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【歴史日間62位・異世界44位】室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す。ホワイトすぎる信長を「魔王」にプロデュースして今度こそFIREを目指します〜  作者: 筑紫隼人
【第2章:上場(上洛)とプラットフォーム構築】

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第5話:上洛のロードマップ――聖域へのデジタル・トランスフォーメーション

1.キックオフ:上洛に向けた「中期経営計画」


 美濃、岐阜城。


 かつて斎藤龍興が「稲葉山城」と呼んでいたこの拠点を、信長は俺の助言に従い「岐阜」と改称した。


 周の文王が岐山から起って天下を定めた故事にちなむ――という建前。

 だが俺の本音は、単純明快だ。


 リブランディング(社名変更)。


 古い「稲葉山」のイメージを切り捨て、全国進出に向けた拠点として再定義するための一手だ。


 広間に広げられた巨大な地図。

 その前に立つ俺――足利義昭(佐藤健一)は、細川藤孝と信長を前に口を開いた。


「いいか。今回の上洛は、単なる軍事移動じゃない」


 一拍、間を置く。


「――室町幕府の“再上場リスティング”だ」


 筆を走らせ、地図に要点を書き込んでいく。


「ターゲットは京都。競合は三好三人衆、そして阿波勢力。だが本当に厄介なのは――」


 筆先が止まる。


「既存の株主、公家と寺社だ。既得権益の塊だな」


 藤孝が、即座にそれを御教書の文体へと翻訳していく。

 優秀すぎる。


「まずロジスティクス。美濃から京までの街道整備、各所に兵糧蔵を設置する」


 点、点、点と補給線を引く。


「次にPR戦略。信長、お前の“魔王”としての噂を先行展開する」


 視線だけで信長を見る。


「――“逆らう者は塵、従う者には黄金”だ」


 だが。


 信長は、何も言わなかった。


 黒いマントをまとい、俺が教えた通りの威圧的な姿勢。

 しかしその拳は、膝の上でかすかに震えていた。



2.信長の反論:ホワイトな王のレッドライン


「……将軍様。一つ、伺ってもよろしいでしょうか」


 その声は、魔王の声ではなかった。


 高く、まっすぐで、どこか幼さを残した――本来の声。


「今はミーティング中だ。感情論は――」


「それでも、言わねばなりませぬ!」


 畳を打ち、信長が立ち上がる。


 その瞳には、これまで見たことのない強い光があった。


「恐怖で従わせると仰いましたな」


 真っ直ぐに、俺を射抜く。


「比叡山の門前で商う者、関所で生きる者……彼らを見せしめにするのですか」


「……」


「私は、そのような世を作るために戦うのではない!」


 一歩、踏み出す。


「戦のない世を作るために――あなたと手を組んだのです!」


 熱が、空気を震わせる。


 だが俺は、冷静に返す。


「甘いな、信長。改革には痛みが伴う」


 淡々と、数字の論理を積み上げる。


「関所を撤廃すれば一時的に失業は出る。だが物流は活性化し、雇用は増える。これはマクロの話だ」


「マクロなど知りませぬ!」


 即座に切り返される。


「私の目の前にいるのは、人です。数字ではない!」


 さらに一歩。


 距離が、消える。


「……私は、魔王になどなりたくない」


 その声は、震えていた。


「できるなら、皆と手を取り合い、笑いながら国を作りたい」


 ――真正面から、ぶつかる。


「あなたの策は、人を置き去りにしすぎている」


 沈黙。


 藤孝も勝家も、息を呑む。


 俺は、論破できるはずだった。


 だが。


 その目を見てしまった。


 泣きそうで、それでも折れない目。


 ――胸の奥が、痛む。



3.義昭の自問:FIREの裏にあるノイズ


(……俺は、何を焦っている?)


 内側で声がする。


 俺の目的は明確だ。

 FIRE。早期リタイア。


 戦を終わらせ、システムを安定させ、信長に実務を押し付ける。

 そして静かに余生を送る。


 そのために。


 俺は信長の心を削り、魔王という劇薬を飲ませようとしている。


(……本当に、それだけか?)


 前世の記憶がよぎる。


 過労死するまで働いた日々。

 数字と納期のために、人をすり潰した日々。


(……同じじゃないか)


 俺は今、あの時の経営陣と同じことをしている。


 自分の利益のために、

 “最高の人材”を消費している。


「……信長」


 声を落とす。


「お前の言うことは正しい」


 顔を上げる信長。


「だが考えろ。交渉に一年かければ、その間に餓死する者は何万人だ?」


 静かに、突きつける。


「俺は“数万人”を救うために、“数百人”を切り捨てろと言っている」


 選択を迫る。


「どちらの優しさを選ぶ?」


 ――沈黙。


 そして、信長の肩が震えた。


「……残酷です」


 涙が落ちる。


「ですが……」


 黒いマントを握る。


「わかりました。私は、その道を歩みましょう」


 顔を上げる。


「ただし――約束してください」


 その目は、覚悟を宿していた。


「私が化け物になった時は、あなたの手で斬ってください」


 ――心臓が跳ねる。


 逃げ場のない契約。


「……ああ」


 俺は頷く。


「その時は、俺が修正する」


 一瞬、言葉が詰まる。


「……友としてな」


 言ってしまった。


 利用対象のはずなのに。


 なぜ、こんなにも――。



4.実行段階:比叡山のDX


 上洛は進む。


 六角氏を排除し、京都の目前へ。


 そして現れたのが――比叡山延暦寺。


 宗教にして軍事、そして巨大な利権装置。


「さて」


 使者の僧侶たちを前に、俺は言う。


「提案だ。関所と座をすべて幕府へ譲渡しろ」


 ざわめき。


「代わりに“中央銀行”の優先株を与える」


「戯言を」


 僧侶が鼻で笑う。


「我らは仏の山。織田など恐るるに足らず」


 ――その瞬間。


 信長が立ち上がった。


 静寂。


 三秒。


 マントが翻る。


「……ほう」


 低い声。


 空気が凍る。


 だが、その刹那――


 ほんの一瞬だけ。


 信長の視線が揺れた。


 僧の後ろにいた、若い小僧。

 怯えた目。


 信長の喉が、わずかに動く。


 言葉を――飲み込む。


 そして。


 自分で、選ぶ。


「……私に、逆らうのか」


 柄を叩く音。


「ならば、その山ごと焼くまでよ」


 悲鳴。


「仏罰が――!」


「……是非もなし」


 背を向ける。


 完全な、魔王。


 俺はその背中を見ながら、計算する。


(焼かない。だが“焼くかもしれない”が最強だ)



5.義昭の覚悟:孤独なPMO


 夜。


 俺は一人、外に立っていた。


(……やりすぎたか?)


 信長の目。


 あれは演技ではない。


 変わり始めている。


(……戻せるのか?)


 胸が痛む。


「……健一」


 自分の名前を呼ぶ。


「何やってんだよ」


 FIREのためのゲームだったはずだ。


 なのに。


 なぜ、あいつの心を救いたいと思う?


「……くだらん」


 思考を切る。


「感情はノイズだ」


 京都は目前。

 次は伏魔殿。


 紙を取り出す。


 資産シミュレーション。


 ――ぐしゃり。


 丸めて捨てた。


「……行くか」


 静かに息を吐く。


「上洛(上場)のベルを鳴らしに」


 俺は暗闇へ歩き出した。



今回のまとめ(FIRE進捗)


・ステータス:近江制圧、京都目前

・資産:比叡山への恐怖プレゼン成功

・課題:京都政治戦、公家攻略、金融改革



あとがき


第5話、ありがとうございました。


今回は

「優しさの衝突」と「合理の罪」をテーマにしています。


信長は理想を捨てたのではなく、

“より多くを救うために汚れる”選択をしました。


そして義昭は、

その選択をさせた自分の歪みに気づき始めています。


次回、第6話。


――京都マウント合戦。

言葉と権威で殴ってくる公家たちを、ロジックで粉砕します。


ぜひ引き続きお付き合いください。

【日間ランクイン感謝! 筑紫隼人より】


おかげさまで『義昭』が初日からランキング入りを果たしました!

完結作の**『立花宗茂戦記』**も同時にランクインしており、新旧の作品が並ぶ光景に身が引き締まる思いです。未読の方は、ぜひ以下のリンクから覗いてみてください。

https://share.google/NohPtIyvaZalKKF0h


また、歴史ものを扱う上記2作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


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