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短編&コネタ  作者: 河南
3/7

下僕非道少年と冷酷美少女(現代ライトコメディ)

最近気づきましたが、どうやらヘタレが書きたくてたまらないようです。

学園ものです。たぶん。



天使をみつけた。

ずっと、ずっと待っていた、俺の天使。



「おいで。」



天使は俺をみつけると、にこりと笑って手を差し伸べた。

嗚呼、これだ!これをまっていたんだ!!

足に力をいれ、地面を力強く蹴る。

腕を伸ばし今までずっと越えられなかった境界線を越えようと試みる。


すると、すんなりと俺の手は境界を超え天使の元へとおさまった。

驚きと歓喜にふるえる俺を天使はやさしくみつめてくれた。

そしてその赤く美しい傾国の美妃にも優る唇から天の調べをつむぎだす。



「私のところへおいで。そしたら私は君の――……」



俺は、天使の言葉に頷いた。

だって、彼女こそが待ち望んでいた人物だとその時は確信していたから。






と、まぁ。これが俺が初めてアイツとであった場面である。


天使だの確信だのごちゃごちゃいっているが今思えばあれはすべて幻想だ。錯覚だ。思い込みだ。ホストにだまされ貢ぎまくり借金人生に陥る女の典型的パターンと類似したものだ。

いわば俺は風呂屋に静められた哀れなソープ嬢なのである。


だから今だってこうしてカメラ片手にただ働き中なのだ。しくしく。



「いやぁ!やめてぇ誰かぁぁっ」

「ばぁか、こんなところに誰もこないつーの。」

「実ちゃんったらかっわいい~いやぁだってぇ」

「大丈夫だって。俺たちがキモチよくしてあげるからぁ」


お、早速空き教室からガタゴト不審な音が聞こえてくる。

俺は早速ドアをすりぬけ、空き教室の中へ入った。


突然現れた俺にその場は騒然と――…することもなく、男たちは気づかない。

俺もそれは先刻ご承知なので首から提げたカメラで静かに現場をうつしとった。


どうやら音声から想像できたようにちょうどレイプ中のようだ。

左から順にチャラ男、チャラ男、ごつ男、長身、と四人の男達がぐるりと小柄な少女を囲みこんでいる。

ふむ、どうやら被害者は二年B組の菅原実のようだ。

確か金持ちで鼻もちならないという男女ともに人気ワーストワンで有名な女――ん?それにしてもこのまま放置は冷酷すぎるって?

全くである。俺もそこらへんは理解しているのだが、世の中にはどうにもならないかわいそうな悲劇とはいつでも起こりうるものであって、これもその一つである。仕方がないのである。と、いう言い訳で一つ納得してもらいたい。


んん?ではなぜ男達は俺に全く気づかないって?

それは俺が自由に気配をけせるスーパー忍者だから……というわけではもちろんなく。




単純明快にそう、俺が、幽霊だからである。






俺が死んだのは三年前、とある歩道橋下のトラックとバイクの衝突事故のためだった。

ちなみに俺は当時14歳であり、ぴっちぴちの中学生だったから当然バイクもトラックにも乗っていない。トラックで引かれそうな子どもを助けたりもしていない。むしろそんな現場に居合わせたら逃げ出す。

俺の死因はまさにどうにもならない悲劇ってやつで、偶然歩道を歩いてたらこれまた偶然事故のため破損したバイクの部品が飛んできて、さらにまた偶然打ち所が悪くて死んだのである。

これを不運といわずなんという。


俺は元からぱっとしなかったがさらにぱっとしない死に方に運転手達を恨み、自動車会社を恨み、周囲を歩く人間を恨み、さらに呪い続けたため自縛霊となってしまった。

家族の手厚い供養に正気にかえったときは遅く、もううんともすんともいえない状況でただただお迎えを待っていた時あらわれたのがアイツである。


工藤輪くどうりん。現在17歳にして完璧な美貌をもつうえに頭脳明晰のにくいやつだ。

今あのときに戻れたら俺は決してヤツの手をとったりしなかったが、その時はいきなり現れた金髪碧眼の美少女にこいつこそが天使だ!女神さまだ!と勘違いしてしまった。


「私いうことをきいてたら、きっと天国にいけるわよ」なんて甘い言葉にだまされて、いまや完全無欠のパシリ、否奴隷である。

もういっそのこと、こいつなんぞ見捨てて他の霊能力者を探しにいこうか――なんて思うこともたびたびだが、そのたびに自縛霊から解放された時を思い出し、「もしや」と思ってしまう。



あぁ、これこそ破滅への道。もういっそ地獄の方が生易しいのではないだろうか。



「ただいま…」

「あら、おそかったじゃない?」


すぅっとドアを通り抜け、ヤツの居場所――風紀委員室についた瞬間声をかけられびくりと肩をすくめた。

みればヤツ一人である。今は授業中だからいないのが正しいはずなのに。

ヤツは俺の肩にそっと手をおいてにやっと笑った。


「風紀委員長特権を使ったのよ。そうか、がんばったんだ。ご苦労様。」

「どういたしまして。ってか、いきなり触らないでくださいよ。」


ぱしっとヤツの手をはたきおとす…ことはできないので、そっと払いのける。

霊能力者とは厄介なものだ。こうして俺に触っただけで心を読んでしまう。

まぁ生きてるやつには使えないらしいのでそれは喜ばしい。

世のため人のため。こんなやつにあまり高い能力をもたせておくと大変危険である。


「ふぅん、菅原さんか~いいや、フィルムは現像せずにしまっておいて。」

「理事に報告しないんでよろしいので?」

「ああ、この屑たちは放っといても近いうちに消えるから。それより菅原さんのほうがあとあとつかえるしね。」


普通の顔してさらりとヤツはこういう。

風紀委員は風紀をとりしまる委員のはずなのだがこれでいいんだろうか。否。断じて否である。

しかし俺も逆らう気力がないので、おとなしくフィルムを引き出しの中にしまった。


「それにしても不思議ね。君はどうして幽霊のくせにそんなに存在感があるんだろう?」

「いやいや普通にうすいですよ。あなた以外誰もみえないし。さわれないし。」

「そうかしら?それならいいんだけど。」



にたりと底意地悪い笑みをみせヤツは笑う。

いったい、何がそんなにたのしいんだろうかこの女は。


「もっと私の為に頑張って。そしたらいつか願いをかなえてあげる。」


いつもと同じ女の台詞をきいて俺はそっと溜息をはいた。

嗚呼、いかん。ぬけだせそうにない。







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