そしてみつけた。
ホラー?/三人称/淡々としてます。
いつも書くものとノリが違うので一応注意。
湯木村一枝がその女をみつけたのは中学二年の夏がはじめだった。
女は焼けたアスファルトの歩道に仰向けで寝っ転がっており、いつだれに踏まれるか―はたまた自転車にひかれるかもわからない体勢でぼんやりと宙を眺めていた。
どこからどうみても尋常じゃないその姿に一枝はそっと目を外したが、その時女が着ていた花柄のワンピースのことだけは何故かどうしても瞼にやきついたかのごとく忘れられなかった。
一枝が女をみつけた二度目は高校一年の冬だ。一枝はその日初めて間近で人が死ぬのをみた。帰宅の途中、遮断された踏み切りに目の前で人が飛び込んで行ったのだ。一枝はそのあまりの唐突さに驚き、そしてニンゲンだったソレに恐れをいだきマジマジと凝視した後慌てて目をそらし――て、その先に女はいた。女は野次馬の中に埋もれるように凡庸としていて一枝も最初それとは気付かなかった。だが、騒ぎが大きくなり一枝と女が群衆の外へ外へと押し流されるうち、ふいに女が裸足であることに一枝は気付いた。裸足の足にからみつくように花柄のスカートの裾がはためいている。デジャ・ヴュとでもいえばいいか、強い違和感を一枝は抱き、そして冬なのに女がワンピースを着ていることを不思議に思った。その疑問はつい先ほど眼前に映し出されたグロテスクな物体よりもずっと一枝の脳裏にこびりついた。
最後に一枝が女をみつけたのはつい最近のことだ。一枝は21の大学2年生だった。その日一枝は友人と映画をみにいく約束をしていた。時計台の前で友人を待っていたところ、約束の時間に20分遅れて友人がやってきた。駆け寄ってくる友人の姿をみて一枝は驚愕した。花柄のワンピース、長い黒髪、真っ赤に塗られた赤いツメの色―友人はどこからどうみても「あの女」そのものだった。一つ違うことがあるとすれば女がいつも漂わせていた得体のしれない怪しい雰囲気が友人にはなかった。快活に笑うその姿は正常【日常】そのもので――一枝には余計に恐ろしかった。女が持つ空気とはかけはなれていたから。
はたして一枝の悪寒は正しかった。
友人と遊びに行って数日後、友人は近くの山から死体で発見された。発見された時友人は一枝と遊びに行ったあの日と同じ服、花柄のワンピースを着ていたそうだ。一枝は友人の一人として警察から事情聴衆なるものをうけたが、ほどなく解放された。何故なら一枝と友人の仲は中学校時代から続いており、大の親友として有名だったからだ。友人の親からも慰めの言葉を受け、一枝は沈む心を落ち着かせた。
そして考える。友人に殺意をむける度現れたあの女のことを。
きっともう二度と会うことはないのだろう――そう思うと悲しくなった。一枝は友人が大好きだった。そして同時に憎らしかった。願いが叶うのならばもう一度友人に会いたかった。そして叶うのならば、もう一度殺したい。そうすればこの疼きがとれるのではないかとそう思い願い、顔をあげ――そして一枝は「その男」を見つけた。