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15:  の  『    』

暗号回。無駄伏線の回収なるか?


物語の悪魔

   『さぁさぁ!愉快な皆様方!ようこそいらっしゃいました!

    これより物語の悪魔の契約者たる人の子より、出題をさせていただきます。


    愚かで滑稽な人間が苦しみ藻掻く様をお楽しみ下さい!

    勿論、それが解けたから悲劇のヒロインが幸せになれるはずもありません!

    ですからどうぞご安心を。


    推理小説で探偵が死なないなどと、いつどこの世界の誰が定めましたでしょうか?

    人間の定義など我々悪魔には、どうでもいいことです。』


 *

 

(くそっ……)



 アクアリウスは苦虫を噛み潰す。


(いや、待て……)


 そして思い出す。俺の歌姫から託されていた物がある。懐から取り出すは、一枚の手紙。困ったときはこれを開けろと言われている。

 歌姫ドリュアスも今日ここに来ているはずだ。しかしこれだけ同じ格好の人間がいればいかにアクアリウスと言えど、彼女を見つけることは出来ない。何度も抱いたはずの女一人見つけるのすら難しい。それはこれだけのバカップルぶりを見せつける歌姫シャロンも変わらない。如何にシエロと言えど、不可能事はある。

 人魚の王子の再来?先祖返り?ふざけるな。王位はこのままこのイリオン様が世襲する!他の選定侯家に譲ってなるものか。


(…………ふむ)


 手紙を開いてみたが、まったく意味が分からない。だがそれがいい。


(これならばいける)


 どうにでも後付けで解釈、蘊蓄たれればいい。アクアリウスは頷いて、その手紙をシエロの元へと放り投げた。


 「まずはシエロ、この謎を解いてみよ」


 *


 「はい、シエロ」

 「ありがとう、シャロン」


 シエロが手紙を拾おうと腰をかがめる前に、カロンがそれを掴んで此方へ渡す。その行為に礼をし、シエロは手紙を開く。


 「な、なんなのこれ?」

 「…………」


 隣で手紙を覗き込んだカロン。彼はなんじゃこりゃと顔をしかめる。それはシエロも変わらない。しかし殿下がああいう以上、これが何らかの暗号であることは間違いない。


(だけどあの殿下にこんな頭が回るとは思えない)


 おそらく他の者。歌姫ドリス、或いはその従者メリア辺りの入れ知恵だろう。手紙には、こうある。


 “1:下町の少年渡し守

  2:商家の歌姫

  3:呪われた人魚の末裔

  4:オペラ座の歌姫

  5:オペラ座にて

  6:下層歌姫

  7:暗い月夜の暗い地下室

  8:墜ちた歌姫

  9:黒衣の男と見舞客

  10:くろねこのとおりみち

  11:海の歌姫

  12:Charon=Huldbrandという歌姫

  14:  の歌姫

  15:  の   『     』 ”


 何かのプログラム?目次?演目?わからない。しかしぱっと見て解ることはいくつかある。


(まずは偶数)


 歌姫という単語が入っているのは、2、4、6、8、11、12、14。11という例外を除き全てが偶数。そして6と8だけ歌姫の前に“の”がない。


(次は表記だ)


 本来偶数という縛りがあれば10にも“歌姫”が入るはず。そこだけ何故か平仮名。“くろねこのとおりみち”……これに無理矢理数字を当てはめるなら、“96ね5の10り3ち”?

 これだけでは意味が不明だ。しかし何らかの意味があるのだろう。とりあえずは保留。


(そして次に気になるのは12以降)


 13番が欠けている。これは縁起が悪いから?しかしそれなら4や9を抜くべきではないのか?意図的に13が抜けている意味は何?

 そして14と15。


 「殿下、これは14、15番の空白を埋めろと言う質問で宜しいのですか?それともそれを埋めた上で何かに答えろと?」

 「そ、それは貴様が考えろ!あくまで俺は出題者!答えを言うわけにはいかんし不要なヒントは貴様にやらん」

 「そうですか、ありがとうございます」


 やはりこの反応。腐れ殿下が考えた物ではない。殿下は何も解っていない。だから答えられない。答えが分かっているのなら調子に乗ったこの男、ボロを出してヒントをもたらしてもいいはず。どうせ僕には解けまいと、そう見下して動くはず。それがないと言うことは、この男も答えを知らないということ。


 「…………」


 シエロはじっと手紙を見つめる。少なくともこの手紙を渡した人間は、僕とカロン君を知っている。でなければ解らない単語がある。


(そうだ、次は配役)


 この手紙には人物を差す言葉が多く記されている。


 “1:下町の少年渡し守…これはカロン=ナイアス

  2:商家の歌姫…これは歌姫シレナ=ネレイード

  3:呪われた人魚の末裔…これは選定侯家の人間を指す?それなら僕シエロ=フルトブラント。或いはナルキス=アルセイド、エコー=アルセイド、イリオン=アクアリウス。ただし“呪われた人魚”の末裔か、“呪われた”人魚の末裔かで該当者が変わってくる。

  4:オペラ座の歌姫…これは歌劇の歌姫であるエコー=アルセイドと考えるのが妥当。

  5:オペラ座にて

  6:下層歌姫…これは歌姫ドリス=エウリード、或いは歌姫マイナス=ナイアード。

  7:暗い月夜の暗い地下室

  8:墜ちた歌姫…これは歌姫メリア=オレアード?それとも歌姫シャロン=ナイアード?

  9:黒衣の男と見舞客…僕の周りで黒衣の男と呼べるのはアルバーダ=グアイタ。客がシャロンへの見舞いを意味するならば、エコーにシレナ、ドリスにメリア、それからマイナス。

  10:くろねこのとおりみち

  11:海の歌姫…これは漠然としている。人魚を意味する言葉なのだろうか?

  12:Charon=Huldbrandという歌姫…これはカロン、或いはシャロン。

  14:  の歌姫…これが意味するところはまだわからない。

  15:  の   『     』 ”


 そう、この手紙は……脅迫文のように恐ろしい。シエロという人間の周りをここ数日観察していたとしか思えない。 役者が周りの人々で符合するのはまだいい。


(15は保留。そして5番、7番、10番……)


 人物を指さないのは基本この3つ。これは場所を意味している。何が恐ろしいと言えばそれは7番。


(地下室……)


 その3文字がなによりシエロを恐怖させる。他のことなら確かに他人が知り得る情報かもしれない。少なくとも不可能とは言えない。しかし地下室。シャロンの死体の安置場所。それを指すこの言葉。唯の偶然?それにしては出来すぎている。

 死体を隠すなら普通の部屋には置けない。その比喩表現がたまたま符合したとも取れるが、少なくともこの手紙を書いた人間は……“シャロンの死を確信している”。そして僕に脅迫してきているのだ。


 「ねぇシエロ……この文字って、あの」

 「!」


 カロン君が真っ先に気が付いたのは僕とは違うところ。僕はこの謎を解こうと言葉を意味を見た。けれど彼はそうじゃない。まず文字について目を留めた。


(そうだ、これは……)


 “16時に上層街、いつもの場所で。

 シャロン”


 あの手紙と同じだ。定規で線を引いたような筆跡を辿らせない妙な文字。これは偶然か?今の手紙には15までしかない。だがあの手紙は16時を指している。


 「なるほど……僕は16時。つまりはこの手紙の差出人を当てればいいんですね」

 「シエロ、どういうこと?」

 「後で説明するよ。君は君が見ておかしいと思ったところを教えて欲しい。それが僕にとって何よりの支えだ。シャロンからの助言はあっても結構ですよね殿下?僕らは一心同体、恋人ですから」

 「ふ、ふん!構わん!これが解けなければその恋人関係も今宵で終わり!精々最後の共同作業と行くが良い!」


 殿下の許可は出た。まだ見えない事ばかりだが、カロン君のお陰でわかって来た。


 「ありがとう。君が隣にいてくれて良かった。君とならどんな謎も解けるような気がするよ」

 「し、シエロ……」


 心からの感謝と賛辞をもって彼に微笑めば、照れから彼は視線を手紙へと戻した。そして更なるヒントを僕へと送る。


 「シエロ、これ……上層街がない」

 「え?」

 「オペラ座は中層街。くろねこ亭は下層街。上層街で待ってるのなら、それを指す言葉がないとおかしい」

 「そうだね……」


 強いて言うなら7番と9番。しかしそれは上層街の代名詞とまでは言えない。それが上層街の僕の屋敷だと解っても、オペラ座やくろねこ亭ほどのインパクトはない。上層街を意味する代名詞なら、そう……この城くらいのインパクトが欲しい。


 「いや……待てよ」


 上層街ランクの歌姫。それを意味するのはシャロンとエコー。上層街とはつまり、該当する数字の上という意味。シャロンより上の数字で待つ、という意味ならばそれは11番か7番。

 海で待ってる、地下室で待ってるとは、その表現は僕にとってはどちらも怖い。しかしシャロンに当てはまる数字は、シャロンだという確証がないものが多い。それならば明確にそれを知れるのはエコーの4番。犯人は3番で待つ。つまりは3番に該当する人物がこの手紙を書きました、と言っているに等しい。


 「シエロ、そう言えば選定侯家って4つだったよね?」

 「ああ、そうだよ。僕のフルトブラント。ナルキスのアルセイド。陛下のアクアリウス……はアクアリウト家が王位に就いたときの変化形。それから……」

 「なんていうか貴族の人達って伸ばす苗字多いわよね。ナイアード、ネレイード、エウリード……」

 「うん、そうだね。ここら一帯では貴族の家は伸ばす音が高貴っていう観念があって、貴族の称号かある程度のお金持ちは苗字を改名出来るんだ。だからみんな貴族らしさを求めてそうする」

 「でも選定侯家は違うのね」

 「僕らの家は特殊だからね。一時期の流行で苗字を変えるわけにはいかない」

 「それもそうね。それじゃあもう一つの選定侯家の名前も伸びないんだ?」

 「うん、もう一つはエウリュディ家。だけど今は血が途絶えたと聞いて……いや、待てよ」


 シエロは気付く。3番に該当するのは……現存するその3家とは限らない。


 「アルバ!大至急選定侯家の家系図を!」

 「おいフルトブラント!あの男は貴様の恋人ではないだろう!」

 「ですが彼は僕の使用人、彼は僕の手足、言うなれば僕自身です。何か問題でも?」

 「お持ちしましたシエロ様」

 「は、早っ!何なんだ貴様の使用人は!!」

 「嫌な胸騒ぎがしましたので、予め家系図を常備しておきました」

 「ええい!主共々忌々しいっ!流石はシエロ!貴様の手足だ!」

 「お褒めにあずかり光栄です、イリオン様」

 「我が名はアクアリウス!使用人風情が妄りに王子の名を呼ぶな!」

 「これは失礼。ですか王名を名乗るべきは陛下だけかと思いましたので、アクアリウト様」

 「ふ、不快な男だ!注意をしておけシエロ!っておい!貴様俺を無視するな!そっちがその気ならこっちにも考えがある!」


 殿下は大声を張り上げて、大声を上げる。


 「今から会場の皆様方にも同じ内容の暗号を配る!あの忌々しいフルトブラントより先に答えを導き出せた方には俺が褒美を出そう!さぁ!どうせ奴が答えを出すまで暇だろう皆様方!存分にあの男を出し抜いてくれるがいい!」


 馬鹿の一つ覚えのように、執念深いこの男は記憶力だけは良い。暗記した手紙の内容を書き記し配布し始める。

 けれどそれを意味するところが解るのは犯人くらいだろう。ほとんどの客はまったくヒントのない暗号に頭を抱え始める。それはそうだ。この暗号は四日前のあの手紙があって始めて機能する。シエロの心配事は専ら、あの馬鹿殿下が適当な答えを正解としてわめき立てないかと言うことくらい。その手にあの馬鹿殿下が気付く前に、さっさとこの謎を解こう。

 シエロが受け取るは、アルバが懐から出した家系図。まずはじまりの王家はフルトブラントから四つに分かれる。断絶したというエウリュディ家。そこから分かれた名前を漁る。そのどれかに見覚えは聞き覚えはないだろうかと。

 膨大に広がり薄れていく家名を漁りながら、シエロはこれまでの他の疑問を再び繰り返す。


 歌姫という単語。11という例外を除き全て偶数。そして6と8だけ歌姫の前に“の”がない。

 平仮名。“くろねこのとおりみち”……“96ね5の10り3ち”。歌姫のあれはここにかかる?どこかから“の”を抜けってこと?例えばくろねことおりみち?

 それから13番が欠けている。意図的に13が抜けている意味は何?


 「シエロ様、十二支という物をご存知ですか?」

 「聞いたことはあるよ」

 「では“ね”が子年……鼠を意味するとはご存知で?」

 「アルバ、実は鼠好きなんじゃない?そんな雑学知ってるなんて」

 「他国では常識にございます」

 「うう……ごめん」


 博識な使用人を前に、どうせ僕は井の中の蛙だよとシエロは肩を落とす。


 「王になるには他国文化風習を理解することも必要にございます。当然アクアリウス様はご存知でしたでしょうね?」

 「と、とととと当然だ!」


 あ、絶対嘘だな。


 「無論俺も知らんぞ。しかし物思い耽るシエロ、その眼差しはなかなか美しい。俺ほどではないが」

 「うん、ナルキス君は黙ってて。思考の邪魔だ」

 「ふっ、俺の美声がお前の思考を遮ってしまうとは。嗚呼、俺は俺の美しさが恐ろしい!我が友を苦しめるこの美しき俺に神よ報いを与え給え!」


 つい相手にしてしまった所為で余計ナルキスが五月蠅い。相手にするんじゃなかった。

 シエロは片耳を塞ぎ、執事アルバと相棒カロンへと意識を戻す。


 「それで子というのは何時を意味する言葉なんだい?」

 「……くろねこのとおりみち、“96ね5の10り3ち”、この残った平仮名を表すと」

 「ああ、関係ないこと聞いたんだね。ごめん」

 「“ねのち”……つまりは“子後”、“ねずみのうしろ”となります」

  「だけどアルバ、“り”はどこへ?」

 「歌姫から抜けている“の”……一文字抜かすというヒントをここに当てはめた場合の解釈です。のをここから抜かせばねりちなどでは意味がわかりません。故に“の”こそ必要。その上で一文字抜かせと言うことですよ」

 「へぇ……確かにりという文字は11と、数字のように見えないこともないね」

 「それをいうならシエロ、ちだって5に似てるわよ。言ったらきりがないわ。だけど、ねーうしとらうー……丑の刻!丑の刻参りって奴なら私も知ってる!」

 「ああ、それなら僕も」

 「何でそう言うのは知ってるんですかお二方、そこで目を逸らさないでください」


 カロン君は「大事な妹に悪い男でも付いたら呪ってやろうと思って古今東西の呪いについて調べたことがある」みたいな顔をしている。危なかった。シスコン恐るべし。もし何かが違っていたら僕がその対象になっていたのかも知れない。これ以上呪いが増えるなんてなったら大変なところだった。


 「いや、僕は以前殿下が僕の髪の毛を欲しがってたからなんだろうなと思ってアルバに聞いたじゃないか。その時君が教えてくれたんだよ」

 「そう言えばそんなこともありましたね。呪い返しはしておきましたからご安心を」

 「き、貴様ぁ!数年前俺が複雑怪奇骨折をしたのはお前の所為か!」

 「それはお前が階段で転び受け身を取り損ね美しくない落下をしたからだろう。何かにつけて俺の親友シエロの所為にするのは美しくないぞ?被害妄想ほど醜い妄想はない」

 「貴様の自己愛妄想の方が百倍醜いわっ!」


 ナルキスと殿下が言い争いを始めた。煩わしいので放置しよう。出来れば二人とも部屋の外でやってくれればもっといいのに。その位空気が読めたらナルキスを知人から友人に僕の中でランクアップしてやっても良い。しかし生憎彼はそんな男ではない。故に今日も彼は僕の知人に過ぎない。


 「つまり“96ね5の103ち”は丑に関係する」

 「ちなみに丑は磨羯宮まかつきゅうを意味し、黄道十二宮の10番目を指します。十二支はそれぞれ黄道十二宮と置き換えることが出来るのです」

 「ああ、なるほど!それなら僕も解るよ。それじゃあそれぞれ何か関係しそうな情報を書き記してみようか」


 “1 子 23時–01時 宝瓶宮 水 

  2 丑 01時–03時 磨羯宮 土  

  3 寅 03時–05時 人馬宮 木

  4 卯 05時–07時 天蝎宮 木 

  5 辰 07時–09時 天秤宮 土

  6 巳 09時–11時 処女宮 火

  7 午 11時–13時 獅子宮 火 

  8 未 13時–15時 巨蟹宮 土

  9 申 15時–17時 双児宮 金

  10 酉 17時–19時 金牛宮 金 

  11 戌 19時–21時 白羊宮 土

  12 亥 21時–23時 双魚宮 水 ”



 「この国は水と密接な関係を持つから、水元素と関わりのある星座なんかは僕も知ってるよ。昔父様に神話とか占星術の基礎とか叩き込まれたもの。でもアルバ、これおかしくない?水属性は巨蟹宮天蝎宮双魚宮の三つだったはずだよ」

 「ええ!?水瓶座って如何にも水って感じなのに水じゃないの!?」

 「うん、アストロロジカル・サインにおける水瓶座は風属性だよ。一覧にすると」

 

 “ 1白羊宮 火

   2金牛宮 地

   3双児宮 風

   4巨蟹宮 水

   5獅子宮 火

   6処女宮 地

   7天秤宮 風

   8天蝎宮 水

   9人馬宮 火

  10磨羯宮 地

  11宝瓶宮 風

  12双魚宮 水 ”


 「こんな感じになるよ」

 「へぇ……殿下の苗字は水瓶座っぽいのに風属性なんだ」

 「それは確か分家した時に如何にも水!って名前を名乗ったのは良い物の、その時代の当主には占星術の知識がなかったんだって」

 「ああ……確かにその血継いでそうね陛下は」

 「シエロ様、五行と此方の占星術は似て非なる物。アクアリウトの家は東洋に関心があったとのことで其方を取り入れたとの説もあります。五行では宝瓶宮は確かに水にございます」

 「くろねこ……」


 専門用語が出て来たのを機にわけわかんねと、話から外れていたカロンが不意に……小さく呟く。


 「どうしたのシャロン?」

 「昔母さんが話してくれた昔話に、この十二支ってのあったような気がする。猫が除け者になる話だろ?」

 「……君は13番目が猫だって考えるの?」

 「ふっ」

 「は、鼻で笑ったわねアルバっ!」

 「これは失礼シャロン様。猫が来たのは翌日です。13番目はイタチであったという話ですよ。ですから月初めをついたちとよぶのだとか」

 「イタチとは向こうではどういう認識の生き物なのかなアルバ?」

 「妖怪の類と言われております」

 「妖怪?」

 「此方で言う悪魔のようなものです」

 「……悪魔か。だけど話が脱線してるね。“96ね5の103ち”の丑は、この十二支の順番では2番目。手紙では“呪われた人魚の末裔”を示す」

 「しかしその磨羯宮、山羊座は黄道十二星では10番目。それが指すのは“くろねこのとおりみち”。堂々巡りですね」

 「だけどこの手紙を書いた人が僕への挑戦でこれを出したなら、僕の知る占星術をメインに添えてくるだろう。もう一度10番に戻ると言うことは、まだ10番に隠されている言葉がある。今度は数字の方を見てみよう…“96ね5の103ち”、“965103”」

 「くろこひまさ?黒子暇さでもう犯人は黒子雇っているナルキスさんじゃありませんの?」

 「いや、シャロンそれは流石にあんまりだ」


 遠目で見れば疑われる罪深い俺悲劇格好いいとかナルキスはほざいている。なんだか怒りを通り越してやるせない気持ちになるが、やっぱりあれが犯人でも良いかもしれない。


 「くろ、こい、03?誰か苦労した恋でもしてたのかな。いや、違うか……そうだな。おかしいといえばこのプログラム表、0番がない」

 「普通ゼロなんてないんじゃない?」

 「だけどシャロン。それじゃあ暗号としてあんまりだ。0が付くのが10番だけっていうのはその10番について謎が潜んでいる現状としてあまりに酷い。暗号として成立しない欠陥品も良いところだ。だからこれには前条件として13以外に0が欠けている。そう考えなければ推理のしようがない」

 「だけどそんなこと言ってもシエロ、これ引っ繰り返しても逆さにしてもヒントなんか……」

 「っ!でかしたシャロン!」

 「え?」


 カロンが逆さにしたのは僕がメモした紙、それから手紙。数字と平仮名。そこには共通点があった。


 「つまり、0を抜かせというのがヒント!」

 「ゼロを?それなら965103…が96513になる?黒子遺産?……余計わからないんだけど何これシエロ」

 「つまりねシャロン、“くろねこのとおりみち”この平仮名を見て?おもしろいと思わない?まあるくなっている文字が多い。ゼロが隠されている文字の何て多いことか」

 「あ!」

 「この“くろねこのとおりみち”から文字に○の付いている文字を取ろう。そうすると“くろことりち”」

 「黒子と理知?」

 「数字にしますと“965”とりち。数字が3つまで減らされましたね」


 とを10に変えればまたゼロが出る。ならばここは変換せずに考えるのが道理だろうとアルバは指摘。


 「シエロ、理知ってどういう意味?」

 「理性と知恵。要するに本能や感情に支配されず論理的に考え判断しろという差出人からの助言かもしれないね」

 「い、嫌味な奴ねそいつ」


 差出人からの挑戦的な言葉に、カロンが拳を固めている。この様子だと差出人についての見当も立っていないのだろう。


(僕は大体解ってきたけど……)


 手紙とメモを見ながら片目で視線を送った家系図で、それにめぼしい名前は見つけていた。


(9番6番5番は……5:オペラ座にて6:下層歌姫 9:黒衣の男と見舞客)


 この全てに該当する歌姫は一人だけ。彼女はあの日オペラ座にいた。そして下層街の歌姫。僕は会っていないが見舞いにも来ていた。


 「差出人はドリュアス=エウリード。エウリュディ家の末端エウリイド家……没落して貴族として消えた家名の一つ。彼女は元は貴族だったのか」

 「ええ、ドリス!?だって彼女下町に住んでたって」

 「没落して空から下へ降りたんだろう。その時点で貴族としては死んだんだ。てっきり歌姫として見栄え聞こえの良いように、適当に貴族風の名前を名乗ったのかと思っていたよ」


 パチパチパチと、乾いた拍手。そこを見れば一人の女が歩み寄る。仮面の下から現れたのは歌姫ドリス、その人の顔。


 「流石ですねフルトブラント様。流石はシャロンが選んだお方……」


 あんなことがあったんだ。歌姫ドリスのことはカロン君は苦手のはず。

 ボロが出てはならないとシエロはカロンを庇い前へと進む。


 「殿下のお気に入りとの情報はアルバから聞いていましたし、最初からそうではないかと思いましたが、そんな推理では興醒めでしょうから頑張らせていただきました」

 「うふふ。けれど14、15番に触れずに答えを出してしまうなんて驚きました」

 「これには無駄な情報を、知識をひけらかしたくなるミスリード要因が多い。目移りさせて混乱させるのが狙いかと思いましたが」

 「フルトブラント様はとても聡明でいらっしゃるのね。ええ、オペラ座でのあの花束を見た時から、一度貴方とはこうして知恵比べをしたいと思っておりましたの。なかなか素敵な花言葉でしたから」


 “あなたはわたしをだませない”


 その意味を正しく理解したのは3人の歌姫の中でこの歌姫ドリスだけ。それに思い当たる真実をこの女は知っていると言うこと。

 この女がシャロンを……そう思うと目が熱い。瞳が燃えているようにその女を凝視する。


 「シエロ」


 カロンの呼びかけに、シエロは我に返る。その声はその青い瞳は冷静になれと訴えかけてくるようだ。


 「……ありがとう、シャロン」


 大丈夫だよと微笑んで、シエロは息を吸う。そうだ。まだ犯人と決まったわけではない。そこまでの証拠はない。けれどこの女は多くを知っている。その上で僕を脅迫してきている。迂闊な真似は出来ない。


 「ですがお美しく気高く聡明なフルトブラント様。そんな貴方であっても未来は読めないと言うことがよく分かりました。それが解るのでしたら貴方はこの空白の14、15のタイトルを埋めることが出来たはずです」

 「……と、申しますと?」

 「14番はさておき15番はノーヒントですの。ヒントは見えない0番13番に隠しました。人間には見えませんわ。所詮我々人間など一冊の本の中を生きる……歴史書の一頁にも満たない、一行以下の存在」


 何を言っているんだこの女は。シエロはまるで悪魔に魅入られたような、不思議事を語る歌姫ドリスを僅かに恐れる。彼女からは底知れぬ狂気が垣間見えるのだ。


 「けれどスポットライトが当たることで人は主役になれるのです。そうすることで一行以下の存在が、一冊の本を描くでしょう」

 「どういうことですか?」

 「さて、哀れなシエロ様にせめてもの情けです。15番の空白を教えてあげましょう。貴方は既に悲劇に喜劇に組み込まれております!」

 「小娘……っ、まさか!?」

 「アルバ……?何か知っているの?」

 「あらあら執事様?過去に貴方も私と同じようなことをしたのですね」


 歌姫ドリスを睨むアルバ。様子がおかしい。この執事は情勢に対してこんな剥き出しの敵愾心を向けるなんて。その様子があまりに見慣れず、シエロは胸騒ぎを覚える。ぎゅっと腕に抱き付いた、カロンの温かみに支えられなんとか平静を保ってはいたが……歌姫ドリスは何かおかしい。歪んでいるなんてものじゃない。彼女は闇だ。とてつもなく深く大きな暗い闇。


 「貴方の喜びを悲しみに、幸せを苦痛に変えるそのタイトルは、“悪魔の脚本『海神の柱』”っ……近い未来の貴方を予言しますわシエロ様!」


 歌姫は、高らかに歌う。それはそれは幸せそうに、呪いの言葉を吐き捨てる。


 「“貴方は決して貴方の愛しい人と添い遂げられない!”

 “貴方は報いのため貴方が愛しい人に忘れられることでしょう!”

 “お美しいシエロ様、貴方は王にはなれません”

 “海神の怒りはやがて貴方を滅ぼすでしょう!”

 “ですが簡単に貴方は死ねません。人魚の血が生きながら身を食われる苦痛を与えてくれるでしょうから!”」


 一言一言が、胸を貫く刃のようだ。目に見えない剣で串刺しにされているような感覚。ドリスの言葉には不思議な重みがある。紡がれた言葉がそっくりそのまま本当になってしまうような……そんな手遅れの危機感めいた物を送り付ける言葉だった。


 「アクアリウス様、再発行をお認めなさって?その方が引き裂かれる痛みも強くなりますわ。あの生意気な小娘も、打ち拉がれれば幾らも従順になるでしょう」

 「む……、お前がそう言うのならばそうなのだろうなドリス。よかろう、歌姫シャロン!貴様とシエロの恋人証明書、その再発行を許可しよう!」

 「まぁ、良かったですねシャロン?」


 カロンにくすくすと笑みかける歌姫ドリス。その狂気じみた好意から、幼い彼を守ろうとシエロはカロンを背中に庇う。それにドリスは嫉妬するでもなく眼を細め、妖しげに笑うだけ。


 「せいぜい短い余生をお楽しみ下さいシエロ様。それまでシャロンとお幸せに。大いにいちゃつかれて結構ですわ、どうせ壊れてしまう愛なら存分に幸せだった方が、より深い絶望が貴方のもとへ訪れますもの」

暗号回。遊び心で遊んだ結果、こうなりました。

丁度9話目までやって偶数に歌姫がついてるのをみてこれは使えるってなって。

だけど一つズレが来た。それなら10番を意味深にひらがなにしよう。

しかし、くろことりち?黒子ってなんやねん。そこからナルキスさんの部下が黒子になりました(笑)


そもそも世界観が安定しない。イタリアっぽいイメージの国を想定してるのに、暗号はひらがななのね。作者が外国語に疎いから仕方ないね。

ひらがなは解るのに干支わからんのねシエロ。

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