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16:夜の歌姫

※もう色々カオス注意報。

とりあえず前半SM注意。後半男体化注意。

物語の悪魔

   『幕は上がりました。後は畳むだけです。

    役者は揃いました。後は殺すだけです。』


 *


 「うふふふふ!あはははは!」


 城からの帰り道、ドリス様が楽しそうで何より。メリアもといリラは微笑ましい主を見守る。


 「リラ、作戦会議よ!マイナスさんの所へ行きましょう」


 リラは頷きドリスをエスコート。その手を取り暗い夜道を進む。上層街から下層街までの階段はかなりある。降りとはいえ足が疲れるだろう。

 失礼しますとその手に口付けて、ドリスを抱えて階段を下る。その内後ろから何かが凄い勢いで走ってくる。


 「よ!ドリスちゃん!お前さんとこの従者相変わらずイケメンだなぁ……一晩私に貸してみない?」


 それは人間を馬にして道を走る歌姫マイナス。下り階段でそれをさせるとはなんて鬼畜だこの女。しかし鞭を振るえばとうとう階段を踏み外す人馬。そこからひらりと飛び下り完全無傷。


 「ったく、使えねぇ」


 吐き捨てられたマイナスの唾に馬は歓喜の涙を流し、それが石畳に染みこむ前にと必死に舐め始める。余程咽が渇いていたのだろう。可哀想に。いや、違う意味かも知れないが少なくとも私はそう解釈しておきたい。リラは深く頷いた。


 「マイナスさんはシエロ様で我慢してくださいよ。彼、一人で二人美味しいんですから」


 下層街での一件をドリスに伝えたところ、マイナスとは手を組む利点があると彼女は言った。上手いこと意中の相手を物にする好機。


 「いやぁ……まさか本当にあるんだねぇ呪いって。ちょっと触っただけでいや感度が良いのなんのって。しかしあの胸はなかなかけしからん」


 それ以上にけしからん胸をした女が何やら言っている。


 「いや、でもよ。例えばあそこにぶっ込んでたとする。そこで男に戻った場合ってどうなるんだ?皮膚貫通するのか?いや、●●●にめり込むのか?それとも後ろの穴に強制移動させられるのか?」


 発想が酷い。仮にも惚れた男に対し、その考えは本当に酷い。実際やりそうな響きがあるのが恐ろしい。いや、少しは気になるが。


 「マイナスさん、それはシエロ様を手に入れてからのお楽しみですわ」


 ご主人様。仮にも友人だった方の恋人ですよ?かなり離れてるとはいえ親戚の親戚のまた親戚の親戚みたいなものなんですよ?止めないんですか?止めないんですね。そうですよね。恋敵ですもんね。仕方ないですね。それじゃあお優しいドリス様が見捨てても仕方ありません。


 しかしこれ以上無駄な情報漏洩は危険ですと目で訴えれば、それはしっかり彼女に伝わる。マイナスもその空気を読んだようで、それきり口を閉ざす。暫く歩き、下層街。ナイアードの屋敷ではなく、そこから離れた場所にある小さな佇まい。そこがこの歌姫マイナスの住処の一つ。


 「ま、散らかってっけど好きに座ってくれ」


 ぐびぐびと酒を片手に横になり、美貌の歌姫はぼりぼりと尻を掻く。そんなずぼらな仕草さえ無駄色気。しかも横になっているのが凄い。寝台ではあるのだが、それを支え得る足は人間の足。四隅に人がいて彼女のベッドを支えている。

 何度も遊びに来ているドリスはもう慣れたもので、人間椅子に腰を下ろす。あの椅子に私は心より嫉妬する。


 「ほい、茶入ったぞ」


 沸騰したヤカンのままマイナスが机に茶を置く。


 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

 「うっせ!机が喋んな!客の茶こぼす気か!?」


 火傷に悲鳴を上げる机。勿論それは人間で出来ている。一滴でもこぼしたらお仕置きだと鞭をしならせ床を叩く。

 むしろそのお仕置きがご褒美ですと言わんばかりに恍惚の表情を浮かべる机達。あの机はあんまり羨ましくないが、ドリスに同じ事を言われたら五分くらい考えてから断ると思う。


 「悪いな、五月蠅くして」

 「いえ、賑やかで楽しいですわ」


 ここ最近、ドリスの変化が酷い。出会った頃とのギャップが見て見ぬ振りを出来ないところまで来ている。文字通り、彼女は悪魔に魂を売ってしまった。そんなことをしなくとも、あの頃の貴女であればあの少年と仲良くなることも出来たでしょうに。


 「しかしよく考えたな。あの手紙!いや私全然わかんね。笑った笑った!シエロの奴いきなり脱いだと思ったら女装するわなんの」


 マイナスは城でのことを思い出したらしく腹を抱えて笑っている。


 「にしてもいいのか?あんな手紙名乗り出て。疑われるような真似するってことは、何か考えがあるんだよな?」

 「暗号ですか?ええ、考えは存分にそのための準備ならしています」

 「しかし最後の台詞は物騒だったなぁ!この間の劇の女よりも迫力あったよドリスちゃーん?」

 「あれだけ脅されれば不安になって二人の間にも亀裂が生じますわ」


(脅し……)


 嘘っぱちの言葉ですと嘯くドリスにマイナスは疑う素振りも見せない。普段穏和な歌姫ドリスが物騒事を引き起こせるほどの行動力があるとは思えないのだろう。


 ヤカンからティーカップへと茶を移し、ドリスは茶を啜る。普通にリラにも同じように注いでくれる。一瞬床に置かれたらどうしようとか思ったが、ちゃんと普通に渡してくれた。

 そういうところにはまだ、優しさが垣間見える。茶を受け取ると優しく髪を撫でられる。


 「それにしてもよくやってくれたわリラ。あのイベント表、半分嘘っぱちも良いところだもの」


 予定は未定。如何にフルトブラントと言えど、殿下の妨害あってそう簡単に情報収集で下町には降りられない。

 ドリスはあの日、下町で仕事など無かった。出掛けた振りと殿下との口裏合わせ。そしてリラと協力しあの二人を観察していた。屋敷での不在、その空白の時間に現れる性別反転の恋人。シエラがシエロ、シャロンがカロン。それを導き出すのは容易いことだ。


 「いやーっ、しかしまさかシャロンが死んだとはねぇ!おっどろいたわ」


 義理とはいえ妹だ。それが死んだと聞かされてへらへらしているこの女、人としては最低だが大物であることは確かでもある。


 「シエロ様はその事件をもみ消して、カロン君を使っておとり捜査をさせて居るんです」

 「それで女のシエロはあのやらしい身体だろ?健全な少年は一撃でノックアウトされちまったと?」

 「カロン君は騙されて居るんです。きっと双子の兄妹とか嘘吐いて、女になって惑わしているのよ!あんな純真な子誑かすなんて許せない!」


 あの少年も歌姫シエラの正体に気付けば気味悪がって逃げ出すに違いないとドリスは言う。


(しかし……)


 ねぇドリス様。本当はお気づきなんじゃありませんか?

 今日城に来たのは見紛う事なき男性のシエロ様。そのシエロに寄り添う少女があの少年だというのなら……人前であんなに熱い口付けを交わせるものでしょうか?あのシャロンの目は完全に、以前のシャロンと同じ色。


(見たくない物には見ない振り。あくまであの少年を神聖視したいのですねドリス様)


 そしてその反動があの青年へと向かっている。


(残念ですがマイナスさん)


 ドリス様はあの青年を生かしたままにはしないでしょうよ?貴女の最高の玩具も長くは生きられないはず。嗚呼、ほらだって……ドリスの目は、笑っていない。


 「そうだ、マイナスさん。面白い物をいただいたんです。これ貴女に差し上げますわ」

 「ん?何だこれ」


 それはあの海のような、青い宝石の付けられた美しい仮面。


 「さる職人が作った一品らしいんです。屋敷整理でみつかったんですが、価値がありすぎて値段が付けられないとかで。だからといってもスタイルの悪い私では似合いませんし、それなら似合いそうな方にお譲りしようかと」

 「へぇ。なかなか悪くねぇけど私、青って似合わねぇんだよなー」

 「そうですか?なかなか映えると思いますよ?貴女の傍にあのフルトブラントが映えるように」

 「そ、そっか?」


 ドリスの言葉に悪い気はしないという風な歌姫マイナス。


 「悪くないな。あいつとの夜に備えて青いドレスでも新調するか。この仮面に似合うようなの」

 「ええ!それが良いですわ!なんでもこれを着けた人の願いを叶えてくれるという逸話のあるそうで、貴女の恋のお手伝いになればと……マイナスさんには協力していただいておりますし、私なりの感謝の気持ちです」

 「はっはっは!よきにはからえ!ドリスちゃんは良い子だなー!あの腐れシャロンなんかよりずっと可愛いぜ!そのカロンって野郎もすぐにドリスちゃんの良さに気付くさ」

 「貴女にそう言っていただけると、ちょっと自信が持てますわ」


 二人の歌姫は小気味よく笑い談笑をする。しかしその仮面から発せられる禍々しい妖気にリラは身を竦ませた。


 「リラ、お茶のお代わりは要る?」


 振り返るドリスの微笑。それは妖しく美しい。悪事と企み事と狂気。そんな化粧が彼女をここまで飾り立てる。

 嗚呼、けれどドリス様。私は……誰もいない荒野にひっそり咲くような……可憐な野花の様な貴女に心惹かれたのでございます。誰に見られずとも、振り返られずとも……誰も貴女を美しいと讃えなくても。私はそんな貴女をお慕いしておりました。

 嗚呼、お美しいドリス様。今の貴方はとてつもなく美しく、この上なく恐ろしい。そして私はどうしようもなく切なく辛く、悲しいのでございます。


 *


 鼻歌交じりの歌姫シレナに続き、フラフラとオボロスは歩く。荷物で周りは良く見えないが、人通りは賑やかで活気がある。それは上から降りてくる人達。上層街の方では何か催し物でもあったのかもしれない。


 「お嬢様、何だか今日は街が騒がしいんですね」

 「う、五月蠅いわよオボロス!つべこべ言ってないでさっさと荷物を持ちなさい!これも!」

 「へ、へぇ!シレナお嬢さん!」

 「夜の方が閉店間際でいろいろ安くなっててお買い得なんだから!あっちの通りも行くわよ!」

 「は、はぇい」

 「はいかへいかはっきりしなさいよ馬鹿!」


 オボロスは思う。こんな所を見れば1年前からお嬢さんはちっとも変わっていない。

 だというのに何故だろう?何か違和感がある。1年ぶりなのだからそりゃあ懐かしいと感じて当然だ。しかしふとた瞬間に、どきっとさせられてしまう。


(お嬢さんが綺麗になったからって、俺って奴は)


 人の目を惹く。つまりこの人には歌姫という輝く仕事の才能があるのだろう。


 「そういやお嬢さん、見舞い先でちゃんとシャロンに会えたんですってね」

 「ええ!むかつく程元気だったわあの娘はっ!」

 「ははは!そりゃあシャロンですから」

 「なんでそこで自慢げなのよ!」

 「すいやせん」


 何故か腹部を叩かれた。何か機嫌を損ねるようなことを言ってしまったらしい。

 自慢の幼なじみなんだからそりゃあ自慢げにもならぁと思ってみたりはするが、口には出せない。これ以上やらかしたら手紙で給料下げられる。なんとか機嫌を取らないと、そう思ったが後の祭りか。シレナは鼻歌を止め、ふて腐れたように道を急ぐ。


 「ねぇ、あんた」

 「は、はい」

 「あんたはこの世に自分が生まれたわけを考えたことがある?」

 「お嬢さんは難しいことを言うんですね」


 そんなこと考えたこともない。

 唯生まれちまって、生きてて、生きてる。だから生きてる。生きてりゃ腹は減る。痛い物は嫌だ。そうなりゃ生きるしかない。死ぬって言うのは苦しいし腹は減るし痛い……そういうもののはずだから。


 「まぁ、幸せになるためにじゃないすかね」

 「幸せぇ?何にも知らない下町育ちらしい言葉ね」

 「お嬢さんだって下町生まれじゃ……」

 「うっさい、馬鹿っ!」


 脱いだ靴を頭にぶつけられた。拾ってきなさいと目で責められる。


 「それじゃあ、オボロス。何故人は死ぬの?」


 靴を拾いシレナの足へと嵌めていると、上から言葉が降りてきた。


(お嬢さんはつくづく難しいことを考えるんだなぁ)


 いっそ歌姫なんか止めて学者でも目指せばいいのに。お嬢様の頭だ。その方が案外儲かったりして。


 「もし仮にあんたの言うよう人が幸せになるために生まれるのなら、人は不幸になるために死ぬのよ」

 「は、はい?」

 「もし逆に人が不幸になるために生まれるのなら、人は幸せになるために死ぬのよ」

 「なんだか難しい話ですね」


 突然なんだってそんな話になるんだか。そう思いながらもオボロスは、苦笑しながら付き合った。


 「見て、この街の賑やかなこと。あの下町だってそう。例えば私が明日ここから消えたって、誰も私を思い出さない。私がもっと上の歌姫になってもそう。すぐに他の女に替わるのよ」

 「何かお嬢さん、あったんですか?辛いこととか、悲しいこととか」

 「何でもないの。唯たまに思うのよ。こんな世界、何処にもなくなってしまえばいいのにって」

 「お嬢さん?」

 「あんた、女じゃなくて良かったわね。歌姫なんてろくな仕事じゃないわ。どんなに頑張っても……私の名前を知らない人がいっぱい居るの。努力に見合わない仕事だわ」

 「でも俺はお嬢さんを知っています。お嬢さんにはシレナ=ネレイードっていう素敵な名前があるじゃないですか」


 少なくとも俺は知っている。自信を持ってお嬢さんの名前を口にする。するとお嬢さんは悲しそうに眼を細め……俺の額を指で弾く。そんなお嬢さんの両耳に揺れる紫の石の耳飾り。綺麗な石だったけど、緑目のお嬢さんにはあまり似合っていなかった。これは青目のシャロンの方が似合っただろうなとぼんやり思う。


 「……あんたって良い奴ね。だけど馬鹿ね」

 「褒めていただいたんならありがとうございます」

 「馬鹿ね。最低よって言ったのよ」

 「へ、へい……すみません」


  *


(ああ、忌々しいあの男!シエロ=フルトブラント!)

 城からの帰り道、エコーは憤りを隠しきれず、兄から貰った仮面を地へと思い切り叩き付け踏み割った。

 足早に屋敷へと帰り付くと、どこを先回りしてきたのか、何故かもう兄が家にいる。


 「エコーよ。物に当たるのは美しくないぞ」


 しかも仮面破壊したところも目撃していたらしい。仮面の修復活動に勤しんでいた。

 あの後仮面を拾って別の通りを猛ダッシュで走ってきて、汗を拭き涼しげな顔で何食わぬ様に仮面修復する俺格好いいという思考。意味不明にも程がある。


 「それなら兄様に当たっていいのかしら?」

 「殴られ、傷つく俺もまた遙かなる美。永久の旋律。永久の太陽の楽団。十六夜星のセレナーデ。ふむ、悪くない」

 「死ねっ!」


 後半部分意味解らないわ。何言ってるのこの人は。


 「私のシャロンの艶姿を見られるはずが、なんであの男邪魔ばかり!」

 「はっはっは!そうカリカリするな。カルシウムを取れ。牛の乳でも飲め。しかしこんな時間に牛は起きていない……か。生憎俺のはカルシウムはないからやれんぞ」

 「気持ちの悪いセクハラは止めて下さらない?」

 「他ならぬお前のためだ。兄妹のよしみで飲ませてやっても良いが、可愛い妹の頼みでも困ったことに俺は呪いを発動しても上からは出んな。鏡があれば下からは出せるがカルシウムはないだろう」


 さも親切ぶった言い方しているけれど、これ唯のセクハラっ!


 「いや……待てよ。これだけ美しい俺のあれはカルシウムのみならず栄養バランスの優れた飲料である可能性がある。何故なら俺が美しく完璧だから。ふむ、その理屈で言うと俺は実に素晴らしい!これでいつ遭難者を見つけても俺は助けてやれるのだな!」


 それ違う。それ遭難した挙げ句何処からともなく現れた全裸変質者に謎の白い液体を勧められるっていう拷問っ!


 「お休みなさいお兄様!私お風呂に入りますが、入ってこないで下さいね!」

 「照れ屋のお前の発言から見て、来て欲しい。そういうことか。しかし俺達は血の繋がった兄妹。如何に美しい俺でもその罪はあまりに重い!重い罪を背負う俺もまた美しくはあるが残念だなエコー。俺は女の裸に興味がない。俺と似ていないから全体的に美しくない。せめてお前が弟だったらまだ見込みが」


 もう死ね!そろそろ死ねっ!まもなく死ねっ!死なないなら私が殺してやりたい!


(最低。男って最低だわ)


 浴室へと入り、扉の鍵を掛ける。ドレスを脱ぎ現れた胸はシャロンよりは大きい。あの子は私の胸を羨ましげに見つめていた。

 恋人が居るのに、恋人の居ない私より胸が小さいなんてと気に病んでいたシャロンはとても可愛らしかった。仕事帰りにスパに寄ったことがあったけれど、あの時は死にかけた。シャロンの裸。凄かった。吸い付きたくなるような白い肌。小振りで慎ましやかな胸が可愛いのなんの。無防備に湯に浸かる様を思い出しただけで身体が火照る。何故あの日あのスパを貸しきりにしなかったのか。それだけが悔やまれる。

 しかし恋人シエロと浴室で事に及んだというのを期に、シャロンはスパに誘っても来なくなった。

 「ごめんねー可愛い恋人が身体火照らせて私をお家で待ってるの!たっぷり可愛がってあげないと!きゃははっ」とか良い笑顔で帰って行った。可愛いシャロンがあのクソ女顔男にのぼせるまで犯されてると思うと脳内火山が爆発しそうだ。


(シャロン……)


 嗚呼、今日も可愛かった。あのまま恋人と間違えられた私がそのまま恋人に認定されたりしたら良かったのに、残念だわ。


(だけど、本当に何も覚えてないようね)


 記憶喪失になったシャロンはあのことを覚えていなかった。こうしてまた友人面出来るのも記憶喪失様々のお陰。

 海水を汲み上げ浄化した風呂の水。舐めると少し塩辛い。けれど元々海に馴染み深い血が流れているのだ。気も休まるし美容にも効くし身体も温まる。言うこと無し。

 それに呪いが私に降りかかる。

 本来選定侯家の男、それもある程度血の力が強く前面に出ないと呪いは降りかからない。基本的に選定侯家の跡継ぎは、呪いがなければなってはならない。呪い即ち古の人魚と王子の血が色濃く出ているっていう証明なんだ。


(…………私だって)


 女の私に呪いがあるのは訳がある。それは誰より私があの子に相応しいから。

 シャロン、貴女は私の物になる運命なのよ。それが決められているの。


(今度こそ私は……)


 髪の色はあの頃とは違う。それは生まれ変わりでもないあのフルトブラントに受け継がれた。古の自身の名が忌々しい。


 「僕のウンディーネ……今度こそ僕は、君を裏切らない」


 兄様ではないけれど鏡の前に立つ。先程まであった胸がない。丸みも膨らみもなく、まるで男のそれのよう。そして先程まで無かった物が鏡の中には映り出す。

 エコーには兄のようなナルシストの気はないが、それでもあのシエロ=フルトブラントよりは今の自分の方がシャロンに相応しいとそう思う。器の話ではない。魂の話だ。

 男は嫌い。男は低俗な生き物。かつて私が男ではなかったら、あんな裏切り犯さなかった。だからこれは天から与えられた償いなのよ。

 例え呪いで男になろうと、今の私の心は魂は女のそれに他ならない。裏切りを知らず、唯一人を愛せる才能が今の私にはある。今度こそ僕は僕のウンディーネを裏切らない。


 「嗚呼……シャロンっ」


 男になった僕もあの男に負けていない。顔だって身体だって、君を想う気持ちだって。

 何も脅えること無いじゃないか。何世紀ぶりの再会だろう。同じ時代に二人揃って転生できたというのに何故君は逃げる?僕ではなく、僕の血を引く男なんかに現を抜かす?

 僕が女だから?いや違う。君は女になったあの男にすら愛を囁くじゃないか。性別など呪いなど関係ない。唯僕を愛していると言った君の魂が、今度は別の男を愛するというのか。


(そんなはず、ないじゃないか)


 君は僕のウンディーネだ。その魂は人のそれではない。身体こそ人であっても水妖のそれだ。僕を愛さないはずがない。唯、君は寿命で死んだわけではないから昔のことが思い出せない。だから不安なんだろう?思い出せないから、僕が怖くなったんだろう?

 だからたっぷり時間を掛けて愛を囁き、愛を交わしていこうと思ったのに。逃げられたのは痛かった。本当はもっとじっくり時間を掛けてやるつもりだったのに。

 でもまたチャンスはある。あの子は僕を親友と疑わない。また隙はある。その時また連れ込んであげよう。どうせあそこまで有名な歌姫。みんないなくなってくれた方が良いと思っている。だから僕が貰っても、社交界からシャロンが消えても……すぐに誰も気にしなくなる。

 それでまたこれでたっぷり可愛がってあげる。楽しみだねシャロン。僕と君との子なら髪の色は目の色はどうなるのかな?その子が生まれたらあの憎きフルトブラントのところへ挨拶へ行ってあげよう?

 すぐにお父様も許してくれる。恋人を作らない兄様と僕。跡継ぎが手に入るならそれはもう、喜んで。


 「でも、そうだね……」


 シャロンの逃亡を手伝った誰か。まずはそいつを始末しないと。じゃないとまた、肝心なときに邪魔されちゃうから。まずはそこから、なんとかしないと。

 首元に揺れる水色の石の首飾り。あの日、逃げたシャロンが落とした物。言うなればシャロンの分身。

 あの忌々しいシエロ。シャロンのキスで身を飾り、人前で肌を晒すなんて。キス一つで着飾れば恥ずかしくもないと言い放つあのふてぶてしさ。出来ることなら嗚呼、僕も……君の口付けで飾られたい。今はこの首飾りがその代わりの慰めだ。愛おしいと言う風に、それにエコーは口付けた。

歌姫さん達の夜。

プロットでは男体化した歌姫エコーさんここで「シャロンはぁはぁ」とかソロ活動するはずでしたが流石にカット。行間に埋めました。行間を読んで下さい。


微笑ましいはずのシレナとオボロスにも影が見え隠れ。

言わずもがなドリスはあれだしマイナスはSMだし。リラさん可哀想。


最悪な展開思いついたので、伏線を鏤めつつ、早く書き上げたい。

読み返してみて、ああ、これなら行ける。確かにそうだ。そう思ったので。


とりあえずシャロン殺人事件の推理は粗方もう出来る材料は叩き込んだはず。今度友人に読んで貰って犯人この時点で誰かと思う?って聞いてみようかと思います。


……でも友人が萌えるようなキャラいないかもしれない。読んでくれるか怪しいわ(笑)いや、でも腹黒萌えの友人にはよりどりみどりじゃないか?腹黒しかいないよ!……うん、女ばっかだ。男の腹黒じゃないと駄目?

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