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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
序章:死に拒絶される者
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第6話 理想の英雄像

 潮の香りと金属のにおいが混ざり合う。

 鉄を打つ音が響き渡る。


 街の一角にある鍛冶屋『跳水工房』の店内には、剣や槍、防具が並んでいた。

 ふたりが店内を見渡していると、若い男が近寄った。


 顎にそっと手を当て、その手に持った剣を見て、目を細めた。


「いらっしゃい。ベルトが壊れたのかい?」


 ソルは首を横に振った。


「この剣は父さんからもらったけど、ベルトがなかったんだ」


「剣を見せてくれるかな」


 ソルは男に剣を手渡した。

 男は剣を抜き、刀身を見て息を吐いた。


「剣は研げばいいってものじゃない。脂を塗って湿気や錆を防がないと意味がない」


 ソルは苦笑いを浮かべた。


「農具と同じ感覚でやってしまった」


 男は優しい口調で続けた。


「この剣は数年前に製造されている。どこか劣化しているのかもしれない。もしかしたら、生死の境を分けるかもしれない」


 マーニの剣に目をやった。


「キミの剣も同じだ。確認させてもらうよ」


 マーニは男に剣を預けた。


「お願いします」


「問題がなければ、すぐに終わるよ。親父はこの街一番の鍛冶師だからね」


 男は工房へ向かった。


 待つこと十数分。

 ソルは大剣に目を輝かせていた。


 マーニが横から声をかけた。


「私は無理だけど、ソルなら使いこなせそう?」


 ソルは首を横に振った。


「今はまだ無理だな」


「今はまだ?」


「おう、俺が英雄になる頃には使いこなしていると思うぜ」


 男がふたりの剣を持って戻ってきた。


「剣に問題はなかった。柄巻が傷んでいたから交換しておいたよ。鞘だが、ベルトの固定具がなかったので取り付けておいた。代金は銀貨1ルミナと銅貨8ルミナ」


 マーニは代金を支払った。


「固定具は使っていると緩んでくることがある。鍛冶屋に言えば、すぐに直してくれるよ」


 男はソルの古びた胸当てを一瞥した。


「装備に金を惜しまないことが長生きする秘訣だよ」


 マーニはソルの胸当てに目をやった。


「ソルの防具を新調したいです」


「それなら皮製品をオススメするよ。軽い上に伸び縮みする。柔らかい材質だから衝撃を吸収する」


 ソルは眉を八の字にした。


「金属製品はないのか?」


「あるにはあるが、オーダーメイドになる上、製造に時間がかかる。その分、料金もかかる。とてもじゃないが、キミに支払う能力があるとは思えない。剣を見ればわかるからね」


「オーダーメイド……?」


「キミの体に合わせた一点ものって意味だよ」


 ソルは肩を落とした。


「憧れる気持ちはわかるけど、身の丈にあったものを選んだほうがいいよ」


 マーニが一歩前に出た。


「皮製品の防具一式と脂の値段を教えてください」


「胸当て、股当て、肘当て、膝当て、靴、脂二つで銅貨30ルミナだ」


 男はソルを見た。


「彼女を守るのなら盾もあったほうがいいと思うが、どうする。慣れないうちは軽い木の盾がオススメだよ。銅貨8ルミナだ」


 ソルは一拍置いて答えた。


「この先、盾が必要になるかもしれない。買うよ」


「まいど。すぐに用意するよ」


 男が装備一式と布で包んだ脂を持ってきた。

 装備一式をソルに、脂二つをマーニに手渡す。


「奥に試着室がある。身に着けて違和感があれば、すぐに交換するよ」


 ソルは木の盾を見て呟いた。


「これがあれば……」


「ソル……?」


 ソルは顔を上げて笑った。


「マーニ、盾があれば安心できるよな」


「えっ、まあそうだね」


「そっか。マーニがそう言うのなら、多分それが正解なんだろうな。俺の勘もそう言ってる」


 マーニは思わず笑った。


「変なこと言ってないで、早く行きなよ」


 ソルは試着室へ向かい、カーテンを閉めた。


 古い胸当てを外し、胸当て、股当て、肘当て、膝当てを身に着ける。

 腰に剣を下げ、左手に木の盾を持ち、体を動かして確認した。


 問題なし。


 カバンを背負って試着室を出た。

 マーニの元へ行き、親指を立てた。


「身が引き締まったぜ!」


 マーニは笑顔で頷いた。

 男は咳払いをひとつした。


「脂は少量でいい。使い古した布で広げれば十分だよ」


「ありがとな、おっちゃん」


 マーニが代金を支払い、『跳水工房』を出る。


「これ、ソルの分だよ」


 マーニはソルに脂一つを手渡した。彼はそれをポケットに突っ込んだ。


「よしっ、次は口入屋だな」


「うん。行こう」


 マーニはソルの右手を掴み、口入屋へ向かって走り出した。

 ソルは苦笑いを浮かべながら、歩幅を合わせた。

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