死神に出会った日
「はあ~、今日は人生で最悪の一日だったな。マジでムカつくぜ!」
俺は最寄り駅から夜道を自宅アパートに帰るために自転車に乗っていた。
季節は冬に変わり吹き付ける風は冷たい。
今日は昼間、彼女に別れ話をされた。
別れる原因は彼女に新しい恋人ができたというもの。
しかもその新しい彼氏は俺の友人。
つまりは俺は友人に彼女を寝取られたってわけだ。
友人と彼女の顔を思い出すだけで胸くそ悪くなる。
しかも今日の俺の不幸はそれだけではなかった。
彼女と別れ機嫌が悪いままバイトに行った俺は今度は変な客にクレームをつけられ俺は悪くないのに店長に「責任を取れ」と今日の分のバイト代は払わないと宣言された。
バイトを辞めてやろうかと思ったがいきなり生活費がストップするのは俺としても困るので俺はその条件を呑んだ。
親にも頼れない俺は自分の生活費は自分で稼がなくてはならない。
明日から新しいバイトを探そうと求人雑誌をカバンに突っ込んで帰りの電車に乗ったら人身事故が発生。
そのおかげで帰りが大幅に遅くなっちまった。
まったく電車に飛び込むなら俺に関係のないところでやってほしい。
そんなこんなで俺の今の機嫌は人生で一番と言ってもいいくらいに悪い。
こんな日は早く自宅に帰って飯を食って風呂で温まって酒を飲んで寝るに限る。
そんな思いで俺は自転車を飛ばして自宅へと急ぐ。
自宅の手前にある右カーブを勢いよく曲がった時に突然俺の前に眩しい光が射し込んだ。
「うわっ!」
思わず上げた声と共にドンッと強い衝撃が俺を襲った。
頭が一瞬真っ白になったが少しづつ意識がハッキリしてくる。
「な、なんだ……? 何が起こったんだ……? ん?」
自分の身体がふわふわしている気がして俺は自分の足元を見る。
そこには地面がなかった……いや、正確には俺の足は地面から離れて空中に浮かんでいた。
「な、なんだ!? これ!?」
うろたえる俺の前に今度は黒いマントを着た者が現れた。
そいつの顔を見てギョッとする。
顔が白い骸骨だったのだ。
「うわあああーっ!」
「ケケケ、オマエハシンダ、オマエハシンダ、ケケケ」
その骸骨はカタカタと顎を震わせて俺にそう言った。
「俺が……死んだ……だと……?」
「ケケケ、オマエハシンダ、オマエノクビヲキル、ケケケ」
その黒マントの骸骨はいつのまにか大きな鎌を手に持っている。
どうやらその鎌で俺の首を切り取ると言ってるようだ。
そこまで理解してこの骸骨が「死神」だと俺は気付いた。
きっと俺は自転車で車にでもぶつかったのだろう。
だからこの死神は俺を迎えにきたに違いない。
その瞬間、俺は猛烈に腹が立った。
彼女を友人に寝取られて別れた上に理不尽な理由でバイト代ももらえずさらに赤の他人が電車に飛び込んだおかげで帰るのが深夜になった俺が最後は交通事故で死ぬだと……?
「ケケケ、クビキリ、クビキリ、ケケケ」
大鎌を俺に振り下ろしてくる死神に俺は地獄の底から響くような怒声を放つ。
「冗談じゃねえぇーっ!! 死ぬのはてめえだああァーッ!!」
振り下ろされる大鎌を避け俺は子供の頃から習ってる武術の蹴り技で骸骨の頭を吹っ飛ばした。
死神の首が落ち地面に転がる。
「ナナナ、ナニスル、ナニスル」
「俺みたいな不幸の塊の人間の命奪うくらいなら俺を不幸にした奴らを地獄に連れて行きやがれ! クソ死神野郎!!」
怒りが沸点に達した俺がそう言い放つと再び俺の頭が真っ白になる。
「う~ん、……ん?」
俺が目を開けると天井が見えた。
「患者さんの意識が戻りました」
声の方を見ると看護師らしき人が俺を見ていた。
「ここはどこですか?」
「ここは病院です。あなたは自転車で車とぶつかってここに運ばれました」
ああ、やっぱり俺は事故に合ったのか。
俺はそれからケガが治るまで三か月の入院をすることになった。
あの時、俺が死神をぶっ飛ばして倒したから死ぬことはなかったのだと思い死ぬよりはマシだと自分を納得させて入院することを承諾した。
三か月も入院してたらバイトもクビになるだろうしそれじゃなくとも辞める気でいたからバイト先に未練はない。
彼女と友人のことだって忘れるには十分な時間だ。
それに保険に入っていたから入院費もそれほど心配しなくていいし俺とぶつかった相手の車の運転手はある会社の社長だったらしく事故のことを他人に漏らさないという条件で慰謝料をたっぷりとくれた。
しばらくは悠々自適に暮らせる。
それでも入院中は暇なので俺はテレビを見ていた。
すると俺がバイトしていた店が食中毒を出し被害者の数人が死亡したというニュースが流れた。
ざまあだな。あの店はもう終わりだろう。
少し機嫌が良くなった俺の携帯電話が鳴る。
相手は別れた彼女だ。
着信拒否しとくの忘れてたな。
今更、何の用だ?
少し躊躇したが俺は電話に出た。
「はい」
『もしもし。私だけど。助けて欲しいの』
「は? 俺がなんでお前を助けないとなんだよ。助けが欲しいなら新しい彼氏に助けてもらえばいいだろ」
彼女が何から助けて欲しいと言ってるかは知らないがもう俺には関係ない。
すると電話の向こうの彼女が泣きながら話し出した。
『うぅ……今の彼氏との子供を妊娠したんだけど、彼氏が他にも女に手を出していてその彼女も私と同じく妊娠したの。そしたら彼氏がどこかに雲隠れしちゃって……堕胎するお金を貸して欲しくて』
あいつ二人の女を妊娠させてとんずらしたのか。
「俺には関係ない話だな。もう電話かけてくるな」
『ちょ、ちょっと、ま……』
俺は携帯電話を切り元カノの番号を拒否するように設定した。
あの女もざまあだな。気分いいぜ。
再び、俺がテレビのニュースを見ていると今度は交通事故のニュースになった。
『今日の昼頃、某所で自転車と車が衝突する事故があり自転車に乗っていた〇〇××さんが死亡しました』
アナウンサーが死亡したと報道したのは俺からさっき電話をしてきた彼女を寝取って妊娠させた俺の元友人の名前だった。
マジであいつ死んだのか! これ以上のざまあはねえぜ!
テレビの画像が事故現場の画像に切り替わるとそこにはあの時の黒いマントの骸骨の死神がケタケタと笑って映っている。
俺はその様子を上機嫌で見ていた。
あの死神野郎、なかなかいい仕事するじゃねえか。
今日は人生で一番最高の日だぜ!




