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19:脚本に背く者

※エロ回注意。がっかり注意。悪魔回。

物語の悪魔

   『あら?これはどうしたことかしら?

    ひぃふぅみぃ……お客様が減ってるわ。


    まぁ、大変!本の中に入ってしまったなんて!

    そこまでして欲しい魂があったのかしら?

    魂漁りに縁がない私には、ちょっと理解できないことですわ。おほほほほ!』


 *

 

 一言で言うなら、敗因はそれ。


 「女になったのが間違いだったなシエロ」

 「くっ……」

 「そんなに睨むなよ、なぁ?こうやって話をするのも久々じゃないか」


 睨まれてもマイナスは嬉しいだけだ。この男(……いや今は女だけど)の視線を我が物に出来ているという実感がある。


 「そうだよな、実際私は女だ。男になったことはない。だからどうされれば良いとか、どうされれば痛いとか、そういうのはわからねぇわけ。そこでわざわざ私がよぉく知ってる女の身体になってくれるとは、お優しいねぇシエロ様!」


 けたけたと小気味よい笑いが口から漏れる。これが漏らさずにいられるか。


 「女の姿で武器を携帯するのは難しい。時にお前は剣使い。あの長い得物を隠すのは骨が折れる。その長いスカートの下に隠したは良いが、取り出すには人前でドレスを捲らないと駄目だ。いきなりそんなサービスをされれば飢えた野郎共が歓声を上げ道を阻む。そこから同業のよしみだと庇いに行く私とその手下。助けられたと思って油断してまんまと拉致されるとか笑えるねぇ。それくらい解らなかったか?なぁシエロ?お前それでも男だろ?私より男の心理はよく解るんじゃないのか?」

 「……カロン君を、どうするつもりだ?」


 ファンに扮してサインを求める歌姫ドリス。あの醤油顔は化粧一つで随分変わる。マイナスがガキ好みのようなメイクを施してやれば、何とも童貞好みの少女が出来上がった。

 サインや悪手を求める飢えた獣たちの中、そんな可憐な一輪の花があれば、あのガキも男。そこからファンサービスに応えてしまうっていうのが男の心理にして真理。そりゃそうだ。他の野郎は何をして待ってるかわからないような手を差し出している。そのくらいの想像は付くくらいにあのカロンってガキは野郎なんだよ。それがいきなり手を引かれ連れて行かれるなんて思わない。


 「さぁね。それぞれ欲しい物を物にするって大まかな話し合いしかしてねぇのさ。その算段は練ったが、どんなプレイをするかまでは流石にプライバシーの領域だろ?」

 「……彼には手を出すな」

 「シャロンの時と同じ事を言うんだな。そんなにシャロンが大事か?」

 「違う!僕は……彼をシャロンの代わりだとは思っていない」

 「へぇ……」


 シャロンの双子の兄だというあの少年。確かに顔は似ている。恋人を亡くしてその身代わりに手を出したのかとばかり思っていたが……


 「それじゃあ何かい?女に飽きたか?女はシャロン以外に愛せないって男に走ったか?やるよりやられる快感にでも目覚めたって?そいつはいいや!お美しいフルトブラント様がねぇ!あんなガキ相手によがってるわけか!ははははは!傑作だぜ!」

 「僕のことは何とでも。だけど彼は……あの子はフルトブラントの養子だ。僕には彼を守る義務がある!彼の家族として!」

 「あぁ、なぁるほど。それは家族としてシャロンを守らずいたぶった私に対する不満かい?そいつは仕方ねぇよシエロ。基本女って生き物はどんな聖人君子聖女だって、年下には苛つくもんだ。こればっかりはお前らの朝勃ちみたいなもんだ。しょうがねぇ。お前ら男の処女好きが原因みたいなもんだ」

 「兎に角、僕はどうでもいい!あの子を解放してくれるなら……貴女の物になってもいい!」

 「おいおいシエロ、何を勘違いしてるんだ?選定侯様はこれだからいけねぇ。格下貴族を舐めてやがる。上から目線だ。まったくここが何処で私が誰かを忘れたか?」


 今置かれている状況と立場って物を考えろ。大きな鏡台を移動させ、で今の自分の姿をしっかりと見せてやった。羞恥に顔を染める様がまったく可愛い。苛めたい。

 今のシエロは攫ってきた時同様女の姿。どうすれば男に戻るのかわからないから仕方ない。それにこれも十分そそる。

 とりあえず手始めに服を剥いで真っ裸にし、首輪を付けて鎖で繋いでやった。手足は枷で動きを最小限に封じているし、これでは逃げられない。首の鎖は天井と、それからマイナスの手の中へと続いている。


 「恥ずかしいよなぁ、シエロ?……ああ、今はシエラだっけ?まぁいいや。とりあえず見てみろよ。鏡のお前のやらしいことなんの……」

 「っ……」

 「目瞑るくらいなら、目隠しでもしてやろうか?その間何されるかわかったもんじゃねーがな」


 チャリチャリと繋いだ鎖の音を聞かせれば、シエロはもう本当に恥ずかしさで卒倒しかけている。守るべき相手がここにいないんじゃ、格好付ける事も出来ないよな?本当に弱い男だ。


 「まぁ、夜は長いんだ。そんなに力んでたら保たねぇよ。とりあえず今後のことを考えようぜ」


 含み笑いで微笑めば、何とも悔しそうな視線をシエロは送ってくる。全く相変わらず可愛い奴だ。


 「まぁ、流石にお貴族様のお前が首輪だけって言うのは可哀想だな。仕方ない。風邪を引かれても困るしな」

 「これで風邪を防げたらすごい画期的だと思いますよ」


 まったく隠す部分を隠さない、むしろ胸のあたりを更にいやらしく見せる。いつも私が夜の仕事で着ている真っ赤なボンテージを着せてやれば、シエロは軽蔑の眼差しを向けてくる。少しは喜べよと思うが、喜んだのは自分の方だ。


(ああ、これだ)


 その視線にマイナスは興奮する。

 こんな姿で辱められて、まだ……私をこんな風に見る。羞恥を怒りで押さえ込んだその眼差しは氷のように冷たい。この目を屈服させて物にしたい。

 ドリスから献上された、青い宝石の仮面を付けて……シエロの着ていた青いドレスを身に纏う。胸元が少し苦しいが着られないことはない。


 「さぁ、シエロ?今日はどうやって遊ぼうか?男の身体じゃ味わえない快楽たっぷり教えてやるぜ。まずはこのぶっとい蝋燭、お前を逆さに吊して前と後ろの穴にぶっ込んでやろうか?」

 《それはちょっと生温いわ》

 「……な、誰だ!?」

 「そっちが呼びだしといて、なんだはないわよ。でもま、人間にしたら良い趣味じゃない?そう言うのは私も嫌いじゃないわ」


 マイナスが振り返った先には一人の少女が居る。人のそれとは思えない、深海のように深い青髪。それはあの仮面の宝石と同じ色。目を開けた少女のそれは血のように赤い色をしている。右の背には蝙蝠のような翼。それと同じ小さい物が頭の両脇にも付いている。


 「おお……この尻尾は尻穴にでも入ってるのか?」

 「生憎もっと上から生えてるっての。私入れるのは好きでも入れられるの嫌いだもん。仕事なら仕方ないからやらせてやるけどね。死後に魂ゲットしてからは存分に苛めてあげてるし……ってこの口調もうやだ!もう無理!寒気するっ!召喚者が野郎じゃないんじゃ猫被る必要もないっ!」


 少女には俗に言う悪魔のような尻尾が付いている。少女自体は可愛らしい小悪魔のような外見なのだがどうにもその内側から溢れる気迫はそんなレベルではなく、もっと禍々しい何か。

 自分やシエロほどではないが、自分たちより遙かに幼い少女にしては、尻や胸もなかなか良い肉付き。むちむちとした肉感、蠱惑的な色気のある美少女だ。


 「だけどここ、一応鍵閉めてたんだけどな。どっから来たんだコスプレ歌姫」

 「悪魔舐めてんのか?てめーら人間なんかと一緒にすんじゃねぇよ。てめーこそ逆さ吊りにして三本ずつ火付けた蝋燭ぶっ込むぞ」


 マイナスも人のことを言えないが、そのマイナス以上に口が悪い。


 「その悪魔様が一体何しに……いや、そうか」


 ドリスが言っていたのはそういうことか。


 「私の願いを叶えに来てくれたってわけか」

 「まぁ、要するにそういうこと。生贄は一回そっちの女男男女食わせてくれればそれでいいや。実物は本で見るよりやっぱ苛め甲斐ある顔してんじゃん」

 「ははは!お嬢ちゃんなかなか良い趣味してんな!」

 「こいつ調教したいってんなら協力してやるわよ。貴族のプライドへし折るくらいに貶めてやる」

 「はぁ……悪魔が増えた」


 突然の来訪者に、マイナスが二人になったようだと遠い目をするシエロが溜息を吐いている。


 「悪魔じゃねぇ!そんな低級悪魔と一緒にするな!俺は地獄が第五領地が領主!司るは罰と戒め!ティモリア様とは俺のこと!」

 「ごめん、聞いたことがない」

 「そりゃそうだ。本の外側のことまで普通の人間は知らねぇよ。だから言ってやってるんだ」


 口答えしたシエロの胸を抓りつつ、青髪の悪魔はマイナスを振り返る。


 「ていうかお嬢ちゃんは止めろ。私は……俺は女扱いされるのが一番嫌いなんだ!今はこんな身体してるけど、俺の心は魂はあくまで野郎だ。魔王モリア様と呼べ」


 状況が飲み込めないのは確かだが、この自称悪魔は自分に協力してくれるものらしい。それならば使ってみても損はないはず。マイナスはその声に頷く。


 「それじゃあ魔王モリア様。調教するって言ってもどうするんだ?」

 「この俺の調教スキルを伝授してやる。人魚の血を引いていようと所詮は人間。この俺の悪魔的超絶テクの前には骨抜きだ。すぐにあんなガキのことなんか思い出せなくなる」

 「そいつは凄い!どんな技なんだ?」


 それはだなと少女はくくくと嗤って口を開くが、思い出したように他のことを口にし出した。


 「おっと忘れてたぜ。宝石での召喚は、一度しか使えない。俺が帰ればもう二度と俺を呼び出せない」

 「へぇ、これ使い捨てか」

 「そ。だから俺と契約すれば何時でも俺と俺の眷属を呼び出せる。死後にお前の魂を貰うが、これだけ刹那的に生きてるお前だ。死んだ後のことなんかどうでもいいだろ?」

 「確かにそうだな」

 「んじゃ、契約成立。ちょっと面貸せ」


 中指でちょいちょいと呼ばれ、マイナスは腰をかがめて彼女に近づく。すると悪魔は深く口付けて……その巧みな舌使いにマイナスは腰を抜かしてしまう。


 「マイナス=ナイアードね……なかなかいい女じゃねぇかお前。この高尚な趣味で生娘とはな。希有な才能。ますます気に入った」


 鞭を手に取り微笑む悪魔。死んだら思い切り可愛がってやると耳元で囁かれ、これまで感じたこともないような高揚感を味わった。そこでようやくマイナスは、これが人ではないことを認める。


 「俺があの野郎ぶっ殺して両性自在になったらたっぷり犯してやるよ。今から楽しみにしてな」


 話はよく分からないが悪魔の瞳に炙られて、マイナスはこくこくと頷く。この少女に魅入られてしまったかのように。


 「よし歌姫、何か適当に歌ってみろ。ソから始まるメロディで」

 「え?」

 「いいから歌え。五秒以内に歌わねぇと胸揉むぞ」


 脅されたマイナスは言われるがまま、歌を紡ぐ。口から漏れるのはこれまで自分が歌ったこともないような、美しい歌声。


 「契約のキスでお前の身体を少しばかり作り替えた。お前はその音痴さえなけりゃもっと俺好みのいい女だからな」

 「も、モリア様……」


 悪魔の微笑みは、シエロの氷の微笑のようにマイナスを興奮させる。


(シエロは苛めたい。だけどこの人には……苛められたい!)


 この悪魔はそれだけの何かを持っている。これまで感じたこともないような何かを、私に教えてくれる気がする。


 「さて、勿論お前の歌は唯の歌じゃねぇ。俺が協力してやればその歌を媒体に俺の眷属がこうして地獄から派遣される」


 仕事の歌の時はこういう風にならないようにしてやるから安心しろと悪魔は言う。見れば確かに、室内には新たに現れた影がある。

 それはこれまで見たこともないような生き物。蛸や烏賊のように無数の触手のような物を生やしているが、それは植物のようだ。毒々しい色の花が咲いている。


 「こいつらのスキルはすげーぜ?人間なんかすぐに堕とせる。さぁ、やれ!」

 「ひっ……」


 その植物に身体を掴まれ、縛り上げられるシエロ。何が起こっているのか解らないと脅えた表情に、マイナスはぞくぞくとする。横目で見ればティモリアも同じように興奮している。


 「マイナスとか言ったな、酒と肴の用意をしろ。絶景だぜ」

 「は、はいっ!モリア様!」

 「あいつは毒持っててよぉー、その毒がすげぇ媚薬なんだ。俺の眷属はみんな人間落とし込むためのそういう媚薬持ちでな、俺だけがその解毒を行える。さっきのキスで解毒の力をお前に与えた」

 「それは、つまり……」

 「あの女男をこれからとんでもない淫乱に教育する。でも理性は残す。けど媚薬の所為で常に身体は疼く。それを沈めるにはお前の体液が必要。その内あいつの方からお前にキスなり何なり強請ってくるさ」

 「す、凄ぇ……」


 まるで夢の力。この力を使えば、下僕に出来ない人間は居ない!なんて素晴らしい!


 「トリアの召喚者任せの生温い脚本じゃ、俺も満足できなくなってきてたしな。とことんこいつを犯して楽しませてくれよ、マイナス。なんなら俺の力で生える呪いでもかけてやろうか?」


 私がシエロを?そう思うと身体がゾクゾクする。凄い。やってみたい。それはどんな拷問よりもあの男にとって拷問だ。女に抱かれるなんてこの貴族にとっては屈辱だろう。そう思うと堪らない。今日の拷問には、下僕に手を出させようとも思ったけれど、それじゃあどんな感じなのか私は解らない。その表情悲鳴で興奮することしかできない。シエロの肌はどんな熱を帯びるのだろう?


 「でも……」


 マイナスは思い出す。自分は歌姫。万が一でも男と疑われるようなことがあってはならない。職業法に背けば死刑だ。

 それを訴えれば悪魔は頷く。此方の事情も察してくれているようだ。


 「ああ、腐れ法律違反になるか。なら、また何か歌ってみろ。ソからだぞ。ワンフレーズでいい」

 「は、はい!」


 言われるがまま、再び口を開く。歌い終えると何か違和感。胸はちゃんとある。しかし何かが現れる。


 「今のメロディ。それ歌えば生える。何か違う歌歌えば戻る」


 たかだか海神に出来て魔王の俺に出来ないわけがない。そんな呪いの歌に悪魔は誇らしげに胸を張る。


 「処女なのに非童貞とか淫靡で俺得だしな。お前だってあの色男抱いてみたかったんだろ?」

 「さ、最高です!最高ですモリア様!」


 マイナスが歓喜の涙を流せば、悪魔は「いいってことよ」と頷いた。


 「よぉ、女体化色男。具合はどうだい?」

 「僕を……放せ……っ」

 「おーおー……流石は神の血族、人外の血が入ってるだけはある。対魔力は多少はあるか」


 異形に蹂躙されながらそれだけ発せられれば上等だと、悪魔はせせら笑う。その傍ら、マイナスも苦しげな息を吐くシエロにうっとり。


(やっぱ、シエロは可愛い……)


 「まぁ、そんなカリカリすんな色男。あの日かい?」

 「ぼ、……僕をぶ、侮辱するかっ……」

 「いやいやさっきのは俺なりに褒めてるんだぜ。あと今してんのは侮辱じゃなくて凌辱だ。どこまで悪魔に抗えるか見物だな。人の不幸で今日も酒が美味い」


 シエロの尻を鞭で打ちつつ、悪魔はぐびぐび酒を飲む。


 「……っ、うっ……」

 「まぁ、今回からとか言う無理はいわねぇがマイナス!次回からは猿の脳味噌スープとか蛇と蛙の眼球の醤油漬けかけご飯とかカルシウムたっぷり人骨バター焼きとか用意しとけ」


 そして悪魔は此方に、ゲテモノ料理の催促をする。人骨は無理かも知れないが他のは何とかしてみよう。この悪魔とは良好な関係を保ちたい。この悪魔の協力さえあれば、自分の人生は最高の物になるとマイナスは確信していた。


 「なぁ、色男?そいつらの、どんどん固くなってるだろ?そいつらのあれこそ媚薬!出されたらお前の人生もうお終いだ!この歌姫にしかお前は治せなくなる。しかも毒は完全には解毒できない。時間が経つとまた強くなる」

 「い、嫌だっ!離せっ!」

 「ほぅら、どくどく言ってるだろ?後何秒かなぁ?あひゃひゃひゃひゃっ!準備しとけよ俺の歌姫っ!この色男まもなくお前のお注射欲しくて泣き出すぜ!」

 「や、止めろっ!」

 「止めてくれ、だろ人間?幾ら魂が高尚だって、お前の肉は人間のそれなんだよ。欲に溺れりゃそれまでだ。人魚の血だって助けてくれねぇ!ほら、お前らなに怠けてんだ?小五月蠅いお口の方も触手で塞いでやれ」


 悪魔の言葉に、シエロの顔が青ざめる。それでもその頬は熱を帯びて来ている。

 嫌だ嫌だと叫きだし、とうとうその目から涙が溢れた。


(凄い!)


 これが悪魔の拷問。以前私が何をやっても泣かなかったあのシエロが!泣いて嫌がって叫いている。

 思い人の泣き顔に、マイナスは先程この悪魔に感じた以上の興奮を得る。ドレスの下が凄いことになっているのは捲ってみなくても解る。いよいよその時が来た。


 《残念だけど、これ以上は僕も見ては居られない》


 そう思った時……室内が眩い光に包まれる。


 「美しい魂の涙は、僕を呼ぶには過ぎた生贄だ」


 見ればシエロを捉えていた魔物達が消えている。その代わりそこには、シエロを背に庇う何者かの姿。


 「っち!良いところで邪魔しに来やがって!エングリマっ!てめぇも悪魔ならこれで滾れ!興奮しろ!抜けっ!」

 「僕の片割れ。君は間違っている。愛とはエロスではなくあくまでアガペー。無償の物だ」


 現れたのはティモリアとそっくりの姿の少年。違うところは服装と色。彼の髪はシエロのような空色のグラデーション。その瞳は水鏡のような無色青。片翼は背中の左に付いている。その少年は無垢な少女のような優しげ穏やかな顔立ちだが、口調は穏やかなりに怒りに満ちている。それはともかく胸はないがスカートを履いているのには何か意味があるのだろうか?


 「ほざけ偽善者!天使気取りか悪魔の癖にっ!そう言うところがてめぇは勘に障るんだ!愛ってのはもっと薄汚れた汚物だ!反吐だ!快楽と肉欲以外にあり得ねぇ!」

 「それは違う。君はこれまで一体、彼の何を見てきたんだい?」

 「大体そいつ非処女で非童貞だろ?てめぇだって何だかんだで初物好きじゃねぇか!なんだって助けに来た!?」

 「汚れても尚汚れなきその魂。僕はそういうのも嫌いじゃない。それなのにそっちの歌姫はなんて醜悪なんだ。汚れてもいないのにその心は魂は汚れきっている」

 「なんだとごらぁっ!俺の契約者馬鹿にすんな!契約者無しでのこのこ現れたてめぇなんか今の俺の敵じゃねぇんだよ!何ならここで決着つけてやろうか!?あぁ!?」


 ティモリアの言葉に新しい悪魔はシエロを振り向き、その白い手に口付ける。


 「あ……」

 「これで身体は楽になったはずです」

 「くそっ!我慢汁まで相殺しやがった!どこまで俺の仕事の邪魔するつもりだ!?」


 顔の赤みが引いていくシエロに優しげな悪魔は跪き、懇願する。


 「お願いします!僕のために歌って。ファの音から始まる歌が良い!」

 「え……」

 「僕は貴方を助けるためにここに来た。いきなりそんなこと言うのは虫が良いとは思うけど、どうか僕を信じてください!」

 「邪魔すんな恋愛脳!トリアも観客も悲劇と悲恋をお望みなんだ!」

 「心が離れて破局するのは仕方ない。だけど君たちみたいな外的要因が誰かの愛を邪魔していいはずがない!僕は人間同士の恋には興味ないけれど、人と人外の恋は応援する質なんだ!イストリアの思い通りにはさせない!この脚本はハッピーエンドに終わらせる!」

 「ほざけ!悪魔の風上にも置けねぇ腑抜け野郎っ!なんでてめぇみたいなのに付いてて俺に付いてないんだ!使わないんなら俺に寄越せ!」

 「僕だって好きで男の身体を持ってるわけじゃない」


 二人の悪魔が口論をする中で、室内に響き渡る美しい歌声。その旋律は確かにファから始まっている。


 「信じてくれたんですね!ありがとうシエロさん!」

 「くそっ!マイナス!俺にも歌だ!歌を寄越せ!奴らは契約してねぇ!まだ俺達が勝ってる!」


 ティモリアからの催促に、マイナスは従おうとした。その時に、室内に流れる電流。それが身体のすぐ傍を霞め、歌うために息を吸えば触れてしまいそうな程。


 「それはどうかな」

 「その声……てめぇまで来てたのかエペンヴァっ!?俺が来た時まだ向こうにいたじゃないか!」

 「ははは!嘘偽りは悪魔の本分。特に私の眷属は、嘘に関しては一級レベル。眷属に身代わりをさせてきたのさ。それに気付かないとは余程この話にのめり込んでいたのかね第五領主殿?」


 狼狽えるティモリア。その視線を辿ればそこに、一人の青年がいる。頭に角を生やしていて、中年セクハラ親父のような胡散臭い笑みを浮かべていることを除けば美青年にカウントしてやっても良い程度には美形。


 「いやいや、貴方が私の契約者のご主人様か。ふぅむ、なかなか美しい。どうだい?助けてあげたお礼に一発やらせてくれないか?」

 「な、なんてこと言うんですか!」「な、なんてこと言うんですかエペンヴァさん!!」


 シエロとエングリマという悪魔が同じ反応をしていた。あの少年もなかなか味がある。一回くらいいたぶりたいとマイナスは思う。


 「くそっ!ここで召喚されたグリマは兎も角、今召喚されたでもないてめぇがどうしてここに!?俺は結界を張ったぞ!?この部屋に誰かが訪れる確立を限りなくゼロにした!」

 「生憎領域の悪魔たる私に忍び込めない領域は存在しない場所だけ。鍵も結界も無意味だとお忘れかな?」

 「……ぐっ、……何故てめぇがそいつに荷担する」

 「ははは、男は黙って初物好きさ!エング君、どうだい?助けた私に惚れたかな?惚れたら今夜一緒におじさんと遊ばない?新しい扉を開かせてあげるよ。いいじゃないか童貞非処女属性も美味しいと思うよ」

 「いえ、僕はそういうの興味ないので。他人の恋愛事眺めてる方が良いです。痛いのいやです」

 「いやいや、痛くないから!すぐに良くなるよ!そうだ、まずは先っちょだけでも」

 「嫌です。貴方は僕らの中でも凄い嘘吐きじゃないですか!絶対全部いれる気でしょう!?僕はもっとピュアな交際から始めるのじゃないとお断りです!」

 「手繋ぐのは?キス解禁は?前戯は?本番は?それぞれ何年?」

 「100年3000年8000年10000年です。あとキスより先は結婚するまで勿論駄目です」

 「おやおや、生殺しも良いところだ」

 「僕はその位紳士で真摯な方でないと付き合えません!ごめんなさい!」

 「やれやれ、手酷く振られたものだ」


 適度に残念そうに胡散臭い青年悪魔が溜息を吐く。


 「それじゃあ其方のお嬢さんだけどお嬢さんじゃないお嬢さん。この可哀想な地獄紳士のためにほっぺにちゅーくらいしてくれないかい?じゃないとおじさんやる気でない。働く気がしない。君たち加勢出来なくなる。それじゃあ困るだろう?」


 せめて連絡先だけでもと縋る男のように、青年悪魔が食い下がる。少年悪魔の方は駄目だと思ったのか、今度はシエロに。


 「ほっぺたにですか?そのくらいなら……」


 助けて貰ったのは事実だしと、シエロがかがみ込んだ悪魔の頬に口付ける。


 「ありがとうお嬢さん。お礼に上着を貸してあげよう。うん、似合っているよ。裸ジャケット……実にいい!その生足!見え隠れするその艶めかしい肢体が堪らんね!」

 「シエロをいやらしい目で見て良いのは私とモリア様だけだ!なんてことをしやがるあの親父っ!」


 流石に目の前であれはマイナスも許せない。こんなシエロと無関係のおっさんがあんなことして貰えるなんて!


(私だってそんなことされたことないのに!)


 「モリア様っ!」

 「うーん………力を貸してやりたいのは山々なんだが。あの歌姫厄介だ。あの親父はふざけたことを抜かしていたが六番風情が五番の俺に敵うわけがねぇ。あのセクハラ親父は魔王の中でも最弱だ。シエロって奴はさっきの歌で俺の結界を一時的に破ったんだ」

 「そんな……」

 「お前があいつの咽潰してくれたら俺も太刀打ちできるんだが……四番相手はちっとばかし俺には荷が重い。基本魔王は数字若いほうが強いんだ、例外もいるが」

 「ははは、流石の第五領主と言えど魔王二人が相手では簡単には行かないんじゃないかね?ここは退くべきだろう」

 「あのおっさんの言葉に従うのは癪だが……くそっ、今回は見逃してやる!計画立て直すぞマイナス!」


 マイナスは、ティモリアに腕を掴まれて扉まで走る。


 「さっさと開けろ」

 「は、はい!」


 言われるがままマイナスは扉を開ける。


 「奴らも追っては来れねぇ!どっちも傍に契約者はないんだからな、現実には作用出来ねぇ!」


 彼女の言うことはよく分からないがそれでも、部屋を抜ければ安全だと言うことが解った。

 振り向けば悪魔達は悔しげに此方を見つけている。


 「奴らに対抗するには俺らも他の悪魔の協力が要る。七番魔王は例外だ!イストリアの力を借りるぞ!」


 *


物語の悪魔

   『第五領主のナイスな演出の邪魔をするなんて、第四第六領主にも困ったものだわ。

    いえいえ皆様方、ここでのエロスを邪魔された分、きっちりこの物語の悪魔が取り戻して見せましょう!


    その時の、彼らの顔こそ見物です。さぁ、どう料理してやりましょう?』


 *


 「あ、悪魔……本物」


 シエロは身に起こったことを飲み込めずにいた。マイナスが突然悪魔を呼び出し、その後更に二人も現れた。


(この二人は僕を助けてくれたみたいだけれど……)


 考えれば考えるほど不思議だ。


 「どうして君たちはこの部屋から出られないの?」

 「それはシエロさん、悪魔が勝手に扉を開けて出て行くのは悪魔の証明に矛盾するんだ。そんなことすれば僕らは存在していると証明してしまう。それは悪魔的にタブーなんです」


 僕と似た髪色の少年悪魔は妙なことを言う。


 「君たちは自分がここにいると証明したいと思わないの?」

 「そんなことはナンセンスだよお嬢さんではないお嬢さん。我々は人間などに認められずともこうして存在しているのだからね。信仰の滅びを恐れるのは天の使いの方だろう」

 「だってシエロさん、さっきもそうだ。ティモリアがあの歌姫に扉を開けて貰わず彼女を抱えて壁をぶち破って空を飛んで逃げたりすれば、それはこの世界が崩壊してしまう」

 「この世界を本に閉じ込めた第七領主自身がこの世界を推理小説とジャンル分けしたのでね。推理する上での行動破綻は我々悪魔にこの世界は誓約として禁じているのだよ。そのルールに背けば僕らはこの世界の創造主に等しい彼女に報いを受ける。そして魂の狩り場である世界の一つを壊される。つまりは割に合わない」

 「我々悪魔は、この世界では基本意図しなければ人目に触れられないのと同じで、現実世界に触れられないんです」

 「なるほど」


 だからこの二人は未だ鎖に繋がれているシエロを傍観しているわけだ。この鎖や枷を解くことは、悪魔の証明に矛盾する。


 「それでも僕らは悪魔の中でも上位職。直接手に触れられなくても確立に作用することは出来ます。……例えば、そう」


 少年悪魔はすぅと息を吸い込んで、高らかに宣言。


 「“その足枷はこれまで度々使われていた。故に、運良く……今この時に寿命を迎え鎖が切れる確立変動!”」

 「あっ……」


 少年の言葉に、足を縛っていた鎖が千切れる。少年は他の縛めもと目をやるが、苦い顔つきになる。近づいてまじまじと鎖を見つめる青年悪魔は……


 「こっちの手枷と首輪は駄目だな。新品だ。……ならば“この部屋をこのお嬢さんではないお嬢さんに敵意がない私の召喚者が誰より先に適確に見つけ出し救出する確率変動”。これでその内何とかなるだろう」


 適当にやる気の無さと格好付けた感じの矛盾した声色でそれを宣言。まぁなんとかなるさと怪しく笑む。


 「少しは我々の存在がどういうものか理解していただけたかな?」

 「……ええ。回りくどい間接的なヒーローですね」

 「まぁ、今日この時に限ってはそうなるかもしれない」


 人助けなど悪魔の仕事ではないのだが、これも仕事なら仕方あるまい。青年悪魔が肩をすくめる。その横で少年悪魔が、それまでの何か暇つぶしは無いかと辺りを探り会話を繋げてくる。


 「シエロさん。あれ見てください。ティモが飲んでいたお酒です」

 「……これ、グラスから減っていない」

 「それは全部まやかしです」

 「まやかし!?」


 あの少女が飲んでいる風に見えた酒は嘘。そういう幻覚を見せられていたのだと悪魔達は言う。


 「実際シエロさん、貴方は何もされてはいませんよ。彼女の口車によって、非現実を現実として錯覚させられていた」

 「で、でも……」

 「第五領主の言葉責めは巧みだからねぇ。実際色々いれられたと思ったんだろう?けれどそんなことはないさ。口の周りも口の中も綺麗なものさ」

 「それじゃあこの上着も?」

 「無論貴方が借りたと思っているだけで私にはあんな所もこんな所も包み隠さず見えているよははははは!」

 「ひっ……」

 「まぁ、其方からは見せていないと思えるのだからまだいいじゃないか。少なくとも風邪は引かないよ。脳が着衣していると誤認しているから」


 この青年悪魔の方に何か言われると、セクハラを受けているような気がするのは何故なのだろう。シエロが考え込む横で、それでも危なかったんですよと少年悪魔が言ってくる。


 「言葉による脳内物質への関与。それによる一種の洗脳です。人は目ではなく魂で世界を見ている。精神がそう思い込めば、それもまたその人にとっての事実であり現実です」

 「実際、お嬢さんではないお嬢さん。貴方があの化け物共に出されていたら、貴方はどうしようもない淫乱に成り下がっていただろうしあの歌姫を求めずにはいられなくなっていた。そう言った意味ではこの子に感謝すべきだろう」


 何処まで本当かなんてわからない。それでもあの状況から逃れられたのは彼らのお陰だ。


 「……ありがとうございました、エングリマさん」


 スカート姿の少年悪魔に微笑めば、彼は顔を真っ赤にしてそっぽ向く。


 「……あの、お礼は良いです。その代わり……僕にもさっきのエペンヴァさんみたいに、……してもらえませんか?」


 目を逸らしたままもじもじと、彼は照れくさそうに懇願。


 「ふぅむ、さてはエング君。彼に惚れたね。キス解禁まで先程何年とか言ってなかったかね?」

 「べ、別にそんなことないです!シエロさんはあの子と一緒の方が応援していた僕も嬉しいです!唯……エペンヴァさんばかり狡いな……と」

 「やれやれ。私に嫉妬とは素直にそう言えば良いものを。どれどれ、んんんんー」

 「きゃあああああああああ!あ、貴方からのキスは要らないですっ!ほっぺた腐りそうっ!」


 青年悪魔に迫られ、女の子のような悲鳴を上げ、シエロの背中に隠れる少年悪魔。このままじゃずっとこんなやり取りが続きそうだ。仕方ない。


 「助けてくれてありがとう」


 もう一度微笑んで、シエロは屈んで少年の頬に口付ける。


 「い、いえ!こちらこそ!ありがとうございますっ!海神の娘……人魚姫の子孫にキスして貰えるなんて、凄い光栄です!」

 「ああ、なるほど。エング君は神聖属性フェチだったか。つくづく悪魔にしておくのは惜しい子だ」

 「?」

 「ようするにあれだね。お嬢さんではないお嬢さん、貴方とて一度や二度は本に涙し憧れたことはあるだろう?彼の場合はその本の中の人物にキスして貰ったような物なんだ。あの慌てぶりも驚かないでやってくれたまえ」

 「は、はぁ……わかりました」


 青年悪魔の言葉にシエロが頷けば、階段を駆け下りてくる足音。


 「ご無事ですかシエロ様!」

 「アルバ!!」


 ほっと安堵の息が口から零れたのを知って、シエロは自分がこの男を本当に信頼しているのだと再確認し、こそばゆい気持ちになった。

 そんなアルバとは言うと、主のとんでもない格好に度肝を抜かした後、手にした荷物から着替えと真水を差し出す。そして拘束具の解体をする……その間ずっと目を逸らされていた。


 「遅かったな我が主」


 青年悪魔がそう言って見つめる先にはアルバーダ。シエロはもしかしてと聞いてみる。


 「彼を呼んだのは君だったのかい?」

 「はい。シエロ様。彼は覗き見に優れた悪魔です。召喚に必要な道具が揃い、本日ようやく召喚に成功しました」

 「でも……色々危険なんじゃない?悪魔って魂とか欲しがるんだよね?」

 「はっはっは!喜びたまえよお嬢さんではないお嬢さん。魔王クラスの私と契約したことで、彼の寿命は大分削られた。おいおい人間らしい老化も始まるだろう」


 むしろ契約したことを感謝して欲しいと青年悪魔は含み笑った。


 「情報収集と言ったがね、無論誓約で現実には干渉は出来ない。しかし情報収集なら私の得意分野さ。無論この世界のジャンルが推理小説であるが故、犯人が分かっていても私は教えられないし悪魔の性質としても教える気がない。無論あなた方が犯人捜しに情熱を持っているのなら私も序盤で犯人の名前をネタバレする位の悪戯はするけれど、私は序盤に召喚されなかったのだから仕方ない」


 寡黙な召喚者に対しあくまで口達者な青年悪魔。それでもシャロンを殺した犯人を、教えてくれる気はないようだ。


 「え!エペンヴァさん犯人解ったんですか!?」

 「いやぁ、本の中に来てしまった以上私の能力は必然的にネタバレをされてしまうようなものなのだよ。こうなったらもう他の所で楽しむしかないね。お嬢さんではない色男君、もう一回くらいはエロシーンを用意してくれて居るんだろうね?貴方のお色気シーンはなかなかだったし年下に凌辱されるというのもそれはそれで背徳的だが、私としてはあっちの少年が犯される方が犯罪臭がしていいなと思う。非情ながら非常に思う」

 「……アルバ、悪魔に観察されてるってこういうことだったんだね」

 「今回の第七領主は悪趣味にもその執筆作業を大勢の悪魔の前でやっているそうです」

 「ひ、ひゃあ……」

 「気を落とさないでシエロさん。基本僕ら悪魔は貴方の現実には何ら作用しません。そんなもので揺らぐ愛でもないでしょう」

 「私の同僚で彼女ではない彼の言う通りだよ、お嬢さんではない色男君。むしろ見られて興奮するくらいの淫乱になりたまえ」

 「そうですよシエロ様。基本奴らは背後霊や守護霊みたいな物。下手に存在を認めれば満足に自慰も出来なくなります。適度に存在を否定するのが一番です」

 「うん……頑張る」

 「はっはっは!悪魔を否定しながら悪魔を召喚するとは、まったく妙な主だアルバ殿」


 シエロの説得に加わったアルバを見、青年悪魔は朗らかに笑い出す。


 「さて、そろそろお開きにしよう。放った使い魔達により、新しい情報が届いている。お嬢さんではない色男君。貴方の大事な歌姫は、少々厄介なことに巻き込まれているよ。早く行ってあげなさい。場所は上層街……アルセイド家」

 「アルセイド!?どうして?ドリスとエコーはそこまで親しくなかったはずだ」

 「それはお嬢さんではない色男君。彼は今、呪いを発動させては居なかったかね?」

 「っ!!」


 青年悪魔の言葉に、シエロは愕然とする。そうだ。カロン君は今、女の子だった。


 「彼女は、彼がシャロンなんだと勘違いした!?」

 「死んだはずの人間が、生きていればそれは不気味に思います。その始末を歌姫エコーに頼みに行ったとか……でしょうか?」

 「いや、二人が共犯者で……シャロンをもう一度亡き者にしようとしている可能性だって……」


 悪魔で情報しか与えない悪魔達は、自分の見解などは渡さない。アルバとの会話に妙な胸騒ぎがしたシエロは、マイナスに奪われていた剣を手にとって階段を駆け上がった。


 「シエロ様!お一人で大丈夫ですか!?」

 「大丈夫だ!アルバ!君は歌姫ドリスの方を頼む!」

 「畏まりました」


 背後から投げられた執事の声にそう返し、一気に階段を駆け上がる。連れてこられたときは目隠しをされていて解らなかったが、見ればそこは下層街の一角。怪しげな通りにある店を畳んだ酒場の様だ。そこをマイナスが拠点の一つとしていたのだろう。


 「……ん?これは」


 店先に光る物。シエロが拾い上げれば、それは小さな指輪。それはカロンが持っている証明証と同じ物。


 「シャロンの、指輪だ」


 どうしてこれがここに?マイナスが落とした……?それならば、シャロンから恋人証明証を奪ったのは彼女?


(マイナスが、シャロンの死を何時知ったのか。今度決着を付ける時はそれを曝かなければ)


 指輪を握りしめた後、シエロはそれをポケットへとしまう。今はそんなことより、カロンの身が心配だった。歌姫エコーが犯人ではない証拠など何処にもないのだ。


(待ってて、カロン君)


 君は僕が守るんだ。シャロンと同じ目になど遭わせない!

あくまで悪魔の説明をするためのエロです。現実じゃありません。

台詞回しがあれなだけです。描写はなるべく省いています。


こんなもんで抜けないね。故にこれはエロにあらず。と言って逃げっ。

悪魔達は推理の手伝いのために召喚。犯人逮捕の協力はしません。逃げる手伝いも追いかける手伝いもしません。

情報収集に当たる、人員を配役に割く(人物が増えることは犯人候補が増えること)より、悪意はあるけど絶対に犯人になり得ない存在という立ち位置で悪魔共を召喚させました。


あくまでこれは推理小説ですから。ファンタジーなら余裕であいつら何でもするがな。

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