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17:裏切りの歌

※今回はBL注意報 

物語の悪魔

  『さぁ、待ちに待った裏切りの時間にございます!


   裏切りの鐘の音に、海底の人魚も大喜びでしょう!

   まもなく本当の復讐劇の始まりです。』


 *

 

 屋敷に帰って来てからも、シエロの顔には暗い影が降りていた。歌姫ドリス。何を企んでいるのだろう?


(まさか好意を寄せるカロン君を傷付けるようなことはないとは思うが……)


 狙うならまず僕だろう。だが油断は出来ない。僕がしっかり守ってあげないと。視線の先でカロンはと言えば、それは嬉しそうに証明書を掲げている。


 「証明書って紙だけじゃないんだな」

 「携帯出来ないと困るだろ?紙は僕の方の証明書。君に渡されたのは証明証。どちらか残っていれば比較的簡単に再発行ができる」

 「あれで比較的簡単……?」

 「両方無くしていたなら順番待ちで何ヶ月か掛かっていたよ」

 「あ、そう言う意味か」


 青い綺麗な宝石の付いた指輪。その宝石の内側に刻まれているのはCharon=Huldbrandという名前。選定侯の恋人、選定侯の姓を伴侶のように刻んだそれは何よりの証だ。それが奇しくも我が家の養子になったカロン君の名と同じ綴りだというのは彼にとっても僕にとってもこそばゆい。

 はしゃぐ彼を見ていると、少し不安も軽くなる。アルバの様子がおかしかったのは気になるけれど、彼も疲れているだろう。今日はゆっくり休んで貰うように言っておいた。


(何かあったら僕が……)


 腰に携えた剣に触れ、精神を研ぎ澄ます。


 「カロン君、これから何があるかわからない。なるべく僕の側を離れないように」

 「……え、ああ……うん」

 「特に歌姫ドリスには要注意だ。彼女は僕の呪いの発動条件は知らなくとも、それ以外の多くは知っているようだ。シャロンのことも考えなければならないな」


 使用人を戻して屋敷の警備に当てるか?いや、でもそれは向こうの手の者が紛れ込む機会を与える。第一何も知らない使用人が万が一でもあれを発見したらそれこそ危ない。アルバとアルバの部下に任せるのが一番安全だ。

 そうだ、下手に動いて死体を持ち出そうとしたところを攻め込まれたらそれこそ不味い。彼女は此方が取り乱すのを待っているかもしれないのだから。


 「シエロ……大丈夫か?」


 僕の手が震えていることに気付いたのか、カロン君が僕の手を握る。


 「……ちょっとね。この7番を見て。僕はこの一文が怖かった」


 思い出したらこの様だと苦笑する。するとカロンが隣に腰を下ろして僕の持つ、メモの方を指差した。


 「俺は双子座のところが怖かった」

 「え?」

 「十二支の申の刻。9番目の申は15時–17時を指す。そして意味するところは双児宮。……あの手紙16時に待つっていうのは俺とシャロンが双子だって気付いてるって言ってるみたいでなんか怖かった」

 「カロン君……」

 「後は5番目。十二支の5番目。辰はドラゴン。あれだけが空想上の生き物なんだろ?」


 カロンが指差すのは手紙の5番目のプログラム。“オペラ座にて”……


 「オペラ座に現れたシャロンは空想。存在しない。それを俺は脅迫されてる気がして怖かった」

 「脅迫……か」


 それはシエロも感じていた。


 「この差出人である歌姫ドリスはシャロンの死を知っている。その死を深く知っている。限りなく犯人に近しい、それに類する立場の人間」

 「その人間が、俺達を脅しに来ている。あの女……最悪、シエロを犯人としてでっちあげる気なのかも」

 「……だからって、君が彼女に縛られる必要はない。僕はそんな風にカロン君が無理矢理彼女を見つめても良い結果になるとは思えない。君が幸せになれるとは思えない」

 「シエロ……」

 「君を苦しめている僕に言えた言葉ではないけれど、僕だって君に不幸になって貰いたいわけじゃないんだ。出来れば幸せになって欲しいと思っている」


 本当は君の思いに応えてあげられればいいんだけれど。

 今日あの瞬間。甦った殺意と憎しみ。憎しみで人を殺せるのなら、僕の視線は歌姫ドリスの息の根を止めていたはずだ。あの激しい感情に、僕は心の何処かで安堵していた。

 嗚呼、やっぱり僕はシャロンが大切だ。シャロンのためにあそこまで怒れる。狂える。


(だけど……)


 あの時僕を我に返らせてくれたカロン君。彼の言葉も僕の中では大きくなってきているのだ。何も聞こえないような、何も見えないようなあんな憎しみの中で……聞こえた彼の声が、本当に有り難い。だけど僕は情けない。彼があそこにいなければ、隣にいてくれなければ……あの場で証拠もなく歌姫ドリスに斬りかかっていたかも知れない。そうすることで真実への扉を自ら閉ざしていたかも知れない。

 無差別の復讐を望むなら。この街事全部破壊すればいい。片っ端から全員殺せば、きっとその中にも犯人はいるだろう。だけど僕はそう思えるまでまだ狂えていない。いっそそこまで狂えたならば、どんなに心安らぐことか。


 「そんな顔すんなシエロ。今日は俺達だって相手に迫った。証拠が手に入れば危ないのはあっちだって同じだ。……今日のお前は格好良かった。シャロンもきっとそう思ってる。俺が保証する」

 「カロン君……」


 シエロを励ますためにシャロンの名前を持ちだした。そんなカロンの言葉が、何故か胸を締め付ける。

 その痺れが指先まで伸びてくるようで、動けない。その癖彼にどうにかして欲しいような裏切りが芽生えるのだ。僕からは裏切れない。でも目の前のこの子が、ふとした瞬間……ああ、愛しいな。そう思う。本当はもっとぎゅっと抱き締めたい。親愛よりも気持ちを込めて、心を込めて大好きだよって言ってあげたい。僕が言いたい。

 僕は彼に一目惚れこそしなかったが、日に日に……一分一秒ずつ心が彼に傾いていく。だけどそんな僕の気持ちなんて彼は解っていないのだ。僕がちゃんと今この瞬間も、揺るぎなくシャロンを想っていると信じているんだろ?


(僕は狡いな……)


 すべては言い訳だ。今呪いが発動したならきっと、何もかも言い訳に出来る。昨日のことだって言い訳にしている。女の僕がシャロンそっくりの彼にどきどきするのは仕方のないことで、男の彼が女の僕を好きになってもそれは仕方がないことで。

 だけどカロン君が男の僕でも好きだなんて言うから、僕は自分に言い訳が出来なくて困っている。


 「だけど僕は……」


 あれはねシャロン、仕方なかったんだ。僕が女の子で、襲われて、手も縛られてたし逃げ出せなかった。昨日のは、そう言える。

 だけど今の僕は男で、彼より背も大きくて、力だって勝ってると思う。それで抵抗もしないで逃げもしないなんて、酷いよね。酷い、裏切りだよね。例え僕から何かしなくても、僕はシャロンをこうして裏切っている。

 ほら、またキスされた。何も言うなと言う風に、口を塞がれた。

 それが嫌じゃない。ねぇ、もっと。もっと近くに来てと言いそうになる口を押さえるしかない。

 近くで見るカロン君、すっごいドキドキしてる。今の僕は呪いが発動してないのに、この子の心臓の音が聞こえてくる。こんな僕なんかでこんなに緊張してくれている。そう思うと嬉しくて愛しくて、だけどやっぱり僕は動けない。

 彼の視線は僕の首筋。城で勇気づけて貰った時のキスの跡。多分明日には消えるんだろうな。そう思うと少し寂しい。それは彼も同じだったのかも。だから何も言わずに近づいて、首筋へとキスをするんだ。


(カロン君、子供みたい)


 子供特有の独占欲。愛情を欲しがる心。もっとこっちを見てと一生懸命な姿。そういうのが本当に可愛いと思う。出来ることなら慈しみたいと思うような大切な何かだ。

 だけどそれに手を伸ばすのは、同じく一生懸命に僕を愛してくれたあの子を裏切り打ち棄てることで。殺された彼女をこの手で僕が殺してしまうことに他ならない。そんなことは嫌だと僕の心も子供みたいに駄々をこねる。


 「……今は、これで十分だ」


 そう言って首筋から唇を離すカロン君の顔は、そんな風には見えない。全然足りない。もっと欲しい。手に入れたい。奪いたい。シャロンから、自分の物へとしてしまいたいと何処までも僕を求める。

 そんな視線を向けられたら、心がざわつく。その目はシャロンによく似ているのだ。僕は彼女の物なのに、彼女は何時だって僕をそんな目で見た。いつか僕が君を裏切ると……君は感じていたんだろうか?だから何時も必死に、縋り付くように。……僕の余裕なんて全部奪ってしまってその上で、僕に噛み付くんだ。誰にも渡さないと、君以外誰も愛するわけがないと信じる僕を心の底から疑って。そんな疑いさえ僕は嬉しくて、愛しくて。なのにどうしてだろう、シャロン。僕はもう、どうしたらいいのかわからない。

 僕の耳元で僕が誰の物なのかしっかり言い聞かせて欲しい。こっちを見てとその両手で僕の顔の向きを変えてくれ。何処にも行かないでと縋り付いてくれ。


(ねぇシャロン……どうして君は死んでしまったんだい?)


 今ここにいて欲しいのに。君を裏切りそうになる僕をしっかり戒めて、縛めて。誰にも渡さないと言ってくれ。

 今僕の耳に聞こえるのは健気な言葉の影に潜む「俺の物になれよ」という彼の声。君と同じ強さで直向きさで僕を見る、君と同じ色の瞳。

 嘘吐きな彼の言葉に滲む心にその声に、僕はどうにかなってしまいそうなんだ。


 「本当に?」

 「シエロ……?」

 「ううん、何でもないよ。もう遅いからお休み、カロン君」


 彼を隣の部屋まで送った後、自室へ戻り……灯りを消して寝台へ潜り込む。まだ顔は熱い。


 「僕、おかしくなっちゃったのかな……」


 溜息を吐く。疲れたのは自分も同じはず。早く眠ってしまおう。そう思った時……扉が開いて、誰かが入って来る。

 咄嗟に身構えるが殺気はない。侵入者ではないようだ。


(カロン君……かな?)


 影は何も言わないが、きっとそうだ。だんだんと見えてきた輪郭は彼の物だ。


 「怖い夢でも見た?」


 寝込みを敵に襲われない共限らない。いざという時傍で助けられるように、こっちで寝て貰ってもいいかもしれない。


 「カロン君?」


 その影は黙り込んだまま、まだどうぞとも言っていないのに勝手に寝台へと入ってくる。


 「あの、カロン君……?何かあったの?」


 何事かと起き上がろうとした所を捕まえられてキスされる。


 「ち、ちょっと……いきなり何を」


 お休みのキスのお強請りにしては乱暴だ。額でも頬でもなく深く唇を求めてくるなんて。


 「何で鍵、閉めなかった?」


 何時敵に襲われるか解らないのに不用心だとカロンは言う。


 「そ、それは……」

 「単に忘れてただけ?嘘だろ?嘘なんだろ?」

 「うっかりしてただけだよ」

 「違うな。お前は俺にこうして来て欲しかったんだ。だから鍵を開けていた」

 「な、何の根拠があって……」

 「証拠ならある」


 ほら、触ってみろよと……彼は嬉しそうに自分の胸を触らせる。


 「え……」


 柔らかい。僅かだが膨らみがある。これは男の胸じゃない。


 「お前の様子がおかしかったから、少し水に塩入れて飲んでみたんだ」


 確信犯の笑みだ。逃げ場がない。彼に呪いが発動する日は僕が……シャロンを裏切る日。


 「い、嫌だっ!」


 僕はシャロンが、シャロンを裏切れない。裏切りたくない。

 寝台を転げ落ち、近場のクローゼットまで走って逃げる。内側から押さえ込み貝になったつもりで閉じ籠もる。今のカロン君は女の子だ。籠城に徹した僕に敵うはずがない。ほっと息を吐いた。その瞬間、扉が壊された。どうやら水を飲んで男に戻って力任せに破壊したようだ。


 「ひ、ひぃい!」

 「手こずらせるな!お前も男なら覚悟決めろ!」

 「い、嫌!こっち来ないで!」

 「泣いて逃げる気か?女になれば俺の所為に出来るもんな」

 「っ……」

 「真剣な想いには真剣に応えるんじゃなかったのかよ!?」

 「だって……狡いよカロン君っ、どうしてそんなに急いで僕を追い詰めるの?僕だって……もっと気持ちの整理がしたい!いつか君を好きになるんだとしても、それはまだ嫌なんだ。……まだ四日だ!僕がシャロンを失って!」

 「もう三日だ。俺がお前に会って、お前に惚れてもう三日だ!もうそろそろ十二時になって四日になる!四日もあれば畑の作物だって芽を出すぞ?お前は四日も何うじうじしてたんだよ!?」


 言い訳の逃げ場を、一つずつ殺される。真っ直ぐな言葉に僕は言い返すことも出来ない。


 「大体今裏切るのと、未来に裏切るのとどう違うんだよ?」

 「そ、それは」

 「それはシャロンのためじゃなくて、自分のためだろ?“僕はこの位操を守りました、君への愛を貫きました。だからもう裏切っても良いよね?”……そう言いたいがためのエゴに俺がシャロンがどうして付き合わないといけないんだ?」

 「ひ、酷いよ……そんな言い方しなくたってっ!」

 「お前はシャロンを裏切る!それはシャロンを傷付ける!それが今でも明日でも一年後でも十年後でもだ!それが解ったのに俺は、我慢なんか出来ない」


 クローゼットで身動きできないシエロに近づいて、カロンが笑う。目尻に涙を浮かばせて。


 「お前、俺が今どんなに嬉しいか解るか?解らないだろ?やっとお前に手が届いた。俺の物に出来るんだ」


 たかだか三日やそこらで何を言っているんだこの子は。三日そこらで僕の心の中にどんどん入ってくるのは止めて。まだ胸が痛いんだ。放って置いてよ。そっとしておいて。しばらく見ない振りしてあげて。僕が立ち直るまでそうさせてよ、お願いだから。僕を好きだって言うのなら、その位の我が儘聞いてよ。


 「カロン君……」

 「だが断る」

 「そんなぁっ」

 「シエロ、お前は嘘吐きだ」

 「……ぇえ?」


 君にだけは言われたくないよ。シエロはそう睨むも、鼻で笑われてしまう。


 「お前が好きだから解るんだ。お前の顔に書いてある。お前の声に隠れてる。お前がこれを望んでるんだ。だからさっさと腹括って出て来いよ。今なら優しくしてやるから」

 「嫌だ……ここ僕の部屋なんだから!勝手に入って来ないでよ」

 「お前の家は俺の家。お前の部屋は俺の部屋」

 「そんなの、勝手過ぎるよっ!!」

 「俺の家はお前だ。ていうかお前の部屋ってそのクローゼットだったんだ。それじゃあこの外は俺の陣地!」

 「えぇえ!?なにそれっ!そんなの困るよ!」


 正に子供の発想だ。何でそうなるのか解らないが、非常に困る。もしクローゼットから出たら通行料とか言ってなんやかんや言いくるめられてあれこれされるのが目に見えている。


 「風呂にもトイレにも飯にも行けないな。どうするんだ?シエロ?」

 「助けて海月君!海月召喚っ!」

 「クローゼットで海月増殖すんな。水分無くて干涸らびるぞ。お前友達殺す気か?昨日も随分殉職したってのに」

 「うっ……」


 それに気付けばシエロはめそめそと啜り泣きながら、海月を召喚先の海へと帰すよりない。


 「嫌ぁ……助けてアルバーっ!」

 「いや、普通にあいつは来ないだろ。あいつの趣味的に」

 「い、意地悪なカロン君なんかもう知らないっ!嫌いっ!」

 「お前がそんな調子だから俺が男でも女でも何も出来ないと思って、俺がやってやるって言ってるんだからいい加減そっから出て来い」

 「ううっ、こんなに態度のでかい強姦魔……僕初めて見た」

 「そもそもお前が“本当に?”なんて聞き返すから悪い!折角無理矢理納得させようとしてたのに、お前があんな事言うから……物足りなくなったんだ。責任取れ」

 「そ、そんな暴論あんまりだ!せ、責任って言うなら君だって酷いことしたじゃないか!」

 「ああ、じゃあ責任とって嫁にしてやる」

 「そんな責任要らないよ……」

 「それじゃあ嫁になってやる」

 「それってどういう責任なのかわからないよ」


 話の噛み合わなさに、シエロはがっくり肩を落とす。


 「カロン君がこの部屋使いたいならどうぞ!僕は出て行く!アルバの所にでも泊めて貰うもん!」

 「まぁ待て、離れるなって言ったのはシエロだろ?幼気な子供を置き去りにするのはどうかと思う」

 「幼気な子供は寝込み襲ったり夜這いかけたりしない子のことを言うの!ってうわぁあ!」


 呼び止める声が合図になった訳ではないけれど、クローゼットを飛び出して数歩の所で僕は自分の足に躓いて盛大に転んでしまった。自分のドジに腹が立つ。

 シエロはぎゅっと唇を噛み締める。


 「そんなに嫌か?」

 「嫌だよ」

 「どうして?」

 「どうしてもだよ」

 「じゃ、何処まで嫌なんだ?解った。今日は嫌なところまではしない。約束する」

 「全部嫌」

 「我が儘言うな。そんな事言うなら全部やるぞ」

 「カロン君の嘘吐きっ」

 「約束すると言ったがお前が頷かない以上約束としてまだ成立してはいない」

 「どうして君は推理の時よりこういう時の方が頭も口も回るのさ!?」

 「人間欲がなければ動けない。脳味噌も同じだシエロ。エロいことでも考えてないと脳味噌回転するわけがないだろうが!今犯人が現れたら論破してやれる自信があるぞ俺は!」


 そんな探偵役は嫌過ぎる。灰色の脳細胞は聞いたことがあるけれど、そんな桃色の脳味噌で推理なんかされたら犯人も嫌気が差して自供の前に首でも吊りそうだ。僕が助手なら出家する。


 「……そうだ、出家しよう!」

 「させるか!何名案みたいな顔してるんだお前は!」

 「嫌だぁ、僕はシャロンの愛に生きて死ぬんだ!僕の女神!僕の人生!僕の魂!嗚呼シャロンっ!」

 「往生際悪いぞシエロ!いい加減にしろ!」


 後頭部を一発中途半端な力で殴られる。かなり苛々しているみたいだけれど、一応このツッコミは加減してくれたらしい。


 「微妙に痛い……何も殴らなくても」

 「はぁ……お前、俺の何がそんなに嫌なんだよ」

 「……ええと」


 言い返そうと思う。思った。しかし何も思い浮かばない。

 シエロは本気で悩む。けれどカロンはそれを悪い方向に考えたようだ。


 「おい、シエロ?そんなに考え込むほど、順番つけられないくらいあるのか?」

 「カロン君は黙ってて!今考えてるの!考えればすぐに君の嫌な所なんて見つけられるんだから!黙ってて!お願いだから!」

 「…………」

 「…………」

 「……諦めろシエロ。そんなに考えて見つからないんじゃしょうがない。普通にお前俺のこと好きだろ」

 「そ、そんなことは……」

 「このまま固い床でやられるのと、ふかふかのベッドのどっちが良い?」

 「うぅう…………ベッドが良いです」

 「よし!」


 脅迫のような言葉にマシな方を選んだけれど、その脅迫者とは言えば嬉しそうに笑って僕の手を引く。思い切り振り払って全力疾走で逃げ出せば……とか一瞬考えた。けれどその手は決して強く掴んでいるわけでもないのに不思議と振り払えない。僕の中の血が、彼を求めているのだろうか?


(ウンディーネ……)


 どちらも僕の、ウンディーネ。この手を掴むのも振り払うのも裏切りだ。

 海神よ。僕に怒るなら、今この瞬間に僕だけ殺してくれないか?簡単に人を殺せる力を持っているのに、手段があるのにそうしてくれないなら貴方だって同罪だ。少なくとも僕はそう思う。


 「ほら、泣くなシエロ。今日は男のお前に手を出すって決めてるんだから」


 横たえた僕の服を脱がせながら、彼は袖で涙を拭ってくれる。しかしついでとばかりに零れた言葉はあんまりだ。


 「なんでそんな頑なに決めてるんだよぅ……」

 「女のお前にしか手を出さないならお前が要らん勘違いしそうだから」

 「うぅっ……勘違いさせて欲しいよ僕は」

 「それに人前であんな物見せられたんだ。狡いだろ?お前と何の関係もないような奴らがお前の肌見たのに。俺もそれだけなんて、俺もそいつらと同じくらいどうでもいいみたいじゃないか」

 「やっぱり僕は嫌だよ」

 「この期に及んでお前……」

 「だって、僕があんなに好きだったシャロンを裏切るなんて。それは僕が幾ら君を好きになっても僕は何時か君を裏切ってしまうんだって、決定付けられてしまうみたいで嫌なんだ」

 「シエロ……」

 「やっぱり止めようよカロン君。ここで止めておけば僕は僕を信じられる。例え心が揺らいでも、心が誰を裏切っても……ここまでの裏切りは犯さないんだって僕を信じさせて欲しい」


 百歩譲って君を好きなことは認めよう。それでも、だからこそ怖い。一度裏切りを知れば、僕はそれに味をしめてしまう。そんな醜い生き物になってしまうんじゃないの?

 人の心を踏みにじり、人を渡り歩く最低な奴になり果てる。一度の裏切りは、僕をそんな風に変えてしまう呪いに変わる。そんな気がして怖いんだ。


 「大丈夫だシエロ。その前に俺がお前を殺してやる」

 「え……?」

 「お前が俺以外の誰かを見るようになったら殺す。お前が俺以外とこんな事をする前に殺してやる」


 この上なく物騒な言葉を、誠意を込めて彼は愛を語るように繰り返す。


 「だからお前は安心して俺を好きになれ。次はない。俺が許さない。シャロンを裏切ってもお前は俺を裏切らない。俺がお前のウンディーネだ。俺はシャロンとは違う。ちゃんとお前を殺してやる」

 「本当に?」

 「ああ、約束する」

 「絶対に、殺してくれる?土壇場で許すとか駄目だよ?僕が泣いても嫌がってもちゃんと、僕を殺してくれるんだね?」

 「ああ」

 「そっか……」


 急に気が楽になって、僕はなんだか笑ってしまった。


 「なら、いいよ。……僕、君を好きになってみる」

 「シエロ……!ほ、本当に!?」

 「ふ……不束者ですが、僕なんかで良ければ」

 「悪いわけなんてあるか!あの証明証が……本当に俺の物になったって言うのに!」


 シャロンの名前がカロンに変わった。同じ綴り、だけど意味が変わってしまった。それは針で胸刺す痛みだけれど……本当に幸せそうにカロンが笑う。

 それを見ているとシエロも、その痛みが鈍くなるのを感じる。


(ああ、そっか)


 ご先祖様の人魚姫。彼女の足の痛みと同じだ。この痛みが甦るのは、僕が彼を裏切った時じゃない。僕が彼に裏切られた時に再び甦る。


 「おい、こら。何でそこで泣くんだよ」


 何が何でも逃がすものかと彼は涙を拭ってくれる。それでもまだまだ涙は止まらない。


 「だって、僕は裏切らないよ。裏切るのはカロン君なんだ」


 *


 「は?」


 ようやく腹をくくってくれたと思ったはずの、まな板の上の鯉。それが再びびちびちと暴れ出すのを見て、カロンは声が裏返る。この馬鹿は何を言っているのやら。


 「君がいつか僕なんかどうでも良くなって、気持ち悪いって罵ってあの海へと突き落とすんだ」

 「何言ってるんだシエロ!?俺はそんなことしない!するもんか!」

 「やっぱり駄目だ。そんなの僕が耐えられなくなる」

 「シエロ!俺を信じてくれ!」


 寝台から逃げようとするシエロを押さえてその目を見つめ、必死に訴えるも目を逸らされる。


 「僕は君が好きだ。君もそう言ってくれる。これでいいじゃないか。僕は幸せだよ。これ以上何を望むって言うんだい?」

 「全然足りない。何もかも。欲しいのはお前の全部だシエロ」


 これは言っても埒があかない。一度は了承取ったんだ。ここで渋るのは男じゃない。

 まだうだうだ言おうとしているシエロに深く口付け口を塞いだ。最初はもがもが言っていたが段々と抵抗が弱くなる。気が済むまでそうしていたが、唇を離せば頬を紅潮させてもっとと強請るような目だ。


(俺がお前を裏切るだって?)


 こんなに好きなんだ。こんな風に誰かを強く想うこと、きっともう二度と無い。この人じゃないと駄目なんだ。代わりなんて居ない。代わりを作るくらいなら俺が死ぬ。その位、この気持ちを大事にしたいんだ。それがどうして伝わらないんだ。

 俺の幼い言葉じゃそれに至らないのか。それなら言葉以外で伝えるしかないだろう?だからもっとお前が欲しい。


 「シエロ、好きだ。お前が好きだ」

 「ひっ……」


 耳元で囁けば我に返ったシエロが脅える。触れる手で眼差しで、それに大丈夫だと必死に訴える。


 「お前が俺のウンディーネだ」

 「ぼ……ぼくが?」

 「俺が裏切ったら、お前が俺を殺して良い。だからそんなに怖がるな」

 「…………」

 「それに、俺はちゃんとお前の所に帰ってくる。約束する。俺にはお前がくれた名前が宝物なんだ」

 「カロン君……」

 「カロンって呼んで。シャロンみたいに名前で。他人みたいに呼ぶな」

 「でも、カロン君は……カロン君だよ」


 そう呼ぶのが好きなんだとシエロに言われて、確かに自分もそれが耳に慣れてしまった。呼ばれなくなったらそれはそれで寂しいかもしれない。


 「じゃ、こういう時は名前で」

 「カロン君の欲張り!」


 くすくすとシエロが笑う。


 「よし、間違えたなシエロ!間違えたらあんなことやこんなことをしてやる!」

 「ひゃあああああ!それ、駄目だってばぁっ!カロン君のばかぁああああ!」

 「まだここをこうされたいわけか」

 「くすぐったいの駄目ぇええええ!!ちょっ!足の裏は本当駄目っっ!僕弱いんだからっ……ぁあっ!」


 *


 「それで呼び方間違えたら擽り、間違えなかったら口吻とはなんとも色気のない。どうせならお仕置きが×××で××××、ご褒美が×××で××××くらいにしておけば良いものを」

 「聞いてたのかよ」

 「ぎゃぁあああ!止めてよ馬鹿馬鹿アルバの馬鹿ぁっ!こんな明るい内からそんな恥ずかしい話しないでよ!」


 翌朝カロンは、少し気まずいながらも心温まる思いでシエロの手を引いて食堂へと向かった。そこで朝食の仕度を調えたアルバがやれやれと肩をすくめていた。


 「大体シエロ様もシエロ様です。貴方は色々はじめてでもないんですからもう少しリードしてあげないとこの溝鼠が調子に乗りますよ?下手な時は下手と、痛い時は痛いとしっかり言わないと俺ってもしかして上手いとか思い込む勘違い男になります」

 「お前は俺の何を知っているって言うんだ」

 「そ、そうだよアルバ!そこまで下手でもないんだよカロン君は!将来見込みあるよ!……あと、あんまり痛くもないし!」

 「ぶっ……い、痛くないですか、そうですかそれはそれは」

 「腐れ執事!俺だって成長期なんだよ!これからどうにでもなるんだよ!」

 「でもシャロンの方が大きかったかなぁ」

 「はぁ!?何で!?」

 「シャロンは変身の時の塩分の量で大きさ変えられたんだよ」

 「仕事の時はあまりあれですと困りますが、オフ時は別だと帰宅するや可愛い顔の下に凶悪な物を身に纏われたものでしたね」

 「な、何それ!狡いっ!」

 「カロン君も女の子に変身する時は同じ理屈で胸の大きさ変えられるかもね。シャロンから見ればそっちの方が羨ましがられるよきっと」


 それは喜ぶところなのかどうなのか。いや女の子の胸は好きだ。でもそれが自分にあって嬉しいかはまた別問題で。あくまで触りたいんであって触られたいんではなくて。いやでも女シエロよりも胸を大きくしてそこで「僕なんかこれしか取り柄がないのに」って落ち込むシエロとか見てみたい。俺と同じ気分を味わわせてやる。


(……っていうか一昨日シエロが嫌がらなかったのって)


 嫌とかいう以前に全然痛くなかったし怒る気にもならなかったとか、そう言うのだったりしたりして……え?いつ入ったの?いつ出たの?全然解らなかったよあははーとか言われた日には俺は、俺は……


 「か、カロン君!?またそんな急に下町健康法を!?」


 壁に頭を打ち付け始めたカロンを見、シエロが目を見開く。


 「そんなに健康に良いのかなそれ。僕も毎朝始めるべきか」


 いや、真に受けないで欲しい。シエロは割と本気で信じている。どうしようこれ。本当のこと話すタイミング失った。


 「あのさ……」

 「ん?どうしたの」


 そうだ、そんなことより言うべき事があった。


 「昨日は悪かった」

 「え?」

 「その……俺もドリスの言葉が怖くて、それで」


 せいぜいいちゃつけ。すぐに別れはやって来る。そんな怖いことを言われて……俺は恐怖していた。このまま何か起こる前に何が何でもこの人を完全に自分の物にしてしまいたかった。


 「僕が殺されると思ったんでしょ?心配してきてくれた部分もあったんだよね?」

 「……暴走9割って感じだったけど」

 「ううん、暴走の半分は心配からでしょ?それは僕も嬉しいよ」


 シエロが優しく甘く微笑んだ。


 「……ありがとうカロン君。君がああやって僕に近づいて来てくれなかったら、多分僕は何年経ってもあの調子だったような気がする」

 「そ、そうか?」

 「しかし下町小僧は手が早い。出会って三日でシエロ様を攻略するとは。二日目には同意無しで事に及んだり」

 「そ、そう言えば確かに手が早いね。その様子だときっと下町の奥様方と遊んでたんだねカロン君」

 「人妻に手を出すとはとんでもない子供ですねシエロ様」

 「ば、馬鹿!俺はこんなの初めてだ!な、なんだその目は」

 「説得力がないですよ溝鼠様」

 「朝っぱらから喧嘩売ってるのか馬鹿執事っ!」

 「カロン君、テーブル乗っちゃ駄目だよー」


 アルバの胸倉を掴むには普通にしてたら届かない。仕方ないんだシエロ。こればっかりは。あと何年か待って貰わないと俺はこのいけ好かない男に掴みかかることも出来ないんだから。

 そうやってシエロに注意されながら掴んだ胸倉。アルバは嘆息の後に俺に助言をして来た。どういう風の吹き回しだろう。


(馬鹿者が。あれはシエロ様が嫉妬してらっしゃるんだ)

(シエロが俺に?)


 途端に日の光が差し込んできたような錯覚。いや、さっきから差していたが今日の朝日は日頃に増して爽やかで美しいような気がする。結論、すげー嬉しい。

 他人事ならここで一回寝たくらいで恋人気取りかよとかツッコミ入れたくなるが、これは嬉しい。口元が緩む。シャロンシャロン言ってたシエロが俺に嫉妬を!


 「ど、どうしたのカロン君!?」

 「くそっ!シエロの癖に可愛いな馬鹿野郎っ!シエロの癖にっ!」

 「うわぁっ!いきなり叩かないでよ」


 執事を離したと思ったら、今度は泣きながらシエロのその背中をべしべし叩き始めた俺に、シエロは何事かと騒ぎ出す。しかし何発目かで大人しくなり、考え込むよう言葉を紡ぐ。


 「カロン君は、もし僕に何かあったときに後悔しても遅いから、今の内に僕のこと色々知りたいって思ってくれたんだよね」


 シエロに優しくそう諭されれば、昨日の自分の心理状態がそういうものでもあったような気がするカロン。シエロは俺より俺が見えている。解ってくれている。そう思うととても嬉しい。


 「でも、そんなに焦らなくて良いんだよ。僕は何年でも待ってるから。ゆっくり僕を追い越して?いきなり背とかを追い越されたら僕だって吃驚しちゃうけど、少しずつ君に負けていくのは微笑ましいし仕方がないかなって思えるからさ」


 だからそんなにあれこれ焦らないで良いんだよと彼は言う。誰かと君を比べて君を嫌いになったりはしないからと。


 「僕は死なない。この復讐が終わっても、君にとっての家でありたい。命の続く限り、君と生きていたいと思う」

 「シエロ……」

 「唯さ、いつかシャロンに会った時は、僕と一緒に謝ってよ!」

 「ああ!約束する!」


 それだけ気掛かりというシエロに、カロンは強く頷いて力一杯笑ってやった。


 「シャロンには俺も殴られてやる!っていうかシャロンだって何処ぞの馬の骨にシエロ取られるくらいなら見知った俺に取られた方がまだ許容範囲じゃないか?」

 「もう、その開き直りが若さかなぁ。羨ましいよ。さぁ、それじゃあ朝食にしようか?」


 カロンはシエロに促され食卓へつく。アルバの料理を口にするのは初めてだったが、どうしてなかなか悪くない。この料理の腕があれば性格の悪さと会わせてプラスマイナスマイナス10ってところか。マイナス100からここまで上がれば上出来だ。マイナスであることには変わりないが。


 「でもごめんねアルバ。ここ数日僕が全然食事作れてない。君への負担を増やしてしまって」

 「いえ、シエロ様が料理をすると洗濯物が増えるのでかえって助かります」

 「ひ、酷いよアルバ」


 俺のシエロを泣かせたのでやっぱりマイナス90くらいにしておこう。


 「そ、それよりも……ちょっと聞きたいことがあったんだ」

 「……歌姫ドリスの事ですね」


 シエロの影を帯びた声。それにアルバが淡々と言葉を返す。


 「うん。彼女が言っていたことが気になる。あれは何なんだい?」

 「彼女は悪魔に魅入られています。愚かな女です恐らくろくな死に方はしないでしょうと言いたいところですが、残念ながら彼女はその内幸せになりますよ」

 「どういうこと?」

 「っていうか普通に悪魔とか話題に出されてもいまいち」

 「精霊やら人魚やら海神のいる世界で信憑性などとつまらないことを言わないで貰いたいですねカロン様」


 言われてみれば確かに。呪いとか存在する世界なんだ。悪魔の一匹や二匹存在していてもおかしくはない。ないような気がする。


 「彼女は悪魔に魂を売って、何か有利な取引をしたと言うことなのかな?」

 「証拠を掴ませずシャロンを殺させたとかか?」

 「そんなつまらないことを悪魔はしません。上級悪魔は仕事にある種の美学を持っています。隙あらば契約者を身の破滅に陥れてこその契約。たまたま目撃者に出会わなかったなどという偶然を左右することはあるでしょうが、人間の精神をどうにかし人間の手で殺させ、人間がやったという証拠は残すのが奴らの美学です」


 尻尾を掴まれないように謎を残すのが優美。人間がやった。これは絶対に人間がやった。証拠もある。何に腑に落ちない。何か胡散臭い。犯行動機が納得できない。何か臭う。しかし何も見えない。そう思わせるのが最高にいかしたやり方だとアルバは言った。


 「良いですか?ある観点において悪魔は人間と同じです。簡単に言うならばらくちん短期でがっぽり即金高収入!趣味と実益を兼ねやりがいがあり収入も良い仕事!……悪魔もこういう仕事の方が好きに決まっております」

 「そういうものなの?」

 「なんだか俺はよく分かる。頷きたくなる」

 「唯この場合の金銭が大抵は魂の量や質になる。それが普通の悪魔です。しかしあの歌姫の契約している悪魔は普通の悪魔ではない。あれは魂や金品など一切求めない」

 「それは変わっているね」

 「じゃあ何が欲しいんだ?」

 「悲劇か喜劇。それは残虐趣味の第七領主らしい生贄です。彼女は世界を本の中へと閉じ込めて、それを記録し時に脚色し反映させることが出来る神の如き悪魔。地獄の第七領主イストリア。彼女は歴史と物語の悪魔。嘘を真に、真を嘘に。彼女の力は人の死すらなかったことにする。もしシエロ様が彼女に気に入られたならば、シャロン様を死ななかったことにすることも可能でしたでしょう」


 悲劇とはグロテスクな殺害方法もさることながら登場人物の内面を抉ること。喜劇とは本人達は至って真面目なのに端から見ていれば笑い話。残虐な殺人すらコミカルに解釈して仕上げる。……アルバはそう説明してくれるが、それでもよくわからない。カロンが視線を送るとシエロも似たような反応だ。


 「なんだか凄い話過ぎて僕もそろそろ現実味無くなってきたよ」

 「空中から海月出す奴が何言ってんだよ」

 「要はどちらにしてもそれに巻き込まれた側からすればたまったものではないということです」


 ああ、それならよくわかる。確かに今の状況はたまったもんじゃないとカロンは納得。


 「ドリスは……それにシエロを巻き込んだってことか?」

 「はい。シエロ様は軸として組み込まれています。契約した本人以外を軸にさせるとは、歌姫ドリスの面白味の無さはまったく醜悪だ」

 「……ど、どういうことかな」

 「本のメインに据えるなら、あんな没落小娘よりお美しいシエロ様の方がヒロインとして映えると言うことです」

 「僕一応は男なんだけどなぁ……」

 「おそらく唯の復讐劇やら略奪愛程度ではやる気が起きなかったのでしょう。そこでシエロ様とシャロン様の呪いを知って、リバース薔薇百合何それカオス。やる気出た。……恐らくこんな所です。カオスは悪魔の好むところでありますから」

 「それでメインに据えられると何か困ることがあるのかな?」

 「ええ、大いに」


 アルバは思い切り溜息を吐き、空の彼方の歌姫ドリスを睨む。


 「基本契約者が支払う代償は本が終わるまでの執筆許可。その間その世界は悪魔に監視されることになります」


 契約内容に魂はないため、死んでも魂が悪魔に奪われることはないと執事は言った。


 「監視されるだけなら別に良いよね。神様みたいなものなんだろう?」

 「しかし奴は悪魔です。人の不幸が何よりの好物です。なので面白味を求めて世界をあらし、混沌へと導きます。とても口には出せませんが奴に目を付けられるのは大変なことなんですよシエロ様」

 「でも気に入ってくれたら死者の蘇生をしてくれるんだろ?」

 「それは彼女が哀れんだ場合だけです。基本哀れみなどありません。この場合の気に入るは、玩具として気に入ったの意味です」

 「ぐ、具体的に何されるんだよ」


 意味深な言い方をされ、カロンは不安になる。その不安を押し殺し、強い口調で聞いてみた。


 「記録によれば、本来契約者が本の軸に置かれます。その契約者が死ぬまで脚本能力を授けます」

 「脚本能力?」

 「世界を思い通りに操る力です。小説家や劇作家にでもなったように人と世界の運命を自由自在に操る事ができる恐ろしい力です。それは確立さえもねじ曲げあり得ない幸福を一点に集中させ、多くの不幸と狂気の渦を作ります。故にそれは未来方向にしか作用しないよう限定された力……本当にごく稀に過去方向へと変える力を得た契約者も居ますが今回は違います」

 「なんで過去は変えられないようにするんだ?」

 「それはカロン様。当然です。もしもシエロ様がその悪魔と出会いシャロン様を生き返らせてもらったならば、どうなっていたと思います?」


 もし過去を変えられたなら。その一言に、心臓がナイフで貫かれたような痛みと共にはっとする。


 「俺はシャロンとシエロが結婚でもするまでシエロと出会わなかっただろうな」

 「ええ。そして今のようにシエロ様と恋仲になりあんなことやらこんなことやら出来るような関係になるはずもなかったんです。仮にその日に貴方が実の妹の恋人に惚れたとしても」


 もしもシエロが運良くその悪魔に哀れまれ、力を貸して貰えたなら……物語としてはそこでハッピーエンド。お終いだ。俺は主役どころかモブキャラにもなれない。シエロとシャロンがいちゃついてお終いだ。

 オルフェウスとエウリュディケーの話だって離れ離れになるから今日まで語り継がれてきたんだろう。あれがうまくいっていたならリア充爆発しろ、完……で終わるはず。


(俺はシャロンが死んだから……)


 だからシエロに出会えた。シエロに心変わりをさせられた。それはシャロンの死という前提条件がある。

 もしもシャロンが生きている内に俺がシエロに出会ったとして、俺はやはりシエロに惹かれるだろう。それでもシエロは俺には振り向かない。今だって内心ハラハラしている。その悪魔がシャロンを生き返らせたらどうしよう?その時シエロは俺を選んでくれるとも限らない。その時俺はこの手でシエロを殺さなければならない。考えるだけでも恐ろしい。

 他の誰にもシエロを奪われるはずがないと言い切れる。それは死んだシャロン以外。シャロンという最強の恋敵が居ないからそう言えるだけで、シャロンが生きてここにいたなら勝ち目は限りなくない。

 俺は俺が恐ろしい。大切な妹の死に安堵している自分が自分で恐ろしい。


 「悪魔はそんな人助けに興味はありません。誰かが幸せになった分、それを勝る不幸の蜜を求めます。今回はシエロ様を軸に置き、悪魔の注意を自分から逸らせることで……歌姫ドリスは自身が不幸になることなく幸福だけを享受出来てしまう力を手にしたようです」

 「な、なんだよそれ!?」

 「つまり僕が生贄というのはそういうことか。僕が死ぬまでその悪魔に観察されつつ弄ばれるということだね」

 「はい。そして今のシエロ様はシャロン様を失った深い悲しみをカロン様に傷付けられながらも癒され、復讐の中にもささやかな幸せを見出している真っ最中にございます」

 「こ、言葉にされると恥ずかしい……」

 「恥ずかしがってる場合かシエロ!」


 緊迫した状況だというのに、どうしてくれようこの照れ屋。


 「つまりは、そろそろ崩し時。向こうがシエロ様を絶望のどん底に叩き落とし嘲笑いに来るのはまもなくのことでしょう。歌姫ドリスのあの余裕もそこから来ています。おそらくカロン様、貴方は否応なしにあの歌姫と添い遂げなければならないことになるでしょう」

 「はぁ!?あんな性悪女絶対嫌だ!」

 「ですが先日もしシエロ様が迎えに行かなければ引き摺られるまま彼女と寝所を共にしていたのでは?」

 「うっ……」

 「一回でも、一発でもやってしまえば彼女の脚本能力で“めでたく私とカロン君の間には赤ちゃんが出来ました”とか書かれてしまえばアウトです。責任取れと結婚を迫られます」

 「お、女って怖ぇえええ!!」

 「最悪“お酒で酔っぱらったカロン君と朝チュン”とか表記されれば幻覚でシエロ様と思わせそこを搾り取るなどという手もありますね」

 「な、何とかならないのか!?俺はそんなのは嫌だ!俺はシエロが良い!」

 「それならば暫く呪いを発動させてカロン様も女になられては如何ですか?無い物は出せません。如何に脚本能力でもよもや彼女が男になることはないでしょう。あれは過去改変は出来ませんから」


 実は歌姫ドリスは男でしたとかある日突然生えましたと、逆にカロンが襲われるなんて展開はないとアルバが保証する。過去で身体の遺伝子情報は決定されているから人魚の末裔とはいえ呪われていない女の彼女がシエロ達のようになることはないとのこと。


 「な、なるほど!女で過ごす、か。歌姫としての仕事も出来るし一石二鳥だな」

 「それじゃあしばらくは僕も本気で君のナイト役だね。頑張るよ」

 「しばらくは女シエロのあのでかい胸が見られないのか」

 「男の僕じゃ不満なの?」

 「冗談だって、今のままでも十分抜ける」

 「……迂闊なこと喋るんじゃなかった。僕ってカロン君にとって悪影響の塊だ」

 「身から出たサビですシエロ様」


 先日のシエロの戯れ言を真似れば、がっくりと肩を落としたシエロ。それに追い打ちを掛けるようにアルバは言う。


 「しかしあの小娘のバックは魔王クラスの悪魔。シエロ様が無事に切り抜けられる確立は限りなくゼロに等しい」

 「うわー僕死ぬのか。参ったなぁ」

 「簡単に死ぬとか言うな馬鹿っ!」

 「……まぁ、その辺りは私が何とか致しましょう。こういった方面は私の得意分野です」


 アルバは薄く笑って食器を片付け始める。それを手伝おうと付いていくシエロに、アルバは必要ないと首を振る。


 「アルバ……大丈夫なの?」

 「私は有能ですよ?シエロ様。それだけが取り柄です」


 食堂から離れた執事。その背中を見送るシエロは寂しげだ。


 「シエロ、あいつって何者なんだ?」

 「さぁ」

 「さぁって」

 「昔行き倒れてるところを拾ったんだ。死にかけてたけど、僕を食べさせた」

 「た、食べっ!?」


 思わずカロンが顔を赤らめると、シエロはもうと顔を赤らめて溜息。


 「性的な意味じゃないからね。言っただろ?僕は人魚の血がよく出てる。ちょっとの血と肉削られても暫くすれば元通り」

 「むしろ文字通り肉を食わせたって方が子供にはグロテスクなんだけどシエロ……」

 「人魚の肉を食べると不老不死になるって聞いたことない?僕は本物の人魚じゃないからそまでの力はなくて彼もちゃんと年取ってる。丈夫だけど不死身って訳でもないと思う。殺したこと無いから解らないけど」

 「解ったらそれはそれで怖ぇえよ」

 「まぁ、そんなわけで彼は元気になった。……そして彼は恩人である僕の呪いを解こうとしてくれて、いろいろな呪いとか魔術について調べるようになった。悪魔の話はその過程で知ったことだと思う」


 ドリスの言葉からはどうもそれだけではないようにも思えたが、とりあえず確証もないのでカロンは口を挟まないでおいた。


 「でももしかしたら……彼はその内に僕が嫌いになっちゃったのかもしれないなぁ」

 「そんなことあるかよ、あいつお前のこと普通に好きだろ?」

 「どうだろう?僕は彼を助けたつもりだけど、それは彼を苦しめてしまっただけなのかもしれないなって時々思うんだ」


 シエロは悲しそうな瞳をカロンへと送り微笑む。


 「カロン君は怪我しないでね。僕は君に背を追い越されるの楽しみにしてるんだから」


 *


 「おい、アルバ」

 「なんだ溝鼠」


 シエロがいないとすぐにこれだ。いてもたまにこれだけど。

 調理場に立つ黒衣の男のこの素っ気なさ。カロンは苛立ちを押し殺し、洗い物をする執事の横で食器を拭くことにした。


 「シエロ様の護衛はどうした?」

 「今日からしばらくはあいつが俺のナイトだ。俺のナイトは今メイド服で床掃除に忙しい。だからあんたに聞きたいことがある」

 「……下らん質問以外で頼む。シエロ様のスリーサイズは男女ともに答えんぞ」

 「微妙に気になるが違う。いざとなったら測らせて貰うしどうでもいい」

 「なら何だ」

 「あんた、過去に悪魔と何かあったのか?」

 「何故そう思う?」

 「ドリスの言い方が妙だった」

 「物語の悪魔は一つの世界で一人の人間としか契約をしない。だから私がそれと契約をしたことはない」

 「でも他の悪魔に会ったことはありそうな物言いだったよな。例えばその物語の悪魔っていうのに詳しい悪魔と話をしたことがある、とか」

 「……その推理力を何故昨夜出さなかった」

 「唯の洞察力だ。船頭やってるといろんな人間に会う。それだけだ」

 「なるほど」


 アルバはそう言うと、洗い物の消えた流し台の水を……止めない。その音に隠すように言葉を紡ぐ。


 「小僧、俺がいくつに見える?」

 「27とか28とか?」

 「直に今年で36だ」

 「え、ええぇええええ!?」

 「シエロ様と出会った頃が25、6だったから多少は老けて来たわけか」

 「10年で一歳ペースの老化って……死ぬのに何年かかんだよ」

 「人魚の子孫は寿命が普通の人間よりは多少長いが、それでも私より年下のシエロ様が私より先に亡くなるだろうことはわかる」

 「…………だから、シエロ」


 シエロはアルバを助けた。それが彼を人の枠から外してしまった。幼心に助けた命はその命を弄んでいるに過ぎないのではと、彼は胸を痛めている。


 「シエロ様の呪いを解けば、私も人の枠に戻るかと思った時期もあったが……生憎これは呪いではなく人魚の性質。シエロ様の呪いを解いても私は置いて逝かれるばかり」

 「それって……別にシエロが嫌いってわけじゃないんだよな。それならどうしてそう言ってやらないんだ?」

 「シエロ様は私のために大勢の使用人を解雇した。シャロン様が来られる前からだ。事情に通じ口の堅い使用人だけを残して。住まいをフルトブラントの本家から別に移したのもそのためだ。シエロ様は一時の哀れみで、私などを拾ったばかりに早く自立なされ寂しい思いをしただろう」

 「…………それじゃあ、アルバがシエロに冷たくなったのって」

 「あまり傍にいて目立てばあらぬ噂が立てられる。私の身に起きたことを知れば、シエロ様のその肉を食らいたいというよからぬ輩も出てくるだろう」


 成長するシエロの傍にいれば、老いないこの執事の存在が浮き彫りになる。久々に会えば「あらあんた何か美肌ケアしてるの?」くらいで済む。下町のおばちゃん達なら根掘り葉掘りその化粧水の売り場を尋ねそうではあるけれど。


(確かに……)


 この数日あまり目立つところでは二人は一緒に行動をしていない。それにはそんなわけがあったのか。


 「そんなシエロ様に不自由はさせまいと努力をしたが、それでも私ではシエロ様を笑わせて差し上げることは出来なかった。しかし……それを叶えたのは、シャロン様と……カロン様。あなた方だ」


 アルバは俺を見て、にぃと口元を歪ませる。笑ったのだと気が付いた。


 「向こうの下準備が出来る前に彼方の悪魔の痺れを切らせ、足並みを崩させる。そのために少々手荒な真似をした。しかしたかが三日そこらでシエロ様と上手く行くとは思わなかっただろう。不敵ぶってはいたが、内心冷や汗物だぞあれは」

 「あんた、まさか」


 シエロと二人きりで風呂場に閉じ込めたのも、恋人認定試験を早めたのもそのためか。もしかして変なことを言って俺を焚き付けたりしたのも?


 「あの方の人生はあの方の物だ。悪魔なんぞに滅茶苦茶にされて堪るか」

 「アルバ……」

 「私は対悪魔側の対策で忙しくなる。しかし現状であの女の使役する悪魔は事件に関して奇跡も魔法も起こさない。確立をねじ曲げる程度だ」

 「出来るのにやらないのか?」

 「少ない投資で大儲けできるならそれに越したことはないだろう?第一あの小娘の願いは程度が低い。故にやる気がしないのだ。与えられた脚本能力はさして高くない。シエロ様という餌の匂いがなければ召喚にすら応じなかっただろう」


 「問題はあの小娘よりその悪魔の出方だ。あの小娘に任せておけんと自らが筆を取り出してからが恐ろしい。イストリアの過去の悪行から察するに、シエロ様が公衆の面前で呪いが曝かれ晒されて輪されておまけにシャロン様の事件の罪も押しつけられて海に沈められるくらいは余裕でやりかねない。基本あの悪魔はエロスとグロ展開が大好物だ」

 「か、確立操るだけでそこまでなるのか?」

 「脚本能力とはそういうものだ」

 「脚本って言うからには何かペンとか紙とかがあって、それに書くとか?それを破壊すれば……」

 「無論便宜上の名であって、そんなモノはない。唯、悪魔の力を借りるため……一時的に悪魔と瞳の交換をしている。悪魔はその目交換した目で世界を見ている」

 「それなら……ドリスの目を、潰す……とか?」


 恐ろしい言葉が自分の口から漏れる。けれどそうする他にどんな手があるだろう。名案だと思った。しかしそれでは半分しか解決しないとアルバが言う。


 「ああ。それが出来ればあの女の、確立変動は止められる。だが悪魔自身の干渉はそれでは止まない。契約を交わしている以上、一冊の本が完結するまでこの世界は物語の悪魔の支配下だ」

 「でも本が終わるのはシエロが死ぬまで掛かるんだろ?」

 「契約者が死ねば、悪魔があの女から借りている目も死ぬ。脚本能力を持った契約者を殺すのは難しいことだし目を潰すこと自体も困難ではあるが……カロン様ならば可能かもしれない」


 そう言ってアルバがカロンに差し出すのは、錆びた短剣。柄には一つ大きな赤い宝石が付いている。鞘から抜けば銀色の刀身に何やら文字が掘ってある。


 「何だ、これ……?」

 「もうどうしようもないと思った時。その時全てを投げ出す覚悟があれば、これを使え。それを召喚するには音が“ド”から始まる歌を歌えば良い」

 「歌詞は何でも良いの?」

 「いや、高貴なお方と褒め讃えろ。だがあまり心にもない言葉も良くはない。飾り気のない言葉で力を求める意思を伝えると良い。ある程度の召喚には慣れている私が唯一呼び出せなかった相手だ。健闘を祈る」

 「は、はぁ!?そ、そんなの俺無理!」

 「だが魔王の中では最強の悪夢の君と呼ばれるお方だ。彼は長年思い続けた女が居るのだが、どうにもこうにも物に出来ぬと数万年嘆いている。私の見たところ、カロン様とは相性が良さそうだ。波長が合えば上手く行く。ただし本当にここぞと言うときに使え。大したことでもないのに呼び出せば、最悪この国ごと消し飛ぶからな」

 「こ、怖いこと言うなよ」

 「だが事実だ」

 「おい」

 「だがそれを使わせるような状況にはならないよう、此方も最善を尽くす。これから歌姫としての仕事も再開するだろうが、油断はなさらぬようにカロン様。人の悪意は時に悪魔よりも恐ろしい」


 付け加えられた一文に鳥肌が立つ。歌姫とは女とは、確かに一筋縄では行かない者ばかり。下から見上げた空の世界がこんなに恐ろしいところだとは思わなかった。


(そりゃますますシエロに惹かれるわけだ)


 女にもなれるが精神はあくまで男だ。だから彼を恐ろしいとは思わないし共感する部分も多い。


 「まずは歌姫としてカロン様は上を目指してください。その間に敵も動くはず。当面危険なのはシエロ様の方ですが、貴方自身もお気を付けて。今のシエロ様は貴方が人質に取られても取り乱すお方です」

 「……これ、ありがとう。俺もシエロは大事だ。……この街で二人目だ。俺はあんたを信頼した」

 「私は貴方で三人目ですよ」


 アルバは薄く笑って、それではと調理場を出る。


 「歌姫ドリス。あれは頭は回るが、歌姫としての才はないに等しい。あの程度の歌姫、中層街の劇に出たのもその確立を弄ったからに違いない」

 「……もしかして、励ましてくれてんの?」

 「事実を言ったまで。幸運も才能がなければ意味がない。歌でならあなたがあれに負けることは無いでしょう。貴方の歌はシエロ様を動かした。そこは誇って良い」


 ツカツカと数歩進んで、男はまだそこにいる。


 「……まだ、何か?」

 「シエロ様をよろしくお願いします」

 「……頼まれなくても、俺のシエロだ」

 「その言葉、10年後にでもまた聞いてみたいものです」


 背中を向けたまま、小さく笑ってアルバは消えた。この心細い状況で、信頼できる仲間が増えたのは喜ばしいこと。あの男の情報は信じていいものだ。


(信頼できる人か……)


 シエロは確かにそう言っていた。あれは本当だったんだな。

 しかし10年とは、随分馬鹿にされたものだ。

 爺になっても婆になっても骨になっても塵になっても……俺はシエロが大好きだ。例えシエロが俺を嫌いになっても、俺は同じ言葉を繰り返す。


 「百年後だって言ってやる」

今回は主人公が攻め。その内主人公受け回もありますので。


プロット漫画時はシエロが攻めだと思って描いてたのに、文にしたら「あ、こいつからはしばらく無理だわ」になった。シエロから何かするとかシエロの精神安定するまで無理だと思う。でも今回ので吹っ切れたかな。


好きな子に迫られてクローゼットに逃げ込む情けない攻。あまつさえ年下に掘られる攻。それ攻やない。



それはさておき悪魔回。

これはあくまで推理小説なので推理には悪魔は関わってこないようにします。死体移動なんかも悪魔の手は借りたりしません。貸しません。

全部人間の手による事件なんだけど、確立変数を弄ったりはしてる。狂気は元々その人が持っていること。悪魔はその人の行動がきちんと為せるような幸運を授けるだけ。

イレギュラーな奴らもいますが、それはどんでん返しのため。やはりシャロン殺人事件とは何ら関係ありません。

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