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23:いばららいと とわいらいと

再びやっつけ推理回。

物語の悪魔

   『こうして本にされている以上、昔々。或いはそれくらい遠い時間の何処か。

    我々悪魔には全く関係ないどうでもいい場所の、あるところに一人の少女がいました。


    それ以上でも、以下でもありません。

    一人の少女がいました。いました。もういません。』


 

 「でも結局、あいつらからは手がかり無しか」

 「あれ以上の企みがまだ他の歌姫に伝わっていないという意味でならいいことだよ」


 ナルキスの一晩がかりの尋問で、エコーはすっかり参ってしまったらしく朝食の席には顔を出さなかった。むしろ会わせないようにしてくれたんだろう。シエロはナルキスの好意に感謝した。

 彼女への監視をきっちりして貰うようにお願いすると共に、エペンヴァの使い魔を一匹アルセイドの家に忍ばせておくことにした。許せないことはまだ許せないが、今は事件解決に打ち込むのが一番だと思う。カロンとエコーの確執は、少しずつ何とかしていくしかない。事件が解決すれば彼女の彼への執着は薄れるはずだ。彼女が好きだったのはあくまでシャロンなのだから。

 傷ついたカロンの心は一生掛けて自分が癒していこうとシエロは思う。それが間に合わず守れなかった自分に科せられた償いだ。


 「シエロ、シレナの屋敷って中層街だよな」

 「うん、そうだよ」


 まだ雪は降らせられない。探りに行く自分たちの足跡が残れば、犯人がそれに疑問を抱くだろう。シレナの屋敷を探った後に、雪を降らせよう。


 「二人の悪魔の力を借りて、屋敷に近寄り入り込む僕らが見つかる可能性をギリギリまで下げて貰っている」


 アルバ達が言うに、基本悪魔は鍵の閉まっている家には入れない。扉が窓が開いていなければ悪魔本体が入れない。精神体は聴覚情報のみを外部に持ち出せるが、本体が入り込まなければ視覚情報が持ち出せない。つまり盗み聞きのエキスパート。それでも覗き見をするには壁に穴が必要。

 結界が張られればそこに立ち入ることが出来ない。しかしその結界を張った場所を見つける確立を下げられれば、見知った道でも道に迷う。目的地にたどり着けない。狐につままれたような感覚。これは人なら勿論、悪魔や使い魔でも自分より上位種には力負けし騙されることはあるのだという。

 エペンヴァの凄いところは、領域の悪魔たる彼は夢以外には入り込めるとのことで、彼本人は結界内でも扉の閉まっている家でも入り込める。ただし何かを持ち出すことは出来ない。しかし結界内に入り込むには魔力消費があるらしく、昨日はアルバにシエロ探しを任されたにもかかわらず「そこまで頑張る気がしない仕事だし結界綻ぶまで待つか」とだらだらしていたそうだ。エングリマが現れなかったら、僕は本当に終わっていたんだと思うと彼には頭が上がらない。


(いや、でも僕と仮契約したんだ。やる気は出してくれたんだし、これからは期待できるはず)


 エペンヴァの力も、推理のためには役に立つものなのだ。昨日エペンヴァの使い魔が見に行ったネレイード邸は物音がしない。生きている人間の呼吸がない。それを聞いてアルバと悪魔達が見に行って、中に死体もないことを確認した。だけど昨日は夜中だ。見落とした情報もあるだろう。そういうわけでシエロ達はネレイード邸を見に行くことにしたのだが……


 「アルバ、昨日と変わった様子は?」

 「いいえ、特にはありません。唯目立つ行動を避けましたので灯りが無く、部屋を漁ることまでは出来ませんでした。証拠が残っても困りますから」

 「そうか。それじゃあ……カロン君。エングリマさんとの契約の力を使って貰えるかい?それで何か不審な物が無いかどうか探してみて欲しい。犯人が何時戻ってくるかも解らない。下手に家捜しをして物を動かすのは危険だし、時間短縮にもなる。頼めるかな?」

 「解った」


 カロンが頷き、そこから彼が振り向き話しかけられるまで物の1秒。はっと我に返れば時計は進んでいない。


 「シエロ、あのシレナの机の横の本棚、一冊だけ本に見せかけた箱がある。その中に鍵があって、それで机の引き出しが開く。中にあった日記帳があった。何か手がかりが書いてあるかも。読む前に時間切れだった。この力10分が限度って所みたいだ」

 「ああ、十分だ。ありがとうカロン君、第四領主さん」


 それは家捜しすれば見つかっただろうが、見つけるまで普通なら少しは時間が掛かったはず。あっちこっち動かしても元通りに戻ってくれると言うのだから、現場を荒らさずに証拠探しが出来るのは正直素直に有り難い。シエロは両手に手袋があることを確認し、シレナの部屋へと踏み込んだ。

 カロンに言われたとおり、本棚へと向かえば彼はこれだと一冊のハードカバーを指差した。開けばなるほど確かに中に頁を四角く切り取られた小さな穴が開いておりそこに箱が埋め込んである。開けば中から鍵が出る。机の引き出しを開ければ確かに可愛らしい日記帳。

 初めのうちは可愛らしい文字で夜の仕事という悩みや下町に居る少年への片思い。


(歌姫シレナはオボロス君に支えられていたみたいだな)


 始まりにはこうある。



 《私は、空に行きたくないと泣いて居た。だけどそんなこと誰にも言えなくて、一人部屋で泣いていた。

  彼はたまたま私の部屋の前を通りかかって、私の短気な性格を知っているみんなは無視するだろうに彼は扉を叩いた。

  八つ当たりをしてやろうと思ったのに、そんな声も出なくて泣いている私。扉の前は静かになった。

  泣きやんでからこっそり開けてみたら彼はずっとそこにいた。扉が開くのを待っていた。


  なにやってんのよと言ったら、「いや、ついほっとけなかったので」と彼は笑う。

  仕事サボって、そんなことしていたら給料減らされるだろうに。どうして私なんかのためにと思うと妙な気持ちになった。

  そしてあいつは言った。「お嬢さん歌姫になるんでしょう?お嬢さんは可愛らしいからきっとすぐに人気が出ますよ。

  いい声してますし。そうだ一曲聞かせてくださいよ。お金は出世払いで払います」


  ……何も知らない癖に。歌姫ってそんな良い物じゃないって私聞いたんだもの。

  でも馬鹿な男は何も知らないで、私がもっと綺麗な何かになるみたいな……そんな目で私を見る。仕方ないから歌ってやった。

  そうしたら彼は嫌味無く笑うの。馬鹿にするんでもなくて。私の歌を褒めてくれる。

  「こいつは凄い!俺すっかりお嬢さんのファンになっちまいました。これなら心配要らねぇ。

  すぐにお嬢さんはみんなの人気者、憧れだ!俺の働いてる家のお嬢さんが歌姫様だなんて鼻が高いぜ」

  ……自分のことのように彼は嬉しそうに笑う。その笑顔を思い出すと、辛いことも嫌なことも……随分と、楽になるの。》



 「へぇ……あいつ意外と女殺しだったんだな」


 日記を覗き込んだカロン君が、女の子の日記に記された幼なじみの姿ににたにた笑う。


 「そうだね。歌姫シレナは彼に恋をしていたみたいだ」


 ことあるごとにこのエピソードを歌姫シレナは持ち出して、心の支えにしていたようだ。



 《夜の仕事は辛い。痛い。気持ち悪い。嫌だ。下町に帰りたい。

  ……だけど私が頑張らないと。みんなを安全な空に呼んであげるためには私がもっと頑張らないと。

  また津波が来る。彼は津波で両親を亡くしている。何時また津波が来るか解らない。私が彼も上に呼んであげるの。

  一生私の傍で働いて貰うの。人魚なんかなりたくないわ。恋人は自分で選びたい。それでもこんな仕事はもう嫌だ。

  早く立派な歌姫になって夜の仕事を辞めたい。歌だけで稼げる歌姫になりたい。彼の見ている綺麗な私に戻りたい。》



 彼女の日記は下層街から上り始めた悲しい歌姫の言葉だ。此方まで胸が締め付けられる。はじめてが、好きな相手ですらなかった彼女の苦しみは、男の僕には正しく察してあげることができないだろう。それでも浮かんで来る、涙を袖で拭いた。



 《彼は私を嫌うだろうか。こんな仕事をしている私を。

  あんな風に同じ笑顔で誇りだなんて言ってくれるだろうか?知られたくない。知られたくない。

  オボロスだけは絶対に空に送らないようにお父様に言っておかなきゃ。

  みんなにも口止めさせる。彼にだけは知られたくない。

  ……だけど、もし彼に思いを伝えて……恋人になれたとしても、私は一生彼を騙すのだろうか?

  それを打ち明けて、それでも彼は私を受け入れてくれるだろうか?苦しい……とても苦しい。


  男なんかみんな嫌いよ。

  私をそういう対象にする癖に、自分たちが汚した癖に、私を汚い物のように見るのはいつも決まって男なんだわ。

  そんなに処女が好きならどいつもこいつも結婚するまで我慢してっ!それで結婚した相手だけと寝ればいいのよ!

  そうすれば世の中処女だらけよ!あんた達がやれ若い女食いたい、やれ生娘食いたい、食ったけど面倒臭いから捨てる!

  食うだけ食ったけど責任は取らない、あと逃げる!そんなことばっかりやってるから女は汚れていくんだわ!

  あいつだって、あいつだって、あいつだって……そういう、男なのかな?嫌だな。

  私は彼が好きだけど、彼とそういう風になるのが怖い。


  だけど一緒に手を繋いでデートをしてみたい。

  同じ店でご飯が食べたい。

  あんたは何も知らないのねこの世間知らずって馬鹿にして、仕方ないから案内してあげるわってこの街の綺麗なところだけ教えてあげるの。

  汚い私を否定されるくらいなら、綺麗な私だけを見ていて欲しい。

  別れ際、最初で最後のキスをして……あとは今日一日見てきたけどあんたのエスコート全然駄目!最低よ!

  あんたには飽きたわ、そう言って……私は最初で最後の恋を捨てるのだ。

  そこで私から壊す。じゃなきゃ、きっと耐えられない。》



 「シレネ……良い子じゃないか!オボロスのくそったれ!気付いてやれよ!付き合ってやれよ!ていうかお前ら結婚しちまえ!披露宴でスピーチしてやるから!」

 「うぅうう……可哀想な子だね彼女」

 「お二人とも、涙で日記に痕跡残さないで下さいよ」


 涙と鼻水を垂らして泣き出した僕とカロン君を見、アルバが注意を促した。僕は自分のハンカチをカロン君に渡し、アルバから手渡されたハンカチで涙を拭い、鼻をかむ。


 「でもそうか。歌姫シレナがエコーに憧れたのは男性恐怖症から来るものだったんだろうね」

 「エコーが呪い持ちだなんて知らなかったんだろうなあいつ」


 男は嫌い、男は怖い。そんな中、自分の失った物、自分にない物全てを持っている歌姫エコーが光り輝いて見えたのだろう。何時しか彼女の日記にエコーの名前が度々顔を出すようになる。



 《エーコは歌が凄い。私なんかまだまだ敵いっこない。

  でもいつかあの人と一緒に歌ってみたい。劇をしてみたい。

  劇は素敵ね。まるで他の人になったみたい。嫌な自分を大嫌いな自分を忘れられる。

  その瞬間だけ別の誰かになれたような気がするもの。


  それにしてもエーコはどうしてシャロンなんかばかり気に掛けるの?

  そりゃあそこそこやるのは認めるわよ。でも私だって同期の歌姫。

  私だって同期の中じゃ頑張ってる方よ。どうしていつも私をシャロンと比較して蔑むの?》



 そしてそれに伴い、シャロンを語る記述も増える。



 《私、シャロンの歌嫌い。シャロンはそこまで歌が好きじゃないように思えるの。

  なんていうか凄く偉そうなのよ。自分の歌が素敵だって知ってて周りが素敵だって思うのが当然で、そういう傲りみたいな物が嫌なの。

  そう、恐怖がないの。嫌われるかも知れない、だから告白できない。そんな臆病さがまるでない。

  相手が自分を好きになるのを知っている。好きにならないなんて許さない。

  そういう身勝手な傲慢な響きが感じられるのよ。

  誰だって好き嫌いはあるわ。それでもシャロンの歌は違う。

  そういう比率であり得ないほど愛されていくのが、とても不気味。


  だから私はシャロンが気持ち悪い。

  誰からも好かれる歌?嫌われない歌姫?そんなのが存在するっていうのは本当に不気味なことだわ。

  彼女の歌にそこまで魅力を感じない私がおかしいみたいにこの街は私に語りかけてくるんだもの。

  だから私は私の歌を嫌ってくれる人がいることに、胸の何処かで安堵している。》



 シレナのその記述。それにシエロもふと思う。……確かにと。

 流石にシャロンと言えど、他の歌姫のコアなファンは奪えなくとも、そういう層からも認められてはいったのだ。


 “シャロンは頑張っているね”

 “いい歌を歌うね。嫌いではないよ”

 “俺の崇める歌姫様はシャロンには負けていると認めるよ、だけど俺の歌姫様は駄目なところが良いんだ”


 そう、歌姫シャロンが憎まれたのは……シャロンが誰より人魚に近かったから。多くの人間がシャロンならば人魚でいいのではないかと思い始めたからとも言える。否定の声が上がらない。上がれば異端に思われる。だから言わないのではない。みんながそれを良いなと思い始めた。それをシレナは恐ろしいと語っている。どんな物語のヒロインだって万人受けなどあり得ない。必ず誰かに嫌われる。憎まれる。存在すると言うことはそれだけでそういうことだ。

 シャロンという歌姫のキャラクターはそのあり得ないことを成し遂げてしまった?でもそれを誰かが真似しても駄目。シャロンだから上手くいく。周りがシャロンだからと許す風潮。その波が恐ろしいとシレナは言っているのではないか?


(現に僕はシャロンが好きだった)


 カロン君はシスコンで、オボロス君はシャロンが好きだったという。エコーも深くシャロンを愛していたし、ナルキスだって興味がないだけで否定はするような男ではない。

 シャロンを嫌う者がいるならそれは同業者である歌姫。ドリスにシレナ……それはシャロンを傍で接したことがある女達。

 彼女たちの目にだけは何か、僕ら男から見えない何かが見えていたのだろうか?


 「あれ?」


 シエロは日記がいきなり大きく開いたのを知り、その表記を確かめる。今日が10月の21日。


 「これ……今月、10月の大半が頁が破られているね」


 僕が下町に降りたのは10月15日。シャロンが殺されたのはその一日前だから14日。

 カロン君とオペラ座に行ったのと呪いを知られたのが16日。地下室のシャロンを見せたのもその日。

 アルバが上層街の屋敷に戻ってきたのが17日。この日に歌姫達の見舞いがあって、僕らはくろねこ亭に行った。カロン君と最初にやらかしてしまったのもこの日だったなぁ。僕らは海に落ちて下町に行ってしまった。

 そして18日は、恋人認定試験に行った日だ。ゲートを上って上に戻って、アルバと共に情報をまとめた。認定試験では歌姫ドリスが暗号勝負を挑んできた。カロン君と両思いになったのもこの18日。

 それで19日がカロン君の歌姫初仕事!下町でのライブがあった。そして僕らはマイナスとドリスとエコーの罠に嵌って散々な目にあった。それがつい昨日のことだ。悪魔の話を聞いて、悪魔に出会ったのが昨日。一日が長すぎてなんだかもっと昔のことのように思ってしまうけど、昨日のことなんだね。

 ……となると今日が20日。日記の日付を確かめると、9月の16日から14日までの頁がない。


 「犯人が破っていったのか?」

 「おそらくね。見てカロン君、これ9月から約一ヶ月分破られている」

 「どういうことだ?」

 「あのオペラは一ヶ月前から練習が始まったんだ。シャロンが役を蹴ったことで歌姫エコーが怒ったり問題が起きていたから時間を掛けて仲間内のコミュニケーションを図るつもりだったんだろう。下層街の歌姫もあの劇には多かったしね。きっちりとした練習が必要だったんだと思う」

 「つまり犯人にとってこの一ヶ月間……歌姫シレナの見て感じたこと、それが何か問題になっていたのでしょう」

 「な、なるほど」

 「それじゃあ残ってる分だけでも見てみようか」



【10/15】

 《新しい衣装がまだ届かない。エーコに練習で馬鹿にされた。そんなに私が嫌い?

  私の衣装を壊したのってもしかしなくてもエーコ?そんなに私と恋人役演じるのが嫌?

  あんたもプロならしっかりしなさいよ。私情持ち込むなんて最低っ!……でも歌は相変わらず上手い。

  私はまだ負けている。悔しいのに、あの人に憧れる気持ちを否定できない。

  昨日見た物が気になって、練習に身が入らない。エーコに酷い言葉で罵られた。

  私が海に帰りたい。あの海に、下町に帰りたい。》


【10/16】

 《オボロスがくたくたになりながら衣装を届けてくれた。まさかの再会に驚いた。

  着替えを手伝わせたら照れていた。可愛い。

  オペラ座へ向かう途中、シャロンを見つけた。

  一昨日のことを思い出して怖くなった。幻覚だろうか?

  だけどオボロスのお陰かな。劇は上手く行った。気になったことは、何故か当日のエーコは機嫌が良かったこと。

  空いた特等席を嬉しそうに視線を送っていた。まるでにシャロンでも見ているかのよう。

  本番でエーコにキスは出来なかった。そんなことしたら、殺されるのは私の方だわ。

  それじゃあ劇の内容が変わってしまうもの。ウンディーネの私はした振りだけをした。


  楽屋に百合の花が届いた。嫌味かと思った。純潔なんて私に似合わない言葉。だけどドリスが妙なことを言う。

  あなたはわたしを欺せない?欺かれてるのは私の方じゃないの?一昨日と今日見たものを二人に話すも信じて貰えない。

  エーコには幻覚病扱いされた。あんたのせいで私最近眠れなくて睡眠薬飲んでたけど……

  でも、だからってそんな言い方酷い!……今日も睡眠薬が手放せない。》


【10/17】

 《真相を知るために、フルトブラント様の所へ行った。

  シャロンは記憶喪失だったけどしっかり生きていた。だけどなんだかぎこちない。

  記憶喪失ってそういうものかしら?ならずっとこのまま記憶喪失で居ればいいのに。

  なんとなく、前のシャロンの嫌な感じが消えていた。

  今のシャロンとなら……友達になって上げても良いかななんて、ちょっとだけ思ったわ。


  オボロスの料理は美味しい。太っちゃったらどうしよう?

  でもちょっと肉付けた方が胸も出来るかな?あいつだって男だし、胸あった方が好きかな。

  でもあいつシャロンが好きだったんだ。このままの胸でむしろいいはず。

  ていうかやっぱり嫌い。シャロン嫌い!

  オボロスは私のファンなのに!私のファン一号なのっ!あげないんだから!》


【10/18】

 《オボロスと一緒に買い物に出掛けた。よたよた歩く姿が可愛い。

  ついつい色々持たせちゃった。すこしデートみたいね。そう思って私は浮かれた。

  彼は私の名前が解るって言うの。お笑いぐさね。

  私がわかるって言うの。馬鹿みたいに。馬鹿みたいに、何も知らない。》


【10/19】

 《月夜 夜に似合わない 

  痛い痛む胸の中

  悲し偲ぶ 不器用な恋

  荊ライト トワイライト


  飛ぶ鳥は早く遠く 雲に隠され歴史消える

  紅玉(ルビー)色の飲んだ媚薬 首輪は土に落とした


  躊躇いを檻の中 悲しみと共に閉じて 

  手紙の文字じっと見つめ 目の涙が硝子のよう


  嘘と言って手紙を書く 苦しいのよ夜を見つめ

  目覚める朝咲いた花も もう棄てられて手紙途絶え 


  選び取って手を取り愛 愛を語る

  騙る愛は私嫌よ欲張りなの 咽の渇き


  君と二人二人踊る 踊る街は箱庭の舟

  舟渡と鳥籠鳥 リボンを巻く首にきゅっと  


  トランプ森リタルダンド ドラマティック久遠の中

  悲し偲ぶ 不格好な恋

  荊ナイト トワイライト 》



 これまでの日記は普通の物だったにもかかわらず、シレナが失踪した昨日の日記だけはおかしな記述がある。



 「なんだこりゃ?ポエムって奴か?シレナの歌?それとも歌詞の構想メモか?」

 「どう思う?アルバ」


 これまでパラ読みした限りでは、日記にシレナが詩を書いたことはなかった。ならばこれは犯人からのメッセージ。そう受け取るべきだろう。


 「言葉遊びですね。多くがしりとりになっています」

 「あ!本当だ!」

 「また暗号か。だけど歌姫ドリスのそれとはちょっと毛色が違うね」

 「はい」

 「アルバ、メモの用意を!」

 「いいえシエロ様、眺めながら全てを記憶しました。メモにはここを出てからに致しましょう。長居は無用です」


 流石はアルバ。有能な男は既に記憶したという。一応他の部屋でもカロン君に探って貰ったけれど、怪しい箇所は見当たらなかった。唯見舞いに来た時シレナが履いていた靴が残っていたため少し不気味な感じはした。


 「…………」

 「シエロ?」

 「ああ、何でもないよ。行こうかアルバ、カロン君。領主さん……いや、領主様方も帰りの道もお願いしますね」


 力を貸して貰っているのは事実。普段はさん付けだけど、力を使って貰う時は少しでも感謝の気持ちを伝えたい。如何に悪魔だろうと、彼らは敵ではない。

 協力を要請するとぎゅっと腰に抱き付いてくる少年の気配がある。契約したのカロン君なのに、僕にこんなに懐いて貰って良いんだろうか。


 「ひぃっ!」

 「シエロ?どうかしたか?」

 「い、いや……何でもないよ。多分気のせい」


 今は僕らにも視覚出来ないようになっている悪魔たち。でも何でかな、今物凄く胸とかお尻とか触られた気がするんだけど。腰からもうエングリマさんの気配は消えている。となるともう一人が怪しい。怪しいのだけれど……


(いや、男の僕を触っても面白くないよね)


 シエロは頭振って、気の所為だと言い聞かせる。しかしカロンは何やら察したようで何も見えない場所を殴る蹴るの暴行を加えていた。何か殺気を感じたらしい。

 上層街の屋敷には敵側が何か仕掛けているかも知れない。まだ戻るのは得策ではないかもしれない。とりあえず犯人が来たとき物理的に対応できるようアルバを屋敷に配置。そこで使い魔を此方に残して貰い、エペンヴァも屋敷に行って貰うことにした。

 シエロ達はカロンの仕事を体調不良でキャンセルし、歌姫シャロンの支援者の宿を借り、そこにエングリマに結界を張って貰った上であのメモについて話し合うことにした。

 結界を張れば場所を教えてしまうことになるが、見つけられる確率は下げた。上位ナンバーになら見つかるかも知れないが、見つかってもそれまで。結界内に入れるのはエペンヴァだけ。問題はない。


 「くそ!悪魔の奴!油断も隙もあったもんじゃないな」


 宿について早々にカロンはふて腐れている。


 「事実として痴漢を証明させられないっていうのは痛いな。存在するのに存在しない奴を立証するのがこんなに難しいとは」

 「でもカロン君、男の僕にセクハラしたって面白くないよ。気のせいだよきっと」

 「お前はどうしてそう……はぁ」

 「ひぃっ!」

 「面白い。以上っ!気をつけろ!解ったか!?」

 「は、はいぃ……」


 ふて腐れたカロン君にお尻を触られた。変な声が出てしまったけれど、あんな不意打ち仕方ないよ。


 「それで、この暗号。意味不明過ぎんだろー」


 そう言ってカロン君が差し出すのは一枚の紙切れ。彼なりにあのメモから探ってみてくれたらしい。



【つきよ よるに にあわない

 いたい いたむ むねのなか

 かなし しのぶ ぶきようなこい

 いばら らいと とわいらいと


 とぶとりは はやくとおく くもにかくされ れきしきえる

 るびーいろの のんだびやく くびわ はつちにおとした

 ためらいを おりのなか かなしみと ともにとじて

 てがみのもじ じっとみつめ めのなみだが がらすのよう


 うそといって てがみをかく くるしいのよ よるをみつめ

 めざめるあさ さいたはなも もうすてられて てがみとだえ

 えらびとって てをとりあい あいをかたる

 かたるあいは わたしいやよ よくばりなの のどのかわき


 きみとふたり ふたりおどる おどるまちは はこぶねのふね

 ふなわたしと とりかごどり りぼんをまく くびにきゅっと 

 とらんぷもり りたるだんど どらまてぃっく くおんのなか

 かなし しのぶ ぶかっこうなこい

 いばらないと とわいらいと 】



 「とりあえず平仮名にして、そっから区切ってみた」

 「なるほど」

 「そしたら気になる箇所が幾つかあって……」


 彼が指差すのは6行目。


 「この首輪のくだりだけ、しりとりになってないんだよ無理矢理“わ”と“は”で区切ることは出来るっちゃ出来るけど、他のに比べて語呂が悪いっていうか短すぎる気がして」

 「そうだね。“は”と“わ”、それから“お”と“を”の部分は気になる感じだね。後後半はネタに詰まったのかな。最後の文字じゃなくて、愛とか二人とか単語くくりでまとめてる」

 「後は最後の“荊ナイト”。ここは完全にしりとりじゃない。これで一単語ってくくりだ。シエロは何かわかったか?」

 「そうだね、とりあえずだけど、この間と同じ犯人かどうかは解らないけど……その場合も否定できないから類似性を挙げる意味でも、ひとまず数字に出来るところは数字にしてみたよ」



【2き44る2 2あ171

 1た11た6 6ねの7か

 か744のぶ ぶき4う751

 18らら110 1011ら110


 10ぶ10り1 889109  9も2か93れれき4きえる

 るび116ののんだび89 9び1 82ち20104た

 ためら100りの7か か7431010も2104て

 てが3のも441032め めの73だががらすの4う


 うそ101っててが30か9 9る41の4 4る032め

 めざめるあ331た87も もうすてられて てが310だえ

 えらび10っててを10りあ1 あ10かたる

 かたるあ111た4184 498り7の のどのか1き


 き3102たり2たり0どる 0どるまち18こぶねの2ね

 271た41010りか510り りぼん0ま99び29っ10 

 10らんぷもり りたるだん10 10らまて1990んの7か

 か744のぶ ぶかっ5う751

 18ら7110 1011ら110  】



 僕がメモを差し出すと、カロン君は呻いて机に突っ伏した。


 「あ、頭痛ぇ。シエロそろそろエロ休憩入れようー、俺エロいことないと頭働かない」

 「君はこれまでの人生どうやって生きてきたんだい?」


 僕に出会うまでそういう事柄と関係なく生きていたんじゃなかったのか。今まで彼がどうやって頭を動かしてきたのか気になった。


 「解った。これ解けたら好きにして良いから、先に頑張ろう?」


 なんだか彼の家庭教師にでもなった気分だ。眠気で半分死んだような目をしていたカロン君が急に生き生きし出す。


 「こんなもん五分で解いてやるぜ!」


 どんだけやりたいんだこの子は。若いって凄いなぁ。


 「なぁ、シエロ。ふと思ったんだけどこの文章こうやって平仮名に直してみると濁音多いの気にならねぇ?」

 「そうだね。そう言うのを抜かすっていうのもよくあるパターンかも。一度書いてみようか」



【つきよよるに にあわない

 いたいいたむ むねのなか

 かなししのきようなこい

 いらないと とわいらいと


 ととりは はやくとおく くもにかくされれきしきえる

 るーいろの のんやく くわはつちにおとした

 ためらいをおりのなか かなしみとともにとて

 てみのもっとみつめ めのなみらすのよう


 うそといっててみをかく くるしいのよよるをみつめ

 めめるあささいたはなも もうすてられててみとえ

 えらとっててをとりあい あいをかたる

 かたるあいはわたしいやよ よくりなの ののかわき


 きみとふたりふたりおる おるまちははこねのふね

 ふなわたしととりかごどり りんをまくくにきゅっと 


 とらんぷもりりたるん らまてぃっくくおんのなか

 かなししの かっこうなこい

 いらないと とわいらいと 】



 「……なんかあんまりよくわからない残念な感じに仕上がったね。辛うじて意味がありそうな部分拾うなら“悲し死の器用な恋”?“君と二人、二人居る”いや織るかな?」

 「“金獅子の郭公な鯉”ってなんだよ。“ルー色のnon薬”って何だよ。“鍬は土に落とした”から何だってんだよ。“鮒私と鳥籠鳥”って何だよ、何の三文小説のタイトルだよ」

 《いやいや、そんなことよりお美しいシエロ様。下から三行目を見て下さい》


 使い魔を通して屋敷にいるエペンヴァの音声が聞こえる。アルバの意見もそこから拾うつもりだったのだけれど……あのやる気のない適当な悪魔がやる気を出してくれたなんて。少し嬉しいな。シエロがそう思っていると、向こうからは自信たっぷりと……


 《この“とらんぷもりりたるん”の後ろなのですが……》


 トランプも、りりたるんって意味不明過ぎる。りりたるんって何?何の合言葉?何の召喚魔法なの?この推理方向は絶対間違っているなと思いつつ、シエロはメモを辿る。


 「ええと、この“らまてぃっくくおんのなか”の下りのことかい?」

 《すみません。よく聞こえないので一文字ずつ区切っていただけますか?》


 意味が分からないけれど言われるがままそれに従う。


 《ぶはっ!くっくくくくく!ありがとうございます、後はこれを逆再生すれば》

 「え?何で笑ってるの?」


 悪魔が笑ったかと思うと向こうでアルバと青年悪魔が言い争う声がある。本気で喧嘩しているようだ。


 「シエロ、お前は今セクハラされたんだ」

 「え?」

 「わかんないなら気にするな」

 「え、ああ、うん」


 カロン君に呆れられてしまった。僕は本当に駄目だなぁ。


 「シエロは他に何か気付いたことってあるか?」

 「え、ええと。最初と最後同じフレーズが使われているところあるでしょ?そこの比較が気になったかな“悲し偲ぶ不器用な恋 荊ライトトワイライト”、それから“悲し偲ぶ不格好な恋 荊ナイトトワイライト”……ここの二つ」


 か744のぶ ぶき4う751

 18らら110 1011ら110


 か744のぶ ぶかっ5う751

 18ら7110 1011ら110 


 「何か気付かない?」

 「不器用不格好の所、上が4で下が5。それから荊の所7がない」

 「うん。そう思ってあの数字の紙から1と7を引いてみることにした」

 「なんで1も?」

 「4と5だと1違うだろ?これを1増やすと解釈すると今の情報じゃちょっと訳が分からない。4-5=-1で1間引くって解釈。トランプとナイトっていう所から11っていうこじつけでどっちにしろ1引けってことも出来るしね。でとりあえずやってみようと思って」



【2き44る2 2あ

 たた6 6ねのか

 か44のぶ ぶき4う5

 8らら0 0ら0


 0ぶ0り 88909  9も2か93れれき4きえる

 るび6ののんだび89 9び82ち2004た

 ためら00りのか か4300も204て

 てが3のも44032め めの3だががらすの4う


 うそ0っててが30か9 9る4の4 4る032め

 めざめるあ33た8も もうすてられて てが30だえ

 えらび0っててを0りあ あ0かたる

 かたるあた484 498りの のどのかき

 き302たり2たり0どる 0どるまち8こぶねの2ね

 2た400りか50り りぼん0ま99び29っ0


 0らんぷもり りたるだん0 0らまて990んのか

 か44のぶ ぶかっ5う5

 8ら0 0ら0 】


 「大分数字は減ったな。3桁とかが多い。何かの部屋番号とか番地とか表してたりして?」

 「もし部屋番号なら4とか9は抜かすのかも知れないね。ううん……判断材料が少なすぎて、今はなんだか迷走って感じだね。まだ手がかりが何かあるのかもしれないな」


 前の暗号はその前に見つけた手紙があったから 絞り込みが出来たのだ。手がかりがなければ推理なんてどうしようもない。


(いや……)


 そもそも前回と同じと考えることがまず間違い。そう思えば見えてきた。幸いまだ時間はある。それなら……


 「ね、カロン君。頭使って疲れちゃったからひとまずお昼を食べてお昼寝でもしない?この時間って眠くなるよね」


 途中で買った軽食とジュースをテーブルにおいて、僕はベッドの方へと歩き出す。

 それを口に運びながら、カロン君はそわそわした様子だけれど……


 「それじゃあシエロ!」

 「それは後でね。今日朝早かったから僕眠くて眠くて……」


 ベッドに潜り込んですぐに寝たふりをすれば、暫く文句を言っていたカロン君も静かになる。


 「確かに、この時間眠い。食べたら眠くなって来た」

 「でひょー……こっちおいれー……うたっれあげう」


 半分寝た感じで声を出し、彼をベッドに招く。抱き付いてきたのを確認して僕は歌を歌う。ジャンルは子守歌。それにちょっと魔法を交ぜて……


 「ふぅ、ざっとこんなものか」


 爆睡してしまったカロンを引きはがし、シエロは身を起こす。


 「な、何してるんですかシエロさん!?」


 突然のことに驚き姿を現す少年悪魔にシエロは気にしないでと伝える。


 「暗号ならもう解けたよ。だから尚更カロン君は連れて行けない」

 「どういうことですか?」

 「君はカロン君に付いていて欲しい。この使い魔は借りていくね。いざという時に必要だから。代わりにこっちに新しい使い魔を送ってもらうように頼んでおくね」

 「え、でも……」

 「ここは結界内だから安全だ。僕が外から鍵を掛けていくから人も悪魔も入れない。後は君が確立を弄ってくれればカロン君の身の安全は保証される。そうだね?」

 「そ、それはそうですけど」

 《シエロ様……》


 使い魔の向こうから聞こえる心配そうなアルバの声に、シエロは大丈夫と微笑んだ。


 「これが最善策なんだ」

 《シエロ様……せめて答えを》

 「解らなかった?アルバ?今回は別人からのお誘いさ。数字なんかはあまり関係ない。でも7と1っていう目の付け所は悪くなかった。だって基本は7を消す。でも1引く、つまり1行目はこれに当てはまらない。この場合の1行は上と下、それぞれに当てはめると良い感じに文章になる。更にしりとりで重なる2文字を消して1文字にしていく。意味が繋がらないところだけは妥協してね。大体は1行ずつで考える。前の行のことを引き摺ると意味が分からなくなるから……


 つきよるに あわない

 いたいたむねのか

 かしのぶ きようこい

 いばらいとわいらいと

 とぶとりはやく とおくもにかくされ きしきえる

 るびーいろのんだびやく びわつちにおとした

 ためらいおりのかしみともにとじて

 てがみのもじっとみつめのみだがらすのよう

 うそといってがみをかくるしいのよるをみつめ

 めざめるあさいたはなもうすてられてがみとだえ

 えらびとって をとりあいをかたる

 かたるあいわたしいやよくばりのどのかわき

 きみとふたり おどるまちはこぶねのふね

 ふなわたしとりかごどり ぼんをまくびにきゅっと 

 とらんぷもりたるだんどらまてぃっくおんのか

 かしのぶかっこうなこい

 いばらない とわいらいと


 まぁ、こんなふうになって……後は要約して元の文章とあまり変わらなかったり意味として機能しない文章をすてて、意味のある所をまとめる。無駄な言葉の羅列を挟むのはミスリードを誘うためだろう。だから今回の用件らしい所だけを抜き出すと、大体こんな感じ……」



【月夜に会わない?

 歌偲ぶ 器用恋


 飛ぶ鳥は焼く 遠く雲に隠され騎士消える

 紅玉色飲んだ日焼く 枇杷土に落とした


 選び取って囮 愛を騙る

 騙る愛私嫌 欲張り咽の渇き


 君と二人 踊る街箱船の舟

 仮死の不格好恋

 威張らない? 夕暮れ  】



 「要するに彼女は僕に今夜デートをお誘いさ。邪魔する奴は殺す。来なきゃ僕も殺すと脅している。枇杷の花言葉は温和。それが落ちたってことは怒髪天。お怒りって事。彼女はカロン君がシャロンではないことを知っている。彼女は僕の浮気を責めている。それでも格好付けて見せろと彼女は言っている。これは脅迫だよ」

 《でしたらシエロ様、尚のこと……》

 「だけど肝心のデート場所がちょっとまだ見えないんだ。もう少し頑張ってみる必要がある。街中疲れてるカロン君を連れ歩くのは良くない。それに屋敷も心配だ。だから君たちは配置を動かないで欲しい」


 “首輪は土に落とした”……やっぱりあそこがヒントだ。

 “9び182ち20104た”……“わ”はワンで1、“は”は音こそWAでも数字にするなら“8”。

 文中でこの“18”が出てくるのは僅かに4回。

 荊ライトと荊ナイト、それから“踊る街は箱船の舟”。

 この中でしりとりとして繋がっているのは首輪の下りと踊る街の二つだけ。

 “0どるまち18こぶねの2ね”……これを言葉にするなら“0$街18小舟の2ね”。0$ってことは0は要らない。ここから0を引けという。

 前回を倣って0を文字から引くならば、“0$街1小舟2”。


 「0ドル街の1番地。2号という小舟で待ってるってお誘いだと思うんだけど」


 一応の見当は付いている。それでも、その場所が本当に合ってるかどうか自信がない。


 「待ち合わせは夜だけど見栄を張って男なら夕方には辿り着いていろっていう要求もある。万が一デートの時間に遅れたら、邪魔したとか言われて君たちに実害が及んでも困る」


 夜なのか夕方なのかいまいちはっきりしない文章。粗探しのために残したんだと思う。だから早く出かけなければ。


 「それからアルバ、シャロンの死体のことなんだけど……僕はとんでもない思い違いをしていたようだ」

 《どういうこと、でしょうか?》

 「……ひとつ、頼みたいことがある」

 《何でしょうか?》

 「あの死体の靴のサイズを調べて欲しい。多分、22,5センチだと思う」

 《シエロ様、シャロン様は23ではございませんでしたか?》

 「ああ。だから第六領主様に今すぐ調べさせてくれ。その情報を僕に伝えるようにお願いしたい」

 《まさか、シエロ様……》

 「そういうことだよアルバ。このデートは僕が行くしかないんだ、絶対に。僕でなければならない」

自分は理数系じゃなくて根っからの歴史と国語の文系なんで、暗号とか無理だわ(笑)

で、適当に思い浮かんだしりとりして、そっからこじつけで何か見えないかと色々やってみる。試行錯誤でようやくお、これ使えるんじゃね?というものを見つける。犯人もそんな感じで作ったんだきっと。

だからそれを解けるのは犯人の性格を知ってるシエロだけ。


シレナお嬢さんだけがこの作品の中で割とまともな女の子だったかな……時点がリラ。あとは性悪女ばっかですわ。

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