俺を呼び出すところまでは悪くない。命短い人の子よ、10年もの歳月を研究、復讐に費やし、人としての喜びの何一つ見出さなかったその苦行は讃えよう。しかし人間、一つ教えよう。俺を召喚した時点で貴様は俺と契約する資格を失った」
魔法陣を敷き、悪魔を喚び出すという行為自体が、この悪魔の気力を萎えさせるのだと言う。しかしおかしい。そんなやる気のない悪魔は第二領主の方だったはず。他の悪魔から交換で巻き上げた此方側では手に入らない書物を漁るに、第一領主は戦好きの勇猛なる戦士だと聞く。魔王の中でも武闘派だ。これまでその怒りで滅ぼした世界は五万とある。だからこそ魔力は地獄随一。他の同僚達よりも抜きんでている。だから魂を糧に魔力を得るという行為に困っていない。契約には選り好みが激しい。そういうことか。
「解らないか?真に怒り狂う者は、こんな回りくどいことはしない。自分の手で復讐を果たし、胸の渇きを血で満たすだろう。我々悪魔は興味を持った相手がいれば、このような召喚などなく我ら自ら相手の前に現れ契約を持ちかける」
お前には理性が残っていると悪魔は言う。
復讐など、その先に何もない。幸福などあり得ない。それを知って手を汚す覚悟もない。
「貴様はあわよくば男を殺し、その後釜として女を取り戻すつもりだったか?甘い。生温い。他の男と子を成した女をまだ女をして見るか人間よ?」
「……なら、何だって言うんだ」
「母とは時に聖母、時に魔王よりも恐ろしい手負いの獣よ。もはや人間ですらない。善悪の価値観、判断は、貴様ら以上に歪んでいるぞ」
復讐の先に自分の幸せを描こうとする浅ましさ。復讐に足が着かないように、悪魔を使って復讐を行おうとするその卑劣な態度が気に入らんとその悪魔は言った。
「喚んだ時点で貴様は俺の興味の範疇外。契約する気など起きん。……せめてその裏切り者の女を手に掛け生贄にでも捧げよ。その程度の覚悟も得られぬ男に、俺は用など無い」
「ま、待てっ!」
「奇しくも今日は旧友との用事がある。これ以上無駄口叩いて邪魔をするならそれ相応の報いを受けろ」
魔法陣から立ち上る火柱。それが一気に部屋を飲み込んだ。屋敷を抜ける頃には、全身火傷だらけだった。あれは悪魔の攻撃による炎だ。普通の手当では駄目だ。皮膚がどんどん爛れていく。
(水を……早く聖水を用意しなければ)
城の近く、上層街の一角には教会もある。そこまで身体は保つだろうか?よろよろと、中層街から上を目指した。
しかしその途中、何処まで来たか解らない。出会い頭貴婦人に、ぶつかり身体が傾いだ。
「まぁ!大丈夫ですか!?凄い怪我っ!貴方っ、お医者様を!」
「い、いえ……そんなことより水を、聖水を」
医者にこれは治せない。なんて説明すればいいのか。そんなことを悩む内に、その貴婦人が悲鳴を上げ出す。
「その声、まさかアルっ……貴方なの!?」
「……まさか、君なのか……?」
焼けこげた俺を見て、それでも彼女は俺が解った。やはり彼女はまだ俺を愛しているのだ。でなければ解るはずがない。そう思った。思ってすぐにそれを否定するよう、激痛が走る。
彼女の後ろにいた少年が剣を抜き、俺の脇腹を刺したのだ。
「母様に近づくな変態っ!化け物っ!この糞尿愛好症者っ!」
「イリオン!貴方なんてことを!」
「だって母様こいつ変態だよ!こんな昼間から半裸で黒こげで、母様の聖水が欲しいなんて言うんだから!」
「ば、っ……ばか、が……っ!」
そういういやらしい発想をする方が変態なんだ。言い返す気力も尽きて倒れ込む。
なんて躾のなっていないマセガキだ。こんな子供がなんて隠語を知っているんだ。あの男か。あの男がろくでもないことを教えているのか。自分の兄の性癖なんて知る機会など無かったし知りたいとも思わなかったが、それがまさかこんな半分死にかけの状態で知らされることになるなんて。
「こ、これっ!よ、世の中にはいろんな人がいるのよ!べ、別にそう言うのは本人達の同意があれば別にそんなあれでなくて、目の前で見られるって言うのまた……」
「どうして母様顔が真っ赤なの?」
今日一番のショックは、悪魔に振られたことではない。俺の人魚が、俺の歌姫が……俺の恋人だった女が、俺の知らない表情をしたこと。
海神は生娘の方が好きだ。だからその加護が得られるよう、結婚するまで彼女のことは大切にしようとして来た俺だ。彼女とキスより先はしたこともなかった。その隙をあの男が突いて、無理矢理彼女を物にした。それで王位を俺から奪った。選定侯の恋人。悔しいが、あの指輪が示すのは苗字だけだ。こんな風に、兄弟がいれば奪うことも奪われることもよくあることで、それを認めてすら居る。
そんなことより、何より誰より清らかで可憐だった俺の歌姫。悪魔の言葉が甦る。怒り狂えよと悪魔が俺に囁く。
なんだこの汚らわしい糞豚は。これが俺の愛した女だって言うのか?あの男の汚い物で心身共に汚されたんだ。とんでもない性癖に開花されてらっしゃるじゃないか王妃様っ!
(殺してやる、殺してやるっ!)
何もかにも許せない。この10年っ!16で酷い裏切りを知った。手にしたはずの王位が奪われた。愛した人さえ寝取られた。この10年っ!この人が苦しんでいるのだと信じて、助け出す日を夢見てっ……国王の暗殺を企んだ。卑劣な兄に勝つためには、城の警備をかいくぐるなどとても無理。悪魔の力でも借りなければ不可能だ。どうせ復讐するのなら、一番強い悪魔が良い。それで目に物見せてやる!死後魂がどうなろうと知ったことか!今生彼女と幸せに添い遂げられるのなら!そう思ったからこそ俺はっ!
数々の悪魔を騙し、下級悪魔から上のランクの悪魔の情報を少しずつ集め、そうやって呼び出せる悪魔のランクを上げた。それでようやく魔王さえ召喚できる下準備が整った!だと言うのに!
その間この女は何をしていた?幸せな家庭?あの男との変態プレイでお盛んに夜の営みに励んでらっしゃったと。そんな売女っ、海神とまともに話が出来なくなって当然だ!俺が海神でも見限る!こんな女が人魚を名乗るとは世も末だ。
「うぅっ……、はぁっ……」
俺は腹に刺さった剣を抜く。血が溢れたが気にしない。目の前の人間二人。そのどちらも憎かった。俺を裏切った女。その女が股の間から捻り出した汚らしい肉塊。
まずは、子供からだ。悪魔は言った。女ではない。こいつは母だ。それならこんな汚物でも殺されれば悔しかろう、痛かろう!精々嘆け!貴様らも地獄への道連れにしてやる!
二つの首を引き摺って、城に殴り込んでやろう。王に辿り着くまで向かってくる奴全員殺す。逃げ隠れするなら街中の人間ぶっ殺す。他の国に逃げるなら、この世界事破壊する。
なぁ、悪魔。俺は良い感じに狂って来ただろう?風向きも変わって来たはずだ。狂え狂え狂えっ!もっとだもっと!悪魔さえ魔王さえ俺を畏怖し欲しがり契約を迫るくらいの悪意と狂気を身に宿せ!目に映る景色全てを破壊してやろう!
振り上げた剣。それを下ろす寸前に女が思いきり俺の急所を蹴り上げた。そして動きを封じたところで剣を俺の手から奪う。
「私の子に何するのっ!今更何のつもり!?本当にっ、今更っ!私を守れもしなかった男が!稼ぎも無さそうな見窄らしいあんたが!未だに私のナイト気取りのつもりなの!?」
俺を罵る度、俺の腹に穴を開ける女。振り下ろされる剣。
のし掛かる女は重い。あの頃は軽かったのに。触れたら、抱き締めたら折れてしまいそうだと思ったのに。今では俺の骨が軋んで悲鳴を上げている。
「私を取り戻したいっていうなら余所の国攻め落としてでも来なさいよ!それで金銀財宝持って来るのよ!この子、殺そうとした慰謝料もきっちり払うのよ!!」
お前の息子がその直前、俺に何をしたか忘れたか。正当防衛という言葉を知らないのか?なんなんだこの肉塊。言葉を発するだけで耳障りなのに。
少しずつ、音が遠離る。耳障りな声が消えていく。ああ、やっと終わるんだ。そう……思った時だった。
「おにいさん、怪我してるの?」
俺はそこに天使の微笑みを見た。
*
夢現の悪魔
『ぐるぐるぐるぐる降りる下る螺旋階段。まるで走馬燈のようだわ。
彼が過去を思い出す時は、その人もまた過去に思いを馳せるのでしょう。
だけど悲しいことに、二人は思い出す相手が違うの。
仕方ないわ。彼は口があるのに本当を、何も伝えずにいたんだもの。』
*
「シエロ……様」
アルバは駆け寄る。あの日とは役者が逆だ。倒れているのが彼で、駆け寄るのが私になる。
下町の薄暗い路地。漂う小舟の中。まるでその小舟が棺のよう。敷き詰められた花の上、彼が目を閉じ仰向けに、寝かせられていた。
何の、冗談だろう。足や腹や胸、あちこち刃物で貫かれた後がある。胸の上で組まされた、両手の指が折られへしゃげている。
間に合わなかったと呆然と立ち尽くす中、悪魔が姿を現す。
「やぁやぁ、我が主。ご機嫌如何かね?」
「…………消えろ。今すぐに」
「まぁ、そう言わないでくれ」
「貴様はこれで満足か!?この方の魂が手に入って、さぞいい気分だろうなっ!!」
「まぁ、そう感情的になるのは止したまえ。生憎まだ我が領地に魂は届いていないのだからね」
「……何!?」
言われて気付く。そうだこの方は人魚の血を引いている。自己治癒力は人のそれよりも遙かに高い。そっと脈を確かめれば、まだ確かに息はある。
「良かった……シエロ様」
傷が痛まないように、そっと抱きかかえれば……それでも痛んだのだろう。彼が瞼を震わせる。
「そこかシエロっ!アルバっ!」
背後から聞こえる声と足音に、アルバの腕の中のシエロが狼狽える。ぎゅっと私の服を握りたそうで、握られないその手が震えていた。歌に眠らされたこと。置いていかれたこと。それから大怪我をしたこと。そのどれもがカロンを怒らせるには十分。
それでも彼は本当にこの人が心配なんだ。近寄れば怒りよりもそれが勝った顔で狼狽える。
「シエロ……お前っ!なんでそんな大怪我っ!痛くないか?大丈夫なのか!?俺医者の先生呼んでくるっ!」
「止めて下さいカロン様。手当なら私が出来ます」
「でも!」
これを行ったのは犯人。シエロの怪我が表沙汰になれば、それは彼の望まぬ結果になる。それをアルバは訴える。
「手当の出来そうな場所に案内して下さいっ!お願いします」
「……わかった」
強い口調で語ればカロンはやがて頷き、民家の一室に通してくれた。
*
「ふぅむ、なんとも風流な」
「なんてこと言うんですかエペンヴァさん!貴方はシエロさんがこうなるところっ!見てたんでしょう!?」
「いや生憎。現場に着いたところで相手の悪魔に私の使い魔を殺されたのでね。そこから先は私も未知の領域だったというわけさ」
「何が風流なもんか!お前っ……シエロが気に入ったんじゃなかったのか!?なんでこんな姿のシエロ見てっ!嬉しそうな顔出来るんだよ!?」
二人の悪魔の会話に割り込むカロン。気持ちはよく分かるが、その大声をアルバは咎める。
悪魔の声は現実には存在しない。如何に悪魔と言えどシエロの休養を邪魔するつもりはないだろうから声も今は聞こえなくしているはず。だから今はカロンが一人で騒いでいるようなものだ。
「お静かに。シエロ様がお休み中です」
「ぐぅっ…………」
「でも確かに、その通りではあります。犯人も推理小説らしく対抗して来た」
「別に両手の骨折られてたって、シエロが起きればちゃんと話してくれるだろ?」
何も知らないカロンの言葉にアルバは一瞬伝えるべきかを思い悩んだ。シエロがそれを知られたく無さそうだった。しかし二人は恋人だ。いずれ知られることだろう。
(ならば……せめて)
今は心を鬼に悪魔にするしかない。
「それは無理です」
「なんでだよ?」
「シエロ様の舌がありません」
「…………え?」
「人魚の血があるとはいえ、失った物まで回復するとは思えない。犯人はシエロ様が文字で言葉で犯人を伝える術を奪ったのです」
「まだ眼球があるだけ生やさしいと思うがね。質問をしてはいといいえで右を向く左を向くなどやれば、いくらか情報は聞き出せるのだから」
アルバの宣告に、エペンヴァが悪魔的観点からの横やりを差す。それにはアルバも同意する。確かに、まだ優しいものだ。
「つまり犯人は、カロン様。貴方との勝負を望んでおられます。シエロ様には探偵役も助手役も、もうさせるつもりがないようです」
「そんな……シエロ…………もう、シエロは……歌えないのか?」
その場に膝をつき、ボロボロ涙を流す少年。
「咽は潰されていませんが、舌が無くては……頑張ってもうなり声位しか出ないかと」
「ゆ、許さねぇっ……シエロを何で、こんな目にっ!!」
少年は怒り狂う。その膨大な怒気に、アルバも悪魔二匹も息を呑む。凄まじい怒りだ。
(シャロン様を失ったときのシエロ様……いや、それ以上に)
アルバが渡した赤い宝石の短剣が、彼の手の中で光る。この剣で犯人を抉ってやる。その舌切り落としてやる。カロンはその殺害のイメージを展開しているのだ。
(なんて子供だ……)
恋人を傷付けられて、怒り狂っている。怒りで何もかもが壊せるなら、この世界事滅ぼすことも厭わないような、先のない狂気。刹那を駆ける魂の光。
《………怒り狂える人の子よ》
その危うい光に魅せられるよう、魔法陣もないのにかつて声だけ聞いた悪魔が姿を現す。長い黒髪に、立派な二本の角を持つ威風堂々とした麗しい青年の姿。その目は紅蓮の炎、地獄の業火の光を宿す。
「え、エフィアル様!」
「おやおや、第一領主様までお出ましとは。引き籠もり魔王の第二領主様以外は全員出そろったと言うわけですか。これはこれは、後にも先にも1万年はまたとない余興になりそうだ」
「カロンさん!頑張って!エフィアル様が味方に付いてくれれば本当に凄いです!」
「だがな少年。同時に危ういことだぞ。彼を御しきれなくなればその身はおろか、近隣諸国ごと海へと沈むぞ」
同僚中最高位の悪魔が現れて、他の二領主の声には若干怯えめいた震えが生じていた。同じ世界に召喚され、敵対したなら我が身が滅ぶとこの二匹は知っているのだ。
「……真に小さき人の子よ、何が望みだ?」
少年を高く見下ろす、赤目の悪魔が呟いた。
「俺のシエロを傷付けた奴ら……シエロを苦しめるものがあるならその全て!俺はぶっ壊す!力を貸せ魔王っ!」
「愛する者一人のために、その他の犠牲を肯定するか?」
「百人でも、一千人でも一万人でもそれ以上でも!シエロを傷付けるなら、俺が海に沈めてやる」
「そんな貴様を見てその思い人が貴様を見限るとは思わないのか?」
「思わない。仮に俺とあいつの立場が逆でも俺は見限らないから。だからシエロも俺を見限らない」
「何故そう言い切れる」
「俺がシエロを好きだからだ」
「理論が破綻しているが」
「どんなに間違ってても、曲がっていても歪んでいたって!本当に心から好きなら!強い思いは必ず届く。届かないなら本当に心から好きじゃないんだ。まだまだ、狂い足りないんだ!俺より強くあいつを想う奴が居るなら、それ以上に俺はこいつを想う!そこまで愛されて、シエロが俺を嫌うはずがない!」
アルバは思う。自分の時とは違う言葉の応酬だ。第一領主もカロンには興味を持っているのか、会話が長く続いている。
端から聞けばカロンの言葉はおかしい。既に歪んでいる。それでもそれを聞くアルバは自分が責められているような気になるのだ。過去の、狂え無かった10年前の自分を責められているようで……何とも言えない気持ちになる。
それでも唯、今更シエロに手を伸ばしてもこの少年には敵わないのだろう。それを強く感じた。
「…………よかろう。虫螻に等しい人の分際で良く吠えたものだ。後学の参考までに暫く力を貸してやろう」
(うわ……あの人絶対イスト攻略するための参考にしようとしてますよ)
(ふむふむ、流石は脳筋第一領主。恋愛事はさっぱりなのがよく解るねぇ)
「何か言ったか?」
同僚のひそひそ話に耳聡く振り返る第一領主。その殺気に二匹の悪魔は首を振る。第六領主は毎度恒例口笛だ。
「じゃあ契約って……あんたとキスしなきゃ駄目なのか?」
「……それはそこで寝ている者のために取っておけ。その剣で何処か傷つけ血でも出せ。協力期間内、貴様の狂気に宿る魔力を提供して貰う。対価はそれで構わん。魂など間に合っている。それに恋人持ちなど我が軍門に眷属として迎えても、妻が気になり本気で戦えないだろう」
そんなリア充は軍の士気を下げるだけだから要らん、来るなと第一領主は手を払う。
そして指先から血を出した、カロンの血を吸い鼻で笑って、契約完了だと呟いた。
(あれっていい人みたいな顔してますけど、単に自分がイスト以外とキスしたくないだけですよね。悪魔としてどうなんですか?)
(仕方あるまい。エフィアルティス様はまだお若いのだ。というかエング君。君キスまで何百年とか言う割りに契約の時はやるんだね)
(契約のはノーカウントです。仕事ですから)
(つまり我らが第一領主様は仕事に私情を挟み込むというとんでもない悪魔ということなのか。よくわかったよ)
「俺は面と向かっての罵詈雑言も言えぬ輩は嫌いだ。これ以上俺の陰口をするというのならそれ相応の覚悟はしてもらおうか?」
悪魔は同僚達を睨み付け、「病人の前だから勘弁してやるが次はない」。そう言って姿を消した。
かつて私を半死半生、いや半死半焼に追い込んだ悪魔が、なんとまぁ甘いことだとアルバは少しやるせない気持ちになる。しかし召喚の歌や言葉も魔法陣もなく、カロンがあれを呼び寄せたのは本当に凄いことだ。
(私の目に、狂いはなかったか)
今は唯、安堵する。最強のカードが味方に入ったこと。後は、まだシエロ様に息があると言うこと。
状況は最高などとはとても言えない。それでも……あの少年ならば、何があってもこの人を愛し続けてくれるだろう。
かつて自分の人魚を罵った私とは違う。人魚に裏切られた私とも違う。
敵がどんな卑怯な手を使っても、それより姑息な手を使うことを厭わずに、この人を取り戻してくれるだろう。追い求めてくれるだろう。
(どうかシエロ様。それが貴方にとっての幸せでありますように)
執事回。アルバーダメイン回。
シエロが瀕死。プロットではここで死んでた。
あんまりにもあんまりだしまだ海神の生贄にされてないなって思って。
余計最悪じゃねぇかって突っ込みは無しの方向で。